負傷の程度
錫音は負傷してしまい、屋敷に戻る。
屋敷のあやかし達は全員総出で動き
錫音の手当を全力で熟してくれる。
「だ、大丈夫ですか!? 錫音様!」
「うん……大丈夫だよ」
「救急道具を持ってきたよ!」
「ありがとうアキエ!
シロナ! 急いで手当てして!
手当てはあんたが一番上手だから!」
「うん、任せて!」
非常に慣れた手つきで、素早く治療を熟す。
本邸に居るあやかし達の中で
最も手先が器用なのはシロナである。
普段は怠け者の彼女ではあるが
こう言った場面で動かないほどでは無い。
普段の自堕落的な雰囲気とは打って変わって
キビキビと動いて居た。
「アキエ! 次はお湯をお願い!」
「うん!」
「錫音様、少しだけ待っててくださいね」
クロエは2人を上手く指揮しており
適材適所の行動が出来るように気を使っていた。
何かあった時に即座に動けるように
クロエは錫音の近くに待機して体に触れていた。
この方法でクロエは少しだけ錫音に妖力を渡していた。
傷の手当てなどは、基本的には人間と同じではあるが
妖怪の場合、妖力を回復させる事が
傷の治りに繋がる事にもなる。
ちょっとした負傷程度であれば
少しの止血等で事足りるのだが
錫音の負傷はかなり深く、人間なら即死の重傷。
妖怪だろうとも、弱ければ死ぬほどの深い傷。
長い時を生き、負傷に慣れている錫音だからこそ
負傷時の対処が分かっており、的確に対処してる為
この傷でも平気で動けるだけである。
「はぁ……流石に心臓を負傷しちゃうとしんどいなぁ」
「し、心臓ですか!? 確かに胸部から血が出てますけど
ギリギリ避けたとかじゃ!?」
「いや、あ、甘露の能力だから心臓なんだよね……
まぁ、私はほら、心臓を引っこ抜かれても死なないし
そう簡単には死なないけど」
「ひ、引っこ抜かれたこととか……」
「あるよー、1000年くらい前に」
その言葉を聞き、クロエとシロナは冷や汗を流す。
心臓を引っこ抜かれても死なない程の不死性。
当然、普通の妖怪であれば即死である。
敬愛する主である錫音ではあるが
そんな主の不死性を知り、2人はかなり困惑する。
当然なのだが、心臓の負傷など
クロエやシロナが受けてしまえば即死は必至だ。
いくらあやかしとなろうとも
彼女達の元は猫であるのだから。
流石に心臓の損傷となれば、ほぼ助からない。
だが、主は心臓を負傷して居ると言う状況でも
普段よりも少ししんどそうなだけであり
殆どは普段と態度も雰囲気も変ってない。
自分達の問いに笑顔で答える程の余力がある。
生物として、格段に上なのだと2人は理解した。
「でも、首を斬られたら分からないけどね。
大丈夫な気もするし、流石に無理な気もするし」
「す、少しでも大丈夫だと思えるんですか?」
「まぁ、妖狐族って頑丈だからね」
「妖狐族全員がそうなんですか?」
「うん……萩花姉様は首を切断されても死なないし」
「え゛!?」
「妲姫姉様は首を切断されても首が浮いて
妖術使うからね……本当に恐いよ」
「や、やった事があるんですか?」
「不意打ちで首を斬られた事があるんだって。
本人はまぁ、わざとだけど、とか言ってたけど。
でも、錫音に首を斬られたら
流石に死んじゃうから止めてね? って
凄い笑顔で言ってたけど」
規格外の情報を平気な顔で伝えられたクロエ達は
かなりの困惑を見せることになる。
流石の妖怪でも首を斬られればほぼ即死だ。
だと言うのに、錫音の姉妹達は急所を斬られても
結構壁だと言う事を聞いて困惑を見せる。
「しゅ、萩花さんはどうして?」
「それが……萩花姉様と戦ってる時に
私も必死で1度、首を斬っちゃったことがあるんだ。
このままだと死ぬって思って。
萩花姉様も本気で、私も心臓刺されてて
流石に余裕が無かったんだよ。
そしたら、萩花姉様が生首のままで
流石に首はねぇだろ! 死んだらどうする! って
凄く元気そうに叫んで……いや、あれは驚いた。
そのまま体が自分の生首を回収して乗せたら治って
あれは流石に困惑した。死ななくて良かったけど」
この会話を聞き、彼女達は何度も理解する事になった。
これが、最上位の妖怪達なのだと言う事を。
最上位の妖怪。となれば恐らく、朱婷童子も
例え首を斬られても死なないのだろうと分かる。
「クロエちゃん! 持って来たよ!」
「あ、アキエ。そ、そうね、ありがとう!」
「錫音様、大丈夫!?」
「うん、私は平気だよ。これ位ならまだね。
流石にしんどいけど、死にはしないよ」
「す、錫音様……もしかして、まだ動けるんですか?」
「動けるけど、流石に心臓修復には1ヶ月は掛かるよ
この状態であまり動きすぎると危ないかな」
「錫音様でも心臓の修復に時間が掛かるのに
妲姫や萩花は首を斬られても
すぐに動けるのは何故ですか?」
「妖力が凄いからだろうね、あの2人は。
私は妖力があまり多くないからね。
霊力と妖力を私は両方持ってるんだけど
その弊害で、お互いに伸び難いんだ。
でも、あの2人にはそれが無いから
妖力が凄く多いのが理由だと思う」
妖力が多いのが理由なのだとしても
あまりにも規格外な回復速度と生命力。
妖力以外の理由があるのでは無いかと
クロエ達は思うが、考えても分からなかった。
「妖力が多いから不死性が凄いんですね」
「うん」
「ふむふむ、お話しは聞かせて頂きました」
「あ、栗牧」
栗牧の帰還に反応したアキエは錫音を守るように
栗牧と錫音の間に入る。
「あ、警戒してます?」
「警戒してる。あなたが理由じゃ無いの?
