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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
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資格

 出発の朝。約束の午前六時に教室に集まると、既に三年一組は崩壊し始めていた。


「よし。じゃあお前ら、約束通り先ずはミカエル様の祠を目指す。空港までバスで行くから付いて来い」


 こんな朝早い時間でもいつもの調子のエヴァは、時間になると出欠も取らず出発しようとする。


「ちょっと待てよエヴァ。まだアドラとパオラ、あとキリアも来てないぞ」

「あぁ、それなら大丈夫だ。あいつら昨日勝手に出発したみたいだから」

「ええっ⁉ キリアもか⁉」

「あぁ」

「ええっ⁉」


 な~んにも全然大丈夫じゃなかった。昨日あれだけ色々話し合って納得したはずなのにまさかの単独行動。これがアドパオコンビだけならまだしも、まさかのキリアまでもが我儘っ子ぶりを発揮したのには驚きだった。


「良いのかよ⁉ 最初は皆でミカエル様の祠行こうって言ったのに⁉」

「いねぇんだもん、仕方ねぇじゃん?」


 仕方ない⁉ 仕方ないで済めば警察はいらない!


「仕方ないって⁉ オメェ昨日散々俺たちは命狙われてるって言ってなかったか⁉」

「言ったぞ。でも言う事聞かねぇんだもん、仕方ねぇじゃん?」


 やはりエヴァをリーダーにしたのは失敗だった。今まで俺たち三年一組は、絆をモットーにやって来たのに、あり得ん速さで台無しになった。


 これにはさすがに他のメンバーも黙っていない。そう思い、皆を代表してエヴァの責任を追及する必要があった。ところが……


「仕方ないじゃねぇよ! もしこれで……」

「もう良いリーパー。いないのなら仕方がない」

「仕方ないってクレア? おめぇ本当に良いのか?」

「あぁ。そんな事よりも早く出発しよう。もうリリアたちは行ってしまったぞ?」

「えっ⁉」


 そう言われ見ると、既にリリアたちの姿はなく、あのエリックでさえ今まさに教室を勝手に出て行こうとしていた。


「私も先にバスに乗っている。まだエヴァと話があるなら、私たちは先にアルカナへ向かっているから、後は自由にしてくれ」

「え⁉」


 そう言うとクレアも、さっさとアルカナへ行きたいのか、ファウナを連れて教室を出て行ってしまった。


「お、おい! どうしたんだよ? キリア達の事良いのかよ?」


 クレアたちが出て行くと俺とエヴァとアニー先生だけが教室に残され、皆先にバスへと向かってしまった。


「まぁ、そういう事だリーパー。もう皆他の奴の事なんて構ってられないんだよ」

「構ってられないって……」

「それにアドラたちにもキリアにもちゃんと護衛は付いてる」

「そうなのか?」

「あぁ。特にキリアに付いた護衛は、性格も悪いが実力も最悪な凄腕が付いてる。下手したらキリアが一番安全かもしれんから安心しろ」


 性格も悪くて実力も最悪なら、それはもう駄目だろう。だがあのエヴァがそういうだけの人物。おそらく特別養子縁組のメンバーで、最もエヴァが信頼する人物。そしてエヴァが最も怒られている人物。


 一体どれほどの実力者がキリアに付いたのかは分からないが、なんだかんだ言ってきちんとそういう手配も済ませているエヴァには流石としか言いようが無かった。


「とにかく俺たちも行くぞ。のんびりしてたら本当に置いてかれるぞ?」

「お、おい!」


 最後に残すと、結局エヴァも教室を出て行ってしまい、昨日あれだけ先生との別れを惜しんでいたはずなのに、誰一人寂しがることなく俺たちはアルカナへ向け出発した。


 昨日祠の開錠を察知してから、時間を追うごとに行かなければいけないという想いが強くなり続けている。これはどうやら個人差があるようで、俺はそこまでの焦りは感じていない。だがクレアやエリックたちにはかなり強く出ているようで、特にリリア、ヒーに関しては朝からぼ~っとしたように上の空で、まるで操られているかのようだった。

 それは確かにエヴァの言う通り、他の奴に構っていられないという言葉が似合うようで、この先の旅には不安しかなかった。


 そんな感じで始まった旅だが、逆にその操られているような感覚がそれ以上のトラブルを起こすことは無く、思いのほか順調にミカエル様の祠に辿り着くことが出来た。


「さぁ着いたぞ。入り口までは関係ない奴も行けるから、そこまでは全員で行こう」


 聖刻というのは、何よりも偉大な存在らしく、演習の時はあれほど神聖な場所だと騒いでいたのに、バスはまさかの祠前まで運行された。

 それはもう観光名所を訪れた並みで、バスを降りるとミカエル様の祠へ直通という仕様には、有難みも何もなかった。


「良いかお前ら。ここはミカエル様の聖刻を貰う奴が来る場所だ。だからと言って、自分は関係ないからって騒いだりしたら駄目だぞ?」


 これから世界の命運を賭けた戦いが始まる。それほどここは重要で神聖な場所なのだが、エヴァのお陰で全て台無しだった。


 そんなエヴァなどもう構っていられないフィリアたち。エヴァがまだ試練見学についての注意事項を話している最中であっても相手などしていられないのか、フィリアとジョニーは意味深に俺を見つめると、何も言わずに先に進み始めた。


