躊躇わないこと
クレアとファウナが受ける最終試験。ルールは至って単純で、瘴気が漂う三十メートルほどの通路を通り抜けるだけ。
もちろん試練は安全に配慮され、大勢の専門家の元最新の機器で瘴気は管理されていて、不測の事態に備え直ぐに駆け付けられるよう医療関係者も立ち会っている。他にも加護印を持つ司祭、フィリアたちのおじさんたち、聖刻を持つラクリマまで立ち会っており、万全過ぎて “え? ちょっとクレアにだけ贔屓過ぎない?” とネット炎上してもおかしくないくらいの体制で行われる事となった。
これには超ビビった。試験を開始しますって試験官が言ったときは、俺たちと同じような感じで終わると思ったのに、いざ始めると言ったら、何か『観客は出口側で』みたいな事言われて連れてかれて、行ったら行ったでサプライみたいに勢ぞろいしてて、正直最終回かと思った。
だけど結局、皆なんだかんだ言ってクレアには期待している表れのようで、聞けば『教えたらクレアが緊張するから』という理由で最終回演出をしたらしい。つまり、皆最後の試練でもうやることないから集まったらしい。
そんな感じで、クレアが合格したらハッピーエンド要因として、俺たちは別ルートで定位置に着いたのだが、これだけやってもまだ足りないのか、『あ、すいません。リーパーさんはあちら側でした』っていう運営のミスが発生し、俺だけまた戻らされて一人アウェイ側で応援する羽目になった――
「試練の内容は、先日と同様、瘴気に対する耐性テストです。こちらの通路を抜け、あちら側の祠へ辿り着けば合格となります。ご挑戦は何度でも可能です。しかし期限は日付が変わる午前十二時となりますのでご注意ください。なお、お食事やご休憩の際に必要な物がございましたら、お申し付けください。こちらでご用意させていただきます」
残された時間は、日付が変わるまでの凡そ十一時間半。その間にクリアできなければ、クレアは失格となる。
クレアにとってはこれで最後になるかもしれない最終試練。前日全く進めなかった事を考えると絶望的な状況だが、飯とか休憩の時に必要な物を言えば貰えるというのは、ちょっとズルい気がした。もしクレアがそこで自転車だとか頼めば、具合が悪くなる前にぺぇ~っと通り抜ける事も可能だ。っというか、いくら最後の試練だとしても、やっぱり贔屓が過ぎると思った。
「それでは、準備が整いましたら、任意のタイミングでお進みください。既に試練は始まっております」
試験官はそう言うと、後はお好きにお進み下さい。という感じで手を通路に向けた。それを受け、クレアとファウナは顔を合わせると静かに頷き、歩き始めた。
いよいよ試練に臨むクレアとファウナ。肩を並べて歩く後ろ姿はどこか頼りなく、哀愁を醸し出す。しかし足取りには迷いは無く、しっかりと大地を踏みしめる。
昨晩からこの時まで悩み苦しんだクレアが、今何を思っているのかは分からない。ただ一つ分かることは……なんで俺だけこっちに戻されたの⁉ 何? もしかして俺ってアルカナの人からも嫌われてるの⁉
これからクレアの人生を掛けた試練が始まるという場面だが、何故俺だけこちら側に一人だけ残されたのかの説明が全く無い状況は意味が分からず。マジで意味が分からなかった。
そんなハブられ王子を他所に、クレアとファウナはどんどん進む。それを見て“もしこのままクレアたちが一発ゴールを決めたら、俺は一体どんな顔をして向こうの連中と合流すれば良いのか”と超不安になって来て“頼むから一回くらいは再挑戦してくれ”と口には出せないが心底思った。
その願いが通じたのか、やはり今のクレアではこの瘴気には耐えられないようで、半分も行かないくらいで足が止まった。そしてもう少し頑張るみたいな感じで進もうとしたがやっぱり駄目だったようで、有難い事に一度引き返して来てくれた。
戻って来たクレアは相当キツかったのか、額が光る程汗を掻き、息を切らしていた。
「大丈夫ですかクレア?」
