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番外【もう1つの魔物暴走】sideリカルド

 立ち込める濃い魔素に僅かに俺は眉を潜め、警戒しながら討伐隊である冒険者たちと騎士団たちと綿密に打ち合わせを続けていた。

 

 

「散開せず互いをフォローしながらコア持ちをあぶり出すしかないな」

 

「はい。此度はご助力感謝致します。ライヘン騎士爵様」

 

「堅苦しい言葉は止めてくれ。今は一冒険者としてここにいるんだ。それに、いきなり来てこちらこそ申し訳ない」

 

「し、しかしっ……!」

 


 テーブルを挟み正面に居る立派な甲冑を纏い、ガッチリとした体躯を持ち毅然と立っている騎士団の副団長に固いなぁと苦笑いを零すと、冒険者側の責任者である銀髪の魔術師風の服装をした男も呆れるように止めに入った。



「騎士団の副団長殿。本人がそう言っているのだ。やめた方がいい」



 冷たい印象を与えそうな彼に静かに言われては、副団長も唸りながらも肩の力を抜いたようだった。

 助かったと思いつつ俺は最終確認をすると、彼らそれぞれのメンバーの元に戻り調整に入った。


 魔物暴走(スタン・ビート)

 久しぶりに聞く名と問題のダンジョンに俺は心配の種である息子リューリに思いを馳せた。

 アリア殿が居るから大丈夫だろうと思うものの、あの子にとっては初めての経験。緊張のし過ぎで普段の力が発揮出来ない事にならなければいい、無事でいて欲しいと色々と考えてしまう。



「報告! 北のダンジョンにて魔物暴走(スタン・ビート)発生! 戦闘に入りました!」



 少し離れたテントの中から慌ただしく出て来たのは、通信魔法石を管理していた冒険者ギルドの人間。

 その報告にこの場に集まっていた者達の目付きが変わる。



「総員、戦闘準備! 触発されここも始まるぞ!」



 俺は声を張り上げると即座に陣形を整える両陣営。

 S級冒険者として、いつの間にか助っ人のはずが、指揮を執る側に抜擢された俺の言葉にも意を唱えず動く者達に、内心有難く思いつつもリューリの無事を祈った。

 北のダンジョン。それは、リューリ達がいるダンジョンであり探索が進まなかった問題のダンジョンだ。イレギュラーも想定して討伐に当たらなければならない。

 しかし、此処を任された以上勝手な行動は許されない。首を軽く振って意識を切り替え剣を抜くと俺は陣営の先頭に立った。



 ーーグルキャャッー!



 咆哮が上がりダンジョンの脈動を肌で感じると、放たれてきた火魔法。

 しかし、咄嗟に張られた結界魔法によって弾かれたが、それが俺たちの戦闘の合図となった。



「気をつけろ! 通常の魔物より魔素を蓄えてるから頑丈だからな!」



 次々と溢れるように出てくる魔物共に各自咆哮をあげ我先にと先陣を切る。

 俺は目の前に振り下ろされたトロールの棍棒を剣で受け止めながら注意を促し、魔力で身体能力を底上げすると俺を潰さんとする棍棒を弾き返し、体制を崩したトロールの棍棒を持つ右腕を下から切り上げ、血しぶきをあげながらそれを切り落とした。



「グッ……!」



 小さな呻き声にそちらを見れば、右側を走っていた副団長が二体のオーガ相手に苦戦を強いられていた。

 視界の隅に虫型の魔物が水魔法を彼に放って来たのを見ると、俺は魔力を剣に纏わせその攻撃を切り捨てる。

 

 

「無事かっ!」

 

「うるらぁぁぁ!! 火剣『炎龍斬』!!」

 


 無事を確認しようと声をかければ、被せるように彼は声を荒らげて、彼のスキルであろう技で一体のオーガを横一文字に切り捨てると、続け様にもう一体を腹部から突き刺しそのまま炎上させ丸焼きにしていた。



「ふぅっ! リカルドさん、ご覧の通りまだまだ行けますぜ!」



 火の粉を纏い獰猛な笑みを浮かべる副団長に安堵の息をはけば、俺の後ろから羽を飛ばして来た鳥型の魔物に副団長は慌てるが、安心して欲しい。

 だてにSランクを背負ってる訳じゃない。



「剣技『双狼』」



 剣と鞘を抜き使い放った剣気は、二匹の狼を模して先程の鳥型の魔物と虫型の魔物を食い破るように倒したのだった。

 

 

「すげぇ……」

 

「ははっ、これくらいはな?」

 

「強固なる槍になりて大地の怒りを示せ!『岩の槍』! ……おい、なに、そこでのんびりしている?」

 

 

 俺と副団長の合間を縫うように飛んで蛇型の魔物を串刺しにした『岩の槍』に飛んできた方向をみると、冒険者ギルドの責任者である銀髪の魔術師の男が杖を構えたままこちらを冷たく睨んでいた。

 おいおい、風が切られた音がしたんだが? さっきのちょっと間違えたら俺らに当たって無かったか? 冷や汗が背筋を流れたが、口にしない。

 昔、嫁のイリスが切れた時と似た雰囲気を感じるのだ。これ以上、怒らせたらいけないと刷り込まれた勘が警鐘を鳴らす。

 しかし、そう簡単にはいかないのが世の常だ。

 

 

「おい! いきなりあぶねえだろが!」

 

 

 ぁあ! バカ! 突っかかるな! そう思い慌てて止めようとするが、突然感じた強い魔素に俺たちは一斉にそちらを見る。

 お出ましか!

