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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
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「おぉっ!」


 ジョニーがあれやこれや言って一通り話が終わると、そこからはリリアの何かやってタイムが始まった。

 優しいジョニーは当然それに応えるために、今貰って来たばかりの聖刻の力を披露した。


「お、ぉぉ……」


 ミカエル様の聖刻の力は、やはり聞いていた通りバリアを張る力だったようで、ジョニーは薄黒く半透明なバリアを張り、その力を見せつけた。しかしそのどれもが貰ったばかりという事もあるせいか中途半端で、あのリリアがずっと微妙な声を上げるほど陳腐な手品を見せられているような感じだった。


「こんなことも出来るぞ」

「おっ! お、ぉぉ……」


 拳を包むバリアから始まり、体を包むバリア。そして今度は手に持つフォークを包むバリア。部位から体全体、そして武器にまで付与できるバリアは絶対防御を誇り、確かにそれだけならチート級の能力だった。

 だが拳も体もフォークも球体でしか包めないし、サイズにも限界があるようで、体に関しては胸より少し上をヘルメットのように防御するという、非常に完成度の低いものだった。それに維持時間もかなり短く、今のジョニーでは頑張って五秒くらいが限界で、力こそは凄いが、全然ピストルを持った人間の方が強いように感じた。

 

「今はこんなところだ。訓練すれば範囲も時間もまだまだ良くなる」

「そうですね! まだ貰ったばかりでここまで出来るとは、さすがジョニーです!」


 リリア的にはかなりガッカリしたはず。だけど素直にジョニーの努力を認める姿には、本当に良い性格をしていると思った。


 何はともあれ、これで俺たち三年一組は最初の聖刻を手に入れた。後はフィリアとツクモの帰りを待ち、全員が揃えばジョニーたちのレベルアップをしながら次の聖刻を目指す旅が始まる。そう思い一息ついたのだが、ここでまさかの人物が登場すると、一気に話が変わった。


 やっと落ち着きを取り戻した俺たちが、またさっきと同じように下らない雑談をしていると、物々しいSPに囲まれてキャメロットの王子であるイーサンとフラヴィ王子が祠に姿を現した。


 最初はいきなりの登場に全員が驚いた。だがその物々しさや王子という立場から、俺たちの労いか激励かは知らないがそんな感じで来たのだろうと思うと、ざわつきは直ぐに治まった。


 現れたイーサン王子とフラヴィ王子は、SPが安全を確認すると俺たちの元にやって来た。

 これにはやはり労にでも来たのだと全員が畏まったが、イーサン王子はあらぬことを言い出す。


「どうやら待たせてしまったようだな、兄弟」


 兄弟⁉ 


 突然出た兄弟発言には、全員が顔を見合わせた。それはまさか俺たち三年一組の中に第四の王子が潜んでいたという衝撃を意味し、ほんの僅かな時間で全員がウィラの顔を見るほどだった。


 しかし!


「いいや、俺が早かっただけだ。気にするな兄弟」


 ウィラが第四の王子であるはずが無く、まさかのジョニーが兄弟だった。っというか、本当の意味での兄弟ではなく、筋トレ仲間の兄弟という感じで、まぁ結局、筋肉兄弟だった。


 ジョニーとイーサン王子は、キャメロットでは仲良しだった。暇さえあれば筋トレ。休みになっても筋トレ。朝起きて筋トレ。夜寝ても筋トレ。息をするように筋トレと言っても過言ではないほど常に一緒に筋トレをしていて、俺たち兄妹と一緒に過ごす以上に筋トレ三昧だった。

 その度合いは、リリアやヒーがたまにジョニーが恋しいみたいな事を言うほど頻繁で、何度かイーサンとジョニーの二人が話しているのを聞いたことがあるが、やれあのプロテインは語り掛けてくる、やれ今日の二頭筋は苦難を求めている、やれ大きくなったな、など、常軌を逸した会話をするほど狂っていた。


