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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
二章
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天使降臨

 俺たちのせいか、クレアたちのせいか、もうどちらが悪いのかは分からないが、互いに険悪な空気を醸し出した教室は、何とも言えないピリピリした気まずい空間となっていた。

 その間はとても居心地が悪く、さっきまで明るかったリリアでさえどんよりさせ、全員が既に日本に帰りたいと思うほどになっていた。


 そんな地獄のような時間を過ごしていると、仏はやはりいるようで、廊下から楽しそうな声が聞こえて来た。


「……ねぇ! ……サイ!」

「……それは……ですよ?」


 聞こえてくる声はまるで小さな女の子のような声と、それに付きそう保護者のようだった。


「ここには幼稚園もあるんですかねリーパー?」


 険悪な空気のため、リリアが向こうに聞こえないよう小声で話す。


「さぁ、分かんねぇ? そうなのかフィリア?」

「さぁ? 分かりません?」


 廊下から聞こえる女の子の元気な声。それに紛れるように小声で話す俺たち。もうこの学級は崩壊寸前だった。

 しかしそんなことはやはりご先祖様たちは許さぬようで、元気な声は教室の後ろの扉の前で止まると、静かに開いた。そして……


「おはよーござーます! スクーピーです!」


 突然天使が舞い降りた。


 扉が開くと同時に、超ちっちゃな女の子が大きな声で挨拶した。小さな体に着る制服、生まれたてのように白銀に見える柔らかそうな金髪、雪見大福のような柔らかく真っ白な美味しそうな肌。宝石のように輝くキラキラした瞳。あまりの眩しさに、思わず浄化されそうになるほどだった。


「三歳です!」


 うわわわぁぁぁ! なんという穢れなき眼! 上手くできていないその三歳の指を止めてくれぇぇぇ!


 汚れ切った小魔王の俺など、瞬殺されるには十分な破壊力だった。


「こ、こら、スクーピー、大きな声を出しては駄目ですよ?」

「うん!」


 なんという眩しさ。思わず隣にいる眼鏡を掛けた兄らしき存在が下僕に見えるほどの可愛さだった。


 そんなスクーピーに圧倒される俺たちに気付いたのか、ここで兄のような従者らしき制服を着た男子が、挨拶をする。


「は、はじめまして、わ、私たちは、ポロヴェロージ家の者です。私はエリックです。そしてこちらが妹のスクーピーです。よ、よろしくお願い致します」


 そう言うとエリックと名乗る男子は、礼儀正しく頭を下げた。しかしそれ以上にスクーピーの存在が強烈過ぎて、誰も彼など目に入ってはいなかった。そして次の瞬間スクーピーが挨拶した事で、関が切れる。


「よろしーお願い……しますっ!」

「わぁあああ! スクーピーと言うんですか! 私は五十嵐理利愛と言います! こちらこそよろしくお願いします!」

「わわ私は五十嵐妃美華と言います! こちらこそよろしくお願いいたします!」

「私はフィリア・ライハートと言います。スクーピーちゃん! 三歳なんですか! 目がとても綺麗ですね~」

「おお俺はリーパー・アルバインって言うんだ。よろしくねスクーピー」

「お、俺は、ジョニー・ライハートだ。よろしくスクーピー」


 もうゾンビ映画でゾンビが肉に集るかのようなパニックだった。誰しもが天使のようなスクーピーを食べてしまいたい一心で駆け寄り、我先に唾を付けようと群がる。特にヒーに関しては相当本気なようで、ここに来る前は忌み名とか言って言わないとか言っていた本名まで言っちゃう始末で、下手をすれば殺し合いに発展しそうな勢いだった。


「三歳ッ!」

『おお!』


 スクーピーが年齢を表そうと不細工に指で三を作るだけで歓声が上がる。そしてその隙をついてリリアが触ろうとすると、揉め事が発生する。


「スクーピー、三はこうやって作るん……」

「ダメですよリリア、小さい子の指はか弱いんですから下手に触っては。良いですかこうやって……」

「いや駄目ですよフィリア。良いですかスクーピー、私に手を貸して下さい」

「あ、ズルいぞヒー! スクーピー、はい俺の手を叩いて」

「じゃあ、俺の手も叩いて遊ぼうかスクーピー」


 この可愛さ。誰しもがあっという間に虜にされ、我先にと策を弄しスクーピーと触れ合おうとする。その破壊力たるや、妹の心配をして止めようとする眼鏡の兄など屁の突っ張りにもならないくらい無力だった。


