番外編【魔法授業】
魔法、それはこの世界にとって決して切り離せない超常現象の一つ。 様々な分野に枝分かれしており、なんでこんな変な魔法が?というバカバカしい物から天変地異、自然界の法則さえ無視してしまうような禁術まで多岐に渡る。
始まりは神話時代にまで遡るが、人は自然界ではあまりにも弱者だ。 その弱者が今日まで生き残る為、進化の過程でこの世界のエネルギーたる《魔素》を自身に取り込みそれを自身の力として発展してきたのが、魔法と呼ばれる物だ。
「ーーーというのが、魔法の始まりよ? 魔法という名称さえ人によって名付けられた物なの。 さて、リューリ、ヘレン。魔法の属性っていうのはどんな物があって、それぞれ分類分けするとしたらどんな物があるかしら?」
イリスの話を屋敷の一室に用意されている、ソファのクッションの上で丸まり、初めて聴く内容に聞き耳を立てて居る私の前には、兄妹が机に向かって絶賛勉強中。
この世界で、最強種に属する私がなんでこんな事になっているのかというと、遡る事数時間前、リューリが日向ぼっこをしていた私の元に息を切らせて来たのだ。
「はぁっ、はぁっ……。 アリアっ、ヘレンを見なかった?!」
「んぁ? ふぁぁ〜っ、見てないよ?」
欠伸をして見てないと首を横に振れば、ガックリと分かりやすく肩を落としたリューリ。
何があったのよ。
「魔力探知で探ればいいじゃないか」
「まりょくたんち? 当たり前のように言うけど、僕そんなの出来ないから行きそうな所を片っ端から探してるんだよ……」
「おやおや、仕方ないねぇ。 いい機会だし教えるから覚えな。 それにしても、なんで探してるんだい?」
日向ぼっこしていたベンチから私は降りると、リューリから少し離れて、魔力探知をしようと魔力を解放しながら問いかけた。
「あー……。 それは、ヘレンって魔法が苦手でしょ? んで、母さんが定期的に教えてくれてるんだけど、長時間座ってるのが嫌いなヘレンはよく逃げるんだ……」
あら、意外な事実。 ヘレンちゃん、私と居る時はそんな素振りを全く見せなかったし、遊びがてら見せた魔法を嬉々として覚えてたんだよなぁ。
そんな事を思いつつも魔力探知の網を広げると見つけたヘレンちゃんの魔力。
「ん、見つかったよ。 あの子、庭師と一緒に居るねぇ」
「はやっ! えっ、どうやったの?」
「はぁー……。 この魔力探知は魔法を使う者なら大抵取得するスキルさね。 やり方としては、まず自分を中心に自身の魔力を網とイメージする。 虫取り網じゃないよ? 例えるなら、魚取りに使う投網かねぇ。 それが出来たらその魔力の網を広げるんだ」
私に言われた通りにその場で目を閉じ、魔力探知を始めるリューリ。
「流す魔力が多い。 それじゃ、自分の場所を感知されていると、解った相手に自分の場所を逆に教えてるようなもんだ。 もっと薄く広げ均等に魔力を流す」
相変わらず人間の子供にしては魔力が多いねぇ。 全く、今は私の魔力で隠れているけど、それが何時覚醒して、私と同等もしくは超えるか分からない。
そんな事を思われているとは知らず、リューリは私に言われたように、放出している魔力を調整していく。
「そうそう……。 そんな感じ。 動物と植物では保有する魔力は違う。 また、魔物と人間でも違う。 感じ取った魔力を振り分けるんだ」
「っ……。 難しい……」
「まぁ、後は慣れだね。 コントロールを身につけたアンタなら出来ないはずは無いさ」
リューリは保有魔力量が多い為、細かなコントロールが苦手だが、それは成長と共に多少はやりやすくなるだろう。
でも、魔力コントロールはリューリにとって必要な事だ。 無駄な争いを避けるにも繋がるし、自身の魔力を暴走させる危険性が減る。
「あっ! 見つけたっ! たぶん、ヘレンだ!」
「ふむ、出来るようになったみたいだねぇ。 これをもっと使い慣れれば、魔力で鍵の掛かった物や魔法陣など、魔力の流れがある物に対して流れを読み解き、解析とか解除が出来るようになった奴も居るさね」
「そこまで出来るんだ。 アリアは出来るの?」
「私が出来るのはせいぜい特定した相手をピンポイントに感知するぐらいさ。まぁ、私という中身が入ったから改めて覚えてもいいかもと思ってるよ。 さて、出来るようになったなら、さっさとヘレンちゃんのお迎えに行くよ」
そして、ヘレンちゃんを魔力探知で発見したリューリに付いていきヘレンちゃんを回収。 私は道連れとして私まで勉強に参加となったのだ。
「えっと、分類としては精霊魔法、儀式魔法、集団魔法、黒魔法、白魔法?」
「お母さん、生活魔法は分類分けには?」
「ヘレン、生活魔法は何かしらの精霊の力を行使するから精霊魔法の一部よ」
分類分けねぇ。 私はというよりフェアリアルキャット様は気にした事ないみたいね。 覚えられる魔法を片っ端から覚えてるみたいだし。
「精霊魔法というのは私達魔術師が基本的に使える魔法の総称で、何があるかしら?」
「えっと、アリアとお兄ちゃんが使ってる火、闇、風でしょ?」
「うん。 僕の適正は火だからねイメージもし易いし使いやすいんだ。 あとは水かな。 理由は火と同じだよ」
