表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守護狐の千年物語  作者: オリオン
第2章、都の騒動
23/41

幼子の夢

幸子に服を買い与え、

これからどうするかと

彼女は少しだけ頭を悩ませた。


このままこの子を放置してもろくな事にならない。

かと言って、自分に何が出来るのか。

とりあえずだ、彼女の年齢を聞くことにした。


「あんた、いくつなの? 見た感じ、5歳?」

「うん、5歳だよ」

「そう」


5歳と言えば、まだまだ陰陽師となれる年齢だ。

このまま放置をするのも……と考えるが

彼女が陰陽師というのはどうかと思った。

そこで、清美はとある事を思い付く。


「あんた、刀に興味ある?」

「え? 刀?」

「そう、こんなの」


姿勢を低くして、幸子に自分の刀を見せた。

幸子は少し興味深そうに刀を見る。


「凄い綺麗、鏡みたい」

「でしょ? 私の親友が打ってくれた刀なの。

 ふふん、私の1番のじま……い、いや、1番は

 自分の強さだから、そうね、2番目の自慢」


1番の自慢と誇りたい気持ちもあるが

所詮は親友からしてみれば2番目の傑作。

それを、1番の自慢と言うのは抵抗があった。

だが、無下にするのも嫌な彼女は

これを2番目の自慢として妥協する。


そんな無駄な意地をここで張ったのだ。


「1番の自慢なんだ」

「違うっての! 2番目よ!」

「で、でも、さっき1番って」

「い、言い間違いよ! ったく」


くだらない意地を張ったが、即座に看破される。

子供の純粋な目は欺けなかったのだろう。


「はぁ、まぁあれよ、興味ある?」

「うん、綺麗だなって思ったよ」

「じゃあ、付いてきて」

「うん!」


子供相手に怒るのも馬鹿らしいと感じた彼女は

そのまま幸子をとある場所へ連れて行った。

そこは霊具神姫の姫長が拠点としている屋敷だった。


「清美様、今日はどのようなご用件で」

「亜希子に会いに来たわ」

「承知いたしました、では、こちらに」


使用人に案内され、清美は客間に案内された。

使用人達も幸子に興味を持ったみたいだが

深くは言及しては来なかった。


「では、こちらを」

「わー! お菓子だ! でも、これは何?」

「ケーキという、西洋のお菓子だそうです」

「けーき? 聞いたことがないよ」

「えぇ、西洋由来の高級お菓子なので」

「なんでそんな物を出したの?」

「亜希子様が何とか入手出来たから

 明日、清美様と食べようとしてたそうで」

「そ、そう……じゃ、じゃあ、2つあるのは?

