静寂を裂く者
河童を排除しながら、
そのまま清美達は桐絵の村へ到着した。
村は外の河童騒動とは裏腹に
随分と静かな様子を見せている。
「……静かね」
「は、はい」
妙な静寂。桐絵は冷や汗を流した。
適当に言った冗談だったが
まさかと感じ、清美も少しだけ焦りを見せる。
そして、精神を集中させる。
「……そうね、まだ希望はあるわね」
精神を集中させるも、大きな妖力は感じ無い。
そして、いくつかの霊力も感じる。
「……あんたの家は?」
「は、はい、ここです」
桐絵に案内され、彼女の家の前までやって来た。
「お父さん、お母さん! 大丈夫!?」
「ん? あぁ、帰ってきたんだね。桐絵」
「よ、良かった……怪我はな」
「離れなさい!」
「え!?」
家に入ると同時に、清美の形相が豹変した。
先ほどとは違う、鬼気迫る怒声と同時に
清美が即座に刀を抜き去り、子供に斬りかかった。
「な!? 何を!」
「え?」
清美はその子供を斬り裂こうとするも
彼女は即座に近くの木材を使い彼女の一撃を防いだ。
「何を!?」
「チィ!」
攻撃を防がれたと同時に、清美は彼女を強く蹴り飛ばた。
清美に蹴り飛ばされた幼子は家の壁を突き抜け
家の外に放り出される。
普通なら動け無いだろうが、彼女は体勢を立て直し
転けることは無く、そのまま立っていた。
「何してるんですか清美様!?」
「そ、そうだ! いきなり!」
「黙ってなさい! さっさと避難誘導!」
「え!? ま、まさか、あの子が」
「そうよ、あれが」
「……うーん、凄い刺激……思い出しちゃった」
彼女は驚きの表情を浮かべていたが
清美に睨まれてる間に雰囲気が変貌する。
そして、先ほどまでの小麦色だった肌が
少しずつ緑色に変貌していった。
「え? あ、そ、そんな……」
「よく分かったね、お姉さん」
「はん、擬態するなら霊力を用意しなさい」
「擬態するつもりは無いんだけどね。
だって、私に取ってあの姿は本当の姿の一つ。
記憶を失ったときの姿があの姿だから」
「はぁ? 記憶を失うですって? 面倒な体質ね。
でも喜びなさい。その体質とももうおさらば。
だってあんたは今日ここで、私に殺されるの。
河童の長もこれでお終いね」
姿を見せた河童の長に清美は刀を向けながら
式神達を召喚した。
「もう、皆をよ」
「命令。村人の安全確保」
「あ、はい」
だが、式神達への指令は村人達の安全確保。
この相手には自分1人で対処する方が良いと判断した。
正直な話、式神達よりも自分の方が強い。
特に接近戦に関してはかなりの自信が清美にはあった。
総一郎には敵わずとも、彼の次に強いと言う自信。
相手はかなり接近戦闘が得意だという確信もある。
「ふーん、1人で戦うの?」
「そうよ、あんたなんて私1人で十分」
「自信家だね、お姉さん。私、強いよ?」
「そうね、でも私はあんたよりも遙かに強い」
「凄い自信だね。じゃあ、名乗ろうかな。
私、知ってるよ? 強い人同士が戦う時は
自己紹介をするんでしょ?」
「はぁ? んな訳無いでしょ? 古すぎるわ」
「私は柳。名字は不定期だね。
ある時は浅野、ある時は鎮目、ある時は水虎
ある時は水底の長よ」
「聞いて無いんだけど?」
「ねぇ、お姉さんの名前も教えてよ。
強そうな人を殺すんだ。名前くらいは知りたい」
「そうね、特別に教えてあげるわ。私は安野柄清美。
まぁ覚えなくても良いわよ? どうせすぐ死ぬんだから」
「清美お姉さんか。私は良く記憶を無くすんだけど
私が忘れないような刺激を私に頂戴ね?」
その会話の直後、柳は一気に清美に近付く。
異質な程の速度。かなりの驚きを見せながらも
清美は彼女の攻撃を防いだ。
「チィ! 早い!」
「あは!」
何処からか現われた実態の無い謎の武器。
彼女はその武器を清美に振りかぶってくる。
驚きながらも、その攻撃を捌く。
「あはは、自信満々なだけはあるね、お姉さん!