「だ、大丈夫だファウナ。少し休憩すれば直ぐに、動けるように、なる」
クレアはああ見えても、英雄ジャンヌ・シャルパンティエの孫だ。その血統を引くクレアでさえ太刀打ちできないとは、瘴気はやはり相当ヤバイ物なのだと知った。すると、逆にどうしてな~んにも努力していない俺たちみたいな凡人がそれに対抗するための力を発現させたのかと疑問になり、加護印の価値が分からなくなった。
どうやら加護印とは、努力=発現というわけではなく、1パック買う=URみたいな感じらしい。
そんなくじ運に恵まれなかった薄幸のクレアは、少々の休憩を挟むと再度試練へと挑む――
「――やはり駄目なようだ……休憩を挟んだら、もう一度挑戦する」
「大丈夫ですよクレア。時間にはまだ余裕があります。少しずつ距離は伸ばしていますから、しっかり休憩を取って下さい」
「わ、分かった……ありがとうファウナ」
大体一時間。何度も挑んでは戻りを繰り返し、本当に少しずつクレアはゴールに向けて歩を進めていた。それでもクレアの疲弊具合から、それは耐性が付いたというよりも意地でちょっと進んだという感じで、とてもクリアできる兆しには見えなかった。
ただ一つ好転したと感じるのは、逃げて来る速さだけは上がっているようで、大分瘴気には慣れた感が出てきたくらいだった。
しかし疲労は確実に蓄積されているようで、ここで完全な休憩を入れるのか、ファウナは一人アウェイに残された俺を呼び寄せた。
「リーパー、こちらへ来てください」
なんだかんだ言っても、俺だけが何故こちら側に残されたのかは分かっていた。ファウナもクレアも、初めからこの試練は苦戦することくらいは承知だった。そこでアドバイスなのかエールなのかは分からないが、いざという時のために俺を残したのだろう。
それを理解していただけに、ここでファウナに呼ばれても驚かなかった。
「リーパー。フィアンセとして、どうかクレアを元気付けてあげて下さい」
こいつはキてるぜ……
ファウナの中では、既に俺はボーイフレンドを越えてフィアンセとなっているようで、異常なまでの思い込みに恐ろしさを感じた。
「元気付けろって言われましても……」
「汗を拭くでも、手を握るでもなんでも構いません。今のクレアにとって必要なのは、愛なのです!」
いや今は愛より加護印だから!
愛の力で瘴気を克服できるなら英雄はいらない。今までどれほどの夫婦や恋人、親子たちが犠牲になったか歴史を見れば一目瞭然だった。それを愛で克服できると思っているファウナはヤバかった。
しかしながら、ファウナ様の御意向に沿わない行動は死を意味するため、なんかそれらしい愛の表現が必要だった。
「分かりました……」
っというか、よく考えてみれば、俺は愛とは一体何なのか一切分からない。言葉やニュアンス的な愛は分かっているようで分かっていないが、何なのか全く分からない。もし愛というのが躊躇わない……やっぱり良く分からなかった。
まぁとにかく、良く分からない物を考えてみても宇宙刑事ギャバンのサビしか思い浮かばないので、とにかく愛らしい事をクレアに施すことにした。
「ほらクレア、水だ。先ずこれを飲め」
先ずは、汗を流している姿を見て、用意されていたペットボトルを手渡した。
「あ、ありがとうリーパー……しかしまだ飲んでいるのがある」
「そうか……ならこの塩飴を舐めろ。日本では熱中症対策に良いらしい」
「あ、ありがとう……貰っておく……」
「あぁ」
俺は、ドラマとか見ない。それにまだ彼女がいた事も無い。だからどうすれば良いのか正直分からない。そこで、スポーツ漫画とかで良くある、夏休み中、蝉の鳴き声を背に、体育館で部活の休憩中にちょっと良さげな感じの二人が会話するシーンをイメージして、なんかそんな感じで攻める事にした。
クレアが飴を受け取ると、俺は横に腰を下ろした。
「…………」
「…………」
「…………」
