フィリア・ライハート
いよいよ迎えたミカエル様の最終試練。その挑戦者は、三年一組が誇る最終兵器フィリアだった。
「フィリア頑張れ!」
着替えを終え戻って来たツクモは、すっかり元の女子高生に戻り、楽しそうに応援の声を上げる。
「頑張ってフィリア!」
最初はフウラの心配をしていたマリアだが、まだ三人でウジウジしているのに見兼ねて、もうそれが完全に無かったかのようにすっかり元の女子中学生に戻り、フィリアを応援する。
「フィリア! 頑張って!」
リリア、ヒー、フウラに噛み付き、狂犬のようにフーフー言っていたラクリマだが、噛み付き過ぎてすっかりストレス解消出来たのか、すっかり元のラクリマに戻ったラクリマは、スポーツ観戦を楽しむように声を上げる。
この三人は知らなかった。フィリアという女を。
フィリア・ライハート。またの名を鬼。破壊神。ハンマー、などなど。彼女は、ミカエル様の聖刻を与えられた前英雄ジャック・ライハートの孫で、祖父、父ともに剣術の世界王者になる程の武闘派の家庭に生まれる。
家は道場を経営しており、その影響と言えば聞こえは良いが、元来生まれ持った破壊衝動を持つフィリアは、幼少期よりあらゆる格闘技を嗜んだ。しかし、破壊の悪魔に憑りつかれた彼女は、いつしか素手による破壊ばかりを楽しむようになり、祖父や父とは違う道を歩むこととなった。
彼女は、来る日も来る日も“何か”を叩き続ける日々を続けた。だが魂まで悪に染まり、悪魔と化した彼女はそれだけでは満足しなかった。そんな彼女は、医学を学び人体の構造を知った。物理学を学び伝達を知った。経済学を学びお金を知った。古武術を学び人体の扱いを知った。
そうする事により彼女は、理想へと近づいた。
フィリアはイカれてた。フィリアはちっちゃい頃に相撲をやって、体当たりしたときに何かに目覚めたらしい。それ以来狂ったように格闘技に熱中したらしい。
それだけ聞けばただの格闘技好きの女子で済むだろう。だが勘違いしないで欲しい。奴は弟のジョニーですら『姉さんは人を叩くのが好きなだけで、別に格闘技は好きじゃない』と認めるほど狂った奴で、実際はただのサイコパスだ。
その上質の悪い事に、フィリアは元から頭が良かったせいで、どうやったら気持ちよく叩けるかとか、どうやったら衝撃が貫通するかとか理論的に考えられる知能も持っていて、熱心に研究できる勤勉さも持ち合わせている。そしてまた悪い事に、じいちゃんやおじさんの格闘家としてのセンスまで引き継いでいて才能もある。
ただ、一応知性が高い事で人間社会でのルールも分かっているようで、今まで人を襲った事は無いし、試合をしてもちゃんとルールを守って誰かを殺害した事も無いのが唯一の救いだった。
そんなフィリアの全てを知る俺とジョニーは、遂に迎えたフィリアの試練を前に固唾を飲んでいた。
それはあのツクモが戻って来ても全く魅了されないほどで、強く中止を進言したかった。
しかしながら、俺のような一候補者が演習についてどうこう言える立場にある訳もなく、試練は通常通り行われた。
フィリアの対戦相手は、現役の男子総合格闘家で、現在世界二位という超大物だ。まだチャンピオンになったことは無いらしいが、全戦全勝のファイターで、二メートル近い高身長に加え、剛力さタフさを兼ね備え、さらにイケメンまで持ち合わせるフルスペックモンスター。
武器は使用せず素手で戦うつもりらしいが、ルール上フィリアが鋼鉄の手甲を使用するため、魔導人形を使用しての戦いとなる。だが、魔導人形は体型まで調整して使用者の動きを再現できるため、その大きさはかなりの威圧感があった。
そんな世界二位の相手に対し、フィリアはスポーツブラにハーフパンツという総合格闘のユニフォームを着用し、長いブロンドをぐるぐるウンコにしてまとめている。そして手にはメタリックの手甲が輝くのだが、不思議な事に何故かそれは右手にだけ装着されていた。
