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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
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パンジー

 結晶石を持ち上げるラファエル様の試練を乗り越えたエリックは、無事に加護印を左目の周辺に発現させた。その姿は今まで見た加護印の中では最も格好良く、あの弱弱しそうだったエリックが、ちょっと羨ましかった。そんなラファエル様の試練だったが……


「スクーピー様。合格おめでとうございます」


 ウイラもなんとか合格し、スクーピーも合格したのだが、高校生男子二人が苦戦しながらもなんとか突破した試練を、スクーピーは余裕で突破していた。


「あ~いがと~ごぜ~ます」


 ちょっと嬉しそうにお礼を言うスクーピーは緊張していたのか、いつもより拙いありがとうございますが可愛かった。


 圧巻だった。スクーピーは試練を開始すると、普通に結界の中に入り、普通に結晶石を持ち上げた。それこそ一回結晶石を持ち上げて、声に出して十秒数えるくらい圧巻で、最後に石を戻すときに一回倒して、また持って置き直して、また倒して今度はそ~っと両手で慎重に戻せるくらい余裕があり、もうエリックパートもウイラパートもいらなかったくらい差を見せつけた。

 当然そんなパワーを持つスクーピーは、息を切らせる事も汗をかくこともせず、もはや試験は崩壊するレベルだった。


 そのせいもあり、困難を極めるはずの試練は最終的に意味の分からない物になり、エリックとウイラの二人はなんだったのか全く意味が分からない存在へとなっていた。


 ともかく、俺たちの最初の試練は無事終了した。それどころかエリックとスクーピーが加護印を発現させるという偉業まで達成し、俺たちの班は大勲章を手に入れた――


「そろそろ休憩にするべ?」


 翌日、無事一つ目の試練を終えた俺たちは、次なる目的地アズ神様の祠を目指し進んでいた。


「もうそんな時間か?」


 エヴァ隊長の掛け声に、新しく貰ったスマートウォッチを見ると、間もなく午前十時を迎える時刻だった。


「なんか今日は早いな?」

「そうか? 俺はいつもと変わらんぞ?」


 エリックとスクーピーが加護印を発現させウイラも合格し、さらに昨日は予定より早く終わったから、あの後ウイラの案内のもと観光も楽しめ、十分に休息も取れた俺たちは本日イケイケ状態だった。

 それこそ誰がリアカーを引くかで取り合いになる程元気が有り余っており、向かう所敵無しという感じだった。


「まぁとにかく、一服は一服だ。休憩しよう」


 我が班は、基本的に十時と三時は十五分ほどの休憩をしようという決まりがあった。それは、エヴァ隊長が時間の感覚を体に教えるための訓練として考案したのだが、何故か一服と言うし、昨日は試練だったし、一昨日は遅れてたから五分も取ってないしで、今の所ほとんど意味は無かった。だが今日は、というか、三日目になってやっと予定通りの進行となり、ここに来てやっと休憩らしい休憩に、休憩する事にした。そう思っていたのだが……


「…………」

「今日も天気良いね?」

「そうだな……」

「…………」

「あ、休憩が終わったら、今度は私が引っ張りますから変わります、リーパーさん」

「あ、悪ぃエリック。じゃあ頼む」

「…………」


 皆イケイケだし、こんなかしこまった休憩ってしたことないから、折角の休憩でも何して良いのか分からず、リアカーの前で座ることもせずウロウロするだけだった。それこそウイラに関してはこの間に耐えかねたのか、晴天に向かって祈りを始める始末で、あのスクーピーですらそわそわする状況は、一度辞書を引いて休憩の定義について調べる必要があった。


 そんな感じでひたすら休憩が終わるのをダラダラ待っていると、向こうから巡礼者だろうか、誰かが歩いて来るのが見えた。

 

 当然会話も弾まず、何を待っているのかさえ分からなくなっていた俺たちの視線はその人に向けられ、変なテンションのせいで誰一人その人を皆で凝視しているかなんて気付かず、黙々と見つめていた。

 それがいけなかったのか、その人はある程度近い距離に来ると足を止めた。そしてただ黙ってこちらを見つめていた。


 やっべぇ~……なんかこっち見てる……


 完全に俺たちが凝視していたのがいけないのは分かっていた。しかし今の不思議なテンションの中ではその睨み合いに何も感じず、何故か誰一人注意もせず視線も外さなかった。


 やべぇよやべぇよ。なんか俺たちが喧嘩売ったみたいになってるよ……


 あの人は多分日本人じゃないだろうが、例え国が違ってもこういうのは絶対ダメだろう。そりゃそうだ。何故なら、現在まるで野生動物が鉢合わせてしまったかのような状況はとても不穏な空気に包まれている。その上、この場合俺たちが勝手に縄張りに入った側にいるのに、こちら側からガンを飛ばした。なのに誰一人視線を外さない。


