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現地調達(3)


「到着しましたよ」


 馬車を降りて辺りを見渡す。

 ……ここは崖か?


「奴らは、いないようだが……」

「いるじゃない」


 ほらあそこ、と指差す方向に目をやる。


「…………まさか、アレのことか?」


 たしかに何かが見えた。

 だが、それらは遠すぎて現在地からは豆粒サイズの『何か』が複数いる──という認識しかできなかった。


「では、ここからは別行動で。後は頼みましたよ」

「主らも回収は任せたぞ」


 ここからは俺とザイン、ルティナの二組に別れることに。


「さぁ行きましょうか」

「……彼女一人で大丈夫なのか?」

「問題ありません。彼女の実力は、我々が一番理解しています」


 また、だ……。

 五人それぞれが抱く信頼関係。

 お互いのことを全て知っていると言っても過言ではない、異常なほどの信頼は何年、何十年と共に暮らしたところで簡単に得られるものではない。


 まるで、新人時代から共に戦場を駆けてきた老戦士のようだ。

 実際に彼らは言葉での意思疎通なく連携し、数多くの戦場で素晴らしい戦いぶりを見せた。俺が憧れる騎士だ。


 酒場の五人からは、時折それと同じ雰囲気を感じるのだ。


「なぁ、お前達は」


 ──ドンッ。

 後方から一発の重い銃声が鳴り響いた。


 続いて17発。

 同じ銃声が一定間隔で響き、その度に木々が揺らぐ。


「……今のは?」

「どうやら、終わったようですね」


 なにが?

 と問いかけるより先にザインが走り出す。


 とても速い。

 森の中ではすぐに見失ってしまいそうだ。


「ま、待ってくれ……!」


 必死に追いかけ続けること数分、ようやく開けた場所に辿り着いた。


 同時に、俺はその場に立ち尽す。

 そこに広がった惨状を前にして、脳の容量が限界を超えたのだ。


「さっさと回収しましょう」


 ザインの反応は、随分あっさりしたものだった。

 等しく頭部を撃ち抜かれた18頭の暴れチキン。その全てを手際よく解体していく。


「なんだ、これは……」

「ルティナですよ。先程の銃声が聞こえたでしょう?」


 銃声は18発。

 死んでいる暴れチキンも18頭。


 数は合っている。


 まさか、銃で撃ち抜いたのか?

 あの臆病で有名な魔物の頭を、正確に、あの遠距離から、全て?


「…………あり得ない」

「彼女にとっては朝飯前ですよ、この程度」


 騎士団の中にも銃を扱う者がいる。

 遠距離での射撃を得意とする特殊部隊ですら、このような芸当ができる騎士は誰一人として存在しない。


「いったい何者なのだ、彼女は……」

「酒場の料理長ですよ」

「…………冗談だろう?」


 もはや、乾いた笑いしか出てこなかった。



          ◆◇◆



 その後、ルティナと合流した。

 偉業と言うべき技を披露したばかりとは思えない心底疲れ切った顔で現れた彼女の背には、別行動した時にはなかった超遠距離用射撃銃があった。


「あー、もうやだ。歩きたくなーい」


 どっかりと切り株に座り込むルティナ。

 相当疲れているのだろう。その言葉通り、これ以上動く気はないらしい。


「終わりましたよ」


 しばらくして解体作業が完了した。

 袋詰めは俺も手伝ったためすぐに終わり、あとは帰るだけになった。


「帰りましょうか」

「ああ、それじゃあ馬車まで歩くか」

「その必要はありませんよ。転移しますから」

「そうか。転移が──って、は?」


 パンッと両手を叩く音が聞こえた。

 その瞬間視界が切り替わり、俺達は最初に到着した崖に立っていた。


「次は馬車ごと行きますよ」


 再び、両手を叩く音が。

 同じように視界が切り替わり、見慣れた大門が──。


「……………………は?」


 転移した?

 しかも二回?


 いやいや、冗談ではないぞ。


 転移とは本来、魔法陣を用いる魔法だ。

 しかも発動には膨大な魔力が必要で、十人ほどの魔法使いが魔力を込めてようやく充填が完了するのだ。


 決して、両手を軽く叩いただけで発動できるような代物ではない。


 しかも二回だ。

 個人の魔力だけで発動するのもおかしいが、それを二回やってみせた。


「ああ、これは夢か……」


 今日は、ありえないことばかり起きている。

 きっとこれは夢なのだと、そう思ったほうが納得できる。


「馬車を返してきます。お二人は先に帰っていてください」

「うむ、了解した」

「…………ああ」


 その後はどうやって帰ったのか。

 狩り以降の記憶がすっぽり抜けていて、我に返った時には、すでに一日が終わっていた。


「面白い」「続きが気になる」

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