愛憎の妖狐
妖狐姉妹達の八女、甘露。
錫音にいる、2人の妹の1人であった。
容姿は他の妖狐達とはかなり違っている。
他の姉妹達は基本的に和装をして居るが
彼女の容姿だけは特別に変わっている。
金色の髪の毛に白黒の衣服。
黒く大きなボンネット
黒と赤黒いワンピースを着ている。
全体的にフリフリとした格好であり
和装の多い、この日の国では
非常に珍しい格好だと言えるだろう。
手元には錫音の様なぬいぐるみを持ち
身長は1番下の栗牧よりも小さい。
5歳かそれ以下なのかと誤解するほどだ。
ボンネットの影響で、彼女の狐耳は見えず
彼女の尾も今の状況では見る事が出来ない。
「なんでここに」
「錫音お姉様が何処に居るのか、私には全部分かる。
知ってる筈でしょ? 錫音お姉様」
狂気を感じる程の微笑みを錫音に見せる。
だが、すぐに栗牧を見て、鋭く睨んだ。
「でも、気に入らない、気に入らないなぁ!
私と一緒に居るのは嫌で!
何で栗牧と一緒に居るのは良いのかなぁ!」
「あ、甘露お姉様、その、わ、分かると思うんですが
そのー、甘露お姉様は錫音お姉様に対して
暴力的すぎ」
「あぁ!? 殺すよ!? 栗牧!」
「ご、ごめんなさい! 何で栗牧はこう
お姉様方に虐められるのですかぁ!?
あ、弄りやすいからですかね?」
「け、結構余裕そうだね」
甘露は姉妹達の中で唯一錫音だけを特別視して居た。
無論、他の姉達を無下にして居る訳では無いのだが
錫音に対する執念だけは別格だった。
それ故か、彼女の2つ名は愛憎の妖狐。
その狂気とも言えるほどの愛と憎しみは
錫音に常に向いていた。
「錫音お姉様! 私だけを見て!」
「駄目! あまつ、いぐ!」
甘露は錫音の前で自らの右腕を突き刺す。
同時に錫音の右腕から血が噴き出した。
彼女が自傷した場所と同じであった。
「はぁ、はぁ、あは、あはは!」
「ま、いっ!」
今度は腹部、彼女は自らの腹部を小型の刃物で貫く。
甘露は小さく吐血し、錫音の口からも僅かに血が溢れる。
「はぁ、はぁ」
「あ、甘露、や、止めて……自分を傷付けないで!」
「錫音お姉様が悪いんだ、私を見ないから
私を放置するから、錫音お姉様が悪いんだから!」
「いぐ! こ、このままだと、あなたが!」
「あぁ、嬉しい、錫音お姉様が私を……
私の心配をしてくれてる。もっと、もっと!」
「だ、あぐ! いっ!」
「す、錫音お姉様!?」
甘露が自らの両足を突き刺した。
同時に錫音の両足から血が噴き出した。
それは当然、甘露も同じである。
彼女も錫音を前に、両膝を突いて動け無くなる。
だが、その表情は変わらず狂気染みた笑みを浮かべる。
「あは、あはは! 錫音お姉様ぁ!」
「あぅ!」
甘露は自らの腹部を突き刺し、更に胸部を突き刺した。
当然の様に、錫音の腹部と胸部から血が噴き出す。
確実に心臓が負傷した、かなり息が荒くなってくる。
「大好き、大好きだよ、大好きだよ! 錫音お姉様!
待ってたの、ずっと、ずっとずっと! 会いたくて!
あはは! もっと、もっと一緒に痛い思いをしよ!?
もっと一緒に苦しもう!? そして、私を!
私だけを見て! 私だけを!
