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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
83/159

闇世界の住民

 なんか色々あって、大司祭トーマの部屋に突撃して犯罪者となった俺たち。そんな中で、なんか色々あって人生終わりかと思った矢先、ファウナが分け分からん事言い出すとエヴァが変身して、なんかよう分からんが家のじいちゃんが出て来た。


「じいちゃん⁉」


 ここでまさかのじいちゃん登場にはギョッとした。


「ななななんでじいちゃんが……」

「そ、そんな馬鹿なっ⁉ 何者だ貴様っ⁉」


 俺もびっくりだが、大司祭トーマもまさかの登場に驚き、なんかもう俺たちは仲間のようにオロオロした。

 

 しかし!


「おいおい。お前元英雄名乗って大司祭になったんだろ? これが“俺”がアズ様より授かった力だ。ほれ見ろ。この聖刻くらい知ってんだろ?」


 そう言うとじいちゃんは、右手の甲をトーマに見せた。


 歯があるっ⁉


 見た目はじいちゃんそっくりだが、活舌がしっかりしている。じいちゃんは歯茎こそ丈夫で煎餅とか食べられるけど総入れ歯だ。そんなじいちゃんがここまで綺麗に発音するには、界王拳十倍を使っても絶対無理、あり得ない。


 じいちゃんを良く知る俺だからこそ、ほんの僅かな違和感に即座にこれがエヴァの変身能力なのだと理解し、冷静さを取り戻した。


「ま、まさかお前……エドワードか⁉」


 それに対し大司祭トーマは、突然現れたじいちゃんなのかエヴァが見せた聖刻なのかは分からないが鵜呑みにしてしまったようで、先ほどとは打って変わって怯えるように慌てるだけだった。


「はっ! ……ま、まさか!」


 大司祭トーマはエヴァの術中に落ちた。確かにこれだけの物を見せられれば仕方が無い。だがそれだけでは終わらないのがエヴァとファウナ。

 完全に術中に落とすために念入りに準備していたようで、次なる攻撃を仕掛ける。


「やっと気づきましたか。お久しぶりですトーマ。“ジャンナ”・シャルパンティエです」

「ジャ、ジャンナ!」


 ジャンナ・シャルパンティエは、おそらくクレアの祖母であるジャンヌ・シャルパンティエの事だろう。しかし大司祭トーマの慌てぶりから見ると、おそらく当時はジャンナの方で名乗っていたようで、教科書にさえ乗らない当人たちしか知らない情報を出すことで、より信ぴょう性を持たせるとは、この二人の知略には恐れ入った。


 完全に二人の術中に落ちたトーマは、ジャンナの名を聞くとベッドから起き上がり、見事なパンツ一丁姿を披露した。その垂れ下がった腹や金のパンツはなかなかの悪党を演出しており、機敏な動きはある意味大司祭という感じだった。


「随分と元気そうだなトーマ。その齢でそれだけ動けるとは、お前大分良い暮らしして来たみたいだな。俺たちのお陰で」


 もうじいちゃんの姿は必要ないと思ったのか、エヴァは見る見る姿を変え、再び元の姿に戻った。


「べべ、別に儂はおお、お前たちの名を利用したわけじゃない! わわ、儂は、きききちんと修行して、しし司祭になった!」


 どうやら二人の言っていた通り、トーマという大司祭は本当に駄目な人間のようだ。エヴァの変化も見破れないどころか、仮に二人が本物だったとしても、ここまで動揺を隠せなくなるとは、余程悪事を働いて来たらしい。

 二人がトーマを嫌う理由が何となく分かった。


 そんなトーマに対し、相当恨みを抱いているようで、ここでファウナが一気に空気を変えて威圧する。


「トーマ。貴方がどういった経緯で司祭になったのかを問うために、私たちはここに来たわけではありません」

「そ、それは……」

「クレア・シャルパンティエは、誰の子孫なのか、知っていますか?」


 とてもゆったり、静かに、それでいて穏やかに放ったファウナの言葉だった。だが、その言葉が終わった途端、まるで空高くそびえる巨人の手のひらにでも押さえつけられたかのような重圧が、俺だけでなく部屋全体に圧し掛かった感覚に襲われた。

 それは空気が凝縮されて可視化されたかと錯覚するほど圧倒的で、ファウナがジャンヌ・シャルパンティエ本人なのだと勘違いしてもおかしくないレベルだった。


 多分ファウナは、俺が思うよりも遥かに強い。考えてみれば、英雄の子孫でもないのに三年一組に選ばれるほどだから当然だろうが、それでも今感じた尋常ではない圧はとても人が出せる物では到底ない。

 変身まで出来るエヴァ、圧倒的な圧力を見せるファウナ。特別養子縁組が何なのか良く分からないが、この二人を見ていると俺たちって最初からいらなかった。


 ファウナの威圧を受けた大司祭トーマは、すっかり信じ込んでしまったようで、顎がガクガクするという言葉を体現したように怯え始めた。


「どうしましたトーマ。返事が聞こえないようですが?」


 ファウナの本気の威圧。俺たちでさえ普段たまに見せるファウナの威圧には委縮するのに、そこに敵意まで付け加えられたら背後に仏が見える。それをさらに超えた殺意にも似た感情をぶつけられれば、例え大司祭であろうとも蛇に睨まれた蛙だった。