「ふふっ……。 適正があるとその精霊魔法を使いやすいのよ。 まぁ、適正がない他の精霊魔法も使えるようになるけど、手こずったり適正がある人より威力が弱かったりしてしまうわね」
「あれ……? アリアは他にも色々行使出来てるよね?」
ふとリューリが私の方に振り向き聞いてきたので、隠す必要もないので私はソファから降りるとイリスの隣へと移動した。
「私の適正は闇さね。 まぁ、イリスが言ったように適正が無くても他の魔法は扱えるけど、私の場合は魔力が高くコントロールも出来るから威力は問題ないさ。 ただ、自分の感覚と込める魔力の量が変わってくる。 イリス、アンタの適正は?」
「私は風、水、地ですね」
「ほぉ、それだけ適正があるのは人間では珍しいんじゃないかい?」
「よく言われます。 なので、治癒魔法も覚え易かったですね」
私達の会話がいまいち分かってないヘレンちゃんは、きょとんとしていた。
「ヘレン、治癒魔法の分類は白魔法とわかるわよね?」
「うん」
「治癒魔法を覚える時、風、水、地のどれか一つでも適正があると覚えるのも楽だし行使するとき威力が上がるのよ」
「ほぇー……」
そうなのだ。 だから、私の場合は治癒魔法はあまり使いたくないのだ。 他のに比べて更に繊細だし、魔力消費も多い。 同じ理由で、白魔法に分類される浄化魔法、状態異常回復魔法、解呪魔法、結界魔法が上がる。
まぁ、あくまでも基本的にはという感じだが。
「じゃぁ、僕も治癒魔法は覚えられるのかな?」
「そうね、水適正があるから可能ではあるわ。 ただ、本当に使えるかどうかは本人のセンスになってしまうから、絶対とは言えないわね」
「お母さん、私の適正はなんだっけ?」
「あらあら、しょうがないわね。ヘレンの適正は確か、風と光ね」
へぇー……。 意外な組み合わせだ。 ちなみにこの世界の人間は、基本的に二属性の適正を持つ。 三属性適正のイリスは珍しいのだ。 四属性適正以上となるとそれこそ魔族とかでも上位の者になる。 居ない事はないが、あまり会いたくないほど強者である。
「風適正があるから覚えられない事はないわね。 ただ、治癒魔法より結界、浄化魔法のほうが良いと思うわ」
「なんで?」
「光属性があるからさね。 あれらは治癒とはまた少し違うからねぇ」
私の話に眉間に皺を寄せて悩むヘレンちゃん。 可愛らしい顔が残念に見えてしまう。
「精霊魔法にも威力と習得の難しさから段階が分かれていて、更に派生属性もあるわ」
「精霊魔法の上級は全て黒魔法に分類されちゃうんだよね?」
「えぇ。 上級はそれほどまでに危険で難しいのよ。 水属性でも上級になると、魔力水と呼ばれる物に変わってしまって、意図して飲む事は出来ない毒物になってしまうの」
「集団魔法でやっと最上級魔法を放てるんだよね?」
「えぇ、そうよ」
「………アリア。 この間のブラックサーペントに使った魔法ってなんだっけ?」
リューリがイリスの説明を聞いては口元を引き攣らせ私に聞いてきたので、記憶を遡る。
「あれは……。 餌をよく狩るのに使う『死の氷』だねぇ。 保存が効くからよく使うさね」
「まぁ! 流石、アリア様だわ! 『死の氷』なんて私達、人族では現在、出来る方はいません! はぁぁ、間近でそれを見たかったわぁ」
リューリはやっぱりと疲れたように頭を抱え、イリスは目を輝かせ興奮したように、私の両前足を握る。 意味不明な展開になったものだ。
いや、だってねぇ? フェアリアルキャットの記憶では当たり前に使っていたから気にした事無かったもん。 私、悪くない。
「アリア……。 頼むから使う魔法は考えて……。 あまり強力な魔法使われると、こっちが恐い……」
「えぇー……。 めんどくさいねぇ」
「アリアはそんなに強い魔法を使えるの? 凄いねぇ!」
「ふふん! そうだろそうだろ! 言っとくけど、私だって最初からこうじゃなかった。 私ら魔獣や魔物の世界は弱肉強食。 生き残りたければ、知恵と力を身につけ無ければ狩られるだけさ。 だから、長い時をかけ適正属性のない魔法も覚えた」
「アリア……」
「いいかい? 苦手だから……。 相手が自分より強いから……。 と、理由付けすれば逃げるのは簡単さ。 でもね、世界はそんな甘いもんじゃない。 人間は弱い。 でも、弱いなら弱いなりに舐められないよう知恵を付けな。 力が無ければ力を付けな。 そうすりゃ、身に付けたそれ等はアンタら自身を裏切らない。 無様に地べたを這ってでもボロボロになっても逃げずに生き残ったらいいんだ。 それでも、逃げたくなったりどうしようも無くなったら私を呼びな? 私が力になってやるさね」
本当は逃げたっていいと言ってあげたいけど、この世界は本当にそれさえままならない時もある。 だからこそ、あえてそれは言わない。
ライヘン親子は私の言葉を静かに聞いていた。
「ふふっ……。 私達には頼りになる凄い方が側にいてくれて嬉しいわね」
「うんっ……!」
「わ、私も魔法は苦手だけど頑張る!」
イリスの優しい笑顔に子供たちはそれぞれ思う事があったのか力強く頷いたのだった。