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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
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嫌われ者

「あっ!」


 これから始まる楽しいディナータイム。テーブルの無い祠ではビュッフェスタイルが取られ、ウィンナーが美味そう。料理の赤や緑の彩りの中に花まで飾られる豪華さには煌びやかさがあり、ワインまで並ぶ様は正に貴族の晩餐会。

 特にスウィーツには気品があり、女子たちは目を輝かせる。


 そんな思い出に間違いなく残るこの局面で、最初に気が付いたのはまたまたフウラだった。


「また誰か出てきました!」


 フウラはバカなのか、先ほど超怖い思いをしたのに、超元気な声を上げる。当然先ほど超怖い思いをしたことを覚えている俺たちは即座に険しい顔になり、一瞬で空気がピリ付く。

 当然それは俺たちだけでなく、そこにいた関係者は一斉に跪いて下を向いた。


 またあの恐ろしい感覚を味わう。それは頭では理解している。だけどそれでも見たくなるのが人情。先ほどあれだけ怖い思いをしているのに、視線は奥から出て来た人物を見てしまう。


 恐怖で体中から汗が噴き出した。それほどまでのプレッシャーを感じながら確認すると、どうやら今回は当たりだったらしく、そこにはジョニーの姿があった。


「…………」


 聖陽君の時と同じく、下を向いて立つジョニー。その体には無数の切り傷があり、血が滲む。服装は乱れてはいないが地面を転げまわったかのように土汚れが目立ち、持っていたはずの大剣は無い。

 

 最初は無事に戻って来てくれたことに喜びを感じたが、その姿は先ほどの聖陽君と重なり、微塵も動くことが出来なかった。


 そんな俺たちを前にジョニーはゆっくりと目線を上げた。そして、間髪入れずいつもの優しい笑みを見せた。

  

「ジョニー!」

「ジョニー! 無事だったのか!」


 笑みを見た瞬間、それがいつもと何も変わらないジョニーだと即座に理解できた。すると体が勝手に駆け出していた。


「ジョニー!」

「ゾォニー!」

「大丈夫だったのか!」


 もう誰が何を叫んでいるのか、リリアの『ゾォニ―』以外分からないが、ジョニーの元に辿り着くと我先に声を掛けた。それこそリリアがジョニーに抱き付き『ゾォニ―ゾォニ―』言っているのなんて気にもならないくらいで、感謝にも似た喜びを感じた。


「あぁ。皆のお陰で無事に戻ってこられた」

『ゾォニ―!』


 とにかく嬉しかった。普段なら汗臭ささえ嫌に感じるのに、今はただジョニーが無事に戻って来てくれただけで全てを忘れられた。


「とにかく、先ずはジョニーを休ませましょう。怪我もしているので、治療してもらわなければいけません」

「あ、あぁ、そうだなヒー。よしジョニー、先ずはあっちに行って怪我治してもらおうぜ?」

「あぁ、そうだな。少し座りたい」


 そう言うとジョニーは、ヒーの頭を撫でるように触った。


 ジョニーは普段からリリアやヒーに触ることは少ない。特に頭を撫でるなんてことは今までの記憶でもあるか無いかで、これにはヒーだけじゃなく、俺も一瞬不思議に思った。だが余程苦しい思いをしたのだと思うと、それも一瞬で不思議な事ではなくなった。


 すると今度は、リリアが不思議な動きを始めた。


「よいしょっ」

「ん?」


 抱き付いてゾォニ―ゾォニ―言っていたリリアは、ジョニーがあっちに行って座りたいと聞くと、ジョニーの左側に回り、腕を首に廻しなんか自分からヘッドロックされるような形を取った。


「どうしたリリア?」

「大丈夫ですよジョニー。今私たちが支えますから。ジョニーはゆっくりで良いですから歩いて下さい。ヒー! 反対側をお願いします!」

「分かりました!」


 こうして五十嵐姉妹は、なんか勝手にジョニーにヘッドロックされているような形になった。


「大丈夫だ二人とも。怪我はしているが、俺はピンピンしている。自分で歩けるよ」

「しかし……」


 ジョニーはそう言うと、今度は二人の頭を撫でた。その姿はまるで優しいお兄ちゃんという感じで、普段見せない行動に、ジョニーも本当はリリアとヒーのことを可愛い妹だと思っているのだと分かった。

 

 その優しさはリリアたちにも伝わったようで、捕まった宇宙人みたいに歩こうとした二人だが、珍しく素直に言う事を聞き離れた。


 ジョニーは体中のあちこちに怪我をしていたが、自分で歩くことは可能だった。それでも俺たちは心配で付き添う様に歩いた。そして皆の所へ向おうとして……俺たち以外誰も来てねぇ! 


