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Ride on Multiverse ~時空管理局並行世界特務調査課~  作者: 夕景未來
第1部『パートタイマー・タイムパトロール』
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【FILE.1】パートタイマー・タイムパトロール

「本日付でこの並行世界特務調査課に配属になります、末田力(まつだ りき)と申します!宜しくお願いします!」

 俺―――末田力はそう言って頭を下げる。元気よく挨拶をしたはいいが、内心は滅茶苦茶に緊張していた。


(此処って…バリバリの公的機関じゃねぇか!!)


 現役大学生の俺は、長く時間の空く夏期休暇を利用して何かしらアルバイトをしようと考えていた。全力で遅れ()せの青春を謳歌したい俺にとって、金欠は由々しき事態である。夏期休暇を前に求人サイトを漁っていたその時、同級生で幼馴染みの七五三掛紗和(しめかけ さわ)から“素敵なバイトがある”、“安定高給かつ将来も安泰”と勧められたのだった。その時はどんな職場なのか彼女から1ミリも伝えられてなかった。蓋を開けてみれば政府機関である時空監理局の特務調査課。まさかそんな公的機関だったとは思わなかった。


(こんな場所、バイト感覚で勧めていい代物じゃねえだろ!次会った時は覚えてろ、七五三掛ぇ……)

 恨み節全開な俺だったが、気を取り直して顔を上げる。俺の目の前には上官の男性が立っていた。

「課長の黒瀬乃亜(くろせ のあ)だ。よろしく」

「よっ、よろしくお願い致()ます!」

 噛んだ。盛大に噛んだ。穴があったら入りたい。赤面しながら乃亜から顔を逸らす。しかし彼は豪快な笑いを見せ言った。

「そんなに気を張らなくてもいいのだがな」

「す、すいません……」

「まあ、慣れるまで時間は掛かるだろうが頑張ってくれ」

「はい…」

 乃亜の言葉に力無い返事をする。すると後ろの方にいた長身の男性が近付いてきた。彼は俺よりかなり年上くらいだろうか?長い癖毛の前髪から片目を覗かせた彼は、落ち着いた声色で自己紹介をした。

墨田修太郎(すみだ しゅうたろう)だ。宜しく頼むぞ、新人」

「あっ、はい!こちらこそ宜しくお願いします!」

 慌てて敬礼する。そんな俺を見てまた笑みを浮かべる乃亜。人並みより身長は高い方だと自負していた俺だが、自分よりも高身長の修太郎に見下ろされ少し緊張感が強まる。

(声に出して言いづらいけど、この人威圧感凄ぇ……)

「では早速だが君の仕事について説明を…」

 乃亜がそう言いかけたその時、部屋にけたたましいサイレンと共に放送が入る。

《C45世界線に違法越境者が侵入!至急拘束せよ!》

「仕事だ、新人。行くぞ!」

「えっ!?」

 修太郎の言葉に俺は驚きの声を上げた。

「ちょっ、ちょっと待って下さい!いきなり実戦なんて無理ですよ!!」

「大丈夫だ、俺が適宜教える。それに、言葉で覚えるよりも実戦を交えた方が覚えやすいだろ」

「でも……」

 戸惑う俺に対して修太郎は黒光りする機械を投げた。俺は慌ててそれを受け止める。

「何ですか、これ?」

「説明は後だ、急ぐぞ」

「え、ちょっと待ってください!!」

 修太郎の後を追うように俺は室内の並行世界接続ゲートを潜った。


 C45世界線の並行世界ポートに辿り着いた。並行世界ポートは一見すると普通の空港と遜色はない。既に世界線警備員が他のゲートを封鎖していた。怯えた表情の職員の女性に事情を聞いた。

「偽装パスポートだったのを見抜けず、不甲斐ないです…」

 どうやら女性は新人職員だったらしい。標的が偽装パスポートの所持者だった事は先輩職員に言われて気付いたという。彼女は涙目になっていた。

「気に病むことはない。それより、不法越境者は?」

「それが……」

 女性は咄嗟に撮ったという写真を見せた。それを見た修太郎は舌打ちをする。

「こいつ…俺達の世界で連続強盗殺人を起こした野郎じゃねぇか!別の世界線に逃亡しようって魂胆か?」

 修太郎は一つ舌打ちをして足早にポートを出ていく。俺は彼から貰った機械を左腕に身に付け彼を追った。


「あいつか!」

 修太郎が見据えたのは、とある建物から出てくる男の姿。帽子を目深に被り、顔はよく見えなかったが、彼が手にしているバッグからは札束が見えていた。男はこちらに気付いたのか駆け出した。その動きは俊敏だった。

