表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
80/186

脱落者

 右眼球破裂。左前腕骨折。頭蓋骨骨折。左肋骨完全骨折。左肺破裂……フィリアの試練は、『とにかくめちゃくちゃにやられたんだよ!』と若き空手師範代がぶちぎれてもおかしくないほどの致命傷を与えて終了した。

 これによりミカエル様の試練は無事終了し、俺たちはクレアとファウナと合流するため、最後の試練会場であるアテナ神様の祠に向かうことになった。


 ――夕食。


 ミカエル様の試練が終わり、なんか修行を終えてピンチの仲間の元へ颯爽と車で向った俺たちだったが、時間的にも現実は厳しく、アテナ神様の祠に到着する以前に『今日はもう遅いので、クレア様たちは屋敷に戻りました』的な事を途中で言われ、アテナ神様の試練はまさかの翌日に延長されていた。


「……それで、クレアはどうしたんだよファウナ?」


 アテナ神様の祠の最寄りにある、これまた大層豪華な屋敷で合流した俺たちは、時間も時間という事でそのまま夕食に入った。そこで進捗について情報交換を行うはずだったのだが、テーブルにはクレアの姿はなく、あのエヴァが珍しく呆れたようにファウナに訊いた。


「自分の不甲斐なさに、皆と顔を合わせるのが苦痛のようで、しばらく一人になりたいようです」

「ふ~ん」


 クレアにとっては余程受け入れられない現実のようで、相当落ち込んでいるようだった。だが、試験官の前で揉みくちゃの喧嘩をしたブレハートの御子息や、何故か罰ゲームの熱湯ダイブをさせられた俺たち、普通に試験官に負けたライハートの二名の御子息が呑気に夕食を楽しんでいるのを見ると、何をそんなにショックを受けているのか疑問にさえ感じた。


「おま……シャルパンティエ家の一族は大層真面目だな。見ろよこいつら。もう試練なんて忘れて飯食ってんだぞ?」


 クレアは本気で悩んでいる。しかしもうエヴァたちの話も聞かずに飯を食うアドラやパオラ。昼間さんざん喧嘩してたのに仲良く三人並んで座るリリアたち。聞いてはいるが、絶対さっきの試練について改善点を探しているライハート一族。スクーピーの世話に追われるエリック。そして今日の女子たちは何色のパンツを履いているのか考えている師匠と和尚の面々を見ると、俺たちの方が先ずきちんと試練と向き合わなければいけなかったのだと反省しなければいけないような気がして来た。


「クレアにとっては、これからも三年一組に居られるかどうかの瀬戸際ですから、エヴァが考えるより簡単な話ではないのです」

「まぁ……そうだわな……」


 ファウナは相当クレアに入れ込んでいるようで、エヴァの言葉に苛立ったように言う。そうなるとエヴァもファウナには勝てないようで、直ぐに口籠った。

 そんなエヴァに変わり、フィリアが口を開く。


「ですがファウナ、疑似的とはいえ瘴気の壁も越えられないようでは、いくら真剣に取り組もうが限界があるのではないですか?」


 フィリアの言う通り。この演習の一番の目的は瘴気に対する耐性だ。仮にクレアが加護印を発現させられなくても、瘴気に耐えられなければ話にならない。


「それはフィリアの仰る通りです。瘴気に耐えられなければ、例え加護印を持っていても、三年一組に残る必要はありません」

「では、残念ながらクレアには諦めてもらうしかありませんね? 私たちにはもう時間がありません。演習が終われば三年一組は聖刻を授かるための最終段階に入ります。そうなれば同じ聖刻を目指すファウナにとっても良い影響を与えませんから」


 フィリアの言う事はかなり冷たかった。だがここで友情だの仲間だの言ってクレアを残しても、加護印を持つ俺たちはいずれ魔王と戦わなければならないため、間違いなくクレアは死ぬ。

 それに……なんだかんだ言ってもクレアは俺の事を好きだと言ってくれた。そんなクレアをこれ以上無理だと分かっているのに、危険に晒すのは俺的にも反対だった。


 非情とも取れるフィリアの発言だったが、これには意外と皆もそれを理解しているようで、誰も口を挟まなかった。

 ただファウナがそれをすんなり受け入れるとは思えず、ちょっと荒れそうな感じがした。


「そうかもしれません。しかし後一日あります。もし明日、クレアが瘴気をクリアできなければそれも致し方ありません。ですが後一日あります。彼女にとってはこの先、人生にとって大きな分かれ道となる大切な場面です。どうか後一日だけクレアに三年一組の大切な時間を分けて下さい。お願いします」