「あ、あの! 皆さん止めて下さい! スクーピーが怪我をします!」

「ほらスクーピー、タッチ!」

「いえいえこっちが先ですよ~スクーピー」

「いいや。やっぱり一番手の大きい俺が先だろうスクーピー?」

「いや俺だろ? 見てこれスクーピー、これ升掛って言って……」

「はいスクーピー、私とタッチしましょう」

「あの、皆さん!」


 パンダの赤ちゃんなんて目じゃなかった。それくらいスクーピーは可愛かった。そしてそれは見た目だけじゃなく、心まで正に天使のようで、なんかいた係員のような眼鏡の男子にまで慈悲をお恵みになられるようで、彼の言う事を聞けと言わんばかりに突然フィリアとヒーの手を幸運を落とすように叩くと、俺たちを制止した。


「ダメ~! エニックいじめちゃダメ~!」

『おおっ!』


 驚きと畏れ。正にそれが混じりあったかのような俺たちは声を零した。それと同時に、自分たちはなんと愚かな行為をしてしまったのだと深く反省し、エニックだかエニグマだかよう分からないが、先ずはスクーピー様の言う通り、彼に挨拶をする事を禊として行う事にした。


「いや~ごめん。つい……俺たちは日本から来た、一応英雄の子孫で、俺はリーパー・アルバインって言うんだ。よろしくエニグマ」

「いえ、エリックです……よろしくお願い致します」

「あ、あぁごめん……よろしくねエリック」

「はい……」


 スクーピー様のお陰か、本来なら結構人見知りの俺だが、とてもフレンドリーに接する事が出来た。名前は間違えたけど……

 その後もスクーピーのお力のお陰で、俺よりも人見知りするリリアたちまでもが平然とエリックと挨拶を交わし、交流を深めた。


「では、私たちはあちらのクレアさんたちにも挨拶に向かいますので、失礼します」

「えっ! ……あ、あぁ……なんかごめんね? 引き止めちゃったみたいで」

「いえ。では、行きましょうスクーピー。クレアさんたちが待っていますよ」

「うんっ! バイバ~イ」

『バイバ~イ』


 何という事か、従者であるエリックに気を取られている隙に、いつの間にかスクーピーを奪われてしまった。これには皆とても残念そうな顔をしていたが、エリックさえクラスメイトであればまたいつの日かスクーピーに会えると思い、泣く泣く去り行くスクーピーに別れを告げた。 

 そしてクレアたちの元へ行くと、知り合いなのか、なんか良い雰囲気で挨拶を交わし、あろう事か、クレアとキリアはスクーピーに『大きくなったな』とか『字は書けるようになったか?』とか言って、頭をなでる愚行に出て、かなり羨ましかった。


「なぁフィリア、エリックについて何か知ってるか?」

「え?」

「いやだってさ、喋り方とか動きとか貴族みたいだし、あのクレアとかキリアとかいう二人もここに通ってるくらいの金持ちじゃん」


 クレアとキリアは、元々ここのなんちゃら学院の生徒らしく、初めて挨拶に来たときも同じ制服を着ていた。


「その二人と知り合いみたいなエリックってさ、やっぱ金持ちなのかな?」

「まぁ多分そうでしょうね。それにポロヴェロージとか言っていたので、もしかしたらイタリアのブランド、ポロヴェロージと関係あるのかもしれません」

「ブランド? グッチとかシャネルみたいな?」

「えぇ。日本ではあまり有名ではありませんが、海外では結構有名です。それに私も香水とかなら少し持ってますし」

「へぇ~……」


 イタリアでは珍しい苗字なのかどうか分からないが、エリックを見ているとそうは見えない。


「でも……」

「スクーピーならあり得ます!」

「だな」


 やはり感性は皆同じ。リリアがそう言うと全員がそうだという感じで納得し合った。


「それにしても、俺たちの席順って誰か知ってるか?」


 俺たちが教室に入ってから席に座らなかったのは、これが原因だった。それに先に来ていたクレアたちも座らずに立っていたし、それが余計に勝手に座ってはいけないという雰囲気を醸し出し、結局登校時間ギリギリになった今でも俺たちは突っ立ったままだった。


「いえ。ヒーちゃんたちは?」

「いえ。私たちも、お母さんからも何も聞いていません」

「そうですか……なんなんでしょうかね?」


 フィリアだけでなく、ヒーまでもが知らないという現状に、全員が首を傾げた。


「おそらく忘れてでもいるんだろう。全く何を考えているのか分からない」


 ジョニーは今まで特に不満も言うことなくいたが、やはり前回の件で思うところはあったようで、珍しく不満を漏らした。


「まぁ良いんじゃねぇの。俺たちは不満があったらいつでも日本に帰れるし」

「それもそうだな」

「まぁとにかく、折角ここまで来たんだ、ちょっとくらい授業を受けてやろうぜ?」

「あぁ」


 ジョニーがああ言うのは本当に珍しい。そこで俺たちも同じ気持ちだと教えるために、軽い気持ちでやろうぜと声を掛けた。


 そんな感じで、もう少し待てば先生でも来るだろうと気楽にしていたのだが、やはり英雄の子孫が集まる教室。まさかの事態が発生する。


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