 悪いのは俺たちなのは分かっていた。だけど誰一人何も言わないし、あっちの人も何も言わない。そしてもうなんか、先に視線を外した方が負けみたいな感じになっているしで、ちょっと困った。


 そんなピリ付いた空気に気付いたのか、ここでリアカーの荷台で横になっていたエヴァが体を起こした。


「何やってんだよお前ら。早く防具付けろよ」

「…………」


 ……やる気か⁉


 完全に悪いのはこっち。そしてあっちは一人に対してこっちは六人。って言うかあの人多分巡礼者。にも関わらずいきなりやる気発言を見せたエヴァには、チンピラかと思った。


「い、いや、ちょっと待てよエヴァ。べ、別に俺たちは喧嘩売ってたわけじゃない。悪いのはずっと見てた俺たちの方だから……謝ってくる」


 そう、悪いのは完全に俺たちの方。だからただ歩いていただけのあの人が、いきなりガンを飛ばされて、まさかの六対一でボコられる筋合いは全く無い。

 ただ何となく成り行きでそうなってしまっただけで、俺がそう言うと皆もやっと正気を取り戻したようで、そうだそうだと頷いた。


「何言ってんだよ? アイツ敵だぞ? やらなきゃ遣られるぞ?」


 エヴァ―⁉ お前はそういう奴だったのか⁉ 


 エヴァは完全にスイッチが入ってるようで、最早ただのチンピラだった。


「落ち着きなよエヴァ? あの人多分巡礼の人か何かだよ? 私たちが見てたから怖がってるだけで、リーパーの言う通り謝った方が良いよ?」


 やっぱりそう。マリアも俺と同じ考えのようで、素直に自分たちに非があることを認めた。


「私ちょっとだけどお金持ってるから、それ渡して謝ってくる。皆もお金持ってない? 少しで良いから出して? 私だけだとちょっと足りないから?」


 マリア―⁉ お前それはそれでなんか違うよ⁉ それにちょっとってどれくらい⁉ お前いくら貢げば許されると思ってんの⁉


 エヴァも凄いがマリアの思考も凄すぎて、もう付いていけないレベルだった。それどころか海外ではこういうのはそうみたいで、エリックが普通に懐を弄り始めたのを見ると、時代に付いていけてないのは俺の方なのだと愕然とした。


 しかし実際正しいのはエヴァの方だったらしく、時代錯誤に苦しまずに済んだ。


「何言ってんだよマリア? アイツ多分謎の紋章持つ奴らの仲間だぞ?」

「えっ⁉」

 

 嘘か本当かは知らないが、突然そんな事を言われれば嫌でも身構えてしまった。


「本当かよエヴァ⁉」

「え? 違うのか? そうだからお前ら睨んでたんじゃないのか?」


 どっちだよ⁉


 この状況でもエヴァ節を炸裂させるせいで、もう何が何だか分からなくなった。だが多分本当に敵のようで、ウイラが言う。


「リーパーさん、彼に紋章があるかどうかは分かりませんが、彼が敵であるのは本当のようです。だから皆さん、防具を身に付けて備えた方が宜しいようです」

「本当かよウイラ⁉」

「えぇ。殺気とまでとは言えませんが、彼はもう戦う準備が出来ているようで、なかなかの闘気を感じます」


 それって俺たちのせいで睨み合いになったから、向こうも身を守るために覚悟決めただけじゃないの⁉


 だ~れもはっきりと謎の紋章を持つ組織のメンバーとも巡礼者とも言わないせいで、誰が本当のことを言っているのか、誰が正解を導き出しているのか全く分からず、もうどうすれば良いのか謎だった。


 そんな中、この危機にいち早く正解を導き出したのか、スクーピーがごそごそ荷台を漁り始めた事で、先ずエリックが釣られ、次にマリアが釣られ、最後に俺も釣られ、結局訳が分からないままエヴァとウイラ以外全員が防具を身に付ける羽目になった。


「お、おいウイラ。念のためお前も防具付けた方が良いぞ?」

「いえ。私に防具は必要ありません。ただ……これだけあれば十分です」


 俺たちがもちゃもちゃ準備している間、威嚇兼見張りを務めていたウイラは、準備を整え声を掛けるとそう言い、荷台から一本の棍棒を取り上げると華麗にぶん回し、華麗に構えた。