 

 そう言うとファウナは頭を下げた。


 何故ファウナがここまでしてクレアに肩入れするのかは分からなかった。確かにファウナとしてはクレアがいてくれた方が心強いし、もし自分が聖刻を貰えなくてもクレアがいるという余裕が出来るのは分かる。しかしファウナ自体誰かに甘えるという弱さはないし、実力的に誰が見ても聖刻を貰えるのはファウナの方しかいないという現実を考えると、やっぱりファウナがクレアをそこまでして残そうとする理由が分からなかった。


 ファウナが頭を下げた事で、もう俺たちでは素直に明日の結果を待つしかなかった。だがやはり長年の付き合いか、エヴァだけはそんなファウナ相手でも平然と言葉を返す。


「おいファウナ。お前、少しクレアを甘やかし過ぎじゃないのか? 瘴気を前にしても加護印さえ発現させられないんだぞ? 他を探すしかない。シャルパンティエ家には別の子がいるだろう?」


 クレアには、既に社会人となり、かなり偉い役職についている二人の従兄がいるらしい。そのため現在二人は多忙なため、三年一組には合流していない。


「それはあまり期待できません。リュカとアクセルは学歴や社会的地位ばかりを追い求めるようになってしまいました。あの二人には才能はありません」


 どうやらファウナは、シャルパンティエ家について良く知っているようだ。それはおそらく同じアテナ神様の聖刻を目指すライバルとして調べたのだろう。だがそのせいで、そこまでするファウナがそれでもクレアを推す理由が増々分からなくなった。


「じゃあ他を探すしかない。その方がファウナにとっても後々楽だろう? 最悪ウィラに任せる手もあるし」


 それは多分絶対無理!


 アテナ神様の聖刻は、代々女性が引き継いできた。それはアテナ神様が愛や母性を司るとも云われている神様で、女性である事が大きな理由らしい。それに、ウィラは僧のくせにめっちゃエロイ。あれだけ邪な心をしているウィラなら、おそらくアテナ神様にも欲情して天罰を受けるだろう。


 エヴァが本気で言っているかどうかはさておいて、これにはウィラも含め、話を聞いていた全員が無理だろう的な顔を見せた。


「それでも、後一日あります。エヴァ、後一日だけ待って下さい。クレアはまだ諦めてはいません」

「だけどよ……」

「それに、まだアテナ様はクレアをお見捨てにはなっていません」

「…………」


 アテナ神様の名を出されたせいか、否定しようとしたエヴァは途端に口を紡いだ。それを見て、アテナ神様は意外と怖い存在なのだと知り、俺はもうこの話には一切口を出さない事を決めた。


 そんな感じで、もう少し揉めるのかと思った話だったが、やはりアテナ神様の名は強大だったようで、その後この話は不自然なほど一切忘れ去られ、俺たちは他愛もない話をしながら夕食を済ませた。

 そして食後は、まだ演習中という事もあり、明日に備え静かに解散した――はずだった。


「え?」

「お願いします」

「う~……」

「…………」

「分かった……」

「ありがとうございます。それではお願いします」

 

 夕食後、部屋に戻りしばらくすると、ファウナが部屋にやって来た。そして、クレアの部屋に行けと言われた。

 これには、何か声を掛けた方が良いんじゃないかという思いと、何となく来るんじゃないかという予感はしていたため、それほど嫌な気はしなかったが、行けという命令のようなプレッシャーには正直ビビった。っというか行かなければ行くまでファウナは居そうな雰囲気に、行くと言うしかなかった。


 まぁそんな感じで、俺が行った所でまた襲われるくらいしか何かが変わる可能性は無いが、それでも少しでも何かが変わるのならと、ファウナの後押しを受けクレアの部屋へ向う事にした。

 またしばらく休載します。今度は多分もっと長いです。


 モップとの生活は順調です。今はかなり親子という関係になりました。ですがその反動で全く小説に身が入らなくなりました。どんなに時間が掛かっても私が生きている限り完結は目指しますので、ご容赦ください。


 それでも、モップからはたった一月ほどですが沢山の事を学ばさせてもらいました。我らは英雄だ‼ は、後半になれば命についてが大きなテーマとなってきます。モップと過ごす中でそれを教えられたことは大変大きな収穫です。そして、夢を追い続けるより、子供一人を育てる事がどれほど大変な事かも知りました。仕事や学業の中で夢を追うのは大変だと言いますが、夢って人生においては意外と難易度が低いようです。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