錫音お姉様! 錫音お姉様!」
「ま、って!」
「うぎ!」
今度は自らの心臓を更に突き刺そうとした甘露を
狐火による攻撃で止めた。
彼女が手に持っていた刃物は吹き飛ばされ
甘露の手が少しだけ焼ける。
当然の様に、錫音も同じ場所が焼けてしまう。
「わ、分かってるでしょ、あ、甘露。
わ、私をその能力で痛めつけても
私よりも、あなたの方が傷付くこと位。
だから、止めて……それ以上はあなたが死んじゃう」
「……だから、だから大好きなんだよ、錫音お姉様。
私の能力でどれだけ痛めつけられても
自分じゃ無くて、私の心配をしてくれる。
だから大好きなの、錫音お姉様の事が!
だから憎い……錫音お姉様の愛が
私以外に向くのが憎い!」
「あ、甘露お姉様、その、栗牧こわ」
「お前が1番嫌いなんだよ、栗牧」
「ひぃ! ごめ」
「そこから離れろ! 錫音お姉様からぁ!」
「今日はいつもより恐い!」
フラフラと立ち上がり、錫音達の方へ歩む。
だが、既にボロボロの甘露は途中で倒れた。
「ケホ、ケホ!」
「甘露……自分を傷付けないでよ……」
「いやだ……錫音お姉様が私の力で痛い思いをして
私の事を意識して貰いたいの。そして、心配して欲しい。
私を、私の事だけを見ていて欲しい、ずっと私の隣に
私だけの、私だけの錫音お姉様に……
錫音お姉様を私だけの……私だけのお姉様に」
「こ、恐いですよぉ、甘露お姉様」
「……栗牧、毛が戻ってる。跳ねてない」
「え? あ、それは」
「許さない……栗牧ぃ!」
「ひぃ!」
甘露が懐から小さなお札を取りだし栗牧に手を伸ばす。
だが、錫音はその手を止めて、栗牧を守った。
「だ、駄目だって、それは……」
「錫音お姉様の手……暖かい。良いわ、許す」
「あ、ありがとうございます、甘露お姉様……」
困惑しながら栗牧は甘露に礼を伝える。
こんな状況だというのに、何故こんなに余裕なのか。
敬愛する姉は血塗れだし、恐い姉も血塗れだ。
こんな状況なのに、錫音はあまり態度は変わらないし
恐い姉はいつもの何倍も恐い。
「あ、甘露お姉様は錫音お姉様が絡むといつも
凄く怖いですね……普段の100倍は恐いです。
それ以外なら普通なのに……うー」
「あぁ、錫音お姉様ぁ、抱きしめて欲しいの」
「う、うん……」
このまま追い出すと栗牧が危ないかもと感じたため
ひとまず錫音は彼女に言われたとおりに抱きしめた。
すると甘露の方もすぐに錫音に抱き付いた。
「暖かい……血でグチャグチャでも幸せぇ」
「恐い事言わないで」
「……」
「あれ? 動かなく……し、死んだとか」
「いや、気絶だね……はぁ、怪我を治してあげよう」
「た、大変ですね、錫音お姉様……」
「甘露だけは本当に落ち着かないからね。
はぁ、私も痛いのは当然嫌なんだけど
目の前で妹が自傷して血塗れになる様子を
見ることしか出来ないのが1番嫌だなぁ」
「あはは……で、でも、甘露お姉様には優しいですよね?
あの、栗牧の時は殺意凄かったのに……」
「状況だよ。あの時は栗牧が子供を殺したんじゃ無いかって
そう思ってたから。仮に甘露が同じ状況で居たとしても
同じ様に最初から本気で仕掛けようとしてたと思う」
「自分が怪我をさせられるのは平気なんですか?」
「どうせ治るからね。この程度の怪我なら。
1000年近く前にお姉様達に
ボコボコにされたときと比べれば大した事無いよ」
そんな会話をしながら、錫音は甘露の手当をする。
本当に世話の焼ける妹過ぎて困ってしまう。
彼女は心の中で甘露をどうするか考えながら
小さくため息をついた。




