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番外編【ありし日の冒険者パーティ】

「おい、リカルド。 だいぶ深くまできたが、痕跡がねぇぜ?」

 

「あぁ、それは俺も気になっていた。 あれだけの目撃情報と被害があるのにみつからない」

 

「ふぅ……。 気になるのは、この魔素の濃さぐらいだわ」

 

 

 俺達、Sランク冒険者パーティ「瞬戦の牙」は現在、ある依頼の調査の為に樹海のような深い森を探索していた。

 

 本来、Sランクともなれば国お抱えの戦力を有している為、重宝される。 なお、高ランクともなれば、一つの国を拠点に活動するのがほとんどだが、俺達「瞬戦の牙」は違う。

 

 俺達は世界を見て回りたいという思いを根幹に、あちこち旅をしながら依頼を受けその報酬を日々の生活の足しにしていた。

 

 

「こうなると、益々あの噂が真実味を増してきたな。 この気味が悪いぐれぇに静まり返っているのも頷ける」

 

 

 パーティメンバーの一人、ゲリオスが自身の武器の斧を肩に乗せて周囲を見回した。

 

 

「えぇ。 用心にと多めに購入した、毒消しの出番がありそうだわ」

 

 

 ゲリオスの言葉に同意するメンバーの魔術師、イリスは杖を気合いを入れ直すように強く握り返す。

 

 

「『ブラックサーペント』か。 本当だったらかなりの高値で売れるぜ?」

 

「高値ねぇ。 それ、お前が言うか?」

 

「ふん。 今は一介のSランク冒険者に過ぎねぇよ。 稼げるならいい事じゃねえか」

 

 

 俺の隣に立ち軽口をたたくのは、メンバーであり立場的にこんな場所にいるのはおかしい、一国の王太子、マクシェルだ。

 

 なんで王太子が冒険者にとか、コイツになにかあったら俺達の首は、あっさりと胴とおさらば確定だな。とか、思う所は多々あれど、何だかんだと仲間思いであるし、最初の頃とは違って実力もちゃんと実践で発揮出来るようになった。

 

 いまでは、俺達のパーティに欠かせない一人となっている。

 

 

「おい! 噂は本当だったらしいぜ?」

 

 

 思考を飛ばしていると、茂みを漁っていたマクシェルが声を上げた。 そこへ全員集合して教えられた箇所を見れば、引きづった跡、微かに漂う毒のような香り。

 

 間違いない。

 

 

「イリス、風魔法で毒の残り香を消し飛ばして、追跡してくれ。ゲリオス、マクシェル、俺の三人は此処を起点に三方に別れてより入念に探索。 見つけたとしても深追いはせず、魔道具で居場所を知らせてくれ。 その際、直ぐに全員で集合しよう」

 

 

 緊張が走り全員が警戒レベルを上げながら俺の話に頷くと、それぞれが得意魔法を使ってイリスの探索補助しつつ、動いた。

 

 ーーーりぃぃんっ。

 

 しばらくすると、仲間捜索用魔道具『ベルベーリト』が静かに鳴った。 これは、同じパーティメンバー同士で各自一つ持ち歩き、はぐれたりした時に合流する目印として、鳴らすと同じパーティメンバーのみが聞こえる鈴が鳴る仕組みで各個音も違う。 使い切りだが、安価なのだ。 この音はイリスだ。

 

 

「リカルド! イリスが当たりを引いたようだぜ!」

 

「可笑しい。ゲリオスならまだしもイリスを起点にしているんだ。 なのに、イリスの鈴? マクシェル、戻るぞ! ブラックサーペントを侮るなよ!」

 

「わかってる!」

 

 

 俺達はイリスの元に合流しようと走り出した。

 

 

「キシャッーー!!」

 

 

 そこでは風魔法『風の楔』でブラックサーペントをイリスが捕え、口をゲリオスが放った鎖でぐるぐる巻きをして毒霧を無効化していた。

 

 

「ぐっ……っ! 大人しく口を閉じてろやっ!」

 

 

「二人ともゲリオスが持たないわっ! 早くブラックサーペントをっ!」

 

 

 俺達二人はアイコンタクトをするとそれぞれの武器である剣を抜き、俺は尻尾の方へマクシェルは喉元へと走り出した。

 

 

「はああっ!」

 

 

 暴れて肢体をくねらすブラックサーペントを掻い潜り、もう一つの脅威である尻尾の先端を狙うが、鋭く毒もあるため切り裂かれたら不味い。


 全身毒だらけなんて、冗談じゃない。 そのくせ全身余すこと無く素材として高値で取引されるので、一攫千金を狙って命知らずが後を絶たない。 今回の調査はこのブラックサーペントだ。居たら討伐。 居なければ念の為、隠避剤を撒くという物。



「おらぁっ!」



 遠くでマクシェルの声が聞こえる。



「リカルドっ!」


「チッ!」



 イリスの声に慌てて迫り来る尻尾を避けるが、避けきれず僅かにかすった。 すぐさま退避し毒消しを振りかけるが、効くまで痺れが僅かに残る。

 

