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Ride on Multiverse ~時空管理局並行世界特務調査課~  作者: 夕景未來
第3部『バベルの再建者』
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【FILE.26-6】Voice to the God Field

 高く(そび)えるバベルの塔の内部、内壁に沿う石造りの螺旋階段(らせんかいだん)を駆け上りながらも尚、歌を紡ぐ事を止めないメイメイを、私―――春馬芽衣(はるま めい)は追っていた。不慣れなヒールの高い靴に手間取り、思ったように走れない。私とメイメイの距離は段々と離されていく。走りながらも歌う彼女は、何かに呼ばれて其処へ向かっているようにも、何かに追われて逃げているようにも見えた。

「……待ちなさい!!」

 私は思わず声を上げるが、彼女の耳に届いた様子はない。彼女は何かに操られているかのように一心不乱に階段を上り続ける。


 息が上がり、足が重くなってきた頃になって漸く最上階へと辿り着いた。

「漸く追いついたわ、メイメイ!あんたを神の領域なんかに行かせない!」

 そう言って私はハンディマイクを強く握り締める。私の姿に気付いた彼女は此方にちらと目をやると、悪い笑みを浮かべて言った。

「まさかあんたがここまで諦めが悪いとは思わなかったわ……褒めてあげる。私の夢が叶う瞬間を、新たな神の誕生を、特等席で見せてあげる!!」

 彼女の両目は赤く煌々と光を放つ。そして勢いよく片手を挙げて絶唱する。楽曲カバーの為に様々な言語を学んできた私でも分からない異界言語で、高い空に向けて歌を紡ぐ。それに呼応するように雲が晴れ、光の柱が彼女を照らす。彼女のマーメイドドレスが光を反射して煌めき、下界の(けが)れを消し去る様に色を失い白く染まる。その光景はまるで天使のように美しかった。


「時は満ちた!数千年の時を経て完成したバベルの塔をランドマークとし、世界は再び一つになる!私、メイメイという新たな神の名の下に!!」

 

 堂々たる宣言に、塔の下で集まるファンが歓声を上げる。

(このまま彼女の思うままにして良いの…?ただ見守るだけで本当に良いの?)

 無力な私を悔いるようにマイクを握り締める。その時、私はある事を思い出した。それは、このマイクをくれた友人の群生(むれおい)さくらの言っていた事だ。このマイクはさくらがくれた特殊武器展開システムによって召喚したもので、彼女曰く、使用者が思い描いた武器を展開する事が出来るものなのだという。


―――見た目も種類も、能力(スペック)も思いのまま。芽衣ちゃんが望んだ通りの武器が使えるんだよ!


 自分が望んだ通りの能力、そうだ。すっかり忘れていた。

 私はマイクを口元に構え、大きく息を吸った。 

 声を、歌を武器に世界と戦ってきた私が望んだのは、強い思いを込めて言い放った言葉の通りに事を動かす力。

 これまで抱えてきた想いを全て、この瞬間にぶつける。


「自分を信じて付いて来てる人の事しか見てないで、その裏で我慢してる人達の事を気に掛けないで何が神よ!誰かの犠牲の上に成り立つ団結なんか、平等なんか…そんなの認めない!歴史は繰り返す、所詮"バベルの塔"なんて人間の思い上がりが生んだ黒歴史なんだわ!こんな罰当たりな建物、粉々に壊れちゃえばいいんだ!!!」


 私の声が轟き、一瞬の静寂が訪れる。するとメイメイを照らしていた光の柱が消失し、空は暗雲に包まれる。そして彼女を貫く様に雷が大きな音を立てて落ちた。雷はメイメイを直撃し、彼女は苦しみの声を上げた後、その場で膝から崩れ落ちる。それと同時に、轟音と土煙を立てて塔が揺れる。少しずつ亀裂が入り、すぐにでも崩れ落ちそうである。

(そうよ、これは天罰…)

 感電しているせいか、この現状を受け入れたのか、その場から全く動こうとしない彼女の姿を見つめそう思うと、私は回れ右をしてその場を去ろうとした。しかし、このままだと岩瓦礫(がれき)に呑まれて潰されてしまうと分かっていながら、その先の一歩を踏み出せない私がいた。私はもう一度回れ右をしてメイメイの手を強引に掴むと、崩れ行く塔の螺旋階段を駆け下りてゆく。降り注ぐ瓦礫を避けながら、一心不乱に走り続ける。

「どうして、どうして私を助けるの!?あんた、私の敵じゃ…」

 困惑するメイメイに、私は言った。

「敵とかそんなの以前の問題!!だってあんたは…別の世界線の私なんでしょ?住んでる世界が違っただけ、置かれている境遇が違っただけ、選んだ道が違っただけで、私達は()()、"春馬芽衣"という存在だから!!簡単に見捨てられるわけ、ないじゃない……!」

 意思と反して、何故か両目から涙が零れていた。滲む視界を振り払って私達は最後の一周を駆け下りた。私達が塔の外に出たのと同時に、完全に塔は崩れ、ただの岩瓦礫となった。


 凄惨(せいさん)な光景となったライブ会場"だったもの"を見つめる。会場に来ていた観客たちは時空管理局によってそれぞれ連行されたり、元の世界線に帰されたりしていた。

「私、やっぱり間違ってたんだ…ずっと自分本位で、周りの事なんか見えてなかった……」

 彼女の頬を一筋の雫が伝う。私は彼女の肩に手を置いて言った。

「大丈夫、きっとやり直せる。違うやり方で、世界を一つにする方法を考えればいい。あんたなら出来る。だって…メイメイは"銀河を繋ぐ新時代の歌姫"、でしょ?」

「ありがとう、本当、に…」

 彼女はそう言いかけたその時、突然苦しそうに頭を押さえる。暫く(うめ)き苦しんだ後、人が変わった様に私の手を乱暴に振り払うと、何処かへ走り去ってしまった。

「あ……」

 振り払われた手をゆっくりと降ろし、私は悲し気な眼で彼女を見送る。その時、私の背後から聞き慣れた声がした。振り返るとそこにはさくらと、彼女の先輩である泊塔子(とまり とうこ)の姿があった。

「芽衣ちゃん!最後の凄かったよ~流石だね!!」

 さくらは目を輝かせて言う。

「さくら達のおかげだよ。私だけだったら多分上手く出来なかったと思う」

 私はさくら達に微笑みかける。

「生配信はアクシデント続きだったとはいえ、視聴者数は全宇宙累計で億超え。世界中を巻き込んだ銀河級バズを達成。SNSでは"メイメイ"関連のワードがトレンド入り。これ、バベルの方のメイメイじゃなくて、貴女の事を言ってるツイートが多いわ」

 携帯に目をやりながら塔子が微笑む。

「えっ!?噓でしょ……」

「つまり、当初の計画だった"配信の主役を奪う"ってのも成功しちゃったってわけ!やったね!!芽衣ちゃん、一躍有名人だよ~!!」

 そう言ってさくらが私に勢いよく抱き着く。私はその衝撃に耐えられず尻もちをつく。私達は再び青を取り戻した空の下、勝利の喜びを分かち合うように笑い合った。

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