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Ride on Multiverse ~時空管理局並行世界特務調査課~  作者: 夕景未來
第1部『パートタイマー・タイムパトロール』
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【FILE.7】鷹の子に生まれた宿命

 感覚を研ぎ澄まし、素早くかつ無駄のない動きで武器を振るい、目の前の時空犯罪者を圧倒する。相手は抵抗虚しく僕の操るヨーヨーの紐に縛られその場で倒れた。

「凄いです、野薔薇(のばら)先輩!一瞬じゃないですか!」

 僕―――亜久津(あくつ)野薔薇の事を目を輝かせながら褒め称えるのは後輩調査員の湯川(ゆかわ)すずめだ。僕は彼女の方を向くと得意げに笑う。

「当然だろう?僕は天才、神の作り給うた最高傑作だからな!」

「流石野薔薇先輩!」

「ふふん」

 彼女は尊敬の目でこちらを見るが、彼女の純粋さには正直困ったものである。もう少し聞く言葉を疑う事を覚えてほしい。と思うのも、僕は正真正銘の"天才"ではないからだ。


 生まれた時から才能に恵まれた人間なんて存在しない。"天才"は努力の下にしか成しえない。"鳶が鷹を生む"という(ことわざ)がある。平凡な親を鳶に、才能に恵まれた子を鷹に例えた諺だ。凡人が鳶で天才が鷹ならば、僕の両親は"鷹"だ。

 僕の両親はかつて存在した政府直下の特殊部隊の隊員だった。両親から聞いた特殊部隊時代の武勇伝はどんな物語よりも素晴らしかった。両親の話を聞くたびに自分もそんな風になりたいと思ったものだ。そんな僕が今時空管理局並行世界特務調査課に所属し、世界を守る立場になったのは当然の宿命と言っていいだろう。

 ただ、現実というのは非情だ。調査課の中には僕以上に優秀な調査員が多数存在した。僕は調査課の中では中位の成績であり、決して優秀とは言えないレベルである。


―――もっと上に、両親の様に強くなりたい。


 任務に訓練、自分が出来る限りの努力はした。"鷹から生まれた鳶"にはなりたくない、そんなプライドがあった。父は特殊部隊の上位班に所属し、多くの死線を潜り抜けた。母は全ての痛み、苦痛を受け付けない抗体体質を持つ"無痛の鋼人"の異名を持つ強化人間(パワードヒューマン)だった。僕では到底辿り着けない領域にいる二人に追いつきたかったのだ。

 僕はある時、禁忌(タブー)に手を出した。

 母の様に痛みを感じない体質になれれば、と思っての事だった。入手可能な限りの薬剤から微弱毒を様々な手段で搔き集め、その身に含んだ。最初は耐えられない程の苦痛を伴ったが、それを毎日繰り返す事で少しずつ耐えられる様になっていった。そんな事をしているのは勿論両親には内緒だった。しかしある日の事、第二段階と称して少し強めの薬を使用した時、それは起こった。全身を襲う激烈な苦しみに耐えきれず、呻き声を上げながらその場で倒れた。その声が自室から廊下に響いていたらしく、母にバレた。部屋中に散らばる薬剤の類と苦しむ自分の姿から自殺を疑われた。僕は必死に誤解を解き、事情を説明した。すると母は一発僕を強く殴った。その後僕を強くかつ優しく抱き締めると言った。

「野薔薇、よく聞きなさい。"痛み"を感じる事は、人間らしくある為に必要な事なの。痛みは感じた方が幸せだから。どんなに傷を負っても、病気になっても痛み苦しめない身体になって、私は幸せだって思ったことは無いわ。野薔薇が私達に憧れているのは分かってる。でも"私達と同じになりたい"なんて絶対に、嘘でも思わないで。貴方は貴方らしく、身の丈に合った強さを求めてほしい、分かった?」

 母の目は真剣そのもので、僕はただ黙って首を縦に振るしかなかった。


 それからというもの、僕は今の自分を受け入れて、自分にできる最大限の力で頑張ろうと決めた。ただ、優秀な両親の下に生まれた誇りを忘れたくはないと思い(単純な糞みたいなプライドだろうか)、表向きでは自信家の自称"天才"を演じている。高みを目指して思い詰めた様な暗い表情等、他の人には見せられない。

「……先輩?どうしましたか?」

 心配そうにこちらを見つめるすずめに気づき、ハッとする。

「あぁいや、何でもない。ともかく、確保したこいつを引き渡しに行くか」

「はい!」

 僕はすずめと共に、確保した時空犯罪者を連行するべく歩き出した。

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