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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
73/160

必要ない

 トーマス。またの名をパンジー。彼は過去に謎の紋章を持つ組織に所属し、英雄候補である俺たちの命を狙った。

 トーマスの紋章は重力を操る力を宿し、自分を中心に五メートルほどの範囲に影響を与えることが出来る。そして直接触れることで、最大十倍ほどの重力を加える事が可能で、その力は聖刻の力に属するほどだった。


 そんなトーマスであったが、元はただの社会人で、大卒後就職したが直ぐにニートに落ちぶれたただのダメ人間であった。

 そのため戦闘経験も魔法に関しての知識もほぼ素人と変わらず、基本スペックは寧ろキャメロットで鍛えられた俺の方が上なくらいで、紋章の力が無ければとても俺たちには戦いを挑めるような存在ではなかった。


 そんな彼だが、ある日高額時給の闇バイトに引っ掛かった事が原因で、紋章を手に入れる。そこでトーマスはある程度訓練を積んで、ある程度力の使い方を覚えたらしい。そしてそこで空気を操る紋章を持つフローラという女性とコンビを組み、俺たちを倒すよう依頼されたのだが、結局アドラたちにボコボコにされて捕らえられ、さらにエヴァたちにボコボコにされた事で舎弟となり、今に至る……らしい。

 ちなみに相棒のフローラだが、エヴァ曰く『最後の警告を無視したから……その、あれだ……そう言う事だ』という事らしく、なんか超怖い事言うから、多分今は改心して実家で真面目に社会復帰を目指しているのだと思う。


「まぁ、そういう事だ。言ってみりゃトーマスは、ちょっと特殊な魔法が使える程度の人間だ。だから言ってみりゃ、トーマスは組織の中じゃ下の下だと思った方が良い。前回だって、空気を使う相棒がいなけりゃ話にもならん」


 戦いが終わり夕暮れ時、次の目的に向かう道中、エヴァはリアカーを引っ張りながら言う。


「今回はまぁ、俺が手加減するように言ってたからあれだが、それでも今のお前たちは、ウイラがいなけりゃそのトーマスにも勝てん」


 疲れた俺たちを気遣いリアカーを引っ張ってくれることは有難いが、トーマスの紹介から徐々にダメ出しに変わり、最後にはぶつぶつ独り言でも言う様に叱責するエヴァは、なんかどこかのお爺ちゃんみたいだった。


「だが別に俺は、お前たちにもっと真面目に取り組めと言ってるわけじゃない。今回は紋章の力がどんな物かという紹介みたいなもんで、俺は別にこれを経験してお前たちにどうこうすれとは言わん。お前たちがこれを経験してこの先どうするかは勝手だ」


 ダメ出ししてみたり、そうでなかったり、リアカーを引きながら暇を潰すように言うエヴァには意味が分からなかった。ただ、こんなぶつぶつ文句を言うエヴァだが、なんかそこには愛のようなものがあり、聞いていて良い気分はしないが、悪いという感じもしなかった。


「とにかくだ。この先トーマスのような、いや、トーマス以上の強敵とお前たちは戦って行かなけりゃならん。それはお前たちがここで辞めても加護印を持つ以上必ず狙われる。お前たちがどこまで本気で英雄を目指しているのかは知らんが、聖刻だけは貰っとけ。そうすりゃ殺されることだけは無い」


 結局エヴァなりのアドバイスという感じなのだろうが、どこか他人事のようで、聖刻を貰えば結局魔王と戦わなけりゃならないしで、結局は英雄を目指せというアドバイスは、アドバイスというか結局なんなのか分からず、アドバイスは何をヴァイスしているのかまで分からなくなるほどだった。


 そんななんか、夕暮れ時を畑仕事が終わったお爺ちゃんの愚痴を聞きながら畦道を歩く感じで進むと、やっと本日の宿泊地に着いた。


「今日は疲れただろ? だから今日はこれで終わりだ。後は寝るなり食うなり好きにしていいぞ。明日は八時に出発するから、それまでにここに集まれよ」


 本日の宿は、ホテルだった。っというのも、東だか西だか知らないが、ここはアルカナ寺院領内の玄関口で、それも世界の要人などのお偉いさんが来る場所らしい。そのため今まで見て来た景色とは全く違い小さな街という感じで、ここだけ精進とは無縁だった。


 それでも今日だけは異常に疲れている俺たちにとっては有難い場所で、マジ本当に感謝したのだが、それでも本当にやり過ぎだった。


 ホテルにはバーや温泉というかスパみたいな物も完備されており、与えられた部屋は個室。マッサージまで頼めるルームサービスも充実しており、当然超VIPの俺たちは全部無料。

 至る所に屈強なSPが警備に当たり、俺たち以外の客の姿は見当たらない。


 バカとしか言いようが無かった。普段はどうか知らないが、一応俺たちは今実践を想定した訓練を行っている最中で、まだ終ってはいない。それなのにこの過保護とも言える待遇には、ちょっと頭おかしいんじゃね? と思うほどだった。


