思い出の刀
宝龍達との邂逅の後
錫音達は本邸へ戻った。
「ただいまー」
「おかえりなさい、錫音様
栗牧はどうだったの?」
「誰も殺してないんだってさ」
「なら安心なんだ」
ほっと安心したような表情をクロエは見せる。
同時に、少しだけ栗牧が違和感に気付く。
「うーん、あのアキエは何処ですか?
栗牧が思うに、お出迎えは彼女だと思ったんですけど」
「アキエはあなたを最悪の場合倒せるようにって
刀の手入れをしてるわ」
「警戒されすぎでは? 栗牧そんなに恐いですか?」
「妖力が凄すぎるから……」
受入れたような態度を取っていたアキエではあるが
栗牧のことをかなり警戒していたようだった。
「だね、普段は結構騒がしいのに、今は静かだし。
久々に私も見てみようかな」
久し振りに感じるであろう雰囲気を感じて
懐かしさを感じた錫音は気配を殺しながら
アキエが武器を手入れしている所を見た。
そこには、かなりの集中力を見せるアキエが居た。
「あれは本気だね。武器の手入れの時は
いつも集中力凄いけど今回は別格だね。
だって、私に気付いて無いし」
「普段は気付くのですか? 彼女は」
「うん、少なくとも栗牧には気付くね」
「ん?」
気配に気付いたのか、アキエが振り向いた。
手に持つ刀は素人が一目見ただけでも
業物だと分かる程の一振りである。
錫音が持つ花時雨や白時雨には及ばずとも
並の職人では打てそうには無い程の輝きがある。
「ご主人様! お帰りなさいませ!」
さっきまでの険しい雰囲気から一変。
無邪気な満面の笑みを浮かべて錫音に声を掛けた。
抜き身の刀を鞘に戻し、すぐに錫音へ近付いた。
「それで錫音様、どうだったんですか?」
「うん、栗牧は誰も殺してないんだって」
「そうなんですか! いやぁ、良かったです!
もし戦うってなると、私も恐かったですし!」
「アキエが怯えるのは相当ね……」
アキエの強さを知るクロエも少し怯えを見せた。
それだけ、アキエの強さは突出しているのである。
1番下の階級、甘羅でありながらも
その強さは崎神族全員が認める程である。
それはつまり、並の妖怪では辿り着けない領域。
特別な能力を持たずとも、
この領域に立てるのは極一部だろう。
「まぁ、栗牧も妖狐族ですし?
それよりも気になることがあるのですが
あなたの刀は相当の業物に見えるのですが
一体、何処で手に入れたのですか?」
「これは、錫音様から貰ったんだよ」
「え!? 錫音お姉様って刀も打てるんですか!?」
「うん、昔、由紀恵ちゃんに教わったことがあるんだ。
霊具神姫の技術だから、結構凄いと思うんだけど」
「由紀恵というのは聞いたことありますね」
「人間達の宝という扱いだからね。
人間国宝だよ、本当に立派になって感心したよ」
昔を少し思い出しながら、錫音は小さく微笑んだ。
過去、救う事が出来た小さな命。
その子が成長し、自らに贈ってくれた刀、花時雨。
錫音はその花時雨を少し撫でながら、小さく答える。
「でも、教わったは良いんだけど。
やっぱり由紀恵ちゃんや祐太朗君程の
刀は打てなかったんだよね。
やっぱり想いがこもった刀には勝てないよ」
色々と教わった物の、結局は越えることは出来なかった。
でも、改めて刀を打ってくれた子供達の想いが
何処まで凄かったかを錫音は理解できたため
その時間は決して無駄では無かったと錫音は思った。
「で、その教わったときに打った刀がアキエの持つ刀。
名前は秋時雨って言うんだ」
「ご主人様から秋時雨を貰ったとき、私凄く喜んでね!
本当に嬉しかったんだよ!」
「ほぅほぅ、そうなんですね」
「そして、この私が面白い案を閃いたって訳よ!