フィリアの右手だけ鬼の手スタイルには嫌な予感がした。正直フィリアは戦いに関しては天才的だ。そんなフィリアが、意味もなく利き手だけに手甲を装備するはずもなく、何か良からぬ事が起きそうな予感がした。ちなみに左手は、ネコかウサギかなんかの動物の顔がプリントされたファンシーなオープンフィンガーグローブ(指が出ていて、物を掴めるグローブ)で、狂っていた。
それでも何も知らない関係者は、それもまた戦術なのだろうとでも思ったのか、誰一人気にする様子もなく、そのまま試合は開始された。
試合が始まると、両者一斉に構えた。魔導人形は腰を落としタックルを狙うような姿勢を取り、今日のフィリアはボクシングスタイルを取った。
フィリアは、古武術、空手、ジークンドー、合気道、ボクシングなどなど、様々な格闘技に精通していて、その中でも最も空手を得意としている。もちろんその全ては拳で殴る技術を磨くために学んだものだが、そのどれもが卓越している。
そんなフィリアがボクシングスタイルを選んだのは、おそらく初めて戦う相手の様子見という感じだった。
二人が構えると、その体格差に驚いた。
フィリアはああ見えてデカい。身長は俺とほぼ変わらない一七五センチほどある。そのうえナイスバディ―に加え常に姿勢も良いため、猫背の俺とは違い普段からデカい。にも関わらず、対峙する魔導人形はさらにデカく、あのフィリアがまるでリリアたちのように見えた。
「おいおい。ありゃいくら何でも無理だろ? 大人と子供じゃん」
高さもそうだが、広げる手もまた大きく、体重まで違いすぎる対戦相手に、流石にフィリアでも無理だろうと思った。
「いや、姉さんには体格差はそれほど重要じゃない。実力は別だが、今まで姉さんは二メートルの巨体でも、百キロを超える巨漢でも倒してきてる」
「マジでか⁉」
「あぁ。ただそれは全部うちの門下生だがな」
ジョニーの家は道場をやっている。その規模は日本だけでなく、世界中に支部がある程で、色々な格闘技で世界ランカーやチャンピオンを輩出しているほどだ。そんな門下生たちから授業料をせしめる事で、ライハート家の御子息たちは裕福な暮らしを営んでいる。
「それに、姉さんは勝敗に拘らないのは知ってるだろう?」
「あぁ」
フィリアにとって格闘技とは、勝ち負けを決めるものではない。フィリアにとっての格闘技とは、如何に心地よい感触を与えてくれるかの優劣だけで、快楽を得る物に過ぎない。
故にフィリアは、他の競技者とは違い独自の進化を遂げており、拳での戦いでは異次元の強さを身に付けていた。
と、まぁそんな話をしていると、互いに距離を取り合い、様子を見ていた二人は、いよいよ接触を試みる。
最初に仕掛けたのはフィリアだった。っというかいきなり物凄かった。
タックルを狙うような姿勢を見せるプロが、円を描くように左回りに近づくと、フィリアは全然射程距離の外側にいるのにも関わらず、お構いなしに必殺の超伸びる超速の左ジャブを放った。
そのジャブはいつにも増して伸び、あの世界二位の実力を持つプロでさえ躱すことが出来ず、パンッ! っという音を立ててクリーンヒットした。
「おおっ!」
歓声が上がった。それほどまで綺麗にヒットしたジャブは見事で、プロに二の足を踏ませる威力は、もう俺たちでさえ知らない本気で戦うフィリアのパンチだった。
正直こんなこと言うのもなんだが、フィリアは打撃に関しては天才だ。ただそれは全て勝つための物ではないが、その全ては必殺技と言っても過言ではないほどで、今見せたジャブも先ず見にくい。っというか、フィリアのパンチは全部いきなり拳が大きくなったように見えるため、気付くと殴られている。
