河童の違和感
清美達が訓練をしている間。
錫音はあやかしの国へ戻っていた。
理由は河童の襲撃を探る為だ。
「都の周囲で河童が出現かぁ」
「河童は気まぐれな所ありますからねぇ。
まぁ、今回は大丈夫ではありませんか?
だって、都でしょ?」
「そうだけどね」
河童が活動する頻度はかなりバラバラだった。
だが、一定周期で河童の活動場所は変わる。
それ故に錫音は河童達を警戒していた。
「宝龍、河童の長って誰か分かってるのかな?」
「不明だ。鈴亭の索敵でも正体が分かってない。
かなり隠密能力に特化してる悪鬼かも知れない」
「……河童の長が出現したときは」
「あぁ、村が1つ滅ぶ時だけだ」
河童の長の隠密能力は異常なほどに高い。
索敵能力に優れている鈴亭の能力を持ってしても
河童の長を特定することは出来ない程だ。
今回、錫音が河童の話を宝龍から聞いたのは
河童の活動場所が都に近いからだろう。
「だが、河童が不自然に集う場所に出現する。
それは分かっているんだ」
「でも、特定できないんですねぇ」
「……そうだな、あの妖力を何故見付けられないのか」
「申し訳ありません、宝龍様」
「謝罪は必要無い。君が手を抜いているのであれば問題だが
君が手を抜いてない事など容易に分かる。
ただ、相手が悪いのだろう。天狗達と同じ様にな」
黒野天狗が長である天狗達も全容が分かっていなかった。
特定自体はある程度は可能であったのだろうが
彼らが何処に消えるかも特定は出来なかったのだ。
それだけ、妖力を抑える技術に特化していたのだろう。
少なくとも長である黒野天狗は千年以上生きた大妖怪。
更には攻撃的では無い様な存在であった。
その為、無駄な争いを避けるために気配を消す能力を
長い時を掛けて極めたのだと分かる。
「意外と能力の効果は微妙なんですねぇ」
「貴様らの事は完全に把握してるが?」
「そりゃね、栗牧達は別に存在隠してないですし?」
だが、鈴亭はかなり九つの珠尾を警戒していた。
特に長とされる長女、堕落の妖狐、妲姫を。
彼女は自分が監視してることに気付いている。
たまにこちらに向けて手を振る様な相手だからだ。
しかも笑顔で。あまりにも不気味な相手。
それだけでは無く、五女、萩花にも勘付かれる。
まるで視線に気付いてるかのようにこちらを向く。
とは言え、何かをするわけでも無く。
こちらを向いた後にため息をついて歩き出す。
あの2人は明らかに異質なのだと分かる。
「でも、萩花姉様と妲姫姉様にはバレてそうだよね」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、私でも見られてるのには気付けるんだよ?
あの2人なら……特に萩花姉様は気配で気付くよ。
妲姫姉様は妖術の能力が高いわけだから
多分、鈴亭の索敵を探知して反応する。
性格的に鈴亭に向って
手を振ったりするんじゃ無いかな?」
「……その通りです」
「おぉ、流石は妲姫お姉様と萩花お姉様。
栗牧はサッパリ気付きませんでしたよ」
「因みに組織内は見えるの?」
「えぇ、とは言えたまに。結構な頻度で弾かれます」
「じゃあ、たまの時に中は見えるの?」
「えぇ、沢山の人間が奉仕してるのを見ました」
「……」
無言のまま錫音は栗牧に視線を向けた。
かなりの圧を感じた栗牧が滝の様に冷や汗を流し
焦りまくってる笑みを浮かべている。
「あー、あのー、ですね? いえ、違いますよ?
いや、栗牧達は何も悪い事は-」
「なんで組織内に人間が居るの? 奉仕ってのは?
返答次第だと、結構容赦ないよ?
九尾状態を使ってでも潰して」
「違いますからね!? 自主的なんですよ!?
だってですね! 妲姫お姉様も黒根お姉様も
かなり慕われてる部分がありましてね!?
特に黒根お姉様の慕われ具合と来たら!
能力を使って無いのにやって来たり!」
「……」
「妲姫お姉様が食事の時に人間の霊力を奪ったら
それから毎日自分から来るようになったり!」
「そう……」
「良いですか!? 殺しては無いですからね!?
