【FILE.26-2】流星群の引き立て役
本部からの招集を受け、俺―――末田力は調査課の部屋に入る。俺達調査課はバベルの再建者関連の時犯確保に向けて数班に分かれて各地世界線を飛び回っていたが、俺が所属していたA班は相手が悪く半壊状態となり、一足早く帰還していた。
「お疲れ様です」
部屋に入ると、既に他の面々が集まっていた。皆一様に疲労困憊した様子で表情に覇気がない。それも当然だろう。俺が救護室で治療を受けている間にも、彼らは休む間も無く働き詰めだったのだ。
「おう、来たか」
部屋の奥から声をかけてきたのは、A班のリーダーである墨田修太郎だ。所々包帯が巻かれ、痛々しい姿の彼を見ると、俺の不甲斐なさを痛感し罪悪に苛まれる。
「すいません、墨田先輩。俺が不甲斐ないばかりに、皆を守れなくて……」
「気にするな。お前はよくやってくれた。あの胡山望深を確保できたのはお前のお陰なんだからな」
彼の隣で俯く七五三掛紗和も少し悲し気な表情ではあるが、同意の意味を込めて小さく頷いた。
課長の黒瀬乃亜がこれからの"バベルの再建者"確保作戦の動きを説明する。メイメイの『神域凸』配信まで数時間後に迫っている現在、配信開始を狙って突入するというのがこれまでの計画だったが―――
「今回君達には援護に回ってもらう」
「え、援護…ですか?」
聞く所によると、別動隊でメイメイの素性を探っていた群生さくらが配信妨害の主導を担いたいという連絡が入ったのだ。彼女自身も配信者という事もあり、今回の一件は何かしら思う所があるのだろう。今回の俺達の仕事は彼女の妨害計画が円滑に進むように援護するという路線に変更となった。
「でも、僕達全員が行くわけにはいかないんじゃないですか?突入人数が多ければその分相手にも警戒されますし」
不安げな表情で亜久津野薔薇が言う。確かに彼の意見は最もだが、この仕事の重要性を考えると少数精鋭で臨むべきなのは間違いないだろう。特別構成員として合流した元時空犯罪者の三人に関しては、表立って囚人が協力している事を世間に知られる訳には行かない為、当然ながら今回は待機となる。それに任務の中で酷く負傷したメンバーもいる。
「ああ、だから直接乗り込むメンバーはかなり限られる。まずは末田、そして墨田。援護部隊の主導は君達に任せる」
負傷度の浅い俺達が任務にあたるのは納得できる話だし妥当、というように俺は頷いて同意を示した。
「そして有栖川と亜久津も同行しろ、七五三掛と湯川、そして持田は此処に残って久世のサポートに当たれ」
「了解ですわ!」
乃亜の言葉に有栖川心姫が意気揚々と返事をする。
「わかりました」
一方、野薔薇の方はあまり嬉しく無さそうだ。任務中に負傷したのであろう左手を力強く押さえていた。
「えっと、亜久津先輩…大丈夫ですか?」
「あぁ、問題無い。この程度は掠り傷だ」
俺の心配の声に野薔薇はそう返す。しかし、明らかに顔色が悪い。無理をしている事は明らかだった。
(大丈夫だろうか……?)
「じゃあ、早速準備に取り掛かるぞ」
乃亜の言葉にその場にいた全員が声を揃えて返事をした。
メイメイのチャンネルに登録していた持田琴葉がG51世界線直通ゲート開通URLを所持していた為、案外すんなり現地に行く事が出来た。配信開始時間を待つファンらしき人々で溢れ返るライブ会場。人混みに慣れてない俺は少し人酔い紛いの状態になりながらも何とか耐える。
「気をしっかり持て、末田」
修太郎に心配されながらも、俺達は周囲の状況を確認する。
「あくまでも僕達の任務は援護。主役はさくらさんですから、あまり派手に動かないように気を付けてくださいね。特に有栖川さん、貴女はいつも自分本位で動こうをしますから…」
「流石の私でも空気は読めますわ!!」
通信機越しで野薔薇と心姫が少々口論になっているが、まあ彼女達の仲の悪さを考えれば日常茶飯事なので放っておく事にしよう。
腕時計を確認する。配信開始まで残り1分を切った。沸き立つ観客たち。カウントダウンの声が響く。俺達は何時でも武器を展開できるようにイマージュギアに手を添え、ステージを見据えた。