 私と亜希子の2人で食べようとしてるなら

 普通は2つだけじゃない?」

「いえ、霊具神姫全員分を入手したそうでして」

「全員分? 何でよ」

「美味しい物を独り占めは嫌だそうで」


その事を聞いて、清美は少しだけ衝撃を受けた。

同じ当主でありながら、明らかに差がある。

亜希子は部下達に好かれていて

自分は部下達から嫌われている。

それは分かってるし、興味も無いはずだ。

しかし、明らかな格差を清美は感じてしまった。


「……そう」


霊具神姫は過去最高と言われるほどに

今代は団結しているという噂を聞く。

だが、陰陽師はどうだろう。

過去最悪な程に団結がボロボロだ。

そんな噂を、待ちの中で何度も聞いた。

関係無いはずだ、興味無いはずだ。

なのに、自分は何を恐れてるのだろうか。


「……とりあえず礼を言うわ」

「はい、では、失礼します」


最強である自分は誰も慕ってくれないのに

対等なはずの親友はこんなにも慕われてる。

何が違う? いや、分かりきってるはずだ。

自分は自分以外に対して興味を……

何で抱けないのか、何故、興味を抱けないのか。

ひたすらにその理由を想起しようと頭を動かす。

だが、分からない。何が理由で他者を見下してたのか。

いや、分かってるだろう? 弱いからだ。

他者は弱い、雑魚しか居ない。そんな連中に対して

何故強者である自分が歩み寄らないと駄目なのか。

周りが歩み寄るべきだと、そう考えて。


「お姉さんお姉さん!」

「な、何よ」

「はい! 美味しいよ! 食べて!」

「わ、私の分はあるわ、だから」

「じゃあ、お姉さんも私に食べさせて!」

「どうしてそんな!」

「私、お母さんにあーんして貰うの嬉しくて」

「……」

「だから、お姉さんも嬉しいかなって。

 何だか辛そうな顔をしてたから」

「辛そうな顔なんてしてないわ」

「そうかな? でも、あーん!」

「……」


幸子がこちらに向けてケーキを伸ばしてくれてる。

無下にするのもと感じ、清美は渋々口を開けた。


「あー」

「あ!」

「え? あ」


幸子が食べさせてくれようとしたケーキが落ちた。

箸で食べようとして崩れてしまったみたいだ。

落ちたケーキは清美の衣服に落ちて汚していた。


「ご、ごめんなさい! わ、悪気があったわけじゃ!」

「……良いわよ、別に気にすることはないわよ。

 どうせ、換えの服なんていくらでもあるんだし」


対して衣服を汚されたことに興味は無く

清美はサクッとその汚れを拭き取った。


「うぅ、ご、ごめんなさい……」


幸子はそれでも、かなり申し訳なさそうにして居た。

こう言う時、どうすれば良いか清美は考える。

そして、彼女は箸を取り、ケーキに手を伸ばした。


「ほら」

「え?」

「口を開けなさい、食べさせたげるわ」

「い、良いの!?」

「えぇ、ほら、口を開けなさい」

「う、うん! あーん!」

「……あーん」


嬉しそうに口を大きく開けた幸子にケーキを食べさせる。

この時、清美は幸子がケーキを落とした理由を知る。

確かにこれは難しい。箸で食べるべき物なのか。

それすら疑問に思うくらいには持ちにくかった。

かなり柔らかく、あっさりと崩れてしまいそうだ。


とは言え、修行をして居た清美が落とす程には

難しい事は無く、彼女は問題無く幸子にケーキを食べさせた。


「甘い! おいひぃい!」

「……そ、良かったわね」


ニコニコと満面の笑みで

幸せそうにケーキを食べる幸子を見て

清美も自然と頬が緩んでしまった。

同時に気配を感じて襖を見る。


「にひ!」

「あ、あぁ、亜希子!?」

「いやぁ! 良い笑顔だね! 清美ちゃん!」

「み、見てたの!?」

「見てたよ!」

「な、なぁ! わ、忘れなさいよ!」

「いいや! この光景は絶対に忘れないよ!

 清美ちゃんの爽やかな微笑みは

 この目に一生焼き付けたよ!」

「馬鹿! 私、そう言う笑い方しないの!

 しない筈なんだから! 笑ってないし!

 違うの! あれは、あ、あれよ! えっと!」

「そう恥ずかしがらなくても良いじゃん。

 可愛かったよ? 清美ちゃんの笑顔」

「あれは違うんだってばぁ!」


無二の親友に初めて見せてしまった笑顔。

自分は強いと言うことを前面に出してきたが為に

自分の弱い部分を見られた事がどうしても嫌だった。

更に可愛い等と言われたのは本当に不服であった。


「わ、私は可愛くないのよ! 強いんだから!

 あ、あなたに弱い部分を見せるなんて事!」

「弱い部分? 清美ちゃん

 笑顔が弱い部分と思ってるの?」

「違う! わ、私の弱い部分よ! 私のね!

 あんたが笑ってることを否定はしないわ!

 あなたの笑顔はいつも私の支えになってくれてる。

 で、でも、私が笑うのは駄目なのよ!

 私みたいな強い陰陽師が笑うなんて事は!」

「弱い部分なんかじゃないよ? むしろ強い部分だ」

「いいや、私の笑顔は弱い部分よ!

 私は最強の陰陽師なのよ! 私は1番強い!

 そんな私が女々しく笑うなんてあって良いはずが!」

「笑うのは大事な事だよ。心を全面に出して何が悪いの?

