あやかしの国
本邸に帰り、襖を開けると
そこには3人の妖怪と
わんさか居る犬猫が2人を出迎えた。
「お帰りなさいご主人様!」
「ただいま、アキエ」
錫音を最初に出迎えたのは犬の妖怪、アキエ。
彼女の服装も当然、錫音が縫った服である。
あずき色の和服を貰っている。
侍が身に纏う服装を元にしている。
少しだけ錫音の服に近しい格好と言える。
髪の毛の色は茶色であり、耳の色も茶色。
元気よく振われてる尻尾も当然茶色だが
先端は白色になっている。
「……」
主の帰還を喜び錫音に挨拶をしたが
すぐに栗牧の方を向き、腰に付けてる刀に手を添えた。
「え? あれ? 栗牧警戒されてます?」
「ご主人様、こいつ滅茶苦茶強い悪鬼ですよね。
この妖力、並の悪鬼とは比べものにならない」
「アキエのあの雰囲気……あれ、本気だ」
唐突な雰囲気の変化に驚き言葉を零したのは
猫のあやかしであるクロエだった。
真っ黒い髪の毛に、真っ黒い猫耳を持つ。
服装はアキエや錫音と近しいが
色が黒色になっている。
そして、腋が見えているのである。
ここが1番違う部分だと言えるだろう。
錫音に憧れてか、鈴が付いた髪留めをしている。
髪の毛が短い、かつ猫の耳である為
人間ならば左耳がある位置に髪留めがある。
「まぁ、ご主人様も居るし大丈夫だよ-」
炬燵でぬくぬくしながら小さく呟いた猫の少女
彼女の名はシロナ、クロエと同じく猫のあやかし。
服装はクロエとシロナはほぼ一致している。
唯一の違いは服装の色である。彼女は白色だ。
髪留めの位置も少し違い、彼女は右耳にある。
「流石はアキエ、戦いに関しては凄いもんね。
そう、この子はかなり強い悪鬼だね。
私の妹、2つ下のね」
「妹さんですか」
「えぇえぇ、栗牧は1番下の妹ですよ。
誘いの妖狐です」
「その誘いって言うのは?」
「栗牧の2つ名って考えてくださいな。
因みに錫音お姉様は守護ですよ」
「それは?」
「九つの珠尾で決めた2つ名です」
「私、参加してないんだけど?」
「参加してくれたら守護になるのですよ」
「何度も言うけど、参加しないからね?」
「そう言わず~」
少しからかうように栗牧は錫音にすり寄る。
錫音も少し困惑しながらも、特に引き離したりはしない。
妹がわがままを言ってる程度の感覚だろう。
「私もご主人様にすり寄る! すりすり~!」
「おっと、アキエも甘えん坊だね」
「えー、栗牧の相手をしてくださいよ錫音お姉様。
久し振りに会った妹ですよ~?」
「全く甘えん坊なんだから」
少しだけ頬を赤くしながら2人を優しく撫でる。
アキエも栗牧もまるでペットの様に錫音に甘えていた。
「うぅ、羨ましい……」
「なら、クロエちゃんも行けば良いじゃんかぁ」
「恥ずかしいのよ! てか、あんたは良いわけ?」
「あの後になでなでしてくれるの分かってるしー
今は炬燵でぬくぬくしてるのが良いかなーって」
そんな、いつも通りに近いやり取り。
そのやり取りに妹を含めてより幸せを感じてる錫音だが
このあやかしの国に戻って来た理由を思い出す。
「そうだ、こんな事してる場合じゃ無かった」
「お? 何かあるんですか?」
「そう、あなたを宝龍に合わせる」
「宝龍とは?」
「あやかしの国で1番偉いあやかしだよ。
階級もあるけど、宝龍は1番上の太希だね」
「おや、錫音お姉様が1番では無いんですか?」
「私が国の管理なんて出来る訳無いでしょ?
黒根姉様なら出来るだろうけど
私はそんなこと出来ないしね」
黒根とは妖狐属の次女である。
支配の妖狐であり、その統括能力は圧倒的である。
組織を管理するのであれば、彼女ほど最適な妖狐は居ない。
「家の整理も出来ないからね、錫音様」
「それは言わないでよクロエ-!」
実は錫音、何でもかんでも出来そうな雰囲気はあるが
掃除だけはどうしても苦手なのである。
勿論、出来るには出来るのだが
彼女は贈られた物を捨てる事がどうしても出来ず
クロエ、シロナ、アキエが人型に変化する前は
ひたすらに家が散らかっており
宝龍や他の仲間達に苦言を呈されていた過去がある。
勿論、捨てる選択が出来ないと言うだけであり
炊事洗濯は完璧であるし、掃除も出来るのだが
どうしても贈られた物を捨てる事が出来ず
昔は屋敷中がペットで溢れかえっていた。
「え? 錫音お姉様、片付け出来ないんですか?」
「で、出来るんだけどね? 捨てられないだけで」
「私達が管理して何とかなってた感じでね。
特にこの私がやってたわ! えっへん!」
「クロちゃんは真面目だからねぇ」
「あんたも手伝って欲しいんだけど?
