【FILE.26-3】銀河最高の撮れ高を
時空管理局の調査課に付いて行った事で、旅の道中で別れてしまった後輩の福留ゆみと再会できた僕―――伊川文月。調査課上官の指示で本部待機を言い渡されていたが、僕はゆみに手を引かれるままに、調査課実働隊と共にG51世界線へと赴いた。
「ちょっとゆみちゃん!?待機って言われてなかった?」
「待機って言われて黙って待ってる取材班がいますか?」
(いや素直に待とうよ…)
G51世界線では今日、パラレルストリームで人気を博す配信者・May²が『神域凸』と称した大規模生配信をするという。彼女を主軸に大規模世界接続計画―――通称『バベルの再建』が行われた煽りで各地の並行世界接続ゲートが不具合を起こし、僕らもそれに巻き込まれた被害者なのだが、ゆみは今回の騒動に巻き込まれたのがある種刺激的冒険と捉えているのだろう、そんなに苦痛そうには見えない。そして今現在、僕らは件の配信会場であるバベルの塔前に来ている。メイメイのファンらしき人々が配信の開始を今か今かと待っている中、ゆみがバックパックから諸々の撮影機材を取り出していた。
「ゆみちゃん?何してるの?」
「何って、同時視聴配信でも回そうかと思いまして」
僕の質問に彼女は悪びれもせずに答えた。
「えぇっ!それ、大丈夫なの!?」
「メイメイの人気に便乗する形にはなってしまうので、私的にはあまりやりたくなかったんですけど…」
ゆみは配信や投稿する動画では誰かの人気に乗っかった便乗商法的な物は出してこなかった。その彼女がこんな事をするのは珍しい。それだけこの一件に本気になっているという事だろうか。彼女は続ける。
「私の中でこの配信の主役はメイメイの方じゃないんで」
「え?まさかそれって……」
僕が困惑しながら問う。ゆみは少し笑って答えた。
「あくまで今回の主役はこの『神域』ライブを妨害する時空警察の方です。先輩も言ってましたよね?時空警察の活躍を最前線で追いたいって。それなら今回以上に間近で彼らの活躍を見れるチャンスは無いと思いますよ?折角のチャンス…先輩も逃したくないですよね?」
彼女の言う通りだ。僕は専門学校の卒業制作用に時空警察の活躍を追ったドキュメンタリー動画を作ると決めた。例の一件に巻き込まれた中でもカメラは回していたのだが少々ドラマ性に欠ける(ありのままの姿を収めるドキュメンタリー動画にドラマ性を求めるのもどうかと思うが)。しかし今回の配信妨害作戦はかなり大規模かつ派手な画が撮れる可能性は十分にある。
(先輩の僕が、後輩に遅れを取るわけにはいかない……!)
僕は鞄から一眼レフカメラを取り出し首にかける。
「ありがとう、ゆみちゃん!」
「いえいえ、どういたしまして。さぁ行きましょう、先輩!世紀の大スクープを撮りに行きますよ!!」
また彼女に背中を押されてしまった。だが不思議と悪い気分ではない。むしろ心地良いくらいだった。僕は彼女のように、前に立って引っ張ってくれる存在を心のどこかで求めていたのだろう。