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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
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美しい声音の名言

 突然始まったエヴァからの試練。それはおそらく俺たちに実践を体験させるために用意した物だろうが、段取りと言うか演技が下手なエヴァのせいでなんかよう分からず、まぁなんだかんだあって、なんか戦いになった。


 そんな戦いは、俺たちの投石による攻撃で有利に進めていたのだが、ちょっとしたミスでウイラとパンジーが一騎打ちになると、形勢は徐々に傾き始めた。


「良しウイラ! もう少し頼む! 今石集めるから!」

「分かりました! その代わり荷台にある私の袋から分銅を取って下さい!」

「分かった!」


 パンジーの突進にビビッて仕切り直しとなると、まだ石はあるが数が足りず、一時補充のために俺、マリア、エリックは石を集めるために時間を要した。その間ウイラがパンジーの足止めに入ったのだが、パンジーの持つ能力はやはり危険なようで、ここでウイラは違う武器を寄こせと言う。


「ウイラの袋どれだ!」

「多分これ! 分銅ってこの鎖のやつでしょ⁉」

「そうだ! ほらウイラ! 分銅だ!」

「ありがとうございます!」


 リアカーの荷台を漁りマリアが分銅を見つけると、それを受け取って袋ごとウイラに投げ渡した。すると意外と重い袋は何とかウイラの足元まで届いたが、衝撃で口が開き、中からなんか色々な殺人道具が顔を見せた。


 クナイ、鎌、ナイフ、手裏剣。そのどれもが黒光りする刃物で、この緊急時でもそれを見るとかなりビビった。


 うおっ⁉ アイツなんであんなの持って来てんの⁉


 ウイラは色々な武器の扱いに長けていて、フィリアやツクモも認めるほど武術に精通しているらしい。それはこの先共に戦う仲間としては物凄く頼りになるが、実際あんな種類の数の刃物を持ち歩いているウイラには、正直引いた。


 それでもウイラにとってはそれは普通だったらしく、足元の袋から分銅を出すと、俺たちがドン引きしているのも他所に、分銅で華麗な演武を披露して構えた。


 ちょっとというか、マジで引いた。ウイラの分銅捌きはお金が貰えるんじゃないかと言うほど見事だったが、回る分銅の音や速度は異常で、本当にあれでパンジーを殴るのかと思うとただの殺人鬼にしか見えなかった。っというか、これは本当にあり得ないようで、ここでエヴァが一応味方にも関わらず注意をする。


「ウイラ。それは駄目だ」

「え? しかし……」

「分かるだろ? 棍棒を使いなさい」


 パンジーを仕向けたのはエヴァ。そしてパンジーは俺たちの命を狙う謎の紋章を持つ敵と設定したのもエヴァ。なのにここに来てまさかの注意には、ウイラ以上にドン引きだった。


「え……あ、はい……」


 完全に圧力を掛けていた。それはウイラが本当に駄目なんだと感じるほどで、あれだけ見事な演武を披露したウイラはヒョイと分銅を投げ捨て、静かに棍棒を拾い、静かに構えた。


 ひ、ひでぇ……


 もうエヴァの段取りの悪さは色々と酷く、これなら普通に試練としてパンジーと戦っていた方が全然良い雰囲気だった。その酷さ足るや、怒られるウイラを見て俺たちは石を拾う事を止めるほどで、テンションがガタ落ちした場はとても戦いとは言える空気ではなかった。


 それでもパンジーもウイラも真面目なようで、一応まだ続けるのか、ちょっとどうしたら良いのか分からないみたいな感じで見つめ合うと、なんか仕切り直しだみたいな感じでウイラがわざわざ宣言をした。


「い、行くぞ!」


 見ていて痛々しかった。あれだけ意を決したように声を上げるウイラも、ウイラが来るまでずっと待っていたパンジーもグダグダで、まだ傷一つ負っていないがボロボロの精神は、エヴァの悲しい犠牲者だった。


 そんな二人だが、実力は本物で、いざ始まると物凄い戦いを繰り広げる。


 パンジーはウイラの長いリーチに対し守りを堅めるようで、両手を前に出し引力のような力で攻撃の速度を落とす。それに対しウイラは、やらなければ怒られるのが分かっているから、体が引っ張られないように距離を取りながらとにかく棍棒で突きまくる。

 

 上手くパンジーの力を躱し攻撃を繰り出すウイラ。ギリギリでウイラの棍棒を捌きながら躱すパンジー。ウイラの技術が高いせいか、よりハイレベルな戦いに見える二人の戦いは、見ていてそれなりに凄かった。っというか、二人が一騎打ちを始めてしまったから俺たちはただ見ている事しかできず、もう俺たちはいらなかった。