 だが俺もキャメロットで鍛えられただけあり既に頭がおかしく、そんな贅沢を施されても慣れたもので、普通にスパで体を癒すことにした。


 スパには一人で行くことになった。マリアもエリックもウイラも、トーマスとの戦いで相当疲れていたらしく、誰も誘いに乗らなかったからだ。もちろんエヴァにも声を掛けたが、何故か疲れたらしく断わられた。


 まぁそんな感じで、俺一人でスパを満喫する事になったのだが、先客がいてまさかの再会をする。


「あれ? ラクリマじゃん?」

「あ! リーパー! 待ってたよ!」


 スパにいたのは、法女であるラクリマだった。


「なんでここに居んだ?」


 スパの周りにいたのはどうやら全部直属の護衛のようで、ラクリマは法女様オフモードだった。


「なんでって、私も一応試験官だよ?」

「あ、そうなんだ」


 こう見えてラクリマは、ガブリエル様の聖刻を持っている。それを思い出すと、この大切な演習にラクリマが試験官として選ばれることに、疑問を抱かなかった。


「バイオレットさんは?」

「明日の準備で打ち合わせしてる。終わったら来るって」

「そうなんだ」


 一応バイオレットさんは、ラクリマの秘書的な仕事もしている。だけどあの感じだと、多分面倒な事は全部やらされている。


「何? バイオレットがいないと寂しいの?」

「いや、そうじゃないけど……」


 そう言いながら、ラクリマは俺にすり寄るように横にくっ付いた。しかし、何と言うか、なんか知らんが俺はあまりラクリマにはそういう気持ちは抱かないようで、水着姿で近寄られても全く興奮しなかった。


「バイオレットさんいないと、なんか……駄目じゃね?」


 現在ラクリマの周りには、あのドウェイン・ジョンソンみたいなムキムキな人と、殺し屋一家の当主のような体中傷だらけのバキバキの爺さんと、白髭みたいなゴツゴツの海賊と、ザーボンさんみたいなキレッキレッの美男子がいる。その全てがムキムキで、白肌天使のラクリマさえなんか超強敵感があり、湯が全部ムキムキ汁でムキムキ色に染まっているかのようにさえ見えた。


「あ~……そう言う事ね? ねぇ皆。もうちょっと離れて? リーパーがキモイって」


 急に何言ってんだよラクリマ⁉ この人たちって全員人類百位以内に入るくらい強い人たちなんだよね⁉ 俺後で殺されっから勘弁してくれよ⁉


 ラクリマ直属部隊は、ラクリマが聖刻の力で見つけた強者ばかりで結成された部隊で、そのほとんどが全人類上位百位以内のランカーばかりだ。そんな謎の紋章を持つ組織以上にヤバくて、漫画なら完全に敵側の組織に俺を売るラクリマには、なんか猛烈な悪意を感じた。


 だがしかし! ラクリマはそんな暁や蜘蛛の旅団みたいな組織の中でも逆らえないほどの力を持ったトップオブトップらしく、こんな鼻水垂らした小娘みたいなラクリマの一声が掛かると、ムキムキブーメラン集団はそそくさと居なくなった。


 凄ぇっ⁉ 全王様いる!


 ラクリマが持つ、ガブリエル様の聖刻の力がどれほどの物なのかは知らないが、これにはやはり法女様は凄いのだと驚愕だった。


 そんなラクリマだが、中身は普通の女の子……というより、どちらかといえばクソガキに近い女の子。あれだけ屈強な男たちを一声で瞬殺すると、何事も無かったかのようにまた楽しそうに話しかけて来た。


「ねぇねぇ? それより元気だった?」

「え? あ、あぁ……うん」

「私ね、リーパーといっぱい話したかったんだ!」

「そうなんだ。まぁ俺も久しぶりにラクリマと話はしたいと思ってたけど」

「本当!」


 アルカナに到着したときや演習が始まるときに、俺たちはラクリマと会っている。しかしそれは法女様の公務として挨拶を交わしている程度で、こうやって友人として接するのは久しぶりだった。


 久しぶりの再会で、しばらくラクリマと他愛もない会話を楽しんだのだが、ラクリマが俺を待っていたのにはちゃんとした理由があったらしく、さんざん他愛もない話をした後、本題に入った。


「それでさ。実はリリアたちなんだけど、結構喧嘩してて上手くいってないみたいなんだよ?」

「え? 喧嘩?」

「そう」

「喧嘩って? 誰と?」

「フウラって言う、賢者の従姉」

「……あ~……演習の話ね?」

「そう!」


 本当に突然。さっきからコロコロ話題が変わり話に付いて行くのにやっとだったのに、踏切の遮断機が人を襲うホラー映画を見たという話からの、流れるような各班の動きについてには何を言っているのかさっぱりだった。


「なんかね。ヒーがいきなり靴ベラでフウラの頭叩いたらしくって、そしたらフウラが怒って杖でリリアのお腹突いたらしいの。そしたらリリアも怒ってヒーの靴ベラ取ろうとしたら、ヒーに叩かれたんだって」


