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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
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失った物

 パンジーとの戦いが終わり、全員の治療も済むと、今更ながらエヴァは『これは俺が準備した試練だ』と打ち明けた。そして『なかなか良い戦いだった』と試験官気取りだった。

 これにはエヴァは病気だったんだと認識したが、一応パンジーの紹介もあるし、とにかく俺たちはしばらく彼がこの後どうするのか付き合うだけだった。


「こいつはトーマス」


 病気のエヴァは、俺たちが冷たい視線を送っていてもそれに気付かないほど重傷で、なんか友達を紹介するように元気ハツラツにトーマスを紹介する。


「パンジーパンジー言ってたけど、本当はトーマスって言って、パンジーは俺が付けたんだ。だけどトーマスって名前も俺が付けた偽名で、本当はレナードって言うんだ」

「あ、いえ。ドナートです」

「え? あ、そうだったか。悪い悪い。ドナートだ。ハハハハハッ!」


 既に俺たちの信用を失っているのに楽しそうに話すエヴァは、偽名に偽名を重ねてややこしいし、実名も間違うしで、なんか楽しそうにしているが全く笑えなかった。それでもこの域にまで達した病巣は既に末期を迎えているようで、エヴァは普通に続ける。


「トーマスはこの間、アドラたちがエジプト帰ったときあったろ? あん時に襲ってきた奴なんだ。だからトーマスの持つ力は本物の紋章の力なんだ」

「へぇ~」


 トーマスが元謎の紋章を持つ組織のメンバーというのは、本当なら衝撃を受けるほどの事実だった。だがテンションがた落ちの今の俺たちには全く響かず、俺こそ声を出したが、皆正に“へぇ~”という感じだった。


「おいトーマス。本当の紋章見せてやれ」

「分かりました」


 一応トーマスは元敵。そんな彼が何故エヴァの子分のようになったのかは謎だった。しかし今はそれすらもどうでも良く、ただ黙って成り行きを眺めるだけだった。


 エヴァに指示されたトーマスは上着を脱ぎ、右肩を出した。するとそこに加護印とは全く違うタトゥーのような紋章があった。


「トーマスの力は、一応こいつが言うには重力を操るみたいな力らしい。俺からしたら引力だか重力だかは分からん代物だが、お前ら良く気付いた。先ずそこは合格点だ」


 なんか知らんが、トーマスの紹介をしていると思ったら、エヴァはなんかいきなり総評みたいな事を言い始めた。

 本当ならもっとトーマスについて聞くことがあったのだが、もうエヴァの言う事に全く信用を置いていない俺たちは、とにかくそのまま続けさせた。


「特にマリア。お前の動きは良かったぞ」

「へぇ~」


 マリア、完全に空返事!


「ああやって石を持てば、トーマスは下手に力を使えなくなる。流石はマリアだ。その調子で頑張れよ」


 トーマスの力が半径二メートルくらいにしか効かない重力なら、マリアのように何時でも投げれる重たい物を持った相手に力を使えば、それは逆に相手に重さという威力を与えるだけで自分が不利になる。

 それを即座に理解したのかたまたまなのかは分からないが、エンダーマン作戦を選択したマリアは確かに良い判断だった。


 そんなマリア。全然魂の入っていない返事をする。


「あざ~す」


 余程エヴァには愛想が尽きたのか、マリアは非情だった。それでもまだ返事をするだけマシなのかもしれない。


「次にエリック」

「…………」


 エリック。返事せず。


「あの喰らいついてやる! っていう感じの勢いは良かった。だけどやっぱりまだどこか相手に怪我させないようにしようっていう感じはダメだった」

「そうですか……」


 エリックも全然右から左へ状態。


「あの炎攻撃は見た目は派手だったが、俺にも直ぐありゃほとんど威力が無いのが分かった。ありゃ魔力に色付けただけのもんだろ? やるなら殺す気でやらなきゃ駄目だ。あんな眉毛焦がす程度じゃ普通なら直ぐにやられてるぞ?」


 エリックが見せた両手の炎魔法は、まるで必殺技という感じだったが、実際は炎ではなく炎に見せた魔法だったらしい。加護印まで光らせ、熱血系漫画の超覚醒した主人公のように見えたが、所詮あれは張りぼてだったのだと分かると、なんだか超がっかりだった。


「それでもまぁ八十点ってところだ。その調子で頑張れ」

「あざ~す」


 え? 何? それ流行ってんの? それともエリックやけくそなの?


