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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
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「あっ!」


 遂に開かれた聖刻の祠。開錠を察知した俺たち三年一組は、いよいよ聖刻を授かるために踏み出した。その第一歩として、最初に最も安全に辿り着けるという理由で、アルカナにあるミカエル様の祠へとやって来た。

 そこでフィリア、ジョニー、ツクモの三人は、無事資格を手にして試練を受けるべく祠の奥へと進んだ。


 資格の無い俺たちはフィリアたち三人を信じて待つしかなかったのだが、フィリアたちが壁の中へ入って一時間ほどすると、先に入っていたツクモの兄である聖陽君が姿を現した。


「誰か出てきま……し……」


 最初に気が付いたのはフウラだった。しかし何かに気付いたのか、元気よく声を上げていたが突然硬直するように一点を見つめて動かなくなった。


 それは驚いたというよりも恐ろしいものを見たという感じで、何が起きたのか分からず、本能的につられるようにフウラの視線の先に目線を送った。


 すると、そこには今まさに試練を終えて壁の奥から出て来たと分かる人物がいて、それは聖陽君なのだと分かったのだが、そう分かったのは一瞬だった。


 激しい戦闘でも終えたかのような汚れた服装。体のあちこちに滲む赤い血痕。視線を隠すように前髪が垂れ、俯いたような表情は暗い。だけどそれ以上に放たれる禍々しいオーラと荒々しい波をイメージさせる雰囲気に、すぐにそれが誰だか分からなくなった。

 そして、その人物が踏み出す直前に顔を上げた瞬間、ほんの一瞬目が見えると途轍もない恐怖に襲われ、それ以上視線を向ける事さえ出来ず、あれが誰なのか理解する暇さえなかった。


 俺は今までニュースくらいでしか人殺しの目を見た事が無い。そんな俺が、あれは人を殺し続けて来て、もはや人ですらなくなった目だと感じるほどの眼つきは、心底恐怖を覚えた。


 その恐怖は直ぐに全身に回り、体中から力を奪いその場に跪かせる。それは正に神々に人々が跪くようで、おそらくその場にいた全員が俺と同じように、聖陽君の形をした“何か”に平伏した。


 人々が神に跪くのは、最上級の敬意の表しではない。頭を下げ蹲るように小さくなっていなければ、それだけで存在そのものを消される。

 畏れが去るその時まで、ただじっと耐える。今までの人生の中でも、これからの人生においても二度と体感したくはない、死に怯える苦痛の時間。何事もなく過ぎ去ることだけを祈り耐えた。


 すると、目の前を歩いた時は心臓が止まるかと思ったが、俺の祈りが通じたのか、その何かは言葉も発する事もせず、静かに祠を去って行った。


 そこからしばらく、沈黙の時間が続いた。嵐が去った後のただ呆然とするような沈黙。その場にいた誰もが、今体験した恐怖を整理するのに時間が掛かり、何もできないというような沈黙。そしてまた、この沈黙を破ることへの天罰の怖れ。


 あの人物が聖陽君なのだとはここに来て理解できるが、これほどまでに恐怖を覚える聖人という聖刻者には、人知を超えた存在感がした。


「……い、今のは……ツクモのお兄ちゃん……ですよね……?」


 沈黙を破る事さえ尻込みする畏怖の中、流石と言っちゃ流石だが、リリアがぼそっと俺に聞く。


「た……多分……」

「何回かしか見た事がありませんでしたが……あんな、ヤンキーみたいな人でしたか……?」


 ヤンキーではない。寧ろ殺し屋。だけどそれをヤンキーと例えるリリアの天然には、一気に緊張が和らいだ。


「い、いや……ヤンキーとは違うだろ?」

「で、でも、物凄く怖い感じがしました。最初に会ったときは、殺されるかもしれないという感じがしましたが、い、今のは……それ以上に殺されると思いました……」


 確かに聖陽君の第一印象には、ヤンキーというか、不良という印象を受けた。それでも最初から殺されるというイメージを抱いていたリリアには、今日から俺は系のアニメから見た方が良いと思った。


「お前は一度ヤンキーに怒られた方が良い」

「何故⁉」


 リリアが『なにゆえ⁉』と驚くときは、大体本気。普通の人が思わない事を真剣に考える思考にはある意味人ならざる才能を感じた。


 それでもまぁ、かなり訳の分からないことを言うリリアのお陰で、ここでも先ほどまでの殺伐とした空気が和み、皆の緊張が解けた。


「それにしても今のはなんだ? 私が知っているツクモの兄とはとても思えん変わりようだった」


 やはり俺が受けた印象と同じく、クレアも聖陽君の変わりようには驚いたようで、誰か答えを知っているか? というように問う。


 それに元三年二組に所属していたフウラが答える。


「分かりません。私も何度か聖陽さんとは会話をしたことがありますが、まるで印象が違いました。あれではまるで……」


 そこまで言うと、フウラは口を濁した。


 おそらくフウラなりの礼儀なのだろうが、口調からその後は俺と同じ印象を受けたのだと分かった。


「あれが多分……聖者って呼ばれる存在なんだと思う……」


 マリアも相当ショックを受けているようで、普段は見せない神妙な面持ちで言う。


「しかし……聖者と呼ぶにはとても不釣り合いなオーラでした」


 エリックの言葉はまさにその通りだった。あれはとても神聖なる存在とは言えず、寧ろ逆の存在、悪魔という方が似合っていた。


 そんな矛盾に、聖刻とは一体何なのかと悩む俺たちだったが、さすが和尚だけあってウィラが良い答えを教えてくれる。


「聖なる者とは、その純粋さから、常人には畏れ多い者なのです。特に心に濁りがある者には、その透き通る瞬きは恐怖すら感じると言われています。”私たち”が感じた畏れは、言い換えれば聖陽氏はその域に達した存在、という事なのでしょう」