「逃すかよ!」

 修太郎は走りながら俺が左腕に装着している機械と同じものを装着しており、その液晶画面に手を触れると叫んだ。

「―――想像(イマージュ)展開(・アンフォールド)!」

 すると画面が光を放ち、彼の身の丈ほどの長さである幅広刀身の大剣(バスターブレード)が現れた。修太郎はそれを手に取ると、勢いよく男に向かって振り抜く。男は手慣れた動きで攻撃を避けると、服のポケットから閃光弾を投げつけた。辺りは眩い光が包まれる。俺達が目を閉じた隙に男は逃げてしまった。

「くそっ!何処行きやがった!」

 修太郎の言葉を聞き、俺は周囲を警戒しつつも質問した。

「えっと…今の、何ですか?」

「ああ、悪い。説明してなかったな。こいつは“イマージュギア”。機関支給の特殊武器展開システムだ。自分の想像する武器を展開してくれる」

「ほえー...」

 俺は自分の手に身につけたギアを見つめ感嘆の声を漏らす。修太郎は一つ息を吐くと言った。

「とは言っても、武器なんて自衛目的でしか使わないがな。俺達の目的は時空犯罪者の()()だ。間違っても、標的を殺すなんて事はあってはいけない」

(いや、武器から殺意しか感じられませんけど?)

 俺は心で修太郎にツッコミを入れる。その時、俺は背後に気配を感じた。振り返ると、そこには武装をした男が銃を此方に向けて立っていた。

「ははっ!残念だったな、時空警察!お前らが追っていたのはホログラムの偽物だ!」

 先程逃した標的の男だ。修太郎は俺の前に立ち塞がり言った。

「新人!俺が奴を引き付ける!その間に、お前は俺のサポートをしてくれ!」

「えっ!?サポートって……」

「行くぞ!」

 修太郎は叫ぶと同時に男の方に走っていく。俺は遅れを取るまいと、ギアの液晶画面に手を触れて叫んだ。

「―――想像展開!」

 すると画面が光を放ち、機械的な小銃が現れた。俺の好きなFPSゲームに近しいデザインの小銃。俺はそれを手にすると、修太郎が戦っている相手の背後に回り込み、引き金を引いた。

「ぐあっ!!」

 銃弾を受けた男は地面に倒れ込む。俺は彼と距離を詰め、制服のポケットに入った手錠を取り出そうとした。その時、彼は懐に手を入れ何かを取り出した。それは小型のナイフだった。男はそれを俺に向ける。

「捕まってたまるかよ!!」

 俺は咄嵯に避けようとしたが間に合わない。そう思った時だった。

「危ない!」

 修太郎が男に飛びかかり、俺を突き飛ばしたのだ。突き飛ばされ尻餅をつく俺。次の瞬間、修太郎の首筋に刃が向けられる。

「動くんじゃねぇ!動いたらこいつをブッ殺すぞ!」

「…糞がっ!離しやがれ!」

 修太郎が叫ぶ。このまま発砲してしまったら彼も危ない。どうしたら良いだろうか。

(考えろ、考えろ俺!)

 俺は必死になって思考を巡らせる。そして修太郎の説明を思い出した。


―――自分の想像する武器を展開してくれる。


(これだ!)

 俺は小銃を力強く握る。そして男の足元に銃口を向けて側面のボタンを押した。すると小銃は形状を変え、細身のデザインに変わる。ゲームに出てくるワイヤーガンだ。狙いを定めて引き金を引くと、銃口からワイヤーが勢いよく飛び出し男の足元に巻き付いた。俺はそのまま此方側に男を引き寄せる。

「うおっ!?」

 男はバランスを崩すと、そのまま後方に倒れた。手に持っていたナイフはその場で空を舞ったが、咄嗟に修太郎がキャッチした。そして制服のポケットにナイフを仕舞うと、代わりに手錠を取り出して男の手首に嵌めた。

「よし、確保だ」

「やりましたね!」

 俺達は顔を見合わせて笑みを浮かべた。


 男はそのままC45世界線の警察に引き渡された。現地での取り調べの後、元の世界に送還されるという。疲労困憊の中、俺達は捜査課本部に帰った。

「初めてにしてはよくやったな、新人」

 修太郎は俺に微笑みを見せて言った。その笑顔に思わず胸が高鳴った気がした。

 最初は不安しか無かったが、いざやってみるとなると自分でも出来る気がした。自分の新たな可能性を知ることが出来た分、この仕事を勧めてくれた紗和にある意味感謝しようと思った。

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