 あのエリックまでもが『あざ~す』を繰り出すのを見ると、エヴァはもう俺たちと旅を続けられる存在ではないのだと確信した。


 そんでもそれすらも気付かないエヴァは、まだまだ総評を続ける。


「ウイラ。ウイラもなかなか良かったぞ。っというよりも、ウイラは元々即戦力だったから、特に戦いに関しては言う事はない」

「ありがとうございます……」


 パンジーとの戦いは、ウイラにとってもエヴァに対しあまり良い印象を与えなかったはず。だけど実力があるウイラは俺たちと違い、段取りは悪いが普通の試練という感じだったに違いない。そのうえ脱落した理由が、マリアの投石による物だった。

 そのため俺たちよりはまだ、愛想が良かった。


「だけどありゃ駄目だ。ウイラだって気付いてたんだろ? これが試練だって?」

「え……えぇ……」


 ありゃ馬鹿でも気付く。


「だったらいきなり分銅出したり、自分から引き付け役買ったりしちゃ駄目だ。ああいう時は経験の少ない奴を優先させてやるのが先輩としての優しさだ。それを全部お前がやっちゃ、いつまで経っても他の奴は覚えない。お前もしマリアに石ぶつけられないで全部やってたらどうする気だったんだ?」


 あれが本当に実践を想定した訓練なら、それはそれで合格。っというか正解。


「以後気を付けるように」

「す、すみませんでした……」


 もうあれだ。エヴァはただの我儘っ子だ。


 まだパンジーとの戦いに関しての話なら分かるが、ここでまさか自分都合で大工の棟梁みたいな事を言い始めたエヴァには、呆れを通り越して意味不明だった。


「そしてリーパー。お前はダメだった」

「あざ~す」


 こういう時、あざ~すという言葉はとても省エネで、エリックが何故口にしたのか良く分かった。

 

「先ず油断し過ぎだ。相手の能力が分かっていて、ウイラがその力で目の前でやられているのに、ウイラと同じやられ方する奴があるか? 折角石投げたりマリアたちをまとめてたのに、全部台無しだ」

「あざ~す」

「まぁ、俺のやり方が悪くて全部芝居だってバレてたのもあるが、それでも不合格だ。これからはこんなことはあり得ないから、絶対に油断するな」

「あざ~す」


 もうエヴァの言う事は右から左だった。


「それでもだ。最後良く動いた。あれが無ければお前たちは負けていた。最後まで諦めず待っていたお前が皆を救った。よくやった」

「ありがとう……」


 最後の最後でまさかの誉め言葉。それも本当に認めてくれているようで、知らないはずなのにまるで父さんに褒められているかのように温かい気持ちになり、これにはさすがに感謝の言葉が出てしまった。


 これにてようやくパンジーとの戦いは終了となるはずだったが、やはりこれで終わらないのが現実だった。


「最後に……スクーピー」


 いやそこは良いだろ⁉ 折角良い感じでまとまったんだからもう終われよ⁉


 こういう事をするからエヴァはダメだった。


「スクーピーは本当に良い子だ。言わなくてもちゃんと俺の傍にいたし、邪魔もしなかった。そのうえちゃんと戦いも見てた。偉いぞ」

「あ~ざ~す」


 おい⁉ あざ~すって病気かよ⁉ スクーピーにまで伝染してんぞ⁉


 驚異のあざ~すだった。その伝染力足るやパンデミックを起こすほどで、ワクチンが必要なほどだった。


「それにちゃんと俺の言う事も聞いて……」


 こうしてエヴァのせいで滅茶苦茶だったパンジーとの戦いは終了した。だがなんだかんだ言ってもここで得た経験は非常に大きく、なんだかんだ言っても良い収穫を得た事に間違いはなかった。


 今週はここまでです。

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