辛い修行
幸子が陰陽師を志して1週間の時が経つ。
幸子は結局清美の家で過ごすこととなり
清美は幸子を妹の様に可愛がった。
だが、家の時と外では別人の様である。
「集中しなさい!」
「う、うん!」
「あんたが陰陽師になる為には
まずは霊力を消費する必要がある。
給紙に意識を集中し続けなさい」
「は、はい……う、うぎぎ……し、しんどい」
「はぁ、はぁ、ひぅ」
「かなりの勢いで霊力を奪われるから
1時間も経てば、あんたの霊力は生存に必要な
最低限の霊力を残して完全に失われる」
「はぁ、はぁ、だ、だめ……」
「……10分か。やっぱり大した事無いわね」
清美の教育はまさにスパルタその物だった。
妹の様に扱おうとも、力に関する部分では
決して彼女を甘やかすことは無い。
陰陽師になると志した以上は容赦なく叩きのめす。
陰陽師を諦めて、霊具神姫になればそれで良し。
この教育に付いて来ると言うなら、それも良し。
彼女が幸子に対して加減をする理由は全く無かった。
「何度も言うけど、陰陽師になるってんなら
これ位は普通よ。まぁ、私はしてないけど?」
「う、嘘を言わなくても良いよ、清美お姉ちゃん。
し、知ってるから、毎日同じ事をしてるのは」
「……気のせいよ」
この修練は清美自身も未だに毎日行なっていた。
霊力を極限まで削ぎ落とし、霊力をより鍛え上げる。
強さに対して絶対の自信を持つ彼女が
この鍛錬を欠かすことなど1度だって無かった。
霊力を極限まで自身が使役する式神に流し込み
自身は最低限の霊力だけを残して眠る。
当然、霊力を極限まで削ぎ落とす訓練は非常に辛い。
人間は霊力がなくなれば死んでしまう。
それだけ、霊力を削ぎ落とすという行為は辛い訓練。
だが、この方法が最も霊力を鍛える方法でもあった。
彼女がそんな辛い訓練を毎日しているという事を
知って居る部下などは1人も居ない。
彼女は誰かに努力をしている所は見せなかった。
少なくとも、最強の陰陽師となってからは。
何故なら、もはや無駄だと考えてきているから。
成長の実感を得られないこの方法。
最近は手を抜くようにもなって来ている。
「はぁ、はぁ、はぁ……ま、まだ、頑張る!」
「いいや、今は駄目よ」
「ど、どうし……て」
「霊力をそれ以上消耗すると危ないからよ。
霊力を鍛える方法はそれを何度もすること。
そうすれば、霊力はより増え続けるわ」
「わ、分かった」
「そして、7歳になるまで
絶対に都から出ない事。良いわね?」
「う、うん」
「そして、人目に付かない所には絶対に行っては駄目。
潜伏型の悪鬼が来る危険性があるんだから」
「分かっ……はぁ、はぁ」
幸子が顔を真っ青にしながら息を切らしている。
この修練は本来、大人だろうとしんどい鍛錬だ。
生まれが陰陽師である人間は7歳をすぎれば殆どしない。
だが、生まれが陰陽師で無い人間は必ず行なっていた。
特に7歳を過ぎた後に陰陽師を志し
長く所属している者は必ずこの鍛錬をして居た。
明確な覚悟と目標を持っているからだ。
当然、桐絵も同じ様に毎日この鍛錬をしている。
「……辛いなら止めても良いのよ。
このままあんたが陰陽師をやるってんなら
この鍛錬は絶対に毎日して貰う事になる。
これが出来ないなら陰陽師にはなれないわ」
「辛い……けど、止めない」
「どうして? 辛いのに何で止めないの?」
「清美お姉ちゃんみたいに……格好良くなりたい。
辛い思いをしてる……人を、た、助け、て
え、笑顔になっ、ケホケホ!」
幸子はかなり咳き込み、その場に座り込んだ。
必死に呼吸を整えようとしてるが
何度も咳に邪魔され、呼吸が乱れている。
「っ、はぁ! はぁはぁ……」
「桐絵、あんたは20分。まだまだね」
「す、すみません。清美様」
ついでに鍛錬させていた桐絵も限界が来たようだった。
20分。子供と大差無い霊力の量だと言える。
精々、幸子の2倍程度。確実に桐絵は幸子に抜かれるだろう。
7歳以下の子供が持つ霊力の成長率は別格だ。
10倍、20倍と異常な速度で霊力が増える。
だが7歳を過ぎれば霊力の伸び率などたかが知れてる。
それ故に7歳を過ぎて陰陽師を志した者は
陰陽師の家で生まれた人間には敵わない。
それは当然だ、陰陽師の家で生まれた人間は
幼子の時から強さを得るためにこの修練をする。
圧倒的な伸び率の成長性を持って居る時期に
完全な努力をする事が出来るのだから。
そもそもスタートが違いすぎる。後続が勝てるはずも無い。
だが、陰陽師達はそんな人達を見下したりはしなかった。
彼女達が毎日この辛い修練をしていることを知ってるからだ。
自分達はもう2度としたくないと考える程に辛い修練を
毎日毎日。その熱意は尊敬すら覚えてしまう程だ。
「桐絵。あんたは確実に幸子に抜かれるわ。
これは絶対よ。それでも私に教えを請う?
惨めな思いをする事になるわ。後から来た子供に
確実に抜かれる。一緒に教われば絶対にそうなるわ」
「構いません。はぁ、はぁ、わ、分かりきってる事です。
でも、私も……っ、強く……なりたい。す、少しでも。
き、清美様に、お、教わって、す、少しでも」
「私は教えるのが苦手なのは知ってるでしょ?」
「そんな事はありませんよ。き、厳しすぎるだけです」
彼女はそうは言うが、清美自身も当然自覚があった。
今まで感覚だけで修練をしていた天才型であり
自分は誰かに物を教えるのが苦手なのは。
しかし、自分を慕う2人が教わりたいと言っている。
「……はぁ、面倒くさいわね」
このままじゃ、2人の為にはならないと思うが
かといって、これ以上考えるのも面倒だ。
今更、これ以上何かを考える気にもなれなかった。
まだ、何かが足りないと彼女は感じている。
「はぁ、好きにしなさい。
結果が出なくても知らないわよ」
「は、はい!」
「……」
笑顔の桐絵を見て、少しだけある事が頭をよぎる。
無駄な事なのにと、彼女はそう感じてしまった。
もう、桐絵の状況では大して成長も出来ない。
努力をしても、大して意味も無いのにと。
毎日この鍛錬を続けている清美ではあったが
成長の実感は殆ど感じていなかったからだ。
あまり熱は入ってないと言う自覚が彼女にはあるからだ。
だが、その事は言わないでおいた。
努力をしてる相手を馬鹿にするのもと感じたから。
そのまま清美は2人の指導を続けた。
無駄かも知れないと、少し感じながら。




