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【FILE.12-3】招かれざるオーディエンス

「やって来ました、2039(にーぜろさんきゅう)うぅぅぅぅ!!!!」

 時空渡航ポートの建物から出るなり福留(ふくどめ)ゆみが高らかに叫ぶ。僕―――伊川文月(いがわ ふみつき)は少し呆れ目に笑うと言った。

「初めてのタイムトラベルにしては良い読みなんじゃない?25年前を選ぶって。でも……」

 僕は一旦言葉を区切ると、ゆみの眼を見て続きを述べた。


「此処、アメリカだよ?」

 そうなのだ。僕らがいる場所は紛れもなくアメリカなのだ。

 

 本来の予定としては25年前の日本に飛んで、卒業制作用の取材に行く手筈だった。時空渡航の際には、ポートの職員に目的地の世界線、時代(何時何分まで細かく申告する場合もある)、場所を申告する必要があるのだが、ゆみは肝心の"場所"申告を忘れていた。よって25年前に辿り着いたは良いものの、着地点はランダムスポーンとなってしまった訳だ。それに気付いた彼女は大袈裟レベルで狼狽(うろた)えていた。

「はっわあぁぁ!?やらかしました!!どうしましょう!?」

「まあまあ落ち着いてよ。ゆみちゃん、タイムトラベル初めてって言ってたし…()()()()の失敗、初めの内は誰だって……」

 そう僕は彼女を慰めるが、それを遮るように彼女は勢いよく僕に指を差して言った。

「その()()()()()()()が、ネット活動者には命取りなんですよ!分かってませんね!!」

(理屈は一緒なのは分かるけど…今それは関係ないと思うよ?)

 そんな事を思いながら僕は苦笑する。すると突然、遠方で銃声と悲鳴が聞こえた。

「な、何何!?」

 狼狽える僕を他所に、ゆみは目を輝かせて言った。

「行ってみましょうよ、文月先輩!最高のネタの予感……!」

 そして僕の返事も聞かず走り出す彼女を追って、僕もまた駆け出した。


 2039年5月16日、アメリカ、ラジオシティ・ミュージックホール前。オーディション番組の参加者を乗せた車が銃撃に遭っていた。その主犯は歴史改変者の女性。遠目で見ていた限りでは私怨を晴らす目的での犯行と思われる。

「マジでいるんだ…歴史改変者!!」

 ゆみはウキウキした表情で近場の建物の陰からスマホでその様子を撮影していた。

「やめときなよ、ゆみちゃん…バレたらどうすんのさ!最悪殺されるかも…」

「大丈夫ですよ、文月先輩。こういう時ってなんやかんやバレないですから!」

(その根拠のない自信は何処から……)

 僕は心の中でツッコミを入れるが、彼女の言う通り歴史改変者はこちらには気付いていないようであった。暫くすると、ゆみが興奮気味に叫んだ。

「はわわぁ!!見てくださいよ、先輩!!」

 彼女に促されるまま僕は視線を移すと、そこには白ジャケットの女性が歴史改変者と戦う姿があった。

(この服、何処かで見た事ある気が……)

 思い出すに足らない最後の破片を脳内で探っているとゆみがその答えを出してくれた。

「あの人、時空警察じゃないですか?やっばぁ!!こんなのSF漫画でしか見た事ないやつ!ほら、先輩もカメラ回すなら今の内ですよ?」

 興奮冷めやらない彼女に呆れ、溜め息を吐いた僕は言う。

「…帰ろう」

「えぇっ!?何でですか!?」

 素頓狂(すっとんきょう)な声を上げる彼女の首元を掴んで、僕は彼女を引き摺りながらその場を去った。


「このままだと僕の心が持たない、色々な意味で」

 僕に心労をかけすぎてしまったのを自覚したのか、ゆみは僕に情けなく引き摺られながら申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい……」

「いや、別に怒ってるんじゃなくて……あんな危険な事に首を突っ込む必要はないって言いたいだけだ。ただの卒業制作用の取材旅行だろ?無理して危険に踏み入る必要なんて無いの!下手したら死ぬかもなんだからな!」

 諭すように僕が言うと、彼女は俯きがちに小さく呟く。

「でも…こんな最高のネタに出会えるなんてこと、この先無いかもなんですよ?逃す方が勿体ないじゃないですか」

「全く反省してないな、君ぃ!まぁでも、確かに君の気持ちも分からなくはない」

 あの時、僕は閃いてしまったのだ。これまで迷っていた卒業制作動画のテーマが、この瞬間に決まった。

「時空警察の活躍を追ったドキュメンタリー映像を撮る」

「えっ!?いやいやいや、さっき"危険な事に首を突っ込むな"って言ったの…先輩でしょう!?朝令暮改にも程がありますよ!!どういう風の吹き回しですか?」

 困惑するゆみに目を合わせ、僕は微笑んで言った。

「後輩の熱量に感化された…ってやつかな?1つ下の君があれだけやる気になってたんだ。だったら先輩である僕も、それに負けないように頑張るべきかなって」

「文月先輩……」

 僕の言葉に感銘を受けたらしい彼女は、僕に尊敬の眼差しを向けた。僕は続ける。

「ってことで、ゆみちゃんには取材班の一人として最後まで付き合ってもらう!拒否権はナシだ!」

「えーっ!?」

「大体これはゆみちゃんの方から誘ってきた事なんだからね。それ相応の責任は取ってもらうよ」

「うぅ、分かりましたぁ……」

 こうして僕ら2人は、"時空警察ドキュメンタリー"制作の為の取材旅行を本格的に進める事になった。


 しかし、まさか単なる"取材旅行"にすぎなかった旅が、予想だにしない壮大な物になろうとは、あの時の僕らは知る由もなかった。

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