「お、おいエヴァ。フィリアたち先に行っちゃうぞ?」


 フィリアとジョニーが何を伝えたかったのかは分からない。だけど多分、いつまでもグダグダやっている俺たちに対しての不満だろう。

 そんな事など気にもしないエヴァは、他人事のように言う。


「別に気にすんな。どうせ俺たちは見学者だ。後は俺の言う事をちゃんと聞いて、大人しく見ていれば大丈夫だ」


 普通こういう時は、頑張れ的な話があって、そこから試練を受けるフィリアたちが『行ってくる』みたいな流れだろう。しかしこの何とも言えない呼びかけのせいで、皆にも余裕が無い様で、生き急ぐような流れで話が進む。

 そんな中で、俺とエヴァだけが普段と変わらない感じを見ると、どうやら俺たち二人だけが聖刻を貰えなさそうな感満載だった。


 それはさておき。ミカエル様の聖刻を授かれる資格があるのは、どうやら予定通りフィリア、ジョニー、ツクモの三人のようで、三人は黙々と祠の奥に足を進める。しかしどうも不思議な事に、三人が進む先には岩肌が剥き出しの壁しかなく、もしかして聖刻ってスカイリムのシャウトのような感じで、壁に浮き出た言葉を覚えれば貰えるんじゃないかと思ってしまうほどだった。


「なぁエヴァ? 本当にここで聖刻貰えるのか?」

「あ? 何でだよ?」

「だってよ、あっち壁しかないぞ?」

「分からん。俺にも壁しか見えんから」

「…………」


 これがもしRPGなら、エヴァはモブ以下のオブジェ。いや、なんか進行役的なポジションを考えると寧ろいないでいて欲しい足手まとい。下手をすると最後まで死なずにずっと付いて来て、無駄にリザーブを潰すだけの最初に持っていた剣以下の存在。

 これは早急に隠しキャラを見つけ出し、強制イベントで弾き出す必要性が出て来た。


 そう思っていたのだが、ほぼ役には立たないが、情報だけは持っているキャラだったらしく、なんだかんだ言ってちょっとは役立つ。


「まぁでも、それが第一の試練って奴だ」

「どういう事だよ?」

「資格がある者だけが祠の奥に進めるって事だ。つまり入り口が見えないって事は、俺たちはミカエル様の聖刻は貰えないって事だ」

「なるほど……」


 なんか尤もらしい意見に、俄然RPG感が増してきた。だが、ここでもしジョニーだけが入り口が見えなくて、一人だけ岩肌に向かって歩き続けるようなオチは無いのかと思ってしまう自分に、やはりこの話がゲームや漫画ならそれはギャグなのだろうと改めて思った。


 そんなことを思っていると、どうやらここには笑いの神様は存在してはいなかったようで、壁に向かっていた三人が吸い込まれるように壁の中へと消えて行った。


 それを見て驚く俺たちを他所に、エヴァが言う。


「どうやら三人とも第一関門は突破したな。おりゃてっきりジョニーだけ残るんじゃないかと思ったけど、そう上手くは行かなかったな」


 オメェも俺と同じ事考えてたのかよ⁉ なんなのこの同調感⁉


 まだこれがリリアとなら分かる。なのにまさかここでのエヴァとの同調には、実の兄弟じゃないのかと思ってしまった。


「よし。じゃあお前ら、後は待つだけだ。さっきも言った通りあんまりチョロチョロしないで大人しく待ってろよ。必要な物があればその辺にいる警護に言えば貰えるからな。さてと……」

「おい、どこ行くんだよエヴァ?」

 

 本当に好き放題。散々先生気分で俺たちにあれやこれや言っておいて、どこかへ行こうとする。


「な~に、ちょっと朝から腹の調子が悪くてよ。朝からずっと我慢してたんだけど、ちょっとクソしてくる」


 一瞬。ほんの一瞬、エヴァはこんな感じだけど、もしかしたら俺たちが知らない裏で重要な任務を任されているのではないかと思った。だけどやっぱりただの足手まといだった。


 朝からって、もう昼越えてんだぞ⁉ 空港でも飛行機でもトイレに行くチャンスいくらでもあったろ⁉ オメェの肛門どんだけ鉄壁なんだよ⁉


 流石は謎の養子縁組のメンバー。この重要な場面でトイレに行く根性にも驚いたが、それ以上に朝からウンコを我慢していたという事実には衝撃が走った。


「んじゃファウナ、後は任せたぞ。ちょっと行ってくる」

「分かりました。ごゆっくりどうぞ」


 ファウナにとってもエヴァはかなり鬱陶しい存在だったのか、ここで場を離れると言っても平然と許可する。そんでエヴァも、全くその雰囲気に気付かないようで、なんかいい感じの笑顔を見せてその場を去って行ってしまった。


 で、結局エヴァが居なくなったことでやることが無くなった俺は、その後リリアたちの所に行き、フィリアたちが戻ってくるまで時間を潰す事となった。


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