ピクニック
――昼。
リアカーを交代で引っ張りながらの演習となった俺たちは、最初の休憩ポイントである巡礼地が遠くに見える位置で昼を迎えた。
「おっ、そろそろ昼だ。飯にしようぜ?」
「やっとお昼? あ~疲れた……」
エリック、俺、ウイラと交代でリアカーを引っ張り、昼休憩まで任されていたマリアはやっと自分の番が終わった事にホッとし、リアカーを停めた。
「ご苦労だったなマリア。昼からは俺が少し引っ張ってやるから、マリアは上で昼寝でもしてろ」
「大丈夫だよエヴァ。ちょっと疲れたけど、これくらいなら平気だよ」
マリアは結構お転婆な子のようで、小さい頃から山や川で遊ぶことが多く、かなり足腰が強く体力があった。実際リアカーはエヴァが乗っていても思うほど重くなく、歩くよりは遅いが体力づくりには程よい感じだった。
ただエリックには本当に体力が無いようで、既に一人だけ激闘を終えたかのようにバテていて、意外とエヴァの判断は正しかったのだと感心した。
「それより早くお昼にしよう?」
「そうだな。じゃあ天気も良いし、ここで食うべ」
「うん」
本日の天気は晴天。その上ウイラの話では、今年のアルカナは例年に比べて温かいらしく、一月にも関わらず上着一枚羽織れば丁度良い気温だった。
そんな天に恵まれた俺たち一行は、予定よりも遥かに遅れているが、普通にリアカーをキャンピングカー代わりに使い、昼食を取ることにした。
今日の昼食は……というか、今日だけは出発前に女子たちがお弁当を用意してくれていて、今日だけは超豪華な食卓だった。
おにぎり、から揚げ、タコさんウィンナー、沢庵。おにぎりは梅、鮭、具無しと三種類あり、温かいお茶もある。そして俺だけクレアからの愛情たっぷりのおにぎりもあり、それは晴天と合わさり正にピクニックと呼んで良い程で、エヴァ率いる俺たちの班は大当たりと言っても過言ではなかった。
そして昼食を終えると三十分ほどの休憩を取り、エヴァは昼寝、俺たちは雑談と、楽しいひと時を過ごした。ただちょっと困ったのはトイレで、草むらで尻を出し用を足すのにはなかなか慣れず、ちょっとは演習の過酷さも痛感した。
昼休憩が終わると、約束通りエヴァがリアカーを引っ張っての移動となった。そこでエヴァもエヴァでそれなりに楽しんでいるようで、まさかの俺たち全員をリアカーに乗せての引っ張りを披露したため、昼からは皆で競うようにリアカーレースが始まり、午前中以上のアクティビティで一気に遅れを取り戻した――
「皆ご苦労。皆のお陰で野宿しなくて済んだ。明日はいよいよラファエル様の祠に向かう」
皆の頑張りで、何とか予定通りに移動を終えた俺たちは、予定していた宿泊施設に到着した。その頃には皆ヘトヘトになるくらい疲れていた。しかし……
「まぁ、今日も遅いし後は明日の朝にでも説明する。だから……とにかく先ずは風呂に行くぞ!」
「おう!」
無駄なレースで体力を極度にすり減らした俺たちだったが、無駄なレースで既に変なテンションになっていた。それこそまだまだ遊び足りないくらいの勢いで、エヴァ隊長の話が終わると、どこかの民族みたいな雄叫びを上げるくらいのテンションで風呂へと向かった。
今日の宿泊する施設は、施設とはとても言えない小さな集落みたいなところにある場所で、それこそ藁ぶき屋根に細い竹で組んだ超粋な小屋だ。集落の真ん中にはちょっと大きな焚火があり、あちこちで調理する良い肉の匂いが漂う。
そしてなんとここには天然の温泉があり、腹も減っているが先ずは汗を流したい俺たちは、リアカーを自分たちの小屋の前に置くと、テンション高く温泉を目指した。
「おお! ここか!」