 ジョニーが無事に戻って来たことが嬉しくて気が付かなかったが、今の今になって俺たち三人以外ジョニーに駆け寄った者がいない事に気付いた。それはもうハブられてるというレベルじゃなく、なんか険しい表情さえされるほどで、俺たちの兄貴がまさか皆から嫌われていたという事実に、胸の中は悲しみが溢れた。


 そんでも、ジョニーを治療してもらうにはあっちに行った方が早く……っというか、待機していた医者まで来ないという始末には怒りさえ感じた。だけど行かなければジョニーは怪我をしたままだし、とにかく医者の所へと向かった。すると……


「すいません。ジョニーの怪我を見て下さい」

「お願いします!」


 例え世界中からジョニーが嫌われていようとも、俺たちにとっては大切な兄。なんでジョニーがこんなに早く戻って来たのかは分からないが、ともあれ治療が最優先だと先生に頼んだ。


「あ……」


 ジョニーの体臭が原因か、それとも見た目の気持ち悪さが原因かは知らないが、俺たちが頼むと医者は声を詰まらせた。


「どうしたんですか先生! 早くジョニーの怪我を診て下さい!」


 理由は分からないがしどろもどろする先生にイラついたのか、珍しくヒーが強い声を上げる。


「あ……そ……」


 日本語でも通じないのか、傷だらけのジョニーを見ても医者は動かない。それどころか看護師やその他の関係者までもが何もしない。


 確定的だった。ジョニーは嫌われている!


 こんなに辛い思いをしたのは初めてだった。確かにジョニーは図体はデカいのに頼りないし、なんか武士みたいなところもある。その上汗臭さもあり、プロテイン中毒だ。それでも俺たちにとっては掛け替えのない兄! そんなジョニーがこんなボロボロになっても誰も助けてくれないというのは、自分が蔑まれるよりもずっと辛かった。


 そこで最初にブチギレたのがヒーだった。


「もういいです! 私たちでやります! そこをどけて下さい!」


 ヒーは俺たち兄弟の中では多分一番温厚だ。だけどキレると一番手が付けられない。何故なら、キレるツボが時に不明で、キレたときに一気にアクセルが全開になるからだ。そのためキレるといきなり行動に移る。


 今回も完全にキレてしまったようで、言葉と同時に医者たちを押しのけようと動き出した。それをジョニーが止める。


「止めるんだヒー。こういうのは俺がお願いしないと駄目なんだ」


 ヒーがキレると、ジョニー程度が止めに入っても意味を成さない。寧ろ無駄に返り討ちに合うだけで、フィリアかおばさんクラス以外止められない。しかし流石試練から戻って来た漢。ただ無駄に行って帰って来たわけではないようで、ジョニーはまた優しくヒーの頭に手を乗せて宥めると、あのヒーが動きを止めた。


「ジョニー……?」

「大丈夫だヒー。先生たちはただ驚いているだけだ」


 やはり伊達にあちら側から戻って来たわけではないようで、ジョニーはそう言うとそのままヒーの頭を撫でた。そして、ジョニーが一歩前へ出ると、物凄い事が起きた。


 ジョニーが治療を頼むために前へ出ると、突然医者が腰を抜かすように座り込み、土下座をするように頭を下げた。それを皮切りに、近くにいた看護師や関係者が次々に跪き、最後は三年一組のメンバー以外全員が平伏した。


 体臭か⁉ ジョニーの体臭が原因か⁉


 何が起きたのか全然分からなかった。突然全員が頭を下げだしたから、ジョニーの体臭から逃れるために姿勢を下げたのかとさえ思った。しかしどうやら違ったようで、土下座する医者が恐る恐る言う。


「た、大変申し訳ありません! わ、私には、せ、聖人様を診る事など敵いません!」


 星人?

 

 どうやら医者は、こんな神聖な場でも薬でもやっているようで、ジョニーの事を宇宙人か何かと勘違いしているようだった。


「俺は何も変わらない、ただの人だ。だから治療をお願いしたい。応急処置でも構わない、お願いします」


 ジョニーは膝を付き、頭を下げる医者に優しく言う。それでも医者は何を考えているのか、頭を上げない。


「医学ではやはり医者には勝る者はいない。だからお願いします」

「…………」

「約束があるんだ。このままでは困る」

「…………」

「お願い、します」

「……わわ、分かりました!」


 ただしつこくジョニーはお願いしただけ。だけどそのしつこさはほとんど脅迫に近く、遂に医者は折れた。そして余程体臭がきつかったのか怖かったのかは知らないが、そこから一気に治療が始まり、ちょっとは深い傷があったようだがジョニーの怪我は意外と軽く、それほど時間は掛からず包帯だらけになった。


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