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Ride on Multiverse ~時空管理局並行世界特務調査課~  作者: 夕景未來
第3部『バベルの再建者』
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【FILE.18】テイセンキョウテイ

 G51世界線から行われたMay²(メイメイ)の生配信。その日から世界中は混乱に陥っていた。世界各地に現れた時空の裂け目、並行世界接続ゲートの不具合。各世界線の時空管理局が連携を取り、メイメイ率いる"バベルの再建者"達の確保、およびゲート不具合による帰宅困難者(ロスト)の保護に当たっていた。しかし敵方の方が技術は何枚も上手(うわて)、世界線によっては管理局が時犯確保に慣れていない事もあり、完全に対処しきれていないのが現状だった。


「このままでは世界全体が崩壊してしまう……」

 大きなモニターに視線を向けたまま久世遊(くぜ ゆう)が小さく舌打ちをする。俺―――末田力(まつだ りき)を含め、並行世界特務調査課(P.S.I.D.)は今回の事件の主犯であるバベルの再建者の完全鎮圧に向けて既に動いていた。しかし、並行世界接続ゲートが正常に機能していない現状、今までのように動く事が出来ないでいた。他世界線に渡る事が出来ない為、今は課長の黒瀬乃亜(くろせ のあ)の命で、この世界線に迷い込んでしまった帰宅困難者の保護に注力していた。

「お疲れ、まっつん」

 疲労困憊(ひろうこんぱい)の状態で部屋に戻ってきた俺に、七五三掛紗和(しめかけ さわ)がカフェラテの缶を差し出して言った。

「ありがとな」

 俺はそう言ってそれを受け取るとプルタブを開けて口を付けた。一通り保護を終えた調査課職員が次々と帰ってくるのを見ながら俺は紗和に聞く。

「ゲートに不具合起きてるんならさ、技術班は動かないのか?」

 俺の質問に彼女は悲し気な表情で言った。

「一部で不具合が起きてるなら動けるわ。でも今回は世界規模。技術班は少数精鋭だし、対処しきれないのが現状ね。パパにも連絡したけど正直お手上げだって」

「そっか……」 

 確かに技術班には優秀な人材が集まっている。だが、いくら優秀と言ってもたった十数人しかいない。そんな少人数で出来る事などたかが知れている。

「とにかく、私達が今すべき事は一つ。一人でも多くの帰宅困難者を保護する事!事が終わったらちゃんと元の世界に帰せるようにね」

 紗和の言葉に軽く頷き、俺はカフェラテをもう一口飲んだ。その時、俺の後ろの方でノートPCを操作していた持田琴葉(もちだ ことは)が突然頓狂(とんきょう)な声を上げた。

「黒瀬上官!!自分のPCが、何者かにハッキングされました……」

「何!?」

 俺は持っていたカフェラテを落としそうになった。俺達は慌てて彼の所まで行く。琴葉の持つPCの画面を覗き込むと、真っ黒になった画面の中央に六角形をベースにした何等かの組織のマークと白い"SOUND ONLY"の文字が表示されていた。そしてそこから聞こえてきたのは優しいトーンの男の声だ。


『やあ、初めまして。時空管理局諸君』

「誰だ!!」

 乃亜は大声で叫ぶ。すると男は淡々と答えた。

『私はディメンションハッカーズの首領(ボス)を務める者です。表向きでは"ノア"と名乗っております』

「ノアって…上官と同じ名前じゃないですか!」

(タチ)の悪い嫌がらせをしやがって……」

 驚きの声を上げる俺の横で、乃亜は怒りに満ちた声で呟く。

『まあまあ、落ち着いてください。今日、私が貴方達と通信を繋いだ理由は一つ。それは…』

 そこで一旦言葉を区切ると、"ノア"は少し声量を上げてはっきりとした声で言った。


『一時的な()()()()です』


「停戦、協定…?」

 俺達の頭上に疑問符が浮かぶ。

『今、世界的にとんでもなく厄介な敵が現れた。そのせいで貴方達も我々も通常通りの活動が危ぶまれている…本来であれば敵同士の我々ですが、今回に限っては完全に利害が一致しています。我々もこの事態を一刻も早く収束させたい。だから一時休戦して、協力しようではありませんか』

