生死を賭けた死闘
清美と柳はお互いに睨み合いながら距離を測る。
雰囲気からも分かる。お互い、一瞬の油断が命取り。
ただの長の1人でありながら、かなりの実力。
あまり強い妖怪と戦う機会がなかったからなのか
清美は喜びを覚えながらも僅かに不安を抱く。
「……」
見た目は小さく、少し肌の色が違うだけ。
見た目だけなら、弱そうに見える相手。
しかしながら、確かな強さを感じる相手。
かなりの妖力。ここまでの妖力を見たのは初だ。
「そこ!」
自身の不安を隠すように、清美は霊針を投げる。
だが、柳はその攻撃を妖力の盾で防ぐ。
霊針はそのまま妖力の盾に突き刺さり爆発。
一瞬の間に盾は破壊された。
その隙を狙ってか、清美は一気に距離を詰める。
だが、柳はその攻撃を余力を持って防いだ。
「剣技で私を相手するのは良くないと思うの」
「く!」
攻撃を防ぎ、即座の反撃。
彼女の言うとおり、彼女に接近戦は不利だろう。
彼女の妖力を固めて武器や道具を生成する能力は
殆どの隙も無く、瞬時に形成される技術だ。
当然、攻撃を防がれれば
周囲に即時に展開される武器により
激しい連続攻撃が襲いかかってくる。
その攻撃を並の人間では対処のしようが無い。
少なくとも、結界を扱えなければ
とても捌ききれる量では無いだろう。
「この!」
彼女の反撃に対し、結界を用いて捌く。
だが、武器による過激な攻撃を前に
清美は再び距離を取らざるおえなかった。
これが彼女相手に接近戦が不利な理由だろう。
あまりに激しい物量を前にしてしまえば
結界で捌こうとも反撃の余裕が生まれない。
「本当に接近戦は不味いわね」
彼女を接近戦で倒すには、彼女以上の剣技を持ち
彼女が反応出来ない速度で排除するしか無い。
少なくとも現状、自分と柳の剣技の腕はほぼ互角。
この事から、柳相手に接近戦はあまりに分が悪い。
そう考えた清美は、別の手を考えるしか無かった。
「ふふ、私を相手にするなら接近戦しか無いよ?
考えるまでも……無いだろうけどね?」
余裕の表情を崩さずに、彼女は自身の周囲に
妖力で出来た盾を大量に展開して見せ、即座に消した。
自分の圧倒的な防御力を見せ付けたという事だ。
この異質なまでの展開速度を前にしてしまえば
遠距離攻撃などと言う手では届かないと分かるだろう。
即座に防がれて止められてしまう事だろう。
それでは、彼女にダメージを与える事は出来ない。
物量でジリジリと押されてしまうのが分かる。
式神達を招集しての攻撃を仕掛けたとしても
接近戦闘で彼女達は確実に自分には劣ってしまう。
遠距離攻撃も当然、防がれるのが分かるだろう。
「はぁ、まともに戦えるのが私だけだってのが
また面倒くさい気もするけどね」
他の仲間が居れば、足を引っ張るだけだろう。
明らかにあの長は並の陰陽師では太刀打ちできない。
予想通り、自分以外の陰陽師では確実に勝てない。
ただの妖怪でありながら、何と厄介な奴か。
清美はそう考えながら、攻略の手を考える。
「考える暇は与えないよ? お姉さん。
いくよ? 私の攻撃。千器万来」
「んな!」
大量の妖力で出来た武器が召喚され
一気に周囲に放出される。
清美は即時結果を用いて周囲を防御。
柳による範囲攻撃により発生するであろう被害を
可能な限り抑えるように手を回す。
「面倒な!」
結界の端に当った柳の武器はその場で爆裂し
再び周囲に大量の武器が放出される。
だが、地面に突き刺さった武器は爆裂せず
そのまま姿を消した。
この光景を見た清美は即座に理解した。
この攻撃は、陰陽師を殺す為の攻撃なのだと。
「あは! 理解したよね? お姉さん」
「やっぱり最悪な性格ね!」
地面に突き刺さった武器は爆裂していないが
結界の端に当った武器は爆裂して数が増え周囲に散る。
この事から分かる事は、彼女が周囲に放出してる武器は
霊力により破壊された際に爆裂して増えてると言う事だ。
つまりは、陰陽師が周囲を守る為に結界を展開して
被害を抑えようとする事を逆手に取った陰陽師殺しの技。
「くぅ!」
自分に襲いかかってくる武器は刀で捌くしかない。
この攻撃は清美がかなり特殊な陰陽師だからこそ
あっさりと殺されることが無いだけだと確信出来る。
清美は攻撃や防御に霊具神姫の刀を用いている。
もし、昔の時代。あまり剣技を鍛えていない陰陽師ならば
自身の身を守る際、結界に頼るしか無いだろう。
