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Ride on Multiverse ~時空管理局並行世界特務調査課~  作者: 夕景未來
第3部『バベルの再建者』
39/55

【FILE.23】陰り始めた綺羅星

 『神域凸』配信を1週間後に控えたある日、近況報告を兼ねた定期配信を終えたメイメイに、私―――桜坂(さくらざか)ももは彼女に差し入れを渡した。私の双子の妹である菊乃(きくの)も一緒だ。

「お疲れ様!はい、差し入れ!」

「ももちゃん、菊乃ちゃん、ありがとう!ってこれ…私がこの前食べたいって言ってたお店のミルフィーユじゃん!

 嬉しい!」

 そう言うとメイメイは目を輝かせて喜んだ。その様子に思わず笑みがこぼれる。

「喜んでくれてよかったよ」

「これ結構高かったんだからね。お姉ちゃん、全額出したみたいに偉ぶってるけど…お金は二人で折半(せっぱん)したの忘れないでよ?」

 私の後ろで菊乃が小言を並べる。そんなのも気に留めず、メイメイはケーキの箱を受け取って言った。

「二人とも私の為にありがとね…お陰でもっと頑張れそうな気がするよ」

 そう言った彼女の瞳は、今までの様な光は無く、どことなく無理をしているようだった。私は心配そうな声で聞く。

「あのさ、()()()()()…大丈夫?疲れてない?」

 

 私は敢えて彼女を()()で呼んだ。


 今や全宇宙を魅了する新時代の歌姫の名を恣にした配信者・May²(メイメイ)。その本名は春馬芽衣(はるま めい)という。私達姉妹は芽衣の幼馴染だ。彼女は子供の頃から歌を歌うのが大好きで、よく私達に歌を聞かせていた。彼女の歌声には人々の心を動かし、元気づける力があった。そして彼女が心の底から楽しそうに歌っている姿がとても印象的だったことを覚えている。彼女の瞳は、夜空に(きら)めく星の様に輝いていた。


 いつか世界中を一つにする歌手になる―――そんな彼女の夢を一番近くで応援していた私達だったからこそ、彼女の異変には敏感だった。"バベルの再建者"のリーダーとして信者達を束ね、魅了し、突き動かす彼女の姿は、心の底からこの状況を楽しんでいるようには思えなかった。自分から望んで事を動かしているようには見えなかった。まるで何かに操られているか、或いは何かに脅されているかのような。芽衣は昔から周りに心配をかけまいと何かと無理をする癖がある。だからきっと今も一人で抱え込んでいるに違いないと思ったのだ。しかし当の本人はあっけらかんとした表情で言う。

「えっ!?全然平気だよ!むしろ絶好調なくらい!」

「本当に…?」

「うん!スーパーウルトラハイパーミラクル絶好調(ぜっこーちょー)だよ!」

 そう言っている彼女の笑顔は、心から笑っているようには見えなかった。芽衣は建設途中のバベルの塔に視線を移して言う。

「もうすぐ私達の願いが、世界を一つにするという目標が叶うんだ…」

 そして私達の方を向き直すと、微笑みを浮かべて言った。

「ももちゃん、菊乃ちゃん…最後まで、私の事応援してくれる、よね…?」

 それはいつも通りの優しい口調だったが、どこか寂しげでもあった。私は胸を勢いよく叩いて言った。

「当たり前じゃん!!何があっても私達は、ずっとずっと、ずーっと!芽衣ちゃんの味方だよ!!」

「ここまで頑張って来たんでしょ?絶対に報われる、そう信じてるから」

 私達の言葉に、芽衣はその目に涙を浮かべ、私達を抱き締めた。


「ありがとう……二人のこと、大好きっ!!」


 心から楽しそうに歌っている芽衣以外は見たくない。でも、ここ最近の彼女には彼女らしい輝きが全く見られなくなってしまった。芽衣と別れた後、菊乃は私に不安げな表情を見せて聞いた。

「ねえ、お姉ちゃん…私達、このままでいいのかな……?」

 私は菊乃に少しだけ目をやると、バベルの塔を見つめて言った。

「私達は芽衣の事を信じてここまで付いてきたんだよ。今更逃げるなんてできない、逃げちゃいけない気がする。芽衣が望んだことなら、私達はそれに従うまで…」

 一旦そこで言葉を区切り、宝石の嵌め込まれた手袋を嵌めた左手に視線を落として言った。


「私達は、()()()()()()()の護衛として職務を全うする……邪魔する奴は、社会的にも物理的にも抹殺するまでよ」

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