「なるほど……確かに言われてみれば、仏様の目は、見る人によっては恐怖すら感じるって聞いた事ある」

『たしかに……』


 俺の例えが上手かったようで、仏様の目の話に全員が納得したように頷いた。ただ、何だかんだ言って、結局自分も恐怖を感じていたというウィラには、とてもとても仏門に通ずる人間には見えなかった。

 そして案の定ウィラはクソ坊主だったらしく、ファウナが正解を教えてくれる。


「で、では、フィリアたちも聖陽君と同じような感じになって出てくるんですか⁉ 例え中身が変わらなくとも、あんな恐ろしいオーラをずっと放たれては、さすがに私も気を使ってしまいます!」

「落ち着きなさいリリア。まだそうなるとは限りません」

「ど、どういうことですかファウナ?」

「聖刻には影と表があるのです」

「影と表?」


 これは初耳だった。聖刻はその神様により分類され、扱える力が違うくらいしか聞いていない。例えば、アズ神様なら生命を操り、フィーリア神様なら何でも造り出せるという感じだ。それがさらに同じ神様の聖刻でも分類されているとは、聖刻にはまだまだ俺の知らない隠された真実があるようだった……っというか、リリアはさっきの聖陽君を見ても、まだフィリアたちは性格が変わらないと思っているようで、逆にあの殺気ムンムン状態でフィリアたちが戻って来ても、気を使う程度で済むと思っているのには流石と言わざるを得なかった。


「試練は途轍もなく過酷です。それは一度でなく、何度も死を体験するものと同等の過酷さがあります。その中で挑む者は、何度も生まれ変わり、答えを見つけ、聖刻を授かります」


 試練が過酷な物なのは覚悟していた。だが、ファウナの言い方では、何回も串刺しにされて、溶岩に投げられて、鬼に棍棒で何回も殴られるような地獄を想像してしまい、来い! とは呼ばれているが、行っても試練を受けたくなくなってしまった。


「神々は正解を用意していません。試練はあくまで聖刻を授けるに相応しいかを見極めるための物です。与えられた者がどのような答えを出し、その先どのように行動していくかは、聖者に委ねられます」

「つまり、試練の中で、フィリアたちが悪に落ちるか、正義を選ぶかは、フィリアたち次第という事か?」

「そういう事ですクレア。おそらく聖陽氏は、試練の中で多大な犠牲を払ったのでしょう。彼が辿り着いた答えは、クレアが言う前者の方でしょう。私たちは、そういった答えに辿り着いた物を影と呼んでいます」


 聖陽君が一体どれほど過酷な状況に置かれたのかは分からない。そして、その中で何故聖陽君は悪を選んだのかも分からない。もしかしたらそう選ばざるを得ない状況だったのかもしれない。

 所詮のほほんと生きている俺になんか正解なんて分からないが、ファウナの話を聞くと複雑な気分になった。


「ただ勘違いしないで下さい。影とは呼んでいますが、決して悪というわけではありません。中には、この先の成長過程で表に戻る者もいます」


 それを聞くと、ほんの少しだが安心した。


「ですが、影となった聖者には注意してください。危険な存在である事には変わりありません」

 

 結局のところ、影に落ちた者は俺たちの言う所の悪とは変わらない存在らしい。聖刻を奪い合っての殺し合いが起こるのはそういった理由があるのかと知ると、神様も完璧な存在ではないのだと思った。


「では、もしフィリアたちが影になったのなら、私たちはどうすれば良いんですかファウナ⁉」

「安心しなさいリリア。フィリアもジョニーもツクモも、貴方たちがずっと傍にいたでしょう? 三年一組が絆を大切に育んできたのは私も見ています。フィリアたちが影になると感じるのであれば、それは貴方たちが三人を信じていないということになります。リリア、貴女はどう感じますか?」


 思うのではなく感じる。ファウナが上手く言葉を選んで問うことで、リリアの表情が変わった。


「もちろん三人は、毎朝『おはよう』と言って会う時と変わらず戻ってきます!」

「ならば、何も心配する必要はありませんね?」

「はい!」


 信じるとか信じないとか、そんな簡単な物ではなく、それが当たり前というように言う力強いリリアの言葉に、なんか心配していたことが阿保らしく感じて来た。それは俺だけでなく、そこにいた三年一組のメンバーにも伝わったようで、固い空気はさらに和らぎ、いつもの教室のような空気へと変化していった。


 そんな中で、誰しもが忘れていたエヴァが戻ってくると、折角戻った自然な空気が、また変な感じに変わってしまう……


 ちょっとした話。


 ある夢を見ました。それは、一年ほど前に亡くなった我が家の家族の、キキという名の雌猫に会うというものでした。キキは山奥の赤い屋根の古びた民家の縁側で日向ぼっこをしており、私はそれが夢だという事を理解していたようで、驚くことなく久しぶりの姿に嬉しくなりました。そして直ぐにまた別れが来ることも理解しており、せめて綺麗な家の方が良いだろうと思い民家の掃除をしました。そこで夢は覚めてしまうのですが、その日、私はモップと出会いました。というお話です。


 私は小説家志望なので、この話を信じるか信じないかはお任せします。

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