だが当然、そうなれば結界により武器が破壊されるのだから
爆裂し、柳の武器が増え、再び周囲の結界に接触し爆裂し
再び自分に襲いかかってくると言う悪循環が生じてしまう。
そうなれば、最終的に物量に押しつぶされてしまう。
更に陰陽師が力尽きると同時に周囲の結界が消え去り
一気に外に大量の武器が放出され、村は壊滅するだろう。
陰陽師を殺す事に手慣れている。
「あはは! 凄い刀だね! 良かったね、お姉さん!」
「この!」
柳に攻撃を仕掛ける為に、隙を突いて斬りかかる。
だが、柳は清美の攻撃を盾で防いだ。
最初と違うのは、今回は盾を断ち切れなかったことだ。
当然だろう。この場面で霊力を強く纏わせて刀を振うことは
清美にはとても出来るような状況ではない。
仮に莫大な霊力を用いて攻撃を仕掛け、盾を裂いたとして
強く振った刀が周囲を飛び回る武器に当ってしまえば
当然、霊力により破壊された武器は爆裂し
周囲に一気に飛び回ってしまう。
それを結界で防ぎ捌こうとしても
柳に触れた武器が柳の中に消えてる事を考えれば
同時に自身の強化も行なってると予想出来る。
当然それは、相手を強化する事に繋がるため
この状況下で無茶な事をすれば、
自分の首を絞めることになる。
「壊れなかったね? ほら」
「っぶな! っと、うぉ!」
柳による反撃をギリギリ避け、避けた先に飛んで来た
妖力の武器を亜麟錫華史で何とか捌き距離を取る。
このままだと負けてしまう。だが、結界の解除は出来ない。
「クソ……このままじゃ」
清美の心の中に、敗北の二文字が一瞬だけ現われた。
だが、清美はその二文字を即座にかき消す。
自分に敗北はあり得ない。あってはならない。
自分は最強の陰陽師。ここでの敗北はあり得ない。
「分かってる筈よ、怯えるな。今まで通りよ。
自分に自信を持て……出来ないと考えるな!」
自身を激励するように、彼女は小声で呟く。
そして、攻撃を捌きながら、小さく意識を集中させる。
「妖怪にとって、霊力ってのは毒なのよね」
「いきなり変な事を言い出すね。当然だよ?
でも、それは適切な方法で使ったときだけ」
「えぇ……だったら」
清美は不敵に笑い、刀を収めて両手を合せる。
「結界に押しつぶされた場合は、どうなるの?」
「え?」
「潰れろ!」
今までやってこなかった手段。結界の急速な縮小。
結界は本来、かなり自在に展開することが出来る。
例えば、城壁に擬態するように展開させたり
周囲を隔絶するように展開して見せたり
足場として利用したりと多様な方法がある。
宝龍が結界を得意とする玄王を
河童の長を排除する為に探索する帝に付けた理由。
結界術は扱い方次第では攻撃にも転用できる。
「縮小!? な!」
だが、陰陽師はそこまで緻密な扱い方は出来ない。
人間の短い寿命では、結界術を極めるのが難しいからだ。
それはどの技術に置いても言える事だろう。
陰陽師の式神でありながら、一芸に関して言えば
陰陽師よりも極めている崎神族達が良い例だ。
「うぐぅう! 何であんたはすり抜け!」
「は! 都の結界を忘れてんの!?
扱い方次第じゃ、誰を拒絶するのか
誰を通せるのかの調整なんざ容易なのよ!
しかし、面白い光景ね、河童! 結界の中が
剣だらけで滅茶苦茶じゃ無いの!」
「うぐぅうう!」
だが、彼女は天才。自分なら出来るとそう信じ
決して鍛錬を怠ったことが無いからこそ出来た離れ業。
ここまで緻密に結界を操れるのは
玄王と清美……そして、錫音だけだろう。
「そのまま潰れろ! クソ河童が!」
「あ、がぎ! ぐ、ぎぎゅぅう!
あ、が、た、助けて……おねえ……ちゃん」
「いいえ、あんたはそのまま潰れて死ぬ!
河童の長も、これでお終いよ」
「たすけ……て」
「んー、結界?」
「はぁ!?」
そんな時、握り飯を食べている少女がやって来て
清美の結界に触れ、その結界を即座に消した。
「うそ……だれ、あんた!」
「けほ、けほ……あ、あなたは」
「結構美味しい霊力かもね」
「あ、あんた何者よ!」
「あ、私? 私は大軒。
近くでご飯を食べてたら
美味しそうな霊力の気配があったから来たの。
やっぱり陰陽師の霊力って美味しいね。
殺さなくても食べられるし」
彼女を眼前にした清美は滝の様な汗を流す。
あの河童とは隔絶した強さを確信したからだ。
あまりに多すぎる妖力。格が違うと即座に分かった。