 えっ⁉ どういう事⁉


「でね、喧嘩になって。フィーリア神様の祠でずっとビンゴしてるらしいの」


 もう分け分かんねぇ⁉


「そのせいでフィリアたち、次行けなくなって困ってるらしいんだよ?」


 先ず喧嘩になった理由が抜けていて、さっぱりだった。そして何故ビンゴ大会に発展したのかも謎だった。でも、喧嘩の理由はさておき、ビンゴになったのは公平な条件で決着を付けたかったのだと思うと、そこは何となく納得できた。

 何と言ってもあの姉妹プラス従姉。暴力や不公平を嫌うし、なんだかんだ言っても純粋平和主義者だから、ある意味理想的な対決方法だった。


「まぁでも、あの班は全員加護印持ってるし、瘴気はクリアしたから合格だから問題ないけど……」


 やはりこの演習の一番の目的は、瘴気に対する耐性があるかどうかを見極めるための物らしい。そう考えると、俺たちの班は既に全員がクリアしているし、リリアたちがビンゴしていても問題ないなら、もう終わっても良い気がした。


「あ、でもね。クレアって人だけは駄目かもしれない」

「え? クレア? クレアが?」


 さすが法女様だけあって、この短期間でラクリマはかなり日本語が上手くなっていた。しかし同時に、誰に日本語を教わったのか知らないが、女子高生並みの流れの速さも習得したらしく、ツクモ以上のマシンガントークには、仮に各班の近況報告であっても付いて行くのがやっとだった。


「そう。瘴気もクリアできてないみたいで、ファウナと二人だけアテナ神様の祠に残して、他は別の祠に行ってもう試練終わったって」

「そうなの⁉」


 まさかのクレアだけが不合格。最もあり得ない展開にかなり驚いた。


「うん。それでファウナ怒っちゃって、クリアするまで辞めないって言ってるみたい」

「なんでファウナが⁉ ダメならファウナが聖刻貰えるじゃん⁉」


 一応ファウナとクレアは、同じ聖刻を目指すライバル同士だ。ファウナにとっては寧ろありがたいはずなのに、まるでクレアに固執するような行動には理解できなかった。


「だってファウナ、お婆ちゃんだから。クレアが心配なんじゃないの?」


 それは失礼! 確かにファウナはなんかそういう感じはあるが、お母さんっていう方が似合っていて、たまに出るラクリマの口の悪さには敵わなかった。


「ラクリマ。それファウナに聞かれたら怒られるぞ? ファウナっていつもニコニコしててお嬢様って感じだけど、多分怒ると凄い怖いぞ?」

「あ! そういう意味じゃないよ! ファウナは今は若いけど、お婆ちゃんはお婆ちゃんだから、だから馬鹿にしてるわけじゃないよ! だから言わないでね!」

「分かってる……」


 ラクリマ、全然訂正できず。どうやら日本語は上手になっても、考え方とか日本人が使う含みのある言葉までは習得していないようで、慌てて誤魔化そうとするが余計に訳が分からなくなっていた。


「とにかくさ、明日リーパーたちの試練終わったら、ファウナの所に行ってみよう? アテナ神様の聖刻者は絶対に必要だから、何とかしないといけないから」

「行ってみよう? って、ラクリマも行くのか?」

「うん。明日リーパーたちの試験官終わったら、全部終わるまで私暇だから」


 法女様が暇であるはずは絶対ない。それでもこの演習のために俺たちに時間を割いてくれていると分かると、ちょっと嬉しかった。


「それかさ。リーパーたち試練受けないでそのまま向かう?」

「え? そりゃ駄目だろ? 一応演習なんだから?」

「瘴気はクリアしてるんだよ? だから受けなくても問題ないよ?」

「そうだけど……でも、一応演習だから……」

「そうなの? でも明日の試験、十メートルの飛び込み台から熱湯に飛び込むだけだよ?」

「え⁉」


 何それ⁉ 芸人の罰ゲームみたいな試験⁉


「アズ神様の試練なんて、本当は必要無いんだから」


 法女様何言ってんの⁉ アズ神様馬鹿にし過ぎじゃないの⁉


「アズ神様の聖刻ってね、試練は一番簡単だけど、一番貰うのが大変なんだよ? だから人間がどんなに頑張っても意味ないんだよ?」


 それ逆じゃないの⁉ 受けるのが簡単で貰うのが大変なら、一番勉強しなきゃ駄目じゃん⁉


「まぁでも、リーパーがどうしても受けたいって言うから準備しておくね。でも大丈夫? もう夜も遅いよ? いつまでもここに居て良いの? もう寝た方が良いよ?」


 そりゃお前がずっと喋ってるからだろ⁉ 


 ラクリマなりの優しさなのだろうが、さんざん喋っておいてのまさかの発言には超驚きだった。っというか超驚きで、さんざん付き合わされた挙句の寝ろにはドッと疲れが噴き出し、もうなんか面倒臭くなって、その日はそのまま寝床に直行した。


 ブックマーク登録、評価、いいね、感想。有難い事に一度にたくさんの祝福を頂きました。誠にありがとうございます。しかしながら、そんな祝福を頂きましても、彼らはずっとギャグキャラクターです。寧ろさらに悪化していくので大変心苦しいです。


 お力を分け与えて頂き、誠に感謝いたします。ありがとうございます。

 

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