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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
96/186

最愛

「おいジョニー。お前本当に聖刻貰えたのか?」

「さっきも見ただろう? きちんと試練には合格した」


 ジョニーの治療が終わると、俺たちは皆の元に戻りやっと夕食にありつけた。そこで落ち着いたこともあり、雑談が始まった。


「でもよ、お前戻んの早過ぎね?」


 ジョニーは二時間ほどで試練から戻った。その速さは聖陽君でさえ半日掛かる程なのに異常だった。それこそ今でも逃げ帰って来たと思うほどで、さっき治療の時に聖刻は見たが、それすらジョニーが自分で描いたのではないかと疑うほどだった。


「俺の場合は、相手が良かったんだ」

「相手?」

「あぁ。演習や話から、試練は何かと戦うものだとは分かっていた。だからその相手は、自分が絶対に勝てないと思う相手だと思ってたんだ」


 演習は一応試練の模擬。だから俺もミカエル様の試練はそんな感じなんだろうとは思っていた。だけど俺は関係ないから深くは考えなかったが、ジョニーの話を聞いて、なんかバトルアニメっぽいと感心してしまった。


「へぇ~。で? ジョニーの相手誰だったんだ? まさかフィリアとかか?」


 正確にはジョニーがイメージするフィリア。もしジョニーの言う通りアニメみたいな試練なら、多分フィリアとかおじさんとかがしっくりくる。


「いや。俺の前に現れたのは、ヒーだった」

「私ですか?」


 意外な答えに、名を上げられたヒーが不思議そうに声を上げた。


「あぁ。多分試練の相手は、俺が勝てないと思う相手ではなく、戦いたくないと思う相手が選ばれたようだ」

「何故ヒーが?」

「おそらく俺の中で、ヒーを最も傷つけたくないと思っていたからだろう」

「ふ~ん」


 ジョニーの気持ちは良く分かる。もし試練の選定がジョニーの言う通りなら、俺もヒーが一番苦戦する。っというのも、ジョニーやフィリアならやらなきゃ殺しに来るし、リリアならやっつけてなんぼだからだ。何よりヒーは苦しくても表情に出さないから、こっちの胸が痛くなる。


「つまりジョニーは、ヒーをやっつけて来たんですか⁉」


 ジョニーがヒーをいじめるとは考えづらい。だけど現にこうして聖刻を授かっているのを見て、リリアは驚いたように訊く。


「いいや。俺はヒーとは戦えなかった」

「じゃあどうやって合格したんですか?」

「それはリリアとリーパーのお陰だ」

「俺たち?」


 俺たちは何もしていない。していた事といえば、ぼ~っとしていたくらい。それを俺たちのお陰というジョニーには、アニメとかである“絆”とか言うんじゃないかと不安になった。


「そうだ。リーパーとリリアは良く喧嘩していたからな。それを思い出して、いつもどうやってリーパーがリリアを倒していたのかを考えたんだ」


 そういうことなの⁉ やっぱ現実ってアニメとは違うみたい……


「いつも勝っているのは私ですよジョニー!」


 いやいつも勝つのは俺だから!


「そうだったな。すまんリリア」

「全くジョニーは。それで良く合格出来ましたね?」

「本当にそうだ。それより……」


 リリアは都合の悪い記憶を書き換える脳の病気を患っているから、これ以上相手にしても仕方ない。それはジョニーも分かっているようで、なんか良い感じで話を合わせているが、さっさと話題を変えようとした。しかしそれすらも許さないのがリリア。


「何か見せて下さい!」

「ん?」

「ジョニーは聖刻を手に入れたんですよね? ならその力を見せて下さい!」


 まだ話の途中!


 思いっきりジョニーに被せて言うリリアは、もう自由だった。特になんか見せろ! はもう色々と失礼で、その軽いノリには聖刻への敬意なんてものは存在していなかった。


「良いだろう」


 そしてそんなリリアの言いなりになるジョニーもまた、駄目なままだった。


 そんないつものノリは、俺たちだけなら通用したが、さすがに今の状況では無理だった。


「ちょちょっ! 待ってくれ!」


 リリアのおねだりに快く応えようと、ジョニーが手品覚えたての素人のように『よし、なんか見せてやろう』とした瞬間、さすがに誰もそんな糞みたいなもんは望んではいなかったようで、今まで黙っていたクレアが止めに入った。


「どうしたんだクレア?」

「い、いや……そ、その……もしよろしければ、貴方様……い、いえ! 聖者様はどのようにして困難を乗り越えたのか、もう少しだけお聞かせ頂ければと……思いまして……」

「…………」


 場が一瞬凍った。そのくらい今のクレアの言葉使いは異様で、明らかにジョニーを馬鹿にしていた。だけどクレアはそんな事をする人間ではないことくらい理解しているだけに意図を読み取れず、それが余計に変な空気にさせた。

 そんな変なクレアに対しても、ジョニーは優しく接する。


「俺が聖人になったからといって態度を変える必要はない。俺たちはどんな姿になろうとも何も変わらないクラスメイトのはずだ。そうだろう?」


 ジョニー相手にな~にをそんなに恐れるのか分からないが、クレアもそうだけど、さっきから皆の様子がおかしかったのはそういう理由らしい。

 聖人になれば物凄い偉いみたいな感じになる皆に、ジョニーはそんなに偉大ではないと思った。


「そ、そうだったな。すまないジョニー。私たちはそのために同じクラスになったのだった。本当に済まない。お詫びにこれを食ってくれ」


 そう言ってクレアは、何故か自分で押さえていたケーキをジョニーに渡した。


「あ、ありがとう……後でゆっくり頂くよ」


 ジョニー! そこはいらないで良いよ! 