 それは全員が知る事実で、一瞬「えっ⁉ もしかしてウィラが王子だったの⁉」的な空気が流れたが、すぐに皆この意味を理解して事なきを得た。


 しかしこの異様な兄弟。一体何をしに来たのか、先ずはいつものみたいな感じでワールドを広げる。


「随分と傷を負ったようだな? 繊維は大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。イーサンが考案した、叩いて鍛えるというトレーニングが役に立った。やはり兄弟は凄い。お陰で鋼鉄の肉体を手に入れた気分になった」

「はっはっはっ! そうだろう? やはり筋肉は鉄と同じということだ! はっはっはっ!」

「そうだな」


 普段二人は、一体どんなトレーニングをしているのだろうか。二人が裸で叩き合っている姿を想像してしまうと、キモかった。


「どれくらい休養が必要だ?」

「傷はそれほど深くはない。三日もすればジムに行けるだろう」


 何故ジョニーは怪我が治ったら真っ先にジムに行こうとしているのか謎だった。


「三日? それは駄目だ。三日では傷は消えない。跡が残っては大変だ」


 何故イーサンは傷跡が残ることを懸念するのか謎だった。


「成長すれば傷も消えるだろう。それに、傷がある体もまた美しいはずだ」


 多分成長とは、筋肉が肥大すればという意味。だけど多分それは無理。


「違うぞジョニー! 美しさとはそのフォルム! 本当の美しさはシルエットだけでも伝わる! 傷などという物で誤魔化すのは二流でしかない!」


 筋肉に対しては相当熱いのか、イーサンは声を荒げる。


「そうだったな兄弟、済まない。やはり休養には二か月……いや、半年は必要だ」


 そんなに休んでいたら傷が治る前に世界が終わる。っというか、この二人はどこを目指しているのか知らないが、完全に筋肉に憑りつかれていた。


「そうか。ならば休養が先だ。キャメロットに戻り、治療を受けるんだ」

「だが……俺たちには時間が無い」

「大丈夫だ。休養していてもプランは練れる。時間の無駄ではない」

「そうだな」


 イーサン兄の優しさが嬉しいのか、ジョニー弟は穏やかな表情を見せる。


「それに、キャメロットには多くの知識人と、最高の医師団もいる。体を休めつつも力の扱いを学ぶこともでき、思うよりも早く回復するだろう」

「分かった。イーサンを信じよう」


 な~にが分かったのかは知らないが、ジョニーたちは話がまとまったようで、なんか勝手に二人で盛り上がる。

 そんでなんか勝手に結論が出たようで、話が終わるとジョニーは突然別れを切り出す。


「そういうわけだ皆。俺はこの先、イーサンと行く」

『えっ⁉』


 なんか二人で筋肉祭りで盛り上がっていると思っていた俺たちは、ジョニーの発言に驚いた。


「な、なんでだよジョニー⁉ 俺たちまだまだ行かなけりゃいけないとこあるんだぞ⁉」

「そうですよジョニー! それに私たちは命を狙われているんですよ⁉ 皆で行動した方が安全ですよ!」

「そうです! まだフィリアたちだって戻ってきていないのに!」


 折角無事に戻って来たのに、ここでまさかの別れは辛すぎる。命がけの旅になる以上、下手をすれば永遠の別れになり兼ねない。


 俺たち兄妹は必至でジョニーを止めた。


「大丈夫、姉さんたちは必ず試練をクリアして戻る。だからこそ俺は一緒には行けない」

「どういう事ですか⁉」

「エヴァが言っていただろう? 同じ聖刻同士は奪い合うと」

「……ですが!」


 忘れていたわけじゃない。それでも今の俺たちは納得できなかった。


「同じ聖刻を持つ俺たちが一緒にいれば、いずれは奪い合う。それならヒーたちには姉さんが付いていた方が良いだろう?」

「……そ、それは」


 こんな時にこんなことを思うのはアレだけど、正直この先どちらかを選べと言われたら、断然フィリアの方が良い。それはリリアもヒーも同じようで、あれだけ強く反対していたヒーですら反論できなかった。


「で、ですが、何故イーサン王子たちなのですか? 例え非力でも私たちは加護印を持っています。ここは三年一組の中で班分けしても良いのではないのですか?」


 確かにヒーの言う通り、フィリアもツクモも聖刻を手に入れて戻って来るなら、三班に分かれて行動した方が良い。そうすれば互いに連絡を取り合う事も可能で、上手くいけば協力も出来る。


