表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ride on Multiverse ~時空管理局並行世界特務調査課~  作者: 夕景未來
番外編『調査員たちの休日』
26/55

【EX-FILE.1】Sweety Boys

 基本的に休みなんて無い時空管理局の職員にとって、丸1日休める日はかなり貴重である。俺―――末田力(まつだ りき)は先輩職員の墨田修太郎(すみだ しゅうたろう)から直々に誘いを受け、とある場所へと赴いた。目的地の建物の前に着いた彼は、いつもの様な険しく近寄りがたい表情ではなく、何処となくわくわくしている様だった。

「いいか、末田。これは戦いだ。決して気は抜くなよ」

「あ、はい…」

 俺は苦笑いをしながら答えると、彼に続く様に建物の中に入って行った。


(男2人でスイーツバイキングとか、絶対変な目で見られるに決まってる…!)


 心なしか軽やかな足取りの修太郎に付いて行く俺は正直肩身の狭い思いだった。店内に入ると、そこはまるで別世界の様に甘い香りで満ちていた。女性客の多いファンシーな雰囲気の店内は、俺達には全く不釣り合いだったが、当の本人はそんな事など全く気にしていない様子であった。

(まさか墨田先輩がスイーツ好きだったとは…意外だ)

 俺がそんな事を思っている間にも修太郎はショーケースからケーキを皿に取り分けている。そして席に着くなりそのケーキを食べ始めた。幸せそうな顔を浮かべながら食べるその姿は普段仕事場で見る彼と同一人物には見えなかった。対面に座り、ドリンクバーで調達したアイスコーヒーを飲みながら俺は彼を見ているしか出来なかった。

「どうした、末田?食べないのか?」

 そう言いながらもまた新たなケーキを口に運ぶ修太郎。

「そ、そうですね…俺も何か取ってきます」

 慌てて立ち上がると、俺はケーキを取りに行く。

 ショーケースに並べられた色とりどりのケーキは、決して甘党という訳ではない俺でも魅了される。定番のケーキからイベント限定の可愛らしいケーキも用意されていた。人気の高いものは一瞬でショーケースから消えていく。時間も惜しい、悩んでいる暇はない。

(先輩が()()って言っていたのはそういう事か……!)

 気付いた時にはもう遅い。俺は甘い戦場に身を投じていた。素早くチョコレート系ケーキを皿に取って席に戻る。席に戻った時、修太郎は既に第2陣という感じで、限定ケーキを中心に選んでいた。

「先輩…」

 俺は彼の更に並べられた可愛らしい猫を模したカップケーキを見て少し引き気味に呟く。すると彼は心なしか明るめの表情を見せて言った。

「今回の目当てはこいつらだ。全種類制覇(コンプリート)したくてな…危うくシャムのやつを逃す所だったが、ラスト1個で滑り込みセーフだった」

 嬉しそうに語る彼に、俺はもう何も言えなかった。嬉々として猫カップケーキを写真に収める彼の姿を見ながら、俺は目の前に置かれたケーキを食べる。味わう余裕もなく口に運び続ける。しかしそれはそれで美味しいと感じてしまう自分がいた。


 制限時間一杯までめくるめく甘い楽園を堪能した俺達。建物を出た後もその余韻に浸っていた。特に修太郎に勧められて食べたペルシャ猫をモチーフにしたクリームいっぱいのカップケーキは美味だった。クリームは甘すぎず、仄かにレモン風味で食べやすかった。

「中々良かっただろう?」

「まさか先輩がスイーツ好きだったとは…」

「スイーツは食べるのも作るのも好きだ。あまり人には言っていなかったがな」

 そう言って照れくさそうに笑う彼を見た後、ふと思う。

(何で先輩は俺を誘ったんだ?一緒に行くんだったら他にもいただろうに……)

 不思議に思ったが、その時はあまり深く考えずにそのまま帰路についた。


 それから数日後の事である。俺はいつも通り出勤して調査課の部屋に入室すると、不意に突撃を喰らった。女性隊員の湯川(ゆかわ)すずめだった。

「末田さん!ずるいじゃないですかぁ、墨田さんと二人きりでスイパラなんて!僕も誘ってくれれば良かったのにぃ!!」

 涙目になりながら俺を揺さぶってくる彼女。小柄な体格に似合わずその力はかなり強い。

「ちょっ、ちょっと待て……落ち着け!」

 何とか彼女を(なだ)めて話を聞くと、どうやら俺達がスイーツバイキングに行った事が彼女にバレてしまった様だ。しかもその時偶然同じ場所に亜久津野薔薇(あくつ のばら)が完全プライベートで来ており、その一部始終を見られていたのだという。俺達のやり取りを冷ややかな目で見つめる野薔薇に視線を移し俺は言った。

「野薔薇先輩、いたんですか……」

「悪いか?男一人でスイーツ食べ放題に行って」

 彼は腕組みをしながら俺を睨む様に言う。

「いえ、別に悪くはないですけど……」

「こう見えて僕、あの店の常連だからな。次に行く時には僕も誘え。スイパラエリートの僕が極上の攻略法を教えてやる」

 そう言って彼は得意げに笑う。

(この人もスイーツ好きだったのか……)

 意外な事実を知った俺だった。

「えー!?だったら僕も行きますよ、野薔薇先輩!あ、末田さんも行くんですよ?墨田さんも誘っておいてくださいね!」

 どうやら俺は強制参加の様だった。そんな目で見られたら断ろうにも断れない。俺は苦笑いしながら「分かったよ…」と言った。


 その後、次の休みに俺と修太郎、野薔薇、そしてすずめの4人で甘味の(スイート)戦場(・バトルフィールド)へ足を踏み入れる事になるのはまた別の話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