 

「ぐっ……」

 

「下がって! 水魔法『水弾』! かったいわねぇ!」

 

 

 イリスが水魔法を放つが、あまり効いた様子もないが、退避するには充分な時間が稼げた。

 

 

「すまない!」

 

「グハッ!!」



「ギャッ!! キシャーッ!!」

 

 

 頭を振り回すブラックサーペント。 マクシェルは避けるが、鎖を持つゲリオスは振り回され近くの木に勢いよくぶつかる。


 そのせいで鎖は緩み怒り狂ったブラックサーペントはゲリオスに噛み付こうとした。



「ゲオリスっ!!」


「んのやろっ! させるかっ! 火魔法『炎の槍』!」


「風魔法『風刃裂破』!」



 マクシェル、イリスの二人の魔法が容赦なくブラックサーペントを襲う。



「シッ……。 シャァッーー!!」



 ダメージが入り痛みで仰け反り、後退するブラックサーペント。 だが、逃がすものか!



「纏いなぎ払え『剣気』!」



 毒霧を吐き応戦してくるブラックサーペント。 それを、剣気を飛ばして切り裂くと隙間を走り出す。



「させないわっ! 治癒魔法『祝福の加護』! 今なら毒は効かないわよ、リカルド!」



 毒霧を避けようとしたが、イリスの治癒魔法がそれを無効化する。 おいおい、この中を突っ切れって事か!



「無茶ぶりする魔術師様だ!」


「今更だろうがっ!」



 隣を走ってくるマクシェル。 その手にする剣は炎を纏っている。


 俺と同じように毒消しの魔法がかかっているようで、毒霧を突っ切る気だ。


 毒霧が効いてないと気付いたブラックサーペントは尻尾で俺達をなぎ払おうとするが、気付くのが遅いぞ?



「いい加減、そのうざってぇ毒霧を吐けねぇようにしてやるぜ! 『炎熱斬り』!」


「その尾も見切ってるぞ! 『剣気斬乱』! はぁぁっ!」


 

 俺達はそれぞれ首、尻尾をタイミングを合わせて同時に切り離すと素早く距離を取る。 奴は血さえ危険なのだ。

 


 ドシャァァッ!

 

 

 胴から切り離された首と尻尾が落ちるのを見て俺は剣をしまった。

 

 

「二人とも無事?!」

 

 

 自身とゲリオスを護るように水魔法『水璧』を展開しつつ、こちらを心配するイリスの声が聞こえてくる。

 

 

「全く、無茶ぶりさせておいて何言ってんだか」

 

「本当だぜ。 あ"ー……。 疲れた」

 

 

 俺達は互いの顔を見て二人の元に戻りながら、苦笑いをした。

 

 そして、全員が揃うと誰ともなく片手を上げハイタッチをしたのだった。

 

 

「はぁー……。 終わったな。 ゲリオス、傷は大丈夫か?」

 

「あぁ、イリスの治癒魔法でなんともねぇ」

 


 鎖でブラックサーペントの口を閉じていたゲリオスの力は本当に凄いが、大木に打ち付けられた衝撃の傷もある。 具合を心配すれば、苦笑いをして肩を回して無事をアピールするのを見れば、安堵の息を吐いた。



「帰る事を考えて今のうちに全員、ポーションを飲んでおいた方がいいわね。 次、大型が来た時の為に治癒魔法はなるべく使いたくないわ」

 

「あぁ、わかった。 っていうか、毒霧の中を突っ切らせたお前がいうな」

 

「あら、そのお陰で意表を付けたでしょ?」



 いくらなんでもと思い、毒霧の中を突っ切らせたイリスに文句を言うが、事も無げに肩をすくませ言い返してきた。


 肩に手を置かれそちらを見れば、マクシェルだった。 おい、首を横に振るな。


 そうして、しばし休憩を取った俺達はブラックサーペントを持ってきたマジックバックにいれようとしたが、ここでも問題が発生した。



「おい、胴体が入りきらねぇぜ」


「げっ、まじかよ」


「あら、困ったわ。 血は大瓶で五本もあれば充分だけど、ゲリオス、解体出来ないかしら?」



 俺達が持っているマジックバックで一番大きいサイズの一つに、血抜きして腐敗しないよう魔法をかけた頭と尻尾、瓶詰めした血を入れるといっぱいになってしまったので、もう一つに胴をと思ったが、さて、どうするか。



「ここで一泊、野宿をすれば解体出来るぜ?」


「ここで? どうにか出来ない?」



 イリスは嫌そうな顔をしてゲオリスを見るが、ゲオリスは首を横に振った。



「無茶言うな。 こんな高級素材をぞんざいに扱えば価値がさがっちまう。 だからといって一部を諦めるのは勿体ねぇ。 素材事に分けちまえば、かさが減るし解体料も上乗せ出来るってもんだ。 それに、新鮮で高級なブラックサーペントを食えるんだぜ? どうするよ、大将」