「まぁ良いです。ただし、命をとしてこの時代を紡いだ、英雄たちの威厳を悪用した報いは受けてもらいます」


 報い⁉ ファウナは……


 そこまで思った瞬間だった。また突然カメラのフラッシュのような光が一文字に視界を走った。そしてそこから数秒、何の光だとキョロキョロすると、今度は大司祭トーマが腹を押さえて蹲り、呻き声を上げた。


「ぐわあああぁぁぁ!」


 恐らく先ほどから見える光は、前に言っていたファウナの光速に近い動きが出来る能力によるもの。だけどファウナは微動だにしていないし、刀に手さえ触れていない。それこそビームを撃ったような素振りさえない。


 なんとも途轍もない力に、こんな場だが頼もしさを感じた。しかしそんな頼もしさも、次の瞬間には恐怖に変わる。


「うううぅぅぅ」


 大きな呻き声を上げて蹲ったトーマは、余程の報いを受けたようで蹲り痛みに耐えるように唸る。その姿は老体という事もあってさすがにやりすぎじゃないかと思ったのだが、蹲るトーマの足元のシーツが真っ赤に染まるどころではなく、水溜まりと言っていい程出血しているのを見て、一気に血の気が引いた。


「エヴァ」

「分かってる」

「元に戻しては駄目ですよ」

「分かってるって。ちゃんと報いは受けてもらう」


 ファウナがトーマに何をしたのかは分からない。だけどあの出血から腹を裂かれた以上の事をされたのは容易に想像できる。なのにそんな非情な事をしても平然としているエヴァとファウナには、人として常軌を逸していると言わざるを得なかった。


「安心しろトーマ、命は取らん。その痛みはしばらく続くが、時期治る。ただ、ファウナが切り落とした加護印がある部分はそのままだ」


 切り落とした部分⁉ ま、まさかファウナの奴あそこ切り落としたの⁉


 命は取らないという事から、エヴァがトーマを治療しているのは分かる。だけどそれ以前にファウナが大事な部分を躊躇なく切り落としたというのを知って、一気にファウナの事が怖くなった。そして、相棒のファウナがそんなことをしても、何一つ咎めることなく言うエヴァにも異常者の狂気を感じた。


「また加護印が欲しけりゃ、今度は違う場所に出すんだな」


 正に悪党。大司祭トーマがどれほどの悪事を働いてきたのかは知らないが、仮にも次期英雄候補である人間のする事ではない。

 特別養子縁組の二人が他とは違う環境で育ってきたのは分かるが、ここまで非情な事を平然とする人間だとは思ってもおらず、闇の住民だったことにただただ恐ろしさを感じた。


「さて、それではトーマ。これより先、元英雄を語ることを禁止します。宜しいですね」


 ファウナたちが、何故ここまで高圧的に大司祭に命令できるのかは不明だった。っというか、既にトーマは痛みで声など耳に入っていない状態で、ファウナの一方的な強制だった。

 それでもファウナは満足したようで、勝手に約束を取り付けるとやっと重々しいオーラを解いた。だが、オーラを解いても部屋の中に充満した死の匂いは消えることは無く、さらにその後に見せた行動で、ファウナに対する恐怖はさらに膨れ上がった。


 話が終わるとファウナは、これ以上トーマが居ても邪魔だとでも思ったのか、瞬間移動としか言いようがない移動を見せ、ナイフのように鋭い手刀をトーマの首にぶつけて気絶させた。


 それは移動した瞬間一瞬ファウナが二人いたと思うほどの速さで、残像が本当に存在するという事を認知させ、振り抜く手刀は柔らかく優しいものだったがまるでメスのような切れ味だった。特に移動に関しては“俺でなくても見逃しちゃうね”レベルで、もはやファウナは漫画の世界の住民だった。


「さぁリーパー。早く浴室に居るクレアの元へ急いでください!」

「えっ……」

「トーマの処理は終わりました。この事をクレアに伝え、間違いを叱って来てください!」


 全く別世界の本性を見せたファウナだったが、トーマを気絶させるといつものファウナに戻り言う。その変わりようはまた別人格のようで、突然指示を飛ばされても即座に反応できなかった。


「早く行きなさいリーパー! 浴室は“多分”あちらです!」

「え?」

「早くっ!」

「は、はいっ!」


 先ほどの闇ファウナを見てしまっては、もう今何を指示されているのかなんて理解できていなかった。ただあっちに浴室があるから行けという声に、従わなければ殺されるという脅迫観念に突き動かされ、なんか良く分かっていないが指をさされた浴室へと急いだ。

 最近忙しくてかなりモップに寂しい思いをさせています。そんな日々ですが、モップとすっかり親子という関係になったようで、今ではいつもより布団に入る時間が遅れると『寝るぞ』と催促したり、自分の場所だと言わんばかりに川の字でデロンと寝るようになりました。

 そんなモップを見て、私もモップがいて当然となり、また嬉しくなります。

 ここまで来ると、保護されたのが私で良かったのかという疑問は愚問になりました。


 モップはまだ六か月ほどの子供で、これから初めて夏を知ります。普段は窓から見る景色で初めてを知り、休日は散歩で変わりゆく季節を知ります。タンポポや伸びた緑の草、花の匂いや様々な虫、セミの鳴き声、モップにとっては全てが初めてだと思うと、色々な感情を抱きます。


 今年一年は月一程度の投稿になるかもしれませんが、よろしくお願いします。


 

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