 その動きはまるで少林寺拳法のようで、ここに来て本領を発揮したウイラは、最早和尚ではなくクリリンだった。禿げてないけど。ただ、ここが自分の見せ場と言わんばかりに棍棒を振り回す際、近くにいた俺はかなり身の危険を感じるほどで、例えこれが命の危機に関わる状況だったとしても配慮が足らず、一発頭を引っ叩いて注意してやろうかと何気に思った。


 とにかく良く訳が分からないが、こうして臨戦態勢が整うとウイラはやる気満々で、まだ本当にあの人が敵かどうかも分からない状況には、ただただオドオドするだけだった。


「皆さんは、スクーピーを守りながら私の援護に回って下さい。そしてエリック。貴方は魔法が使えましたよね?」

「え? あ……はい……」

「私はある程度魔法の発動に関しては察知できますから、私の事は気にせず、機を見て魔法で援護してください」

「え? ……あ、はい」


 エリック空返事! そりゃそう。だって俺たちまだ本当に戦うのかさえ疑問だから!


 こんな全く伏線も前ぶりも無いクソ漫画のような急展開では、エリックがそうなるのは仕方が無かった。と言うか、あの人がもしただの巡礼者だったらマジで大変なことになる。

 所詮現実。勢いだけの漫画のようなノリに身を任せ、主人公気分でシバキ合いなどすれば大変な事になると思い、ノリノリのところ悪いが慌ててウイラの止めに入った。

 

「お、落ち着けよウイラ! まだあの人が本当に謎の紋章の奴らの仲間かどうか分からないんだぞ⁉ お前あの人がもしただの巡礼者だったらどうすんだよ⁉」


 なんかもう、場の空気のせいで防具付けて武器持っちゃって説得力ないけど、先ずは確認が優先されると諭した。ところがウイラはもうあんだけの事しちゃったから引くに引けないのか無視するし、エヴァに関しては挑発するような事を言うから、もう手に負えなくなった。


「おいお前! 名前はなんて言うんだ! ほれ、言ってみろ!」

「お、おいおい! 止めろエヴァ! 悪いのはこっちなんだから、先ずは謝れ!」


 もう大変。慣れない休憩なんかするからこんなことになっちゃって、エヴァがあんなこと言うから増々被害が拡大していく。


 こんなマジで大変な事態はもう俺には手に負えなくなってしまい、遂には助けを求めるため、周りを見渡して護衛に付いて来てくれているアルカナの人たちを探す始末だった。


 そんな危機的状況では、やはり悪い事には悪い事が重なるようで、まさかのあっちから返答があった。


「ボンジョルノ、ピパポシェーレほにょほにょ……」


 えっ⁉ あんだって⁉


 まさかの外国人さん……と言うか、ここはアルカナだから当然だが、すっかり今自分が外国にいるのを忘れていた俺は、いきなり飛び出したボンジョルノに驚き、増々混乱した。

 しかしそれだけでは終わらず、なんかフランス語なんだかスペイン語なんだか分からない言葉を発したその人は手のひらを見せた。するとそこには完全にマジックで今書いただろくらい明らかにおかしい紋章が描かれており、謎は深まるばかりだった。だがそれだけで終わらないのがこの歪な空間!


「え……?」


 エリックには彼の言葉が分かるようで、驚くと言うよりも何を言っているんだと言う感じで声を零した。


「どうしたエリック? あの人がなんて言ってるのか分かるのか?」

「え、えぇ……好きな食べ物は、ラザニアだそうです」

「え……?」


 え?


 確かに彼との距離は結構離れてるし、声もちょっと聞き取りにくい。だけど多分あの人はエリックと同じイタリア人で言葉は通じるみたいだけど……それでもやっぱりエリックには分からない言語らしい。


 そんな訳の分からない状況に、ちょっと間が出来た。すると……


「俺の名はパンジー。紋章を持つ者だ」


 え? え? パンジー?


 多分あの人は、俺たちには全く今の言葉は伝わっていないのだと気付いたようで、突然日本語で話し始めた。しかしどう見ても二十代の男性なのに、パンジーと言う可愛らしい名のせいでまた訳が分からなくなり、ほぼ全て頭の中はパンジーで埋まってしまった。

 そしてまた見せる手書きの紋章。今何が起きているのか理解できなかった。


「よーし、お前ら。アイツは敵だ。頑張れ!」

「え?」


 ただでさえカオスと化しているのに、エヴァは空気が読めないのか戦えと言う。世界の終わりだった。


 でもやらなきゃいけないのは確かなようで、未だに何が何だか分かっていないが、とにかくなんか戦闘になった。


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