これはなんか、拳の軌道や、拳から先に出すことで体の動きを隠し、相手にモーションを見せないとかなんとか色々フィリアが言っていたが、もうそんなレベルじゃなく、とにかく突然目の前に拳がやって来るほぼ必殺技だ。
他にも、パンチは腕でなく腰や広背筋で打つとか、腕から先ではなく、右手の先から胴体を挟み左手の先までを腕として使う事で鞭のようにしなるとか、分け分かんない事言うだけあって、とにかくめちゃめちゃ伸びてくる。
さらに、今プロが避けられなかったのはそれだけじゃなかった。
フィリアは拳以外にも独特の歩き方をする必殺技も持っていた。
それは、フィリアが古武術からヒントを得て独自に開発した必殺技で、リリア命名の幽霊歩きだ。
幽霊歩きは、足のスライドと分け分からん体重移動で行う歩き方というか近づき方で、フィリア曰く、『腰の位置を変えず、足以外を動かさないで行う』と言っていたが、横から見ててもマジです~っと幽霊のように近づいて来るマジで気持ち悪い歩き方だ。
それも、ちゃんと見てなければ半歩分くらいの移動では分からないほどフィリアは極めており、対峙した状態で使われれば、マジで気付いた時には目の前にフィリアがいるという恐ろしい技だ。
そんな初っ端からいきなり必殺技オンパレードのフィリアのパンチには、流石の世界二位でも面を食らったようで、ジャブを貰うと即座に距離を取った。
「お、おいジョニー……フィリアって、あんなに強かったか……?」
「あぁ。相手は人形だからな。壊して良いとなった姉さんの戦いを、リーパーたちが見るのは初めてだから仕方がない」
今まで何度か本気だったというフィリアの戦いは見た事があった。しかしそれは全てスポーツとしての本気だったのだと分かると、恐ろしさしかなかった。
そんなフィリアの本気は、マジで本気の本気だったらしく、ただのジャブなのに、ヒットした人形の右目がおかしなことになっていた。
「お、おい。あれ。人形の目おかしくなってないか?」
「あぁ。多分壊れたんだろう。姉さんは一本拳で攻撃していた」
「一本拳⁉」
一本拳とは、空手の拳の握り方で、一本だけ指を突き出して握るイカれた握り方だ。
「でもグローブしてんだぞ? 本当かよ?」
フィリアに教えられて、俺も何度かバンテージやグローブを着けた事があったが、正直ゴワゴワでジャンケンも微妙だった。
「眼球を潰すくらいなら、グローブをはめていても姉さんなら容易い」
「眼球を潰す⁉」
「あぁ。姉さんはスタンド以外の戦いは苦手だからな。相手がタックルを狙って来てるのが分かっているから、目を潰して距離感を奪いたかったんだ」
スタンド⁉ やはり奴はスタンド使いだったのか⁉
いきなりの凶悪プレイ。しかしこれはスポーツではない、ガチの実践を想定した訓練。フィリアはそれを理解し、適応した。それは今この場においてはとても素晴らしい事なのかもしれないが、それでもやっぱり超極悪非道の犯罪者に見えた。
そんなフィリアの攻撃は、やはりこの試練においては反則ではないようで続行されるのだが、破壊へのシャイニングロードの礎を築いたフィリアは、ここからさらに加速する。
しばらく休載します。それは一月なのか二月なのかは分かりません。
ニャンコを拾いました。黒い子猫なのですが、色々な人に助けてくれと懇願していました。それはバスに乗ろうとして蹴り飛ばされても諦めない強さを持っていたので、私が拾いました。
まだ名前も決まっていませんが、信頼を得て、落ち着くまでは集中しなければいけないので、暫く休みます。楽しみに待っていてくれている方へは大変ご迷惑をお掛けしますが、人生、持って行けるものは出来るだけ全部持って行こうと考えておりますので、ご了承ください。
ちなみに、暗黒魔獣までは名前は決まっております。




