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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
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迷い

『おおっ!』


 無事無罪を勝ち取り、聖人となったフィリア。これで後はツクモを待つばかりとなったのだが、かなり夜が明けかなり眠い中、恒例となった“リリアの何かやれ”が行われていた。


「どうですか! これが私が手に入れた力です!」


 聖刻の力は基本的に同じ物。だがエヴァの言う通り、その力の使い方は個人個人違うようで、フィリアはジョニーとはまた違うバリアの力を披露した。


「凄いですフィリア! もう一度やって下さい!」

「分かりました!」


 フィリアの力は、不明だった。何故なら、フィリアが今見せた手に入れた力というのは、拳で石を砕くというものだったからだ。それはもうバリアとか関係なく、ただの力技だった。


「フンッ!」


 “ドゴッ!”


『おおっ!』


 結構大きな石……というか、もう岩に近い大きさを拳一つ、一撃で砕くフィリア。確かにその力は神がかっていたが、全然最強の盾と呼ぶには無理があった。


「それは一体どうやってやっているんですかフィリア!」

「魔力で筋力を瞬時に最大まで高めて、その勢いでやっているんです!」

「おおっ! 流石フィリア!」


 全然流石じゃなかった。それはもうただの力技で、ミカエル様の力は全然関係なかった。

 

「な、なぁ、フィリア?」

「はい? どうしましたリーパー?」

「ミカエル様の聖刻の力って……バリアみたいなもんじゃ、ないのか……?」

「そうですよ?」

「そ、そうか……」


 それが何か? みたいな顔をするフィリアだが、何故俺がこの質問をしたのか理解していない姿には、それ以上返す言葉が無かった。


 皆もちょっとずつフィリアの矛盾に気付き始め、次第に微妙な空気が流れ始めた。それを察したのか、ようやくエヴァが口を開く。


「多分フィリアは、手袋のような形で薄いバリアを張ってるんだ。だから手を傷める怖さが無いから、全力で拳を振り抜けるんだ」

「なるほど……」


 ミカエル様の力は絶対防御。確かにそれを使えば、グローブ以上の防具になる。しかしだ。エヴァは言っていた。『影なる者はその力を相手を傷つけるために使う』と。今のフィリアは正にそれだった。


「お、おいフィリア? ほ、他の事は出来ないのか?」

「え?」


 やってることややって来たことは完全に影。いつものフィリアに見えて実は影なんじゃないのかと不安になると、嘘だと言って欲しかった。


「残念ながら、今の私に出来るのはこれくらいです」


 畜生っ! これじゃもう影と認めざるを得ない!


 姉だと思っているフィリアが生まれ持っての影だと分かると、無性に悲しくなった。


「でも、もう少しなれればもっと違うことが出来ると思います」

「おおっ! 本当ですかフィリア!」

「はい。上手くいけば、バリアみたくリリアたちを守ることも出来るようになると思いますよ?」

「おおっ! では、ピンチの時はお願いしますねフィリア!」

「任せて下さい!」


 本来はバリアが先。フィリアが俺たちを守るバリアを張れれば、この先の旅はかなり安全な物になる。なのに先ず攻撃力を上げることに力を使うフィリアは、稀代の影だった。これなら正直ジョニーを残していた方が良かった気がした。


 そんでももうジョニーは行っちゃったし、楽観的に考えれば攻撃は最大の防御と言うし、最悪敵が現れてもフィリアを矛として使えばそれなりに守りにもなる。そのうちバリアも覚えるだろうと諦めるしかなかった。


