【FILE.17】宇宙の迷い子達
卒業制作の取材旅行から帰ろうと、現地の渡航ポートに行った僕―――伊川文月とその後輩・福留ゆみ。しかし、僕達が知らない間に世界は混乱に陥っていた。
各地に現れた時空の裂け目。そこから他の世界線からやって来た荒くれ集団や異世界獣によってパニックが起きたり、誤って裂け目の中に飲み込まれた人が別世界に行ったまま帰れなくなる事態も起きた。更に困ったことに、ポート内の並行世界渡航ゲートが正常に機能しなくなった。世界接続機能自体は健在ではあるが、目的地を指定する事が出来なくなっており、ゲートを潜っても行きたい世界線に行ける可能性はかなり低くなっているとの事だった。この現状を受けてポート内は立ち往生する渡航客で溢れ返っていた。
「どうしよう、明日も講義あるのに……」
「このままだと家にも帰れませんよ、先輩!」
「分かってるけど…」
現地の時空管理局職員が渡航客の名前と出身世界線を聞いて回っていた。事が終わり次第安全に元の世界に送り届ける為だという。僕達の所にも先程来た所で、無事に帰れる確約は出来たもののそれがいつになるのかはいまだ分からないままで不安は拭えない。
「いつ動けるかも分からないですし、今の内に出来るところまで編集しちゃいますか」
そう言うとゆみは鞄からノートPCを取り出し、卒業制作の編集を始めた。このまま何もしないで時間の無駄にするよりは、その空いた時間で出来る事をすればいい。僕もタブレット端末を取り出して、描きかけで放置されていた漫画の製作に取り掛かる。その時だった。後ろの方で轟音が聞こえた。振り返ると、僕の背丈の2倍近くもあるゴリラっぽい生き物がポートの建物を破壊して乗り込んできたのだ。
「なっ!?何だこいつ!!」
「きゃああああっ!!?」
突然の出来事に悲鳴を上げる人々。その生き物は真っ直線にゆみの方へ近づいてくる。作業に夢中になっている彼女の手を引いて、僕はその場から離れる。
「ちょっと!何してるんですか先輩!!」
「呑気に作業してる場合じゃないよ!あれ見て!」
建物を壊しながら暴れ回る怪物を見て彼女は青ざめる。
「ど、どうしてこんな所にあんな奴がいるんでしょうか!?」
「そんなこと言ってないで逃げるぞ!ほら、早く!!」
「ちょ、ま…腕痛い!!」
2人で必死になって怪物から距離を取る。その間も破壊音は鳴り止まず、やがてこちらに向かってきた。
「もうダメかも…先輩だけでも逃げてください!」
「そんなこと言わないでよ!最後まで2人で行くって約束しただろ!!」
迫り来る恐怖に耐え切れず泣きそうになる彼女。すると今度は、別の方向からも爆音が響いた。そちらを見ると、また巨大な生物が現れたではないか。そいつも僕達の存在を認識するなり一直線に向かおうとする。
「うわああぁ!!?」
僕達は必死に走り抜け、目の前に見えた接続ゲートに飛び込んだ。
何時もなら一直線に目的地まで着ける時空トンネルが、ぐにゃぐにゃと歪んで揺れる。まるで乗り物酔いのような感覚に襲われながらも何とか耐えた。謎の浮遊感に襲われ、僕は掴んでいたゆみの手を離してしまった。そのまま彼女はあらぬ方向へと飛んでいく。
「先輩!!」
「ゆみちゃん!」
僕は必死に歪む空間の中を泳ぐように移動する。が、その抵抗も虚しく彼女とは逆の方向に飛ばされてしまう。そして次の瞬間には視界が完全にブラックアウトし、意識までもが闇へと落ちていった。