 

 

「コア持ちが出たぞぉっ!」

 

「うらぁぁっ!」

 

 

 何処からか聞こえた声に触発されたのか、数人がかりでコア持ちの魔物へと突撃したようだが、俺たちが駆けつけた時には一命は取りとめているものの、怪我人が多数居て、立っている者も間合いを詰め切れていないようだった。

 

 

「ヤバいな……」

 

 

 辺りを見回し呟くのは、副団長だ。チラリとそちらを見ると僅かに気圧されている。おそらくコア持ちの魔物と対峙するのは初めてかも知れない。

 俺の前に居る冒険者の彼は落ち着いているな。

 

 

「……キングスライム」

 

「厄介な相手だ。物理は厳しいぞ、どうする?」

 

 

 通常であってもキングスライムは厄介な上に希少種。

 魔法であれば、攻撃は通るが威力は落ちる。物理なんてほぼ無効。

 

 

「確かに厳しいが、倒せない相手じゃない。キミはまだまだ行けるかい?」

 

「物量で押す気か?」

 

「一番それがシンプルで分かりやすい。なに、物理も魔力を貼り魔力剣としてならなんとか攻撃は届く」


「ただのキングスライムではないんだぞ?」


「あぁ、しかしアレがコア持ちである以上、殺るしかない」



 魔術師の彼とキングスライムを睨みながら話していると、副団長は炎を剣に纏わせ「俺はそのシンプルなのがいいがな!」と言いながらキングスライムに向かって走り出した。



「アイツっ!」



 慌てて魔術師が急いで保護魔法をかけると、副団長は勢いそのままに切りかかった。

 

 ーーギチギチっ! ぬるんっ!



「なっ?!」


「闇雲に突っ込むからそうなるんだ! 大地よ、我が意に従い仇なす者を撃て『石礫』! 下がれ!」




 スライムの特性の一つであるあの掴みどころのないツルンとしつつ弾力のあるあのボディのせいで、滑るか衝撃を吸収してしまう。それが、物理攻撃が効かないといわれる所以。

 そして、厄介なのは……。



「……やはり、回復も早いか」


「いや、あれは、回復というより吸収だ。現に副団長を攻撃されたと同時に取り込もうとしていたからな」


「吸収? なるほど、キミの声に即座に反応したから触れられた程度で済んだのか。足りない分は魔素を吸収してだな」


「あ、あぁ」


「ん? 何か間違っているか?」


「いや、間違っていない(……たったあれだけの情報でそこまで考えつくのか。やはり、侮れないな)」



 物量で押し切るにしても、俺達三人では周りをかばいながらは厳しい。


 

「『核』を的確に破壊するしかないな」

 

「時間をかけられる暇はないぞ」

 

「だな。なら、副団長! きついかも知れんが、絶え間なく奴を攻撃して吸収を遅らせ続けてくれ! 動ける者も副団長に続け!」

 

「了解した!」

 

「キミは俺のサポートを頼む」

 

「一番面倒な部分じゃないか。勝算はあるのか?」

 

「あぁ。俺の家にいる強力な助っ人の力がな」

 

 

 胸ポケットから取り出した真っ黒な魔石をチラつかせると、魔術師はなるほどと呟き、即座に術を唱え出した。

 これは、フェアリアルキャットのアリア殿が闇の魔力を込め作られた魔石。それぞれの場所へと別れる際、リューリから渡された。

 

『リカルド。それを守り代わりにでも持って行きな』

 

『これは?』

 

『アタシの魔力を込めて置いた魔石さね。使わない事がいいが、そうもいかないだろうからねぇ。使い方は知ってるだろう?』

 

『闇魔法の魔石。こんなに黒く漆黒と言うべき物は初めて見ました』

 

『ふん。アタシがわざわざ作ったんだ。そんじょそこらの魔石と比べるんじゃないよ(初めて作ったけど、上手く行ったー!)』

 

『ちなみにどのような魔法が?』

 

『使い勝手の良い『闇の帯』さね。ただ、あくまでも基本的にはだから、アンタの意思と込める魔力量次第じゃ姿は変わるかもねぇ』

 

『ありがとうございます』

 

『アリア、僕には?』


『お前さんはアタシが居るんだよ? 必要ないさね』

 

 

 リューリ、いいなぁと見てくるな。むしろ、こっちはある意味一番恐ろしい物を持って居るんだぞ。

 闇の魔石自体希少で、更にその色の濃さで強弱が決まる。漆黒レベルとなれば、最上位に値する代物だ。それをこんな簡単にポイッと渡されたんだ。俺の心情をわかって欲しい。


 そんな経緯があり受け取った闇の魔石。それを使う事態になるとはな。

 