同じ猫のあやかしで姉妹なのに
何で猫の管理全部私がやってるのよ。
後、私の事はクロちゃんじゃ無く
お姉ちゃんと呼びなさい!」
「良いじゃんクロちゃんで、そっちの方が呼びやすいの
それにね、適材適所だったかな?
あたしよりもクロちゃんの方がそう言うの上手いし?」
「くぅ、私よりも能力高いくせに……」
非常に小さな声でクロエが呟いた。
彼女が抱いてるコンプレックスでもあった。
妹の様に接してるシロナとアキエと自分では
能力がかなり違っている。
戦闘能力ではアキエには敵わないし
家事能力ではシロナには敵わない。
それ故に大きなコンプレックスを彼女は抱いている。
だが、決してそれを表には出さない。
彼女にも彼女なりのプライドがあるからだ。
「ふむふむ、姉妹なんですねぇ、あの2人」
「うん、同じお母さんから生まれた猫ちゃんでね。
あの2人が生まれてから、
猫ちゃんとワンちゃんが一定より増えなくなったの。
どうもクロエが管理してくれてたらしくてね。
私にはそう言う能力無いから、本当に感謝してるよ」
「錫音お姉様なら出来るのでは?」
「いやその、私は性格的に猫ちゃんとワンちゃんを
無理矢理束縛って出来ないから……あ、あはは」
錫音は高い能力を持っては居るのだが
あまりにも優しすぎる性格故にどうしても管理が下手だ。
人望は当然あるのだが、どうしても甘やかしてしまうため
そう言うペットの管理をしてるのは、実質クロエである。
東西南北に点在するペットのあやかしも居るが
彼女達を実質指揮し、ルールを設けたのはクロエであり
彼女はまさに錫音派閥のあやかしにおけるリーダーである。
「まぁ、錫音お姉様は優しすぎますからねぇ
栗牧には容赦なく刀向けて来ましたけど」
「流石に子供を殺したとなったら
例え妹でも倒さないと駄目だから」
「え!? そんな事をしてたんですか!?
やはり悪い悪鬼! 倒さなきゃ!」
「いやいやいや! 殺してませんからね!?
栗牧達は決して殺してませんとも!」
「まぁ、それを確認するためにも宝龍に会うんだけど」
「え? あ、そう言う理由なんです?
勿論構いませんよ? 嘘は言ってませんしね」
「なる程、では嘘だったら倒せば良いんですね!」
「そうだね」
宝龍に会おうとしている理由はこれであった。
栗牧が嘘を吐いていないかどうかを確認するために。
そんな会話の後、2人は宝龍の元へ向かう。
「おっと、屋敷の外は都っぽいですね」
「うん、人間達の都を元にしてるからね」
あやかしの国は日の国における都が元である。
全ての建物は木造であり、のれんが飾ってある。
団子屋等もあるし、ちょっとした鍛冶屋もある。
食事処も多く、ここだけで十分生活が可能だ。
「でも、隔絶された空間なのに
何故こんなに賑わってるのですか?」
「宝龍達、崎神族のお陰だよ。
特に環境を操れる龍風のお陰」
崎神族はこのあやかしの国を指揮してるあやかしである。
過去に存在した最強の陰陽師、安野柄清流
その陰陽師が操った12の式神の生き残りである。
非常に強力な力を持ち、その力を持って
このあやかしの国を作り出している。
「龍風、知らない名が沢山出てきますねぇ」
「崎神族はあまり派手には動け無いからね。
あやかしの国を管理してるんだし当然だけど。
因みに私達をこのあやかしの国へ連れてきた
あの鏡も崎神族の1人、小橘の力だよ」
「ほぅ、崎神族は非常に重要な立ち位置なんですねぇ」
「間違いないね」
しばらくの探索の後、このあやかしの国における
城といえる場所へ到着した。
ここがあやかしの国における一番重要な拠点。
見た目は完全に戦国時代等で使われた城だ。
大きな堀と城壁。出入りが出来る場所は
四方にある吊り橋だけである。
うち、3方向は即座に破壊が可能な作りである。
「人間の作る城のような場所ですね」
「うん、人間の建物を参考にしてるからね。
でも、あの城壁は人間が作った城壁とは
全然頑強さが違うけどね」
「というと?」
「あの城壁には強力な結界が張られてるんだ。
だから、外部から破壊することは出来ない。
玄王の結界術は完成度が違うから。
私じゃ、玄王の結界術にはとても敵わない」
「また新しい名前ですね。
ここまで宝龍、龍風、小橘、玄王と来ましたが
あと何人居るんですか?」
「あと1人だよ、名前は鈴亭。
鈴亭は索敵能力が凄いから、あやかしの国から
外の危険な悪鬼を把握する事が出来るんだ」
「お? つまり案外、栗牧の事、バレてます?」
「あぁ、無論だ」
その言葉と同時に周囲の景色が変貌する。
さっきまで城の外に居た2人ではあるが
今は建物の中に移動して居た。
目の前には大きな席に座っている少女の姿。
その少女の周りには4人の人物が立っていた。
男性は2人、女性は2人。計5人のあやかし。
彼女彼らが、このあやかしの国における大幹部。
あやかしにおける最強の種族、崎神族である。