 このヒーの案には、俺たちだけじゃなく他の三年一組のメンバーも納得のようで、声には出さないが頷く。

 そんな俺たちに、ジョニーは何か納得したのか、数回小さく頷くと言う。


「そうか、まだ知らなかったのか」

「何をだよ?」

「イーサンもそうだが、フラヴィも加護印が出ているんだ」

『えっ⁉』


 衝撃の事実! というか、元々イーサンたちは、“キリア家”が英雄になる前は、ウリエル様の聖刻を持つ英雄の子孫だから出ては不思議ではないが、まさか加護印が出ていたとは驚きだった。


「本当……」

「それに感じるんだ。遠い何処か、今はまだ分からないが、誰かが俺を呼んでいるんだ」

「待て待て待て! まだイーサン王子たちの加護印の話が終わってねぇ!」


 聖刻を授かるとなんか感じるらしい。だけど遠い目をして、イーサン王子たちの加護印の話をさらりと流そうとするのとは全然関係ない。


「兄弟の加護印の話は事実だ。特にこれ以上話すことは無い」


 確かにイーサンたちのどこに加護印が出ようと、出ているならこれ以上深堀してもほとんど意味はない……いや、フラヴィ王子に関しては結構重要だった。


「そ、そうかも知んねぇけど……」

「それよりも、今皆がしなければいけない事は、この先姉さんとツクモが出て来た時、どう班分けするかを決めておくことだ。姉さん達も必ず俺と同じことを言う」

「…………」


 これは最初から分かっていた事。だけど心のどこかでは全員で旅ができると思っていたため、考えたくも無い事実に全員が口を紡いだ。


 それを見てジョニーが言う。


「まだ時間はある。全員で良く考えて決めるんだ。なぁに心配ないさ、俺たちは必ずまた会える。そのために行くんだ」


 その保証は一切ない。おそらくここで別れれば、この先もう二度と会う事も出来なくなる可能性もある。それはジョニーだけでなく、先に分かれたキリア、アドラ、パオラの三人にも言えた事で、これ以上の別れはかなりの苦痛を伴う。


 分かっていた事だが、いよいよ決断に迫られ、三年一組は重たい空気に包まれた。


 それでもこの道を選んだ以上避けては通れぬ道らしく、ジョニーは腰を上げた。


「じゃあ、そろそろ行く」

「ジョニー……」

「大丈夫だリリア、ヒー。俺はちょっと出かけてくるだけだ」


 ジョニーが行こうとすると、止めるように立ちふさがったリリアとヒー。その表情はとても悲しみに溢れていた。


「携帯だって通じるし、またすぐに帰ってくる。いつもの練習と変わらないよ」


 ジョニーは家の道場の都合で、よくあちこちに遠征に行っていた。その期間は長い時で二週間ほどで、俺たちの中ではジョニーが一番離れている期間が長かった。ちなみにフィリアは、やる気が無いから全くと言っていい程そういうのには行かなかった。


 またいつもと変わらず戻って来る。そう言ってリリアとヒーを説得するジョニーだったが、そこには嘘が隠れているようで、二人の頭を名残惜しそうに撫でた。


「じゃあ行ってくる。元気でな」


 ジョニーにとってもこの別れは相当覚悟がいるようで、最後にそう言うと二人を抱きしめるように肩に手をまわした。


 初めて見せたジョニーの兄らしい姿。この時俺は初めてジョニーを本当の兄だと思った。リリアとヒーも多分そう。だからこそ二人は大人しくジョニーに包まれ、それ以上離れる事を拒まなかった。

 そして二人から離れるとジョニーは俺に近づき、肩に手を乗せ『後は任せた』とだけ言った。


 “頼んだ”ではなく“任せた”。そこには俺を認めているという信頼を感じた。しかしそれと同時に、なんだか別れの言葉のような気がした。


 だけど……イーサン王子たちと去るジョニーの背中はとても大きく見え、俺たちの兄の逞しさになんだか誇らしくなった。



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