温泉もまた粋な造りで、目隠しに簾程度の壁があり、入り口に脱衣所みたいな簡素な小屋があるだけ。さらに言えば入り口から中はほぼ丸見えで、もうほとんど仕切りはないも同然だった。そしてさらに当然だが混浴で、一応俺たちはVIPだから貸し切りだった。唯一残念なのは、俺たちの班にいる女性はマリアとスクーピーだけだったが、今のテンションならそれすら気にならず、俺たちの演習はまだまだ楽しかった。
「おいマリア。お前本当に良いのか?」
「うん。タオル巻いておけば大丈夫。それにスクーピーだって裸だし、何より私たち兄妹でしょう?」
「そうだけど……」
温泉は岩盤で囲まれた浴槽で、白濁して透明度は無く、湯船に入れば体は隠れる。だけど少しでも荷物を軽くするため余計な水着は持ってきてないし、一応マリアは女子だし妹だし、エリックやあのウイラが一緒にいる事を少し心配した。
「それよりさ、早く入ろう?」
「あぁ……」
マリアは意外と気にしていないようで、早く入ろうと言う。そんな会話が聞こえていたのか、エヴァが声を掛けて来た。
「何気にしてんだリーパー? 一緒に入るの恥ずかしいのか?」
「いや、一応妹だし、エヴァたちだっているから……」
「あ~……そうか……そうだったな」
意外とこういう話には親身になるようで、エヴァは珍しく納得したように頷いた。
「まぁ、でもそう気にすんな。ウイラとかエリックにはマリアに近づけさせないから。それにスクーピーだっていんだ。エリックにはそんな暇ねぇしな」
やはり同盟同士だけあって、ウイラの危険性はエヴァも周知しているようで、何気にウイラだけロックオンしていた。
「それに俺はマリアみたいな子供には興味ねぇし。だからマリア。もう少しおっぱいが大きくなるまで大丈夫だ。だけど一応ウイラたちの前では体隠せよ? 女の子なんだから」
「……分かった。ありがとうエヴァ」
エヴァは時々お父さんのようになることがある。それはリリアだったりフウラだったり、時にはフィリアに対しても同じだった。だが特にマリアに対してはその傾向が強く、マリアが良くエヴァはお父さんみたいだと言うほどだった。
そんなエヴァのお陰でマリアはより安心したようで、温泉に入ると俺とエヴァの間に腰を下ろし、湯を満喫していた。ちなみに俺は、マリアが意外と疲れていたようで動きが鈍かったため、エリックと共にスクーピーの面倒を見る事になり、それはそれで意外と楽しい時間を過ごせた。
そしてその後、温泉を出ると向こうで用意してくれた夕食を頂き、焚火前で少しだけ皆で満点の星空を眺め浸り、いつもより遅い就寝となった。
「――おはよう」
「おう、おはよう」
「おはようございます」
七時前、スクーピーの起床の音でマリア、俺、エリックが目を覚ますと、もうエヴァとウイラは起きていて、焚火の前で打ち合わせをしていた。
「早いな二人とも」
「何言ってんだリーパー? もう七時になるぞ?」
「まだ七時前だぞ? エヴァはいつも何時に起きてんだよ?」
「四時半だ」
「早っ!」
眠気眼で寝癖だらけの俺たちとは違い、しっかり身なりを整えたエヴァを見ると、お爺ちゃんかと思った。
「まぁ、昨日は大分頑張ったからな。いくら若いと言えど、お前らも疲れたんだろ? とにかく出発は八時だ。それまでまだ時間はあるからのんびりしてろ。もう少ししたら飯来るから」
「分かった。顔洗ってくるわ」
今日の目的地は、エリックとスクーピーが目指すラファエル様の祠だ。そこでまだどの聖刻になるか分からないウイラも一緒に試練を受ける予定で、二時間ほどで着く距離らしく、時間的には十分余裕があった。
そして、食料は一応七日分持ってきていたが、こういった施設に着けば向こうで用意してくれて、演習とかなんだかんだ言っても俺たちはかなりVIP扱いを受けていた。
そんな感じで、焚火を前にして野外で朝食を摂り、しっかり身支度をして、のんびりとリアカーを引っ張りながら、晴天の元次の目的地であるラファエル様の祠を巡る旅の続きに出た。