 

「……いくぞ!!」

 

 

 俺の言葉に一斉に動き出し、キングスライムに攻撃を仕掛ける。保護魔法により俺自身へのダメージは無いが、気を抜けば吹っ飛ばされかねないがその心配も今は無い。

 走り出しながら闇の魔石に魔力を流せば、即座に黒く見慣れた布状の物が伸び、俺の周りに展開され俺を守るように導くように先導されて、伸びて来るスライムの触手を切り捨てつつ『核』を目指す。

 


「グレイウルフが群れできたぞ!」

 

「こっちはロックスネークだ!」

 

「ライヘン殿の邪魔をさせるな!!」

 


 騎士団、冒険者両陣営とも魔物暴走(スタン・ビート)で暴走する魔物共がコア持ちのキングスライムを守ろうと動くが、それを阻むように対峙する。



「『核』が見えたっ!」



 剣を構えると『闇の帯』が剣に纏って来る物、コアが逃げないようキングスライムの動きを突き刺ささり遅らせる物とまるで意思があるように各個動き、まるで俺にトドメをさせとばかりにお膳立てしてくる。

 

 

「(これはやるしかないな!)剣技『弧月嵐臥(こげつらんが)』!」

 

 

 一点突破型の突き技であるが、魔力は凝縮され威力は跳ね上がり乱発は出来ないものの俺の中ではとっておきの一手の一つだ。

  

(くそっ……! やはりまだちょこまかと核が逃げるっ!)


『まったく……。たかだかキングスライムにいつまで手をこまねいてるんだい?』


(アリア殿っ?!)


『いいかい? 奴はかなりの臆病者さね。だからああして何としてでも逃げようとする。コアさえあれば、どうとでも出来るからねぇ。アンタは逃がすのかい?』


(そんなつもりは無いですよ! 此処で討伐しなければ、更に被害は増え、コア持ちが居続けるだけで他の魔物の暴走も制圧出来ない!)


『なら、やるしかないじゃないか。アタシも手助けしてやるさねアタシの帯に言いな? どう動いて欲しいかをね』


(っ……!! そうか!!)


「『闇の帯』! 核を囲い逃がすな!」



 俺の言葉を聞くと剣に纏っていた帯は一斉にコアを捉え囲った。

 そして、俺は剣先に核を捉え破壊し、そのまま突き破ったのだった。

 


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……。やったのか?」

 


 剣技の型を解き後ろを振り向けば、ボトボトッと崩れ落ちるキングスライムだった液体。



「しゃぁぁっ! ライヘン殿がコア持ちを討ったぞっ!」

 

 冒険者の一人が雄叫びを上げるように皆に告げる。

 それに呼応するように雄叫びを上げ士気が上がった他の者達に応えるように、俺は片腕を天高く上げたのだった。

 

 

「……流石だ。アンタは治療を受けてくれ。コア持ちが居なくなれば、これ以上魔素も濃くならない。俺たちが狩り尽くす」

 

 

 魔術師の男が俺の傍に来て「腕、動かないんだろ?」と言いながら治癒をするように指示をする。

 

 

「よく分かったな」

 

「アンタは無理、無茶をよくして隠すのが上手い厄介な奴だからよく見といてくれと言われていたんだ。だが、残念ながら俺は治癒術は出来んからな悪く思うなよ?」

 

「誰だよ。そんな事言うのは……」

 

「アンタと国王の元パーティメンバーのギルドマスターと言えば分かるだろ?」

 

「……ゲリオスか」

 

 

 向かってくる魔物を土魔法で串刺しにしたりとしながら言ってくる彼にため息をして、大人しく治療を受ける。

 実際、あの剣技『弧月嵐臥』の反動で剣を持つのさえ辛かった俺には有難かったが、気付かれた事には驚いた。

 

 そして、治療が終わり動ける身体に戻れば俺も残りの魔物を片付けに走った。

 全てが終わり一足先に終わっていたリューリと合流したのはいいが、焼け野原は何が起こったんだろうか?

 

 

「……アリア殿。魔石ありがとうございました。」

 

「おや、役立ったようだねぇ」

 

「はい、助かりました。それと、アドバイスもありがとうございます」

 

「アドバイス? なんの事だい?」

 

「……え?」

 

「アタシはなーんもしてないさね。全てアンタの実力さ」

 

「しかしっ……」

 

「ふん。アンタが死んじまったらリューリが泣くからねぇ。だから、アタシは魔石をあげたんだ。それが役に立ったのならそれが事実であり、真実さね。裏事情なんてアタシは知らないよ(ヤバそうな気配が魔石から感じたからダメ元で念話してみたけど、出来てたんだねぇ。良かった、良かった)」



 アリア殿の隣に立ちながらそう俺たちは会話をしたが、まさかそのように言われるとは思わなかった。

 リューリの為とはいえ、あのフェアリアルキャットから魔石を貰えるなんて有難い事で名誉な事なのに大した事はしてない。というような態度に優しさを感じたのだった。

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