子供達の戯れ
子供達の戯れはそのまま。
栗牧は相変わらず子供達に群がられ
アキエと鷹枝も子供達と遊んでいた。
その光景を見る、翼の生えてない大人達。
恐らく、彼女達が人間なのだろう。
全員、いやそうな表情は見せては居ない。
「人間達は大分楽しそうだね。
で、今回誘拐した子は?」
「あの子ですね」
黒野天狗が指をさす子供は
楽しそうに栗牧に群がり、耳を引っ張っていた。
翼が生えてないから怪しいとは思っていたが
やはり彼女がそうだったらしい。
だとすれば、錫音は少し機嫌を損ねる事になる。
「……じゃあ、あの傷は?」
その子供の腕に結構目立つ痣が見える。
それだけじゃ無く、何カ所か怪我をした跡がある。
この怪我や痣が天狗達がやったのだとすれば
それは当然、錫音が怒るには十分な理由だろう。
「あなたは人間が大好きでしょう?
それ故に信じて頂けないかも知れませんが
あの怪我は彼女の両親が傷付けた物です」
「え?」
長い時を生きていた錫音ではあるが
そんな事は聞いたことが無かった。
親が子を傷付けるなどあり得ないとそう感じる。
昔は良くそんな話を聞かされていたわけだが
最近、ここ500年はそんな話を聞いたことは無い。
大量発生した悪鬼を仲間のあやかしと共に協力し撃破し
あやかしの国が出来てからは特にだ。
「ここ500年は、そんな話を聞いてないけど?」
「500年前と言うと、
あやかしの国、建国後の100年後位ですか?」
「いや、逢魔時の後、あやかしの国が出来てから」
「あの騒動は新亭200年頃だったと思いますが」
「よ、良く覚えてるね、年月まで……」
「正確ではありませんがね」
錫音にとって、あの頃は激動の時間であったが故に
細かい年月までは記憶には残ってなかった。
逢魔時と呼ばれる大量の悪鬼が発生し
悪鬼と宝龍率いるあやかしの最大の争い。
その時が錫音にとって一つの区切りとなっている。
「私達は参加をしたわけではありませんからね。
客観的に見てたので覚えやすいと言うだけ。
それでも正確な年月までは覚えておりませんが。
しかし、あの騒動以降、あなたは有名となった。
妖怪にあやかしと言う分類が出来た時期。
騒動鎮圧後、宝龍殿があやかしの国を建国した」
「うん、そう言う流れだね」
あやかしの国は元は宝龍達が錫音のために作った国だ。
逢魔時後、人間達の為に戦った妖怪達の事を
あやかしと称する様になった。
それを機に、あやかしを手厚く保護し
人間達の為に戦えるように力のあった宝龍達
崎神族が協力して国を作った。
だが、実際は長い時を過ごした警戒すべき妖狐族である錫音が
命を賭けて人々を救っている様を監視していた彼女彼らが
彼女に敬意を評し、帰るべき場所を持たぬ彼女に
帰れる場所を用意するために作った国である。
その場所に旅をして色々なあやかしを引き連れて来て
この場所をあやかしの国と進化させたのが錫音である。
故にあやかしの歴史には錫音が密接に関わっている。
「当然、有名となったあなたに
痛めつけてる子供を見せる等と言う愚行をする者は
決して居ないでしょう」
「……」
「私の話が信じられないというのは分かります。
であれば、目の前に本人が居るのです。
直接、話を聞いて頂ければ」
「……そうだね」
あまり黒野天狗を信じられなかった錫音は
その傷を負った少女に声を掛けて事情を聞いた。
結果、黒野天狗の言い分が間違いないと分かる。
「そんな事が」
「自然でもその様な事は当然起こりえます。
とは言え、それを見過ごすのは出来なかった。
我々天狗は、その様な人間達を誘拐してる」
「だから、あなた達が子供を誘拐したという報告が
殆ど来ることが無かったって事?」
「えぇ、その様な子を見れば、神隠しに遭ったかのように
我々はその子供を誘拐し、子供達の話を聞き
結果、家に帰りたいと言う場合は返してました」
「神隠しの真相はあなた達だったんだね」
「えぇ、そう言う事です」
たまに姿を消した子が帰ってきたという話を聞くが
どうやら、天狗達がその真相だったと分かった。
「じゃあ、ここに居る子供達は」
「家に帰ることを拒んだ子供達です」
「でも、今回私達が誘拐に気付けたのは?」
「私が情報を流しただけのこと」
完全に自らと戦うためだけに広めた。
そこまでして、何故今更、自分と戦いたかったのか。
当然、その事が疑問に浮かんだ。
「どうして? どうしてそこまでして私と戦いたかったの?」
「説明したとおりです」
「いいや、それは違うって事くらいは分かる。
……隠す必要は無いよ、黒野天狗。
刀……でしょ? あなたの妻が打ったと言ってた
その天吹雪。それが、理由なんでしょう?」
「……」
意味深に彼は自らの刀に視線を落とした。
間違いなく、その刀が今回、彼が錫音に戦いを挑んだ理由。
そんな事、彼と少しはなせば察しが付くだろう。
彼はどうも、自分勝手な性格にはとても思えない。
悪鬼とは思えない程に穏やかで物腰も柔らかく礼儀もしっかりしてる。
仮にも長、同じ天狗達の上に立てるだけの器もあるのだから。
「教えてくれないかな?」
「……分かりました、隠しても無駄でしょうしね」
これ以上、無駄に隠す必要は無いと感じた彼は
錫音を連れ、奥の屋敷へと移動する。
「錫音お姉様-、栗牧を置いていくのは無しですよー」
「……その子達はどうするの?」
「あ、あはは……」
栗牧の尻尾を枕にして何人かの子供が眠ってる。
そのせいで、あまり動けるようには思えない。
「えい!」
「え? あ」
少し呆れながら栗牧の方を見ていると
錫音の尾にも子供が飛びついてきた。
「あはは! 良い匂いー! ふわふわー!