錫音様が酷い怪我をしたのは」
「いえ、甘露お姉様です。
栗牧如きが錫音お姉様に
怪我などさせられるはずもありませんとも」
「あなたが錫音様を誘導したんじゃ無いの?」
「甘露お姉様は錫音お姉様を探知できます。
いやまぁ、栗牧が錫音お姉様を
九つの珠尾に案内しようとしたのはそうですが
錫音お姉様に害を与えようとしたわけではありません」
自分の身の潔白を証明するために
栗牧は少し焦りながら3人に言葉を伝える。
流石にここまで睨まれるとも思って無かったのか
かなり焦ってるのが素振りから分かる。
「あ、あんたがそんな場所に案内しようとしなければ
錫音様は酷い怪我をしないで済んだんじゃ無いの!?」
「完全に偶然ですよ! まさか甘露お姉様が
あそこまで錫音お姉様に狂気的な感情を向けてるとは
栗牧も思わなかったのですよ!
確かに甘露お姉様は錫音お姉様に対して
少し……少し? いえ、滅茶苦茶歪んだような
そんな愛情を向けてるのは知ってましたが
流石にここまでとは思ってませんでした」
「姉妹なのに?」
「姉妹ですけど、最近まで一緒には行動してません。
九つの珠尾が出来てから結構一緒に行動してますが
九つの珠尾も最近出来たばかりですし?
九つの珠尾が出来てから、錫音お姉様とは
今まで会ってませんでしたからね」
妖狐達は基本的に単独行動が多い。
理由はシンプルであり、一緒に行動をしてしまうと
多数の霊力が必要となるからである。
錫音と完全に決別しないために妖狐達は全員
可能な限り、霊力を奪いすぎないように行動している。
その為、一緒に行動してしまうと食事の問題が出てしまう。
「栗牧はあまり姉妹の皆に詳しくないからね」
「えぇ、雲の上の存在過ぎて近付けませんし」
「い、妹なのに?」
「1番力が弱い栗牧にはお姉様方の居る場所は
近寄り難いのですよ。
それに、一緒にいると霊力を沢山奪う事になりますし」
「でも、あなたが九つの珠尾を作るきっかけなんでしょ?」
「えぇ、勇気を出しました。やっぱり家族皆が1番ですよ」
「……じゃあ、今は霊力の問題はどうなってるの?」
「黒根お姉様が集めてきた人間達の霊力をいただいてます。
あ、同意の上ですよ?」
「私があなたに久々に会ったときは
子供の霊力を奪ってたけど」
「す、少しくらいは良いかなって……
こ、子供の霊力が2番目に美味しくて」
「1番は?」
「錫音お姉様の霊力です!」
「へぇ、美味しかったんだ」
栗牧と行動してたときに少しだけ錫音は霊力を分け与えていた。
自身の霊力を自在に操れると言う事はつまり
他者にも自由に与えられると言う事である為だ。
「やっぱり錫音様に迷惑を掛けてたんだね」
「同意の上ですよ! 流石にご飯を食べるなは無理ですって!」
「うん、これは私が自主的にあげた訳だし。
後、この怪我も栗牧は関係無いしね。
今回は大人しく引いてあげて」
「す、錫音様が言うなら」
錫音に言われた事で、流石のアキエ達も警戒を少し緩めた。
だが、敬愛する主が負傷してるこの状態で
流石に危険な妖狐を前に完全に油断などはせず
警戒を解くことは無かった。