 楽しかったら笑う。悲しかったら泣く。それが自然だよ?」

「それは弱い奴だけ。

 感情を簡単に前に出してたら舐められる!」

「癇癪を起す方が感情を出してると思うけど」

「癇癪なんてそんなの!」


親友に自分の弱い部分を見られてしまったことで

彼女はかなりの動揺を見せながら取り乱す。

普段、彼女に見せることが無いような態度を見せている。

明らかに動揺して居る証拠であった。


とは言え、彼女は感情豊かな少女である。

そんなの、彼女と共に過ごせば容易に分かる。

当然、清美の親友である亜希子も理解している。

同時に無駄に感情を抑え、強ぶってるのも知って居る。


「清美ちゃん。折角だからハッキリ言うね?

 清美ちゃんは周りを見下す態度が

 強者の態度だって思ってる?」

「見下してないわ、私はいつも事実を言ってる。

 強くあれと言ってた癖に弱かった連中。

 まともに式神も作れない雑魚集団。

 式神のくせに独立してる連中。

 そして……その、弱い癖に偉そうな連中。

 私よりも弱いのに偉そうな態度を取る奴らが嫌い」

「清美ちゃんも苦労してるのは分かるんだけど

 でも、横暴な態度をその人達に

 取っても良い理由にはならないと思うよ?

 だって、陰陽師の人達は同じ志を持った仲間でしょ?

 弱い人達を助けたい。戦えない人を守りたい。

 1人でも多くの命を救いたい。だから、陰陽師になった。

 それは清美ちゃんもそうでしょ?」

「違う、違うわ。私は陰陽師として生まれた!

 だから、私は陰陽師を選んでるだけで

 別に弱い奴らを守りたいって訳じゃ!」

「なら、そこの子は?」


亜希子が自分の隣に居る幸子を見た。

幸子は少しだけ驚きながら清美を見ている。


「こ、この子は……」

「清美ちゃんが助けたんでしょ?」

「あ、あれは面倒だったからよ!

 都で死なれたら、後々面倒で!」

「でも、綺麗な服を着てる。買ってあげたんでしょ?

 清美ちゃんの事は何でもお見通しだよ」

「な、なんでそう思うのよ!」

「その子の髪の毛は明らかにボロボロだからね。

 まともに手入れをされてるようには見えない。

 それなのにそんなに上等な着物を着てる筈が無い。


 でも、その子はとても綺麗な桜の着物を着てる。

 どうしてか、それは、清美ちゃん。

 あなたがボロボロだったその子の為に

 着物を買ってあげたから。そうでしょ?」

「なん……」

「清美ちゃんは横暴に振る舞ってるけど

 本当は優しい女の子。

 そんな事を、私が知らないと思うの?」


完全に見透かされている。自分の全てを知られてる。

……彼女にはそれは喜びではある。

だが同時に、自分への嫌悪へとなってしまった。

親友である亜希子は自分を理解している。

なのに自分は彼女の事を理解できていないんだと。

対等だと考えてるのに、

彼女を知ろうとしてないんじゃ無いかと。


「……な、なんであんたは、私の事が分かるの?」

「親友だからだよ」

「……」


さも当たり前の様に言われた言葉を聞いて

清美の心に再び大きなダメージが入った。

親友なら親友の事を分かってて当然。

でも、自分は亜希子の事をあまり理解しいていない。


「……じゃ、じゃあ! 分かるでしょ!?

 私がここに来た理由!」

「うん、分かるよ」

「なら、お願い」

「それを決めるのは私じゃないよ」

「どう言う事よ!」

「どんな風に成長したいか。

 それを決めるのは私でも清美ちゃんでもない。

 その子なんだから。ね、お嬢さん。ふふ

 私の名前は雪妻亜希子。清美ちゃんの親友。

 ね、あなたのお名前は?」

「あ、あの……さ、幸子です。

 あ、あの、亜希子お姉さん……

 き、清美お姉ちゃんを虐めないであげて……」

「虐めてるわけじゃないんだよ?」

「で、でも、清美お姉ちゃん、辛そうで」

「そ、そんな事無いわ! 私は辛くなんか無い!