もふもふ! えへ、えへへ……すぅ」
「あ……うぅ」
「お揃いですね、錫音お姉様」
「ふふ、少し待ちましょうか」
そんな光景を見た黒野天狗は優しく微笑みながら
子供達が起きるのを気長に待ってくれた。
その間、錫音は他の子供達と戯れたり
髪の毛の手入れをしてあげたりと
色々な子供達と仲良く戯れる。
「いやぁ、子供達も楽しそうですねぇ」
「そうだね」
「座布団でも如何ですか?
流石に地べたはしんどいでしょう?」
「ありがとうね、黒野天狗」
「いえ、お気になさらず。
私としてもこの子達と遊んでいただき
本当に感謝します」
尻尾を3人くらいの子供が枕にして
女の子が錫音の胸元で後頭部を埋めて眠ってる。
子供達と戯れることはよくあるのだが
ここまで複数人の子供が来たのは初だった。
地上では皆、錫音のことを知って居たし
彼女達からすれば、錫音という存在は
親から教わった、すっごく優しいお狐様。
それ故に、少し距離があったのかも知れない。
「しかし、あなた方の尻尾は同じほどなのですね。
栗牧殿と錫音殿は体躯もかなり違うと言うのに
尾だけが同じなのは何故でしょうか?」
「んー、玉緒の前が栗牧達の起源だからでしょうね。
尾と言うのは、栗牧達妖狐族にとって大事な場所です。
恐らく色濃く受け継いでるのが尾なのですよ」
「そうかな? 確かに尻尾は大事にしてるんだけど
1本だけって訳でもないしなぁ」
「おや? そうなのですか?」
「私、本気出したら九本になるし」
「……組織名を変えなければ、十七本の珠尾ですね」
「語呂悪いよ、それ。あと、私は入らないからね?」
「そう言わずー」
意外な事に、栗牧を含む姉妹達は錫音の本気状態
九尾状態の事をあまり知らない。
知って居るのは長女の妲姫、五女の萩花、八女の甘露だけだ。
そして、その姿を唯一拝む事が出来るのは五女の萩花のみ。
当然、唯一萩花の本気を拝む事が出来るのも七女の錫音のみ。
まさに彼女達はほぼ互角。むしろ、九尾状態を加味せねば
萩花に軍配が上がるほどである。戦った場合の勝率は7:3
それ故に、錫音は彼女の事を避けているのだが
逆に萩花は錫音をひたすらに追い求めている。
闘争の妖狐たる彼女が唯一満足できる相手は錫音のみ。
「ふむ、錫音殿の本気……ですか、分かりきってた事ですが
私では、あなたに力の一部を出す事も出来なかったと」
「そう悔む事でも無いよ、あなたは十分強かった。
ただ、私との相性が悪すぎただけ。もしかしたら
あなたなら萩花姉様と戦えるかもだし」
「いやいや、流石に無理でしょ、萩花お姉様と戦うのは
まぁ、甘露お姉様には勝てるでしょうけど」
「だね、甘露には勝てるよ。後、大軒姉様にも勝てるかも」
「そうですねぇ、後、栗牧には絶対勝てますよ?
だから、自信を持ってくださいな」
「あなた達の姉妹にいくらか勝算がある言うのは
確かに誇れるべき事ですね」
妖狐族は悪鬼の中でも相当上位の実力者達。
その妖狐族に一部には勝ち筋があるのだから
黒野天狗の実力は相当上位なのは間違いないだろう。
「うーん……あ」
「あっと、起きましたか?」
「あ、栗牧ちゃんの尻尾……あ、寝てた!?」
「えぇえぇ、栗牧のもふもふ尻尾でグッスリです」
「ご、ごめんね! 栗牧ちゃん!」
「んー?」
その子が起きると同時に、他の子達も目を覚ました。
彼女の声はかなり大きいからなのか一斉に。
「それじゃ、お話しを聞きに行こうかな」
「えぇ、あ、他の子達はどうしますか?」
周囲を見渡し、子供達と一緒にグッスリ眠るアキエ。
やっぱり彼女の尾を抱き枕にしてる子は多い。
鷹枝は眠ってしまった子供達の親に近付き
飛行の手ほどきを受けている様子だった。
空の飛び方を知らない錫音では指導は出来ないが
飛行に特化してる天狗に指導して貰えるのであれば
かなり有意義だろうと予想は出来る。
今は飛行の手ほどきを受けてるのだから
このままの方が良いだろうと感じる。
「2人は後だね」
「えぇ、鷹枝の方も楽しそうですしねぇ。
アキエに至っては眠ってますしね。
しかししかし、やはり尻尾は魅力的なのですかねぇ。
まぁ、栗牧も? 錫音お姉様の尻尾を抱きしめて?
グッスリスヤスヤーと」
「駄目だよ?」
「夜! 夜なら良いですか!? 寝るとき!」
「え? そんなに力強く言われても」
「お願いします! 錫音お姉様!」
「わ、分かったよ」
「やったー!」
異常な程に嬉しそうにしてる栗牧をみて
流石の錫音も少し圧倒されてしまう。
黒野天狗も少しだけ冷や汗を流してる。
雰囲気が違いすぎるが、
彼女は本来結構な甘えん坊なのだろう。
唯一まともに甘えられるのが
錫音だけだからなのも影響があるかも知れないが。




