【FILE.21】彗星の贖罪
バベルの再建者絡みの騒動の収束の為、調査課メンバーは複数班に分かれて行動する事となった。俺―――末田力は七五三掛紗和、そして先輩の墨田修太郎と行動を共にする。そして今回の任務では嘗て俺達が相対した歴史改変集団"ディメンションハッカーズ"のメンバー(現在は時空監獄に収監されている受刑者)と協力戦線を取る事になっている。俺達は行動を共にする受刑者の桧星彗に会う為、時空監獄に繋がる扉までやって来た。彼女は両側に看守を付けた状態で扉の前の長椅子に座っていた。
「桧星さん、ですよね?」
俺は彼女に恐る恐る聞いた。彼女は俺を見上げて軽く頷く。
「…お久し振りですね、管理局の皆さん」
彼女の口調は丁寧だがどこか刺々しいものだった。
桧星彗は16年前に起きた中央党所属議員無差別殺人事件に関する歴史を改変した罪で収監されていた。しかし彼女が罪を犯した理由として、その事件の被害者の一人に彼女の実の父がいたという点で、情状酌量の余地があったのではないか、終身禁錮という極刑に処すのは酷ではないかと今でも思ってしまう。俺と入れ替わる様に彗の前に修太郎が立つ。
「今回の任務でリーダーを務める墨田だ。お前とは初めましてだな。協力は感謝するが…前科持ちは安易には信用できないからな、少しでも怪しい動きを見せたら……その時は容赦無く斬る。覚悟しておけ」
(初対面で"斬る"宣言って…先輩、容赦無さすぎだろ!!)
修太郎の発言に俺は少し怯える。彼の威圧的態度ももろともせず、彼女は平然とした眼差しで言った。
「それなりに覚悟はしています。簡単には信用してもらえない事だって承知の上です」
「あら、随分と余裕そうじゃない?」
紗和が斜に構えた態度で言う。彼女もまた修太郎同様、警戒心を隠そうとしていない様子だった。彗は紗和に視線を向けると言った。
「確かに私がやった事は許されない事です。変えてはいけない歴史を変えたのですから。でも貴女、前に言ってましたよね…どんな理由があろうと罪は罪、償わないといけないって」
「覚えてたのね」
予想外の発言に戸惑う紗和に対し、彗は更に続ける。
「ある程度自由は許されてるとはいえ、ずっと狭い部屋の中で黙って反省し続けるのは償いとは思えない。何かしら形にして償いたい、そう思ってました。そんな時にこの話を持ち掛けられて…」
「なるほどな」
修太郎は納得したように頷く。
「受刑者コミュニティ伝てで"バベル"の件は知りました。多くの人々を混乱に陥れる彼らの愚行、看過できません。協力できる事なら何だってします」
彼女の真っ直ぐな眼差しに、俺は心を撃ち抜かれた様な気がした。彼女は根からの悪じゃない、その眼から正義感と情熱を感じる。
「……ありがとうございます!」
俺は笑みを浮かべながら言った。すると紗和が不服そうな顔で言う。
「あれ?まっつん、まさか…あの娘に惚れちゃった感じ?私と言う女がいながら?」
「はぁ!?馬鹿言うな!というかそもそもお前とも付き合ってねえわ!」
「乳繰り合いは任務が終わった後にしろ。行くぞ」
修太郎が冷たくあしらうと、踵を返して歩き出す。俺達はそれを追うように速足で付いて行った。俺達と少し距離を置いて一番後ろで彗がゆっくり歩く。彼女は呆れたように溜め息を一つ吐くと「馬鹿みたい…」と呟いた。