何を話せばよいのか全く分からなかった。っというか、昨日の今日という事もあり、クレアも正直今は俺とは話し辛いのか、互いに掛ける言葉が見つからなかった。
「…………」
「……桐島、部活辞めるって」
何か言わなければ、意外とシーンには入り込めたようで落ち着いていたが、ファウナ様の手前何かしなければいけないという思いが、全く見た事も無い映画のタイトルを口に出させた。
「そ、そうか……それは残念だな……」
「…………」
お前も乗って来るんかい⁉
多分今のクレアの返答は、とにかく俺の言葉に何か返そうと思っていても、昨日の事や試練の事で頭がいっぱいで深く考えられず、単に日本の俺の友達が部活を辞めるのだと勘違いして、もう面倒だから適当に返した言葉だろう。
しかし、いきなり奇襲が飛んできたこの局面でも全く動揺することなく、即座に対応したクレアには、初めて尊敬に近い感情を抱いた。
「明日は雨だって……」
「そ、そうか……それは大変だな……」
もうどうしたら良いのか全く分からなかった。多分これがパオラやツクモを相手にしているのなら別だが、フィリアと同格ぐらいにしか思っていないクレアが相手では、何をどうすれば正解なのか分からなかった。寧ろこれならフィリアを相手にしている方がよっぽど楽だと感じるほどで、帰ってゲームをしたいくらいだった。
「…………」
「…………」
超気まずい。多分クレアもそうだ。だからこその沈黙。ある意味俺にとってもこの試練は過酷だった。
「……あ、あれだ」
「な、なんだ?」
「……あ、いや……何でもない……」
「そ……そうか……」
この時、少女漫画を読んでおくべきだったと後悔した。リリアもヒーも、俺の影響か少年漫画しか読まなかったし、フィリアはお嬢様だから漫画よりも小説とかしか読まなかったから、あれだけ女子に囲まれて育っていても、俺は恋愛系の本はエロイやつ以外見た事が無かった。
そんな後悔と、ギャバンのサビが頭の中で鳴り響く今の思考では、もうクレア側から話しかけてくれないとどうしようもない状態だった。
しばらくの沈黙が続いた。その間ファウナが助けてくれることも無く、ただひたすら貴重な時間を費やすだけだった。
「……す、済まないリーパー。休憩も終わりにして試練に戻る。気を遣わせてしまって悪かった」
「い、いや、別に構わないよ……」
「あぁ」
確かに休憩するには十分な時間だったが、クレアがこのタイミングで終わりを口にしたのは、どちらかと言えばこの居たたまれない空気に耐えかねたという感じだった。
「頑張れよ」
「あぁ。行くぞファウナ!」
「はい」
結局、俺がこちらに残されても力には全くなれず、ただ無駄にクレアの休憩を邪魔しただけだった。それでもクレアは嫌な顔一つ見せず、なんか結局……やっぱり俺がこちらに残された意味が分からなかった。
初めてなろうに投稿したときは、毎日書いて投稿していました。しかし現在、書かない日があったり、書いても100文字も書けない日があったりで、舐めてます。っというか、仕事して帰ってなんか色々して疲れて9頃に寝るという生活レベルになってしまっているので、こんなペースです。仕事をしながら夢を叶えた人は本当に凄いと思います。
しかしながら、5年以上こんなことをしていると、逆に私より厳しい状況で夢を叶えた人はどれだけ犠牲にして来たのかも分かると、やっぱり私のやり方が正解だと思います。
『暑くて敵わん』という感じで伸びるモップを見ていると、やっぱり大切なのは、夢を追うのも趣味程度が一番だと学びました。
あと一つ。ペットが欲しいと思う人は、一人で飼うのは止めた方が良いです。遊びに行けないし、家から離れて時間が経つと心配になるし、ウンコは臭いし、餌代は掛かるし、足は襲われるし、なんか一人でぶつぶつ鳴くし、ずっと見てるしで、運命的な出会いが無ければ絶対モップとなんて一緒に生活なんてしていません。って言うか、いい加減鼻水くらいは止まって欲しいです。




