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Ride on Multiverse ~時空管理局並行世界特務調査課~  作者: 夕景未來
第3部『バベルの再建者』
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【FILE.21-2】Fanatic Carchase

 世界各地で騒動を巻き起こす"バベルの再建者"を確保する為、各世界線の時空管理局が協力体制を取っている。情報は適宜共有される。各世界線から集まった情報を此処に記しておく。

 バベルの再建者はMay²(メイメイ)を中心にコミュニティが形成されており、バベルの塔の建設を担っている建設班、メイメイの定期配信を現地で盛り上げる応援団、そして世界線接続を担う遠征部隊が存在する。俺達調査課が確保に苦戦しているのは遠征部隊のメンバーである。世界線を超えて縦横無尽(じゅうおうむじん)にはちゃめちゃな接続と逃亡を繰り返しており、その行動速度から追い切れないという現状だ(実際時空犯罪は幇助(ほうじょ)するだけでも重罪の為、再建関係者は全員確保対象ではある)。


 所変わって俺―――末田力(まつだ りき)の所属するA班はS32世界線に来ていた。ネオンライトが眩しい夜の繁華街(はんかがい)。空には人工物なのか自然発生なのか分からない極彩色のオーロラが揺らめいていた。

「やっべ、目がチカチカする……」

 俺は目頭を押さえながら言った。

「もう、まっつんったら情けないわね!」

 幼馴染の七五三掛紗和(しめかけ さわ)が言う。彼女はしれっと(何処で手に入れたのかは不明である)色付きレンズの眼鏡をかけていた。

「浮かれてんじゃねーよ、これは仕事なんだぞ!」

「分かってるわ!ターゲットに怪しまれないようにこの世界に馴染むのは鉄則よ!」

「だからって……」

 ドヤ顔で言う紗和に俺は溜め息を吐く。俺達が着ている締まった印象の制服にその眼鏡は完全にミスマッチである。

「まあまあ、郷に入っては郷に従え、と言うじゃないですか」

 特別構成員の桧星彗(ひのぼし すい)が淡々と言う。彼女も色付き眼鏡を装着していたが、服は彼女が所属しているディメンションハッカーズの統一服である黒を基調としたジャージ素材の上着だ。

(カジュアルスタイルに合わせるんだったら問題無いんだけどな…)

 そんな事を思いながら俺は彗の事を凝視していた。目線が合ってしまいお互い気まずい雰囲気になる。それを破ったのは先輩で班長の墨田修太郎(すみだ しゅうたろう)だった。彼は手に持ったタブレット端末の画面を見せて言った。

「俺達が追うターゲットは胡山望深(えびすやま のぞみ)、18歳の男子学生。遠征部隊で各地世界線を渡って逃亡中との事だ。最近この世界線で目撃情報が上がったそうだが…現地の管理局職員も確保に手間取っている。中々厄介な相手らしくてな」

「そいつを捕まえれば良いんですか?」

 俺の言葉に修太郎は静かに頷く。

「ああ、だが無理をして怪我をする必要はない。危険を感じたらすぐに撤退する。行くぞ」

「了解!」

 A班全員が声を上げる。


 いかにも"夜の街"という雰囲気の高層ビル群を歩いていく。ネオンライトで照らされているとは言え夜の闇が全て晴れている訳ではない。人探しにはかなり苦労する。辺りを見回すと彼方此方に時空の裂け目を確認できた。

「バベルの再建者の影響がこんな所にまで…」

「あんなに時空の裂け目があるんじゃ、もう逃げられてるんじゃない?」

 彗と紗和が不安そうな声で言う。確かにこれだけ時空の歪みがあれば、いくらでも逃げる事は出来るだろう。その時、俺達の前を歩いていた修太郎が急に歩く速度を速めた。彼の視線の先には一人の男性が居た。その男性はぱっと見普通の男子学生という風体で、時空犯罪を犯しているようには見えなかった。修太郎は男性に声を掛ける。

「貴方が…胡山望深さん、ですね?」 

 望深と呼ばれた男は面倒臭げに答える。

「その制服、時空管理局ですよね?俺に何の用ですか?俺はただの観光客ですけど…」

 その返答に修太郎はタブレット端末を見せて言った。

「貴方に過剰世界線干渉罪の疑いで確保命令が出ている。大人しく同行して貰おうか」

「へぇ、俺を逮捕しようって訳ですか……」

 そう言ってニヤリと笑った瞬間、望深の身体から強烈な光が放たれる。咄嵯に腕で顔を覆ったが一瞬遅かったようだ。目を閉じた隙に修太郎は鳩尾に一発殴られたようで後方に吹き飛んだ。