 "ノア"の要求に対し、琴葉が訝し気な表情で問う。

「何か別の目的がありそうな感じですけど……」 

 その問いに対して"ノア"は答える。

『別の目的、ですか。強いて言うならば……現在時空監獄に収監中の構成員の一時釈放を求めるくらいですかね』

「ディメンションハッカーズの一時釈放!?」

「どうして…」

 その要求に俺達はざわつく。

「何故奴らの解放を要求する?凶悪な時空犯罪者を安易に釈放するわけにはいかない」

『単純な釈放ではありませんよ。彼らを貴方達の活動に協力させる心算です。我々の持つ技術は貴方達の物よりも上手なのは、これまで貴方達が我々の起こした歴史改変を未然に止められなかった事実から明らかです。そんな貴方達だけの力では、"バベルの再建者"の完全鎮圧など夢のまた夢……違いますか?』

「……」

 乃亜は黙り込んだまま何も言わない。

「上官、どうしましょう?」

 紗和が真剣な表情で問う。

「……分かった、お前の申し出を受け入れよう」

 彼女の言葉に、彼は静かに答えた。

「ただし、条件がある。釈放期間は今回の件が収束するまでだ。その最中に少しでも怪しい動きがあった場合はそれ相応の対処を取る。いいな?」

『ふふっ、構いませんよ』

「交渉成立、だな」

 乃亜の言葉に、"ノア"は満足げな口調で言った。

『えぇ、よろしくお願いしますね。それでは』

 そこで通信は途切れた。

「大丈夫なんでしょうか?」

 俺は不安そうに尋ねる。

「さぁな。でも、今は信じるしかない」

 乃亜はそう言うが、その言葉には受け入れたくないとでも言うような雰囲気が見え隠れしていた。


 部屋に調査課のメンバーが全員集合した。乃亜が俺達に向けて言う。

「これより、"バベルの再建者"完全鎮圧作戦を決行する」

「「了解」」

 俺を含めた全員が敬礼をする。

「件の時犯は様々な世界線に散らばっている。よって我々も複数班に分かれて行動してもらう。

 まずはA班!末田力、墨田修太郎(すみだ しゅうたろう)、そして七五三掛紗和」

「はい!」

 乃亜に名前を呼ばれ、俺は返事をした。彼は続ける。

「班長は墨田に任せる。そしてA班には、特別構成員として桧星彗(ひのぼし すい)を加入させる」

 桧星彗―――俺と紗和が相対した事のある女性だ。彼女は根からの悪人には見えなかった。きっと俺達にもしっかり協力してくれる事だろう。

「続いてB班は、亜久津野薔薇(あくつ のばら)湯川(ゆかわ)すずめ。班長は亜久津、そして特別構成員として初原悦子(ういはら えつこ)が加入する。そしてC班、有栖川心姫(ありすがわ こひめ)と持田琴葉。班長は有栖川、特別構成員として色樹英麗奈(いろき えれな)を加入させる」

「了解ですわ!」

 高らかに返事をする有栖川心姫に対し、琴葉は少し不安げに質問する。

「俺、裏方業なんですけど…今回何で前線に回されたんですか?」

「今回は敵の数が多い。戦闘要員が少ないこの現状…非戦闘員である琴葉を後方に待機させておく余裕はないと判断した。とはいえ、お前も元はれっきとした調査員だっただろう?もし万が一の事があっても、お前なら対処できるはずだ」

「……分かりました。頑張ります」

 琴葉の返答を聞いて、乃亜は小さく微笑む。

「そして群生(むれおい)さくら、君は『パラレルストリーム』で活動していると聞いた。歴史情報管理課(H.I.M.D.)と協力してメイメイ及びバベル周辺の情報を探れ。各班への指揮は私と久世で行う。特別構成員は協力してもらうとはいえ時空犯罪者だ。怪しい動きをしていた場合は、慈悲無くそれ相応の対処をして構わない。そして道中で帰宅困難者を発見した場合は適宜保護するように。以上だ!」

「「「「「はい!」」」」」


 こうして、俺達の世界を又に掛ける長い闘いが幕を開けたのである。

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