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現地調達(1)


 ──早朝。

 今日は用事があるため早起きしなければならなかった。


 動きやすい服に着替え、愛用の長剣を腰に下げる。

 最後に身だしなみを整えてから、部屋を出た。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 やはりというか何というか……案の定、待ち合わせ場所にはザインがいた。


 今日の予定は彼に誘われてのことだ。

 彼を待たせないよう予定の時間より早めに支度したのだが……一体いつから先に起きていたんだ?


「待たせたか?」

「いいえ、僕も来たばかりですよ」

「そうか……では行くか」

「あ、お待ちください。実はもう一人いるんです」

「もう一人?」


 今日は鳥肉の調達をしに行く予定だ。


 どうやら、いつも使っている鳥肉が市場に流れなくなったらしい。

 精肉店の店主に詳しく聞いたところ、最近になってその鳥肉を卸してくれる業者がいなくなったとかで、しばらくの間は提供ができないとか。


 それを聞いて悲痛な叫び声を上げたのは、うちの料理長だ。

 他の肉では味も質も変わってしまうと文句が出たため、直接その鳥の生息地に足を運び、調達しなければならなくなった……というわけだ。


「むしろ、今回の狩りには彼女の存在が必要不可欠なんです」

「……一体誰だ?」


 ザインの実力は相当なものだろうと、俺は踏んでいる。

 それは彼がふとした時に見せる所作や、接客している時の身のこなし方から予想できることだ。

 ……俺の中では恥ずかしい出来事なのだが、初めて酒場に訪れた時に背後を取られたことがあった。

 魔物に対する知識はもちろんのこと、今回のように現地へ赴いて材料を仕入れる時もある……と言っていたことから、魔物との戦闘経験も豊富なのだろう。


 それらの要素を含めて、俺はザインが相当な実力者であると評価したわけだ。


 そんな彼に、今回の狩りでは必要不可欠だと言わせる人物が……?


「そう! 我こそが此度の主役である!」


 ドンッ! と迫力のある効果音が鳴り響いた──ような気がした。

 それと共に現れたのは、我らが料理長ルティナだ。


「彼女も同行するのか?」

「僕達だけでは苦労しそうだったので……ああ、実力不足と言っているわけではありませんよ。ただ今回は相手が悪いと思ったので、彼女に助力を頼みました」


 先程も言った通り、ザインは相当な実力者だ。

 そして自慢するわけではないが、俺も騎士の中では指折りの実力者だと自負している。


 そんな二人でも苦労する鳥がいるのか?


「ふふんっ、全て我に任せるがいい。汝らの悩み、この我にとっては造作もなぎゃぁ!?」


 盛大に足を滑らせたルティナは、それはもう目も当てられないほど滑稽な姿で階段から転がり落ちた。

 なんとなくカッコいい発言をしながらだったせいで、余計かわいそうに見えてしまう。


「「…………」」


 さすがのザインも気まずい雰囲気を感じ取ったのだろう。

 いつもは賑やかな酒場の一階が、これ以上ないほどの静寂に包まれていた。


「……ちょっとは心配しなさいよ」

「すまん。何と声をかけたらいいのか、わからなくて」

「その気遣いが一番困るわっ!」


 怒られてしまった。

 本当に申し訳ないとは思うが、どうすれば正解だったのだろう。


「──こほんっ」


 ルティナは咳払いを一つ。

 気を取り直したように、再び変なポーズを決めた。


「我に任せておけ。此度の獲物、我が力で全て屠ってやろう」

「絶滅したら困るので、程々にお願いしますね」

「無論だ。我ほどの実力者ともなれば、情けをかけてやることも容易だ」

「とりあえず今日はこの袋に入りきる程度の量を。それ以上は冷凍室に入らないので」

「……えっと、具体的にはどれくらい狩ればいいの?」

「さぁ? とりあえず片っ端からやればいいのでは?」

「それ、結局全滅じゃない?」

「細かいことは後でマギサに怒られましょう」

「怒られる前提なの!? そんなの嫌なんだけど!」

「泥舟に乗ったあなたが悪いですね」

「誘ったのはお前だろぉぉぉ!?!!!?!?!」


 ……ああ、そうだ。

 今日はツッコミ役がいないんだな。


 重大なことに気づき、先行きが不安になった俺は我関せずと遠くを見つめ、永遠に続く二人の会話を聞き流すのだった。


「面白い」「続きが気になる」

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