「お前達みたいな奴等に捕まる程、俺は落ちぶれちゃいないんだよ!」

 望深は近場のレンタカー店から車を一台奪って公道へ走り去って行った。

「畜生が…」

 殴られた箇所を押さえて修太郎は苦しそうに呟く。

「大丈夫ですか!?」

「問題無い、それより早く追いかけるぞ」

「でも、相手は車乗ってます…」

 俺がそう言っている間に紗和は先程車を奪われたレンタカー店に行き、二台分のレンタル料金に少し上乗せした額を店員に渡した。


「ごめんなさいね。その車、借りるんじゃなくて…()()()もいいかしら?」


 レンタカー店から買収した洒落たオープンカーに乗り込み、俺達は望深を追い掛けた。流石は近未来の車、自動運転で法定速度を遵守し、障害物を避けてくれる。しかしそれが気に入らなかったのか、運転席にいた修太郎は苛ついた表情で自動運転モードをOFFにするとハンドルを握って言った。

「機械に任せてられるかよ!飛ばしていくぜ、しっかり掴まってろ!!」

 ある意味意外な一面を急に見せつけてきた修太郎がアクセルを一気に踏み切り、車は猛スピードで加速していく。

「ちょ、これヤバイって!」

「やばっ、気持ち悪……」

 俺は必死に車体にしがみついていた。紗和はこの一瞬で車酔いしかけていた。騒ぐ俺達を他所(よそ)に、彗は何処吹く風という感じで冷静に言った。

「墨田さん、多分あの車ですよ。そのまま追ってください」

(いやいや…この揺れが平気とか、三半規管(さんはんきかん)バケモンかよ!)

 心の中でツッコミを入れながら俺は振り落とされないように必死だった。修太郎から指示が飛ぶ。

「末田!あの車に向かって撃て!」

「了、解…です!」

 修太郎の言葉に俺は小銃を召喚する。揺れる車体、震える手元、照準(エイム)が定まらない。

「当たれぇえええ!!!」

 俺は半ば自棄(ヤケ)になって引き金を引いた。銃口から発射された銃弾は車のタイヤに命中しパンクさせる。

「ナイスだ、このまま追い込むぞ!」

 一気に距離を詰めた―――かと思ったその時、相手の車が光に包まれたかと思うと、車体の両側にジェットが、更には後部にロケットランチャーが搭載された。望深は高笑いして言った。

「悪いね!君達には此処で散ってもらうよ!俺の推し活の邪魔をする奴は、誰であろうが許さない!」

 望深が言い終わると同時にロケット弾が俺達に襲い掛かる。修太郎が咄嗟に大剣を召喚して片手でロケットを弾く。爆風で体勢が崩れたが何とか持ち直す。弾かれたロケットは空を舞い、遠方で爆発した。

「待ちなさい!」

 彗がフレイルハンマーを召喚して、棘鉄球を一気に飛ばす。鎖は無限遠に伸び、望深が乗っていた車に巻き付いた。それを見た俺は、再び小銃を構えて発砲しようとする。が、その時だった。俺達が通過しようとした高架橋(こうかきょう)が丁度望深の車が通過するタイミングで崩落し直撃した。激しい轟音と土煙を上げ、車は大破。俺達は車を降りて近くに寄るが、瓦礫(がれき)の山の中に、彼の姿は無かった。幸か不幸か、近場に時空の裂け目を確認する。

「逃げられた、か…」

 修太郎は悔しそうに言う。しかし、彗は躊躇いなく時空の裂け目に近づく。

「駄目よ、彗ちゃん…安易に近付かないで!何処に飛ばされるか、分からないわ…」

 まだ気分が優れない紗和が途切れ途切れの言葉で忠告する。しかし彗は顔色一つ変えずに言った。

「何で追わないんですか?標的の逃げた先と偶然にも同じ場所に行けるかもしれないじゃないですか。僅かな可能性にでも賭けないと」

「彗……」

 俺が心配そうな目を向けるが、彼女はそのまま時空の裂け目の中に飛び込んでしまった。

「独断専行とはいい度胸だな、時犯風情(ふぜい)が…」

 修太郎も後を追う。俺達も意を決して裂け目へと飛び込んだ。

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