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しにがみ

作者: おすし


 黒いフードの中身に頭蓋骨。大きな鎌をもったやつらが、あちこちをせわしなく動いている。書類を整理しているものから、電話応対をしているもの。少し窓際であくびをしながらパソコンをいじっているものもいる。

 死神界、屈指の大企業であるソウルカンパニー。僕はこの春入社したばかりのぴちぴちの新入社員なのだ。今日も今日とて人間の魂を回収し、浄化して輪廻へ返すという誇らしい仕事をしている。

 その中でも僕の任された仕事は魂を回収すること。より多くの魂を回収すると社内での評価が上がるのでできるだけ多く回収したいと毎日頭をひねっていたのだった。


 僕は今日も外回りをするためにゲートへ向かい下界へ降りた。

 大きな通りに高いビルが立ち並ぶ。

 似たように仕事をしている人間がたくさんいて、携帯電話を片手にスーツを着こんでいる人が、あちらこちらにちらばっていた。


 僕は前回まで、下界へおりては、がむしゃらに「ウチで死んでくれませんか!」「死後安らかな魂を約束いたします!」と一件一件回っていた。しかし、世の中正直になんでもやることがすべてではないと学んだのはつい最近だった。

 もっとうまいやり方を見つけなければ。

 そう思い至り、僕は今日秘策を用意した。この開発部が作った新しい鎌なら、成績上位を狙うのも不可能ではない。

「今日こそは……」

 気合は十分だった。


「自分が死んだらどうなるのか見られる?」

 細い路地。薄暗いところで小さな机と椅子を用意し、看板を立てかけていた。まるで人間界にある道端の占い屋のような怪しさがあった。

「はい、実際に死にはしません。ただ、自分が周りがどんな反応をするのか気になったことはありませんか? 死にたいと思っているけどなかなか手が出せない……そんなあなたにとっておきなのがこの鎌なんです! この鎌でチクリと一突きすると身近な人や親しい人が自分が死んだらどういう反応をするか見られます。私は死にたい方々のために死をより身近に感じてもらうために、このサービスを行っているのです」

 中年の男に向かって少し早口で説明する。

「最近家族も冷たいし、働いても意味ないんじゃないかって思ってたんだ。いっそ死んでやろうと思ってたんだが……そうだな、まずはこれを試してみようかな……」

「ありがとうございます!」

 契約が成立したので、僕はその鎌の先を男にチクリとさした。

 僕も一緒にそいつの死後を眺める。家族だろうか、娘と妻が悲しんでいる。葬式で泣き崩れる親友らしき人物もいた。それらが走馬灯のように流れていっていた。

 5分ほどしてその男はパチリと目を覚ました。

「どうですか? こんなに悲しんでくれる人がいるとなると、死ぬことも悪くないなと思いませんか?」

「ああ……普段あんなに冷たいのに、こんなに悲しんでくれるなんてな……それが知れただけでもよかった」

 ありがとう、またくるよ、と言って中年の男は去って言った。

「ここのこと、みんなに教えてあげてくださいね!」

 その背中に向かって僕は叫んだ。


 どうやら噂はうまく広まってくれたらしく、次の日から死にたいやつらが行列を作るようになっていた。

「学校が嫌で死にたい……」

「会社がつらくて……」

「人間関係が……」

 理由は様々だったが、死にたいと思っていたけど少し死に抵抗のある人々がたくさん集まってくれていた。 やはり僕はいいところに目を付けた。少しずつ死に抵抗を感じる人々が少なくなっていった。それに死後の世界の観測は人間にとっては魅力的なようで、普段の違う一面を観測できるとかいって、リピーターも増えた。


 死疑似体験屋(?)をオープンしてから1週刊ほどたった。

「よし、そろそろ……」

 みんな死ぬことを恐れなくなっただろう。少しずつここについた固定客の魂を刈り取っていこうと決めた。

 今日一番最初の客は、あの中年の男だった。

「家族は相変わらず冷たいですか?」

「ああ、だけど今日も悲しむあいつらを見て心を満たすんだ」

「気に入っていただけてよかったです」

 それでは、といって今日はいつもの鎌ではなく、銀色の研がれた人を殺すための鎌を取り出した。

「相変わらず死にたい気持ちは変わりませんか?」

「ああ、死にたいかなあ」

「かしこまりました」

 いつも通り鎌をちょっぴり突き立てる。そしてそのあとに、思いっきり腕を振り下ろした。

 刃のあたった先から真っ二つにその人の身体は割れた。鮮血が飛び散る。

 ああ、いい仕事をしたと僕は心のそこから嬉しかった。

「やっと死にたい人をちゃんと殺すことができた!」

 この調子で魂を回収して、成績トップを目指そうともう一度意気込む。

 そうして次の客をよんだ。

「ヒッ……」

 あ、死体の処理を忘れていた。

「失礼いたしました。少し処理をいたしますのでお待ちください」

「あっ、あああああああ」

 そうしてその女性は叫びながら出ていった。

 それを見て次々と行列の人々が離れていく。

 そして誰もいなくなってしまっていた。


 死神界へ戻り、上司に報告をした。

「一個しか回収できなかったか……まあ仕方ない。まだ新人だしな」

 次頑張れよ、といって上司の説教はほどほどに終わった。

 僕はまた、新しい方法を考える。目の付け所は悪くなかったと思うのだけれど……どうして失敗してしまったのだろう。

「みんな死にたいって言ってたんだけどなあ……」

 どうやら僕が成績トップへ昇り詰めるのはまだ先のようだ。

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