 私は凄いんだから、辛い事なんて無い!」

「で、でも……」

「清美ちゃん。あまり大きな声は出さない方が良いよ?

 幸子ちゃん、怖がっちゃう」


亜希子に静止され、

再び出て来そうになった言葉を押さえた。

彼女に恐い思いをさせるのが嫌だと感じたからだ。


「ねぇ、実は幸子ちゃんに聞きたいことがあるんだ」

「え?」

「幸子ちゃんはどんな人になりたいかな?

 お姉さんみたいに大事な人の為に

 凄い刀を作って大事な人に喜んで貰える様に

 頑張る方が良いか


 清美お姉さんみたいに、恐い目にあったとしても

 恐い思いをしてる弱い子達の為に強くなって

 頑張って戦う方が良いか」

「……」

「私みたいに刀を打つとすれば

 大事な人がもっと沢山の人を守れる様に

 とても凄い刀を作れる様になるかも知れない。

 修行は大変だけど、あまり恐い思いはしないよ。


 清美お姉さんみたいに恐い悪鬼と戦うとすれば

 頑張って色々な人達を守って幸せにしてあげられる。

 悪鬼に殺されちゃうかも知れない人を助けてあげて

 ありがとうって言って貰える。

 でも、こわーい悪鬼と闘わないと行けなくなる」

「考えるまでも無いでしょ?」


陰陽師は才能が大事な仕事であるのは間違いない。

才能の無い陰陽師は悪鬼に殺されてしまうだろう。

だから、出来れば彼女には戦って欲しくはない。


「……私、清美お姉ちゃんみたいになりたい」

「何でよ!?」

「だって……格好良かったから」

「はぁ?」

「わ、私が恐い思いをしてるときに助けてくれて。

 凄く格好良くて、私もあんな風になりたいって!

 恐い思いをしてる人を、た、助けたいの!」

「危ない事よ!」

「でも! 誰か頑張らないと死ぬ人が居るんでしょ!?

 知ってるもん! 村でも殺されちゃった子が居たもん!」

「あんたもそう言う経験あるのね」

「うん……でも、清美お姉ちゃんに助けて貰えなかったら

 きっと私、こんな風に思って無いと思うの。

 恐いから……だから、何も出来なくて。


 今回もそうで、恐くて……何も出来なくて……

 で、でも、清美お姉ちゃんは私を助けてくれた。

 今まで誰も私の事を助けてくれなかったのに

 清美お姉ちゃんだけは、私を助けてくれた。


 だから、私も清美お姉ちゃんみたいになって

 私みたいに恐くて何も出来ない子を助けたい!」

「だってさ」


こんな結果になるのは分かっていたのかも知れない。

亜希子は少しだけ笑みを見せながら清美を見た。

清美はそんな幸子の言葉を聞いて頭を抱える。

このまま危ない事はして欲しくはない。

だけど、彼女の意思を無下にするわけにも行かない。

彼女は知って居る。こんな風に決意を持つ陰陽師は

どんな風に言おうとも陰陽師を目指すのだと。

彼女を慕う部下、桐絵も幸子と同じ様に

人の死を目の当たりにして陰陽師となった。


彼女を救ったのは清美であり、それ故桐絵は清美を慕う。

何度も清美は桐絵を止めたが、それでも彼女は陰陽師となる。

才能がサッパリ無いのに、それでも陰陽師となった。

……きっと、彼女も同じ様になるだろう。


「……クソ、後悔するわよ」

「じゃ、この子の面倒は清美ちゃんが見てね?」

「分かったわよ、陰陽師として育ててあげる。

 でも、陰陽師を目指すってんなら容赦しないわよ?

 優しくしないから、覚悟しなさい」

「う、うん! 頑張る!」

「ははー! じゃ、清美ちゃん! ケーキ食べよ?」

「……そ、そうね」


会話も終り、清美達はケーキを食べた。

非常に甘いケーキを食べた清美は少しだけ心が躍る。

こんな気持ちになったのは久し振りだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