「ふむ。 この場で解体というのは少し危険だが、浄化して匂いも飛ばした上で出来る限り距離を置こう。 入る分だけなるべくそのまま入れて、入らない分だけ解体する。 それでいいか?」



 このままだと血の匂いに誘われ、他の魔物が来る危険性がある。 なので、ゲリオス、イリスにそう言うとそれぞれ違う意味でため息をして頷いた。

 

 そうして、俺達はブラックサーペントを出来るだけそのまま詰め込み、入らない分と言っても大人二人分くらいのサイズをマクシェル、ゲオリス二人がかりで背負って、その場をイリスの魔法と清めるために聖水を振りかけてから移動した。

 

 

「さて、ここまで来ればいいだろう。二人ともお疲れさん」

 

 

 ある程度距離を取り少し開けた場所に着くと二人はドサッとブラックサーペントを落としてしゃがみ込んだ。

 

 

「ちょっと、大丈夫? 風魔法で少しは楽に箱べたと思うけど、やっぱり重かったかしら?」

 

「そりゃあな。 んで、解体はリカルドと誰だ?」

 

 

 水を飲みゲリオスは、さっそく個人用のマジックバックから解体道具を取り出し作業に入り、それを見ながらマクシェルが俺に聞いてきた。

 

 

「あぁ、それなら俺がやろう。 マクシェル、イリスは野宿の準備をしてくれ」



 それぞれに指示を出してゲリオスと共に解体するが、その手さばきには舌を巻く。 俺達冒険者に解体スキルは必須だが、ここまで大型の魔物の解体を綺麗に出来る人物はそうそう居ない。



「リカルド、そっちを持っててくれ」


「ああ。 しかし、まさか本当にブラックサーペントが出るとはな」



 ゲリオスの解体を手伝いながらたわいない会話をする。 すると、何やら騒いでいるマクシェル、イリスに気が付いた。 俺はゲオリスと顔を見合わせると、ゲオリスはあっちに行ってこいというように手を振ったので苦笑いをして、その場を後にする。



「えぇ? 本当にこれが?」


「あぁ、間違いねぇって」


「何を話しているんだ? 野営準備は終わったのか?」



 何かの前にしゃがむマクシェルの隣には、一緒になって何かを覗き込むイリス。 一体何なんだ? と思いつつ声をかけると二人はこちらを振り返り場所を開けた。 すると、見えて来たのは小さな若木だった。



「ん? ……これが、なんだ?」


「カオの木だ」


「これが?」


「そう思うでしょ? でも、マクシェルは間違いないって」



 蕾を付けた小さな若木というか、苗木といってもいいぐらいのこの木が『あの木』なのか?



「マクシェルがそこまで断言するんだ。 念の為、根から採取して保管しよう。 戻り次第鑑定に出せば分かるさ」


 

 軽い気持ちで持ち帰えろうと言ったこの件がああなるとは、この時の俺は思いもしなかった。



「おめぇら! 解体が終わったぜ!」



 ゲオリスに呼ばれて集まれば、全ての解体が終わっていた。



「お疲れさまー」


「飯の準備も終わってるぜ」


 一番の功労者であるゲオリスに、労りの声を掛けながら水を渡すイリスに火を指さすマクシェル。

 

 

「よし! せっかくだ! ブラックサーペントを焼いて食うか!」

 

 

 普段なら決して食べる事の出来ない高級食材。

 思わずゲオリスの言葉に、全員で肉塊を見てしまう。

 

 ゴクッ……。

 

 正直に言おう。大変美味かった。今まで食べていた肉料理の概念が崩された。ただ、塩を降って焼いただけなのに、肉は柔らかくかといってパサついてなくしっとりしていた。味は薄味だが、逆にどんな味付けにも合いそうだ。美味い。確かに高級食材と言っても納得出来る。

 

 そうして、俺達は一夜を明かすと山を降り、依頼主である南の小国、ヤナグ国の冒険者ギルドへと向かい、依頼達成の報告とあの若木の報告をして、ギルド内が絶叫と興奮の声の嵐に見舞われるまであと数秒。

 

 

「懐かしいわねえ」

 

「ああ、まさかあの木が本当にカオの木だったとはマクシェルには驚かされたな」

 

 

 ライヘン家の庭が見渡せるテラス席で、お茶を飲みながらカオの実から作られた菓子、リューリが言うには『チョコレートケーキ』と名付けられたお菓子を食べながら、妻のイリスと思い出話をゆっくりとする。

 

 先日はブラックサーペントの肉。全く我が息子ながら驚かされる。アリア様が来てから色々と騒がしくなったが、悪くない。

 

 

「このチョコレートケーキ、ほんと、美味しくて幸せだわぁ〜」

 

 

 イリスが幸せそうに笑顔を見せるのを見ながらゆっくりと穏やかな一日が過ぎて行ったのだった。

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