妲姫お姉様も本来なら最後に霊力を全部奪い尽くして
そのまま幸せな夢の中で殺してあげるんだけど
流石に錫音に嫌われるのは嫌よねぇとかいって
誰1人として殺してないんですからね!?」
かなり必死に自分達の潔白を証言しているが
流石に彼女の言葉を全て信用することは出来ない。
例え妹だったとしても、栗牧は悪鬼であり
人間達の敵であることは確定してるからだ。
「本当? 鈴亭」
「ま、まぁ、たまに組織内を見ても人は減っては
後、錫音に報告お願いねーとか言われて」
「バレてるんだな、全て」
「えぇ、ですが彼女は常に自分の動向を
私に監視させてます。流石に彼女達の妖力は
常時探知してます。彼女達には
七割程の意識を向けていますので
流石に私の目を盗んで
人の霊力を食い尽くしたりは出来ない筈」
「かなり割いてるね?」
「気付かれてるのが確定してますからね」
それだけ、宝龍達は妖狐達を警戒しているのだろう。
当然とも言える。個の最強は朱婷童子なのは確定だが
種として最強といえるのは妖狐族なのだから。
9人しか居ないが、その9人はそれぞれ悪鬼の中でも
最上位に君臨できるほどの実力者である。
最弱と評される栗牧も本来はかなりの強さがある。
流石に種の頂点に君臨できるような相手には
引けを取ってしまうのだが、最弱だったとしても
その頂点に届き得てしまうのが異常なのだ。
「妲姫の妖術の腕は天下一だろうな。
恐らく、妖術の扱いに関して
あいつの上に立つ物は居ないだろう」
「えぇ……もしかすれば、私の目を誤魔化し
人間を殺す事も可能かも知れません。
ですが、彼女は嘘を付いてるようには見えない」
「そうですよ、妲姫お姉様はそう言うのしないんです。
わざわざ疑われるようなことをして
錫音お姉様に敵対されたら面倒だと言ってましたし?
言ってたんじゃ無いですか? あなたに対しても。
私はあなたを妨害はしないわ。
でも、くつろぎたい時はあるから
ずっとは見ないでね? とか」
「……言ってました」
「そうなんだ」
恐らく妲姫が誰も殺してないのは確定だろうと錫音は考える。
彼女はかなり面倒くさがり屋で自堕落な性格である。
だが、それ故に自分に疑われるという
面倒極まりないことは絶対しないという確信があるからだ。
更に他の姉妹達が人間を殺していないと言うのに
彼女が人間を殺す等と言う、姉妹達に対する
裏切り行為をするような性格ではない事も分かっている。
彼女は長女であり、姉妹全員に慕われてる存在だ。
面倒だと感じても、妹からのお願いは絶対に聞くのが彼女だ。
何度か会ってるから、それ位は流石に分かっている。
「……じゃあ、もしかして屋敷に居る人間って」
「まぁ、大体は黒根お姉様の配下ですね。
1000人位は居ますね。あ、能力抜きですよ?
流石に? 能力を用いて支配してるとしたら?
錫音お姉様に嫌われかねないですからね。
で、500人程が妲姫お姉様に魅了された子ですね。
そして、妖華お姉様が大好きな女の子が20人です。
若い女の子から年老いた女性も居ますよ?
因みにー、並の陰陽師より強いですよ? その人達。
だって、妖華お姉様に満足して貰う為に
毎日霊力鍛えてますからね。ありゃ凄い」
「そうなの?」
「はい、彼女彼らが妖狐族の方々に
心酔してるのは間違いありません。
そうで無ければ、あそこまで自らを鍛えません」
「えぇえぇ、いやぁ、錫音お姉様が
九つの珠尾に来て下されば
すごーい事になるに違いないんですけどねぇ」
「ならないよ」
「錫音お姉様が参加して下されば
我ら妖狐族の天下になるんですけどねぇ」
「そんな事無いよ」
そんな会話を聞いている宝龍達は明らかに動揺する。
まず間違いなく、栗牧が言ってることは間違いないからだ。
錫音がもし完全に人間に敵対してしまえば
世界が妖狐族の物になるのは確定と言える。
少なくとも錫音相手に崎神族全員で挑んだ所で
九尾状態を使われれば勝ち目が無いからである。
錫音の持つ最大の切り札、九尾状態。
この状態の弱点は錫音が錫音だから成立する。
それに、錫音があやかしでは無く悪鬼となれば
妖狐達は必ず全力で行動をするだろう。
1000年近く前に起った、あの悪夢の再来。
考えれば考えるほど、宝龍達は栗牧を警戒する。
「おや? また栗牧を睨んでますね。
恐いですよぉ、栗牧は幼気な妖狐ですよ?」
「……」
とは言え、彼女を追い出す理由はない。
彼女は何も嘘を付いては居ないのだから。
無理に彼女を錫音から引き離してしまえば
錫音にもかなり悪い事となるだろう。
彼女が栗牧と共に活動していて
かなり楽しくしてるのは間違いないのだから。
「恐いですねぇ、て言うかもう良くないです?
元は河童の話だったじゃ無いですかぁ
あまり栗牧達を警戒することはありませんよ?
だって、栗牧達が人間を殺す事は無いのですから。
少なくとも、錫音お姉様があやかしである以上は」
「まぁ、鈴亭も皆が誰も殺してない事は言ってるしね。
私はそれを信じる。大事な仲間の言葉だしね」
「ありがとうございます、錫音」
改めて宝龍は頭を動かし、考える。
この世界の均衡は間違いなく錫音のお陰で取れている。
彼女に何か起る前に、必ず手を打たなければ。
親友である彼女が辛い思いをしないためにも。




