【FILE.26】正史の歌姫、ここに顕現
『神域凸』配信当日を遂に迎えてしまった。私―――春馬芽衣は友人の群生さくら、そして彼女の先輩である泊塔子と共に、配信が行われる現場であるG51世界線に来ていた。私の心は緊張と羞恥心で一杯だった。私は今―――
―――コスプレをした状態でこの場に立っているのである。
(もう後には引けないのは分かっているけれど、やっぱり無理だああああ!!!)
この『神域凸』配信の主役である世界的人気を誇る配信者メイメイは並行世界線上の私だ。同じ存在と言っても過言ではない私達なのに、同業者として人気の差は歴然。それだけでも気に入らない相手であるに加え、今世界中を騒がせている並行世界混線接続の主犯でもある。私はさくらと塔子と共に、メイメイの配信に乱入、彼女の計画を妨害する事にした。
私はバーチャル上のアバターを介して配信をしている業態を取っている為、生身で表舞台に立つのには慣れていない。尚且つ今、自分が使っているアバターキャラのコスプレをしている為、周囲の視線がとても気になる。そのせいか先程から心臓が激しく脈打っているのだ。しかし、そんな事を言ってはいられない。今日という日の為に色々と準備してきたのだから。
「さくら…私、ちゃんと出来るかな?」
隣にいるさくらに弱音を吐く。すると彼女は笑顔を浮かべてこう言った。
「大丈夫だよ!何かあったら私達がフォローするし!」
「そうよ。芽衣ちゃんは貴女がやりたいようにやればいい。この配信を好きに掻き乱して主役の座を奪っちゃいましょう! それに、貴女は一人じゃない…私達がついてるわ、自信持って良いのよ?だって貴女の味方は…最強の魔法少女アイドル、"ちぇり♡とま"なんだから!」
そう言って塔子がウインクを見せる。さくらと塔子もまた、配信時に着ている可愛らしい魔法少女の格好をしていた。二人共、私が不安にならないよう敢えて明るく振る舞ってくれたようだ。本当に頼れる友人を持ったものだなと思う。
「ありがとう……よしっ、頑張るぞ!!」
二人の励ましを受けて私は気合が入る。配信開始時間を前に、現地で待機しているメイメイの信者達が沸き立つ。乱入のタイミングはメイメイ本人がステージに立って、一曲目を歌う直前。私は胸に手を当て、ステージを見据える。
―――此処で思いの丈を、全てぶつけてやる!