錫音様の東西南北にある屋敷に滞在してるあやかし。
その中で1番強いあやかしに刀を贈るって言う名案!」
「うん、本当は全員に配ろうとしたんだけど
クロエの案が面白そうだったから従ったんだよね」
「ほぅほぅ、確かにそれはやる気も出ますねぇ。
あ、栗牧にも貰えたりは」
「あなたは刀無くても強いから良いでしょ?」
「実際、刀を渡されても
栗牧はあまり使いこなせる気はしませんしねぇ」
妖術を主体にして戦う栗牧の戦闘スタイルに
刀というのはあまり効果的ではない。
そもそも、ただでさえ強い栗牧に
強力な武器が揃うと非常に危険でもあり
少なからず、あやかしの国でお世話になる以上
彼女の手に錫音の一振りが握られることは無いといえる。
「錫音様~!」
「ん?」
4人が会話をしていると、少し気の抜けた叫び声が
屋敷の広間から聞えてくる。
その声がシロナの声だと理解した3人は
少し急ぎ気味に広間へと移動。
そして、少しボロボロの翼が生えた少女が見える。
「うえ!? 鷹枝!? どうしたの!?」
茶色く長い髪の毛に、茶色の翼。
身長は錫音よりも高く、瞳の色は黒い。
髪飾りには錫音と同じく、鈴を付けている少女。
彼女の名は鷹枝、鷹から変化したあやかしである。
錫音の屋敷にはそれぞれ翼を持つあやかしが
1人は滞在しているのだが、
彼女はその翼を持つあやかしの中で最も強いあやかしだ。
そんな彼女がボロボロで帰還というのは非常事態と言える。
急いでクロエ達に声を掛けた。
彼女達もこのような事態には慣れているのか
シロナがもうすでに治療道具を持ってきている。
お礼を伝え、即座に錫音は鷹枝の治療を開始した。
非常に素早く的確な手当を施しているのを見れば
彼女がこう言う事に手慣れている事がよく分かる。
「申し訳ありませぬ、錫音殿……不甲斐ない姿を」
「謝罪は良いから、何があったの?」
「東にて、誘拐が発生したこともあり
偵察に赴いていたのですが
不意の襲撃を受けてしまって……」
「東? どの辺りかな?」
「滝野山付近です」
「滝野山……天狗かな」
滝野山は東側にあるとある地方、天風地方にある
この国で最も巨大な山である。
悪鬼にも色々な組織が存在している訳だが
大体の場合は同族の悪鬼が集って居る。
「はい、上空を飛んでる所を襲撃されました」
「天狗はあまり危険な悪鬼じゃない筈だけど」
「おや、そうなのですか?
栗牧は悪鬼に詳しくないので
名前は聞いたことありますけど」
「天狗は人間にかなり興味を持ってるんだ。
だから、人間を殺す程に霊力を奪うわけじゃない。
それもあって、私も彼らとはあまり戦ってないんだ」
大体の悪鬼は人間を食料としてしか見ていない。
霊力を奪い、自らを強くするための食料。
殆どの悪鬼が持つ人間の認識はその程度である。
だが、天狗は非常に珍しく。人間を食料以外として
しっかりと見て、無下に殺す事は無い。
「珍しいですねぇ、人間をあまり殺さない悪鬼など。
まぁ、栗牧達も殺してませんけどね」
「私があやかしとして生きてなかったら沢山殺すでしょ?」
「えぇまぁ、それは間違いなく。
特に緋那お姉様と大軒お姉様は」
殺戮の2つ名を持つ三女、緋那。
暴食の2つ名を持つ四女、大軒。
9人居る姉妹の中で、最も危険な2人である。
「な!」
栗牧が言った通り、妖狐族は人間を殺そうとはしない。
だが、それは当然、錫音との決別を避ける為である。
錫音があやかしで無ければ一切の躊躇いも無く
人間を殺戮し、支配し、喰らい尽くすだろう。
「あ、睨まないでくださいよ皆さん?
今は殺してませんからね?
だから、その刀に手を添えるのは止めてくださいな」
「……どうして、あなた達みたいな悪鬼が
錫音様の姉妹なの?」
「ハッキリ言いますが、錫音お姉様が異常なのですよ?
栗牧達は極めて健全なのです。
動物から変化した妖怪である
あなた達には理解できないかも知れませんが」
「喧嘩は後だよ。今はそれよりも天狗達だ。
ねぇ、鷹枝。どれだけ誘拐されたのか分かるかな?」
「ひ、1人だけです」
「うーん……天狗が人間を誘拐することはたまにある。
だけど、偵察に赴いた子が攻撃されたのは
今回が初めて……何かあったの? とにかく探さないと」
天狗は身を潜めることが非常に得意な種族でもあった。
人間を誘拐することは数十年に1度くらいの頻度で起る。
その度に、錫音達は天狗達の捜索に赴いていたが
その全てで天狗達を発見する事は出来なかった。
たまに人間達と交流している天狗を見ることはあるが
その天狗達に敵意や悪意を感じることは無く
錫音達は常に、そういった天狗達に声は掛けてなかった。
それもあり、錫音達が持って居る天狗達の情報は
滝野山付近に天狗の組織があるであろうと言う事だけだった。
「とにかく私も向わないとね。栗牧も来るでしょ?」
「それは勿論ですよ錫音お姉様。
そもそも栗牧は錫音お姉様から離れられませんよ?」
「まぁそうだね。それじゃ行こうか。
鷹枝、動けるかな?」
「はい、手当もして貰いましたし」
「うん。それじゃ、行ってくるね3人とも。
お留守番お願い」
「は、はい、錫音様」
3人に留守番を頼み、錫音は鏡の前へ移動し
東の屋敷へと向った。




