【EX-FILE.2】Spicy Girls
とんでもない熱気漂う空間。ざわめく男性の声が響く。そんな声等何処吹く風と言うように、群生さくらは黙々と激辛ラーメンを食していた。そんな姿を私―――七五三掛紗和は引き気味に見ていた。
久し振りの丸1日休める日、こんな貴重な時間を無駄にするわけにはいくまいと、調査課に所属する女性陣で集まって出掛ける事にした。最初は服を買いに行くなり写真映えするスポットを巡るなり、如何にも女性らしいお出掛けルートを辿っていたのだが、昼食の時間にそれは崩壊した。
さくらの発案でラーメンを食す事になった。その提案に反対する者は居らず、全員一致で決定した。そして今に至るのだが……
彼女のお目当ては激辛系チャレンジメニューのラーメンだった。それを食して見事完食すれば無料になるらしく、意気揚々としてこの店に入ったのだ。
「さくらちゃんが激辛好きなのは知ってましたけど、あれはもう度を超してますね……」
普通に豚骨ラーメンを食している湯川すずめが苦笑しながら言った。確かにさくらの食しているラーメンはスープから麺まで真っ赤で、まさに器一杯にマグマが満たされているかのよう。見ているだけで食欲が無くなる程だ。しかし彼女はそれを食べている。しかも涼しい顔をしながら。
「全く……こんなものを好んで食べる人の気が知れませんわね」
そう軽く嘲る有栖川心姫だったが、彼女が食しているのはさくらが選んだものより少し辛さの度合いを下げたものだった。彼女も辛いものが苦手なはずなのだが、意地を張っているのか、それともこれくらいなら大丈夫という自信があるのか。どちらにせよ、引く位に凄い事だと思う。普通に頼んだ醬油ラーメンと炒飯のセットを食しながら、異次元のチャレンジャー達を見守る。涼しい顔で激辛ラーメンを食すさくらの様子を見て、年増の男性客がざわめき始める。
「あの子、可愛い上にあんなもん食べてるぞ!」
「お嬢ちゃん、やるなぁ!!」
気付けば店中の注目はさくらに集まっていた。
「はぁ、全く騒がしいですね。大将、替え玉ください」
久世遊は呆れ交じりに呟くと、流れるように替え玉を注文した。彼女はこう見えてかなりの大食いであり、もう既に味噌ラーメンは3杯目に突入していた。その細い身体のどこにそれだけの量が入るのか不思議でしょうがない。辛党のさくらと心姫に大食いの遊。私とすずめはかなり居づらい空気になっていた。3人とも綺麗に完食を決め、店内は割れんばかりの拍手が響き渡った。
「は~、美味しかった!」
ラーメン店を後にした私達の先頭を切って歩くさくらは大満足とでも言うように笑う。
「まさか本当に完食するとはね……」
私は引き気味に言う。
「ふふん!こんなの、どうって事ないよ!」
得意げに胸を張るさくらだが、正直言ってかなりドン引きである。
「私だって完食しましてよ?次は少しレベルを上げても良いですわね」
心姫も得意げに対抗するがかなり無理をしている雰囲気が見え隠れしていた。
「さて…次は何処に行きますか?希望が無ければ腹ごなしにバッティングセンターでもどうですか?」
淡々とした口調で遊が提案した。
「いいねぇ!!行こういこう!!」
真っ先に賛同したのはやはりさくらだった。
「派手にかっ飛ばしてやりますわ~!」
続いて心姫が意気揚々と賛同する。少し置いてけぼりを喰らっていた私とすずめに視線を向け、遊が聞く。
「異論はありませんか?」
私は一つ溜め息を吐くと答えた。
「しょうがないわね…いいわ、乗った!特大アーチかましてやるわ!!」
「凄い乗り気じゃないですか、七五三掛さん……僕だって負けませんから!」
私の賛同がすずめの心に火を着けたようで、彼女も気合の入った声で言った。
今時の女性は可愛いだけでは生きていけない。可愛さの中に隠した意外性、ギャップという名のスパイスを誰しも隠し持っているのだ。
ボウリング場がメインとなっている複合アミューズメント施設。そのゲームセンターで一人、持田琴葉は音楽ゲームに興じていた。1曲打ち終えた後、ゲームセンターの外の方で見知った女性達がバッティングセンターの方へ歩いていくのを目撃した。しかしそこで声を掛ければ何かしら面倒な事に巻き込まれるかもしれない、そう察して知らないふりをする事にした。