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現地調達(2)


 なんやかんやあり、我々は狩りへ出発した。

 目標の鳥が生息している地域はここから少し遠いらしく、店の準備を考えて夕方までには帰ってこなければならないため、今回は馬車を貸してもらうことにした。


「……それで、そろそろ目標の鳥について教えてくれるか?」

「ああ、説明を忘れていました。失礼しました」


 鳥の名前も、その生息地も聞かされていない。

 それでもザインは問題なさそうにしているが、流石に手伝うと言った手前、目標の見た目や名前くらいは知っておきたかった。


「狩りの対象は暴れチキンです」

「そうか。暴れチキ……ん?」


 それを聞いて、一瞬脳内に「?」が浮かんだ。

 知らないわけではない。むしろ嫌な方向で有名な魔物だから、正気を疑ったのだ。


 ──暴れチキン。

 それは正式名称ではない。

 だが、誰かがそう呼び始めたことから、その二つ名のほうが有名になり皆はそっちの名前で呼んでいる。


 名前の通りその魔物は鳥型で、これ以上ないほどに暴れるのだ。

 その凶暴性はとても問題視されており、頻繁に農民達の田畑を荒らすことで討伐依頼が出ることも多い。

 そういった依頼は騎士団のほうにも数多く寄せらる。かくいう俺も部下を引き連れ、何度か討伐に向かったことがある。


 図体はデカくて、なりふり構わず暴れるものだから油断すれば大怪我を負う。強靭なクチバシや爪は容易に岩を砕き、戦闘経験のない農民には手も足も出ない厄介な相手だ。


 だが、暴れチキンの最も厄介な点は──死ぬほど臆病な性格──だ。


 奴らは自分達よりも強い相手を前にした時、それはもう信じられない速度で逃げる。

 どれか一羽が倒されただけでも即座に逃げの体勢に入るため、全方位を囲って逃げ場を無くしてから一斉に叩くのが正しい討伐の仕方だ。

 もし、うまく統制が取れずに一度逃走を許せば最後、人間の足では追いつくことができず、結局逃してしまい討伐が失敗に終わってしまうことが何度もあった。

 しかも腹立つことに奴らは逃げる際、こちらを挑発するように大声で鳴きながら全力で走る。まるで「追いつけるものなら追いついてみろよバーカ!」と言われているような気がして、過去に何度、悔しさのあまり地団駄を踏んだことか……。


 そして討伐を諦めた我々が撤収した数日後にノコノコと戻ってきた暴れチキン達は、再び田畑を荒らし始める。

 依頼を受けて我々が討伐に向かうと即座に逃げ出す。


 ……そんな追いかけっこを何度やったことか。


 あの魔物は鳥型だからチキンと言われているのではない。

 暴れん坊なくせに逃げ足だけは早い臆病者だから『チキン』なのだと、そういった侮蔑の意味で使われているのだ。


 ……ああ、思い出しただけで苛々してきた。

 あの魔物のことを暴れチキンと名付けた者には、これ以上ない拍手を送りたい。


「って、あれを鳥肉として扱っていたのか!?」


 回想から戻り、重大なことに気づいてしまった。

 先程の説明で暴れチキンがどれほど厄介で面倒な相手なのか、十分に理解したことだろう。


 なのに、うちの酒場ではその肉を扱っていると言うのだ。

 仕入れが困難になる鳥肉なんてあるのか? と不思議だったが、暴れチキンの名前を聞けば痛いほどに納得してしまう。あれを定期的に相手するのも嫌だろう。今まで奴らの肉を卸していた業者がいたことに驚きを隠せない。


「ルティナ曰く、あの肉が最も、うちで使っている調味料に合うらしいですよ」


 と、ザインは言う。

 たしかに暴れチキンの肉は美味しいと聞く……が、あれと狩りに行くくらいならもっと他の肉を選ぶ。

 それほど奴を討伐するには実力も必要だし、取り逃した時のストレスが尋常ではない。


「まぁ大丈夫でしょ。私がいるし」

「いや、そんな適当に──」

「大丈夫でしょう。ルティナがいれば」

「えぇ?」


 自信はどこから来るのか。

 そして、ルティナに対する過剰な評価はなんなのか。


 俺は、彼女が戦っている姿を知らない。

 しかし、ルティナ自身が言うならともかく、あのザインが大丈夫だと言うのだ。


 だから一旦、俺も彼らの言葉を信じてみよう。


「面白い」「続きが気になる」

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