 聖刻を貰ったからといっても、どうやら中身までは変わらないらしい。取りに行けば直ぐそこにあるケーキを無理矢理渡されても優しくクレアにお礼を言うジョニーを見ていると、逆にもう少し威張った方が良いように感じた。


 ケーキを渡すとクレアはなんかこれで解決みたいな顔をした。そしてジョニーも解決したみたいな顔をして話を戻す。結局二人はバカだった。


「俺が受けた試練は、先ほども話した通りヒーの姿をした何かと戦う事だった。と言っても、祠の奥に進むとナイフを持ったヒーが立っていて、その者が『私を倒せば合格だ』と言っていたからそう思っただけだ」


 それでジョニーは切り傷だらけで戻って来たわけだ。ジョニーなら例えヒーと戦っても手傷を追うとは到底思えず疑問に思っていたが、そういう事だったらしい。


「だがそれは違った。最初は俺も、これはミカエル様が用意したヒーを模写した幻影だと感じて戦おうとは思ったんだが、それにしては手ごたえを感じなかった。まるで本物のヒーを相手にしているようで」


 そりゃそう! だってヒーだよ? ジョニーにしてみればナイフ持ってたって脅威には感じんだろ?


「それでジョニーはどうしたんだ?」

「あまりにも試練としては簡単すぎると感じて、暫く幻影の攻撃を躱していた。だけど……」

「だけど?」

「だんだんその幻影が本物のヒーに見えて来て、気が付いた時には本物のヒーが襲ってきていると錯覚していた」


 強敵をイメージして望んだ試練。そこで逆に最も簡単な相手を出されれば困惑する。そして頭の良いジョニーならすぐに試練内容がおかしなことに気付く。だけどそれすらも幻影を本物と錯覚させる罠なら、俺が思っていたよりもミカエル様の試練はかなり切り抜けるのが難しい。

 

 ゲームやアニメのように感じていたミカエル様の試練だが、やはり現実はそんな簡単な物ではないと感じた。


「では、そこからジョニーはどのようにして私を倒したのですか?」


 ここでまさかヒーからどう幻影を倒したのかを問うのは、なんか恨み節のように聞こえた。


「……俺には斬れなかったよ、ヒー。やはりヒーは強かった」


 ヒーの質問は皮肉にも聞こえたが、ジョニーはほんのちょっと考えると優しい笑みを見せた。その表情は本当に苦労したというのが表れており、なんかクールだった。


「そうですか……」


 ヒーもジョニーが自分の事を大切に想ってくれていると分かったようで、ありがとうという嬉しさが僅かに滲み出る穏やかな表情を見せた。


 そんな兄妹の心温まる瞬間だったのだが、こういう時に空気を読めないクレアが邪魔をする。


「ではどうしたのだジョニー? ジョニーはどうやって試練を乗り越えた?」


 あのマリアでさえ口を出さないのに、ここであのリリアが一瞬驚いたような表情を見せるほどガツガツ来るクレアはさすがだった。


「逃げるしかなかった。だけど試練は相手を倒すか俺が死ぬかのどちらかでしか終わらないようで、出られなかった」


 それを聞いて、何故聖陽君が影になったのか分かった。おそらく聖陽君の相手も自分が最も傷つけたくない相手だった。しかし聖陽君はそれを斬った。だから自責の念で闇に落ちた。

 聖者には表と影がいるとファウナが言っていたが、そう言った理由が分かれ道になるのなら、ほとんどの聖者は影になるしかない。


 思った以上に非情な試練内容に、黒く悍ましい感覚がした。


「だけど……そこで気付いたんだ。いつもリーパーとリリアが喧嘩していても、最後には誰も傷ついていない事に」


 ジョニーがさっき言っていた話だ。さっきはただ馬鹿にしていると思っていたが、ちゃんとした理由があったようだ。


「それに気が付くと、俺は戦う事も逃げる事もやめた。そして剣も捨てた」

「どうしたんだ?」

「簡単さ。ヒーのナイフを奪って投げて、後はいつもリーパーがやっているようにヒーの頭に噛み付いたりつねったりして泣かせた」


 ジョニーはふっとクールに笑うように目を閉じて言う。


「…………」


 何故皆俺を見る。今ジョニーは良い話をしているんだよ? そして一つ勘違いしないで欲しい。ジョニーは誰も傷ついてないと言ったけど、いつも結構俺怪我してたから。そして悪いのはいつもリリアの方だから。


 ジョニーはとても良い話をしている。だけど今この瞬間に関しては、非常にリリアが憎らしくなった。


「ミカエル様は、真の意味での強さをお求めになられたのだと思う。お陰で強さというもの、武というものが何か分かったような気がした」


 勝つという事は、相手を傷付けたり奪ったり殺したり、また勝つということだけではない。そんな風に語るジョニーは、俺から見ても大きく成長したと感じた。だけど俺にはまだその域の話は良く理解できず、最愛の人を殺してでも聖刻を手に入れた聖陽君と、最愛の人を傷付けても守ったジョニーのどちらが正解かなんてもんはさっぱり分からなかった。

 そして、ジョニーが深い話をしていても、さっきの俺が悪い視線のせいであまり良い話には聞こえず、ジョニーの話は、もうそのくらいで終わってくれれば良かった。


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