私の攻撃を捌くなんて凄ーい!」
「く、この剣技……何処かで」
何度も柳の攻撃を捌く中で清美は何かを感じる。
何度も打ち合ったような、そうでも無い様な気配。
だが、恐らくは打ち合った経験があるのだ。
そうで無くては、ここまで器用に戦えてない。
「はは!」
「っと、ここ!」
「おっと、刀以外もありなんだ」
「くぅ!」
攻撃の隙を突き投げた霊針。
だが、清美の霊針は柳が出現させた
実態が無い壁に防がれてしまった。
即時霊針は爆発して、盾を破壊するが
攻撃を防がれたと言う事に変わりは無い。
「でも、やっぱり戦いはそうじゃ無いとね!」
「あんたも無茶苦茶するわね!」
柳は後方に跳び退き、周囲に大量の武器を出現させ
清美に向って射出して見せた。
清美はその攻撃を結界で捌きながら
一気に柳に接近し、刀を振る。
「届かないよ?」
「そうかしら?」
当然、柳は盾で清美の攻撃を防ごうとするが
清美はかなりの霊力を刀に纏わせていた。
これにより、柳の盾はまるで溶けるように掻き消え
清美の刃は柳の首元を捕らえた。
これなら当る。確実に当るはずだと感じる。
しかし、柳は焦りの表情を見せては居なかった。
「ありゃ、盾が簡単に消えちゃった」
「クソ! 避けた!?」
普通なら捕らえていた。並の妖怪なら確実に両断出来た。
鬼だろうとも確実に捕らえていたという確信があった。
だが、清美の攻撃は柳には届かなかったのだ。
盾を破壊されたというのに、柳は一切の動揺も無く
即座に彼女の刃から逃げ出していた。
「うーん、やっぱり妖力で出来た盾だから
霊力を纏わせた一撃には弱いか。
でも凄いね、清美お姉さん。並の霊力程度なら
確実に防げるのに、あなたの霊力は防げなかった。
本当に凄い人なんだね、見た目と違って」
「すばしっこいわね……あんた」
「分かるでしょ? 私、接近戦得意なんだよ?
だって、河童の能力は妖力を固める事。
私はその力を使って、武器を生成してるの。
こんな風に戦うんだから、接近戦は得意になるよ。
それに、人間として動いてる時に剣技も学んでるし」
「はぁ? 他の河童はそんな力使ってないけど?」
「そうだよ、あいつら馬鹿だもん。
霊力を奪う時にしか能力使わないとか愚かだよね」
河童は人間から霊力を奪う際にこの力を用いている。
主に体内に手を突っ込み、この力を用いて
対象の霊力を固めて取り出す形で奪う。
その後、その固めた霊力を飲み込み、霊力を強奪する。
河童が霊力を奪う際に、対象の体内に手を入れる為
河童に霊力を奪われた人間は損傷が激しい。
口から手を突っ込まれ、内臓ごと霊力を引き出されたり
尻の穴に手を突っ込み、霊力を固めて引っ張り出したり
対象の腹部を貫き、霊力を奪い取ったりもする。
その中で、最も多いのが尻の穴に手を突っ込み
霊力を固めて引っ張り出すケースである。
この方法であれば、人間は殆ど抵抗が出来ない。
口の中に手を突っ込む場合は歯による反撃もあるし
対象の腹部を貫く力すら持たない場合も多いからだ。
その為、世間一般の話では人間には尻子玉があり
河童に襲われた場合は尻子玉を奪われると言われる。
実際は霊力を奪われているだけではあり
尻子玉などと言う物は存在しない。
「ある程度賢くなったら自分の妖力を固めて使うんだけど
大体の河童は馬鹿だからね。仕方ない事だよ」
「へぇ、そうなの。因みに尻子玉の話は本当?」
「そんな訳無いじゃん。霊力を固めた物だよ。
まぁ、大体の奴はお尻の穴に手を突っ込んで
人間の霊力を固めて引っ張り出すから
それが尻子玉とか言われてるんだろうけどね。
大体、その方法だとお尻がポッカリ空くし
それで尻子玉を奪われたとか思うのかも?
まぁ、私はそこまで詳しくないし。やらないから」
「ふーん、あんたは違うの?」
「そんな面倒な事しないよ。お腹をぶち抜いて奪うだけ。
だから、お姉さんは安心してね?
お尻がポッカリ空くことは無いよ。
お腹がポッカリ空くだけ。下品な最後にはならないよ」
「何度も言うけど、最後はあんたの方よ」
「いいや、お姉さんの方だと思うなぁ」
その言葉に合わせ、
柳は再び自分の周囲に妖力の武器を呼び出す。
清美も刀を片手で構え、懐から何本かの霊針を取り出した。
今まで戦ってきた中で最も強い相手を前に
不思議と少しだけ、喜びを覚えながら。