 それでもただ見ているだけでもそれなりに役に立った。


 ややしばらく二人の攻防は続いた。その間パンジーはずっと両手を前に出しウイラの棍棒に力を加える。それを見て、さっき俺たちが石を投げた時といい、おそらくパンジーは力を使うときその場から動けなくなるのだと思った。

 他にも、ウイラの棍棒の先が重くなるように下に落ちるのを見て、範囲は二メートルくらいだとか、エヴァが分銅は駄目と言ったことから、ある程度の重さがあり速度がある物は落としきれず、石を上に投げたのに敏感に反応した事から、多分パンジーの力は重力に近い物なのだと予想できた。

 

 そんな感じで、ただ見ているだけでも結構勉強になるなと感心していると、ここでいよいよパンジーが勝負に出たようで、ウイラの棍棒の先を掴もうと手を伸ばし始めた。しかしそれでもウイラの攻撃速度はかなりの物で、結構パンジーは手を弾かれては“痛い!”みたいに手を振るう動作を繰り返していた。


 パンジーが何を狙っているのかまでは分からなかった。でも……やっぱり現実ってやっぱり非情な物だ。多分漫画とかなら、一発目でガシッと掴んで『何っ⁉』みたいになるのだろうけど、なんか回転して暴れる機械を停めようとして手を叩かれてるみたいな姿を見ると、リアルって格好良い物ではないのだと寂しくなった。


 “実践とは、ドラマのように格好良い物ではない”みたいな名言を、シャアーアズナブルが言っていたらしい。そう、それは漫画のキャラクターだ。そんな漫画のキャラクターがそんな事を言っていたのを思い出して、ガンダムの作者はどれだけ凄いのかと感心した……っていう話。


 しばらくウイラが突いて、パンジーが手、痛い! を繰り返すのを見ているうちに、いつの間にかそんな事を考えていた。


 そんな事を考えていると、ここでやっとパンジーが棍棒を掴むことに成功した。すると、さっきまで余裕ぶっこいてシャアの名言なんて考えていた暇どころの騒ぎでなくなった。


 パンジーが棍棒を掴んだ瞬間、これがパンジーの真の力だったらしく、突然ウイラは地面に叩きつけられるように倒れた。それはまるでウイラの体が何倍にも重くなったかのようで、倒れたウイラは全く立ち上がる事が出来なくなった。


「ね、ねぇ! あれって!」

「マズいですよ皆さん! 早くウイラを助けなければ!」


 完全にウイラはピンチだった。当然それに気付くマリアとエリックは大慌てだった。


「落ち着けお前ら。多分あれは重力だ」

「重力⁉」

「多分パンジーの力は重力だ。それも掴まれたら立ち上がれないくらい強くなる」


 ウイラのお陰でかなりパンジーの力について分かった。これはかなり大きな収穫で、良くそれに気付いたと自分で自分を褒めたかった。そんな余裕をぶっこいていると……


「何余裕こいてるのリーパー! とにかく早くウイラを助けよう!」

「え?」

「そうですよ! ウイラがやられたら私たちに勝ち目はありませんよ!」


 怒られてしまった。


「とにかく石! 早く皆石投げて!」

「はい!」

「おいおい!」


 シャア大佐のお陰で心に余裕のある俺とは違い、あの美しい声音が耳に届いていないマリアとエリックはほとんどパニック状態になり、ウイラが近くにいるにも関わらず投石を開始した。すると、マリアの投げた一投が見事なフォークを描き、地面に叩きつけられるとワンバンしてまさかのウイラの頭にヒットした。


「ああああっ! ごめんウイラ!」


 頭に石がヒットしたウイラは、何とか立ち上がろうとしていたがこれが致命傷になったのか、突然くたっと地面に伏した。


 そこへエヴァの一言。


「ありゃ死んだな」


 マジでっ⁉


「おおおっ! 大丈夫なのかウイラ!」

「うわあああぁ!」

「お、落ち着けマリア!」


 自分の投石で同級生をまさか殺害してしまったマリアは、エヴァの余計な一言のせいもあり錯乱し始めた。そしてもう精神にまで異常を来したのか、突然近くにあるバレーボールくらいの石を持つと、いきなりパンジーに向かって走り出した。


「マリアー!」


 大パニックだった。もうそうなるとマリアを止める必要があり追いかけるように駆けだしたのだが、慌てたせいで俺は転び、追いかけようとしていたエリックも俺に躓き転び、もう滅茶苦茶だった。

 それでももう発狂したマリアは止まることなく一人でパンジーへと向かって行ってしまい、戦況は一気に悪くなった。

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