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【FILE.8】夏の終わりのジレンマ

 怒涛の展開を迎えた夏季休暇が終わりを告げ、俺―――末田力(まつだ りき)は約2カ月振りに大学の構内に足を運んだ。夏季休暇は人を変えるもの、休暇前と比べて赤抜けた生徒がちらほら見える。

(こういうキラキラした感じ、苦手だ…)

 俺は夏休みの浮かれた雰囲気と、それに引き換えた自分の地味な格好を見て少し気分が落ち込む。そんなことを考えていると、同じ経済学部の友人に声を掛けられた。

「うぃー、まっちゃん!よっすよっす」

「あ…おはよう、久し振り…」

「なんだよ、テンション低いなぁ~」

「いやぁ、ちょっと寝不足でさ」

「あっそう。てかさ…お前、夏休み中ずっと連絡来なかったじゃん!夏祭り誘っても返事無いし、ゲームの方も全く浮上してなかったし」

「それはごめん…ちょっと色々あって忙しくってさ……バイトとか就活とか」

「就活ぅ!?…は少し早すぎるんじゃねえか?」

 夏季休暇中は並行世界特務調査課(P.S.I.D.)のバイト(というかインターンシップというか)で全て予定が埋まっており、仕事続きで疲れ果てた俺の身体は、友人からのメッセージに返信する気力さえ残っていなかった。正直"バイト"までで収めておけば良かったものの、"就活"なんて言ってしまったのは調子の乗りすぎだっただろうかと後悔している。

「まあいっか。それよりさ、今度合コンやるんだけど、どう?お前も来る?ちょうど男の人数足りなくて…」

「あー、どうしようかな。バイトと摺り合わせを…」

 その時、俺はふと思った。これまでは夏季休暇だったから調査課の仕事に専念できた。だがしかし、これからは学業との両立が求められる。俺は"両立"というのが苦手だ。高校時代陸上部に所属していたが、学業が疎かになった事を理由に強制退部させられた情けない経歴を持つ俺からしたら、何とか維持できている現状の成績をこれ以上落とすわけにはいかないのだ。だが、やっと今になってやり甲斐を得始めたこの仕事を辞めるのは、薦めてくれた幼馴染の七五三掛紗和(しめかけ さわ)に申し訳ない。

(これは、どうするべきか…?)

 そう悩んでいた時、俺の携帯に着信が入る。メッセージアプリが新規メッセージを受信していた。相手は紗和だった。


『講義終わり次第管理局前集合!黒瀬(くろせ)課長からの呼び出しよ。遅刻厳禁だからね!!』


 画面に映った一文が俺の決意を固めた。俺がやっているのは単なる仕事なんかじゃない。世界を守る為の重要な仕事だ。当たり前のことだが、平和な世界無くして娯楽も勉学も成り立たない(勉強をサボりたいという言い訳ではない、断じて)。俺は適当に『了解』と返信し、友人に視線を向けると言った。

「悪い、その約束は無しだ。他の奴を当たれ、俺は忙しい」

「何だよ急に!つれないこと言うなって!」

「さっきも言っただろ?俺はもう就活に手を出してるの。お前らと違って暇じゃねえんだわ」

 そう言って俺はそそくさと次の講義の教室へ向かった。


 彼らが何も知らずに合コンだの遊びだのに興じている裏で、俺達はこの世界を守る為に日々戦っているのだ。

(世界を守るヒーローってのは、楽な仕事じゃないんだぞ愚か者!)

 俺はそう心で友人に向けて叫ぶと一つ伸びをした。

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