 しかし一番の問題はそこにはなく、ここで向き合わなければならない話になる。


 フィリアの食事も終わり、一段落付くといよいよエヴァが本題に入る。


「んじゃ、この先どうする? 誰がフィリアと行く?」


 フィリアが戻り、明るい気分を取り戻した俺たちだったが、皆考えてはいないわけではないが誰もそこには触れないようにしていた話に、一気に表情は固くなった。


「わ、私は、フィリアと行きます」


 普段は周りの目を気にして自分の意見をなかなか言えないリリアだが、こういう重要な場面では率先して明確に自分の意思を示す。

 それは道を示すカリスマのようで、続いてヒーが口を開く。


「私もフィリアたちと行きます」


 リリアとヒーがフィリアを選ぶのは分かり切っていた。これには誰も驚かなかった。


 続いてフウラとマリアが口を開く。


「私は、ツクモと行きます」

「私もツクモと行く!」


 フウラとマリアは、ツクモを選んだ。三人は元二組だったし、普段からそれもあり仲が良かったのは皆知っている。だけどここでの別れはかなり辛い想いがあり、二人がツクモを選んだことよりも、別のルートを選んだことへの寂しさで驚きにも似た空気が流れた。


 この二人の選択により、一気に班分けが終わるかと思ったが、次に続く意見がなかなか出なくなった。


「…………」

「どうした? 他はどっちと行くんだ?」


 一気に静まり返った状況でも、エヴァはそれを許さず意見を求める。それはかなりサッパリしていて、経験の豊富さを感じさせた。


「こんなところで考えてる暇は無いぞ? ここで躓いてるようじゃ先は続かないぞ?」


 エヴァの言う事は分かる。だがそう簡単な話じゃなかった。


 俺としてはリリアとヒーにくっ付いて行くのが正解なのは分かっていた。しかしそれだと実の妹のマリアとは離れる事になる。それに、まだ出て来てないツクモを置いて行くというのも気が引ける。今の状況からツクモが影になる可能性は低いと思うが、それでもツクモが出て来てから決めた方が良い気がしていた。


「エヴァはどうすんだよ?」


 決めたくないが故の質問返し。ここでどうこうしても決めなければいけない事項なのだが、どうしても答えが出せずのその場しのぎだった。


「俺とファウナは、お前ら全員が決めたら決める」

「なんでだよ? それはズルいだろ?」

「バランスだよ。下手に偏るようなら振り分けなけりゃならない。それに、俺たちの意見でお前たちの考えが変わったら困るだろ?」

「…………」


 完全に俺の保留を見透かされていた。これは観念するしかなかった。しかしクレアだけは違った。


「何故だ? 何故エヴァとファウナだけでバランスを取る必要がある? リリアたちとフウラたちで班が別になることが分かれば、後は振り分ければ良いだろ?」

「それは駄目だ。ジョニーを見ただろ? 聖刻同士は相性で引きつけ合う。自分が選んだ方じゃなきゃいずれ分裂が起きる」

「それならエヴァとファウナが後で決めるのは、間違っているだろう?」

「間違っちゃいない。俺たちはもう聖刻は貰えない。だから俺たちはより生き残る方を見極めるだけだ」


 もう聖刻は貰えない。この一言で全員の表情が曇った。


「どういう事だよエヴァ? エヴァたちは聖刻を貰うために訓練してきたんじゃないのか?」

「リーパー……お前、本気で言ってるのか?」

「え?」


 俺は正しい事を言ったつもりだった。だが何かが違うようで、エヴァは“えっ⁉ マジで言ってんの?”みたいな顔をした。


「ど、どういうことだよエヴァ?」

「ん~……フィリア。今のお前なら分かるだろ?」

「はい」

「なら、俺の代わりにリーパーに教えてやってくれないか? リーパーには一度見せてるんだが……リーパーはあんまりこういう事は苦手みたいなんだ」

「え? 本当に良いんですか?」

「あぁ。もう皆にも教えても良い」

「……分かりました」


 この空気の中、俺だけが良く分かってないという感じは、なんか教室で皆の前で怒られているという嫌な感じがした。

 

 エヴァから指示を受けたフィリアは、多少の戸惑いを見せたが、ファウナも良いと頷くと説明を始める。


「皆さん、驚かないで聞いて下さい。これから大切な事を伝えます」


 急に畏まるフィリアに、緊張が走った。


「実は……エヴァとファウナは、その……何と言うか……実は二人は元英雄で、エヴァはリーパーのお爺ちゃん。ファウナはクレアのお婆ちゃんなんです」


『……はぁ?』


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