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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
58/186

裏切り×勘違い×お節介

「こちらです」

「あ、あぁ……ありがとう……」

「では、失礼いたします」


 場所を移すと言われ、クレアに付いて……というか、何を企んでいるかは知らないが準備はしていたようで、部屋を出た時点で既に執事が待っていて、その人に案内される感じで俺たちはある部屋に導かれた。ただやはりおかしなことだらけで、執事を見た瞬間クレアは逡巡したり、部屋に着くまで場所も分からなかったような感じで、自分で準備したはずなのにクレア自身がこの後何が起きるのか理解していないようで、“もしかしてクレア、病気になったんじゃないか?”と不安を感じるほどだった。


 そんな感じで様子がおかしいクレアと、とにかく案内された部屋に入ると、やはり熱か何かあるようで、部屋に入るや否やさらに様子がおかしくなり、突然『熱くなったから少し顔を洗ってくる』と言い、俺を残し一人で洗面所に入って行った。


 部屋は、窓の無い広い空間にキングサイズのベッドがあるくらいで、他にあるのはクレアが入って行ったトイレや風呂がある洗面所くらいで、ちょっと豪華なホテルという感じだった。それを見て、わざわざこんな部屋まで用意して、二人っきりで話したいとは本当に大事な話があったが、風邪か何かのせいで高熱があり、意識が混濁しているのではないのかと心配になって来た。


 そう思うと、先ほどまで感じていたイライラが引き、とにかくクレアが心配になり洗面所に向かった。


「おい。大丈夫か?」


 熱くなってきたと言っていた辺りから、トイレではないと思いながらも、いきなり開けるのは失礼だと思い、扉の前で声を掛けた。


「えっ! あ、あぁ! 私は大丈夫だ! だから扉は開けるな!」


 何をしていたのかは分からないが、声を掛けると相当慌てたようで、中からドタバタと音がした。


「おい! 本当に大丈夫か!」

「だ、大丈夫だ! 直ぐに戻るから待っていてくれ! ウンコをしていただけだ!」

「えっ!」


 ええっ⁉ あいつこんなキャラじゃないよ⁉ 本当に大丈夫なの⁉


 本当に様子がおかしいようで、まさかのウンコ発言が飛び出した。しかし思っていたほど調子は悪くないようで、声には張りがあり、元気そのものだった。


「とにかく! あっちで待っていてくれ!」

「あ、あぁ……分かった……」


 何かがおかしい。それだけは確信できた。しかし本当にクレアがウンコをしていて、まさか俺が声を掛けてくるとは思っておらずの慌てようだったら大変な事だと思い、とにかく今聞いたことは忘れなくては! と戻った。


 そこからクレアが戻るまで、ずっとクレアのウンコ発言が頭から離れず、マジでしてたらどうしようとか、これは冗談でも絶対口に出すことはせず墓まで持って行かなければなど、なんか物凄い気を遣う羽目になった。


 そんなこんなで悩んでいると、やっとウンコが終わったのかクレアが戻って来た。


「す、済まない。待たせた」

「あ、あぁ……⁉」


 戻って来たクレアは、前髪がしなっとなっていて、かなり顔が赤かった。それを見て、ウンコだウンコだと思っていたが、汗をかくほどの激闘をしなければいけないほど腹具合も悪いのだと思い、とにかくクレアを安静にしなければいけないと思った。そう思った矢先、クレアの些細な行動で、それどころではない事態が起きている事を知る。


「で、では……ゴホッ! あ、いや、すまん……」


 クレアの咳払い。これは本当に些細な動作だったのだが、それを見た瞬間全てを悟った。


 ま、まさかこいつ! コロナか⁉


 キャメロット……と言うか、一応俺たちは世界的に重要な人材であるため、そういった危険とは無縁の生活を送れていた。しかしじいちゃんも罹ったし、ニュースを見れば物凄い数の犠牲者がいたり、街全体を封鎖するロックダウンとか起きていて、もし俺たちの中に感染者が出れば、それこそ世界は終わる可能性があった。

 事実アニー先生も、もし俺たちの中に感染者が出れば隔離すると、脅迫してくるくらいで、演習前日に感染して中止などとはどんな裁きが下されるか分からず、移されるわけにはいかなかった。


「じ、実はな、リーパー……わ、私は……」

「お、お前……もしかして……」


 急に畏まりだしたクレアの態度から、もうこれは確定だと分かった。そんな俺の言葉にクレアも観念したのか、一瞬驚いた表情を見せさらに顔を真っ赤にしたが、真剣な眼差しをしっかり合わせて言う。


「そ、そうだ……私は……」

「なっ⁉ お、お前! どういうつもりだ⁉ 明日から演習なんだぞ⁉」


 何故クレアは今日この日にコロナに感染して、俺に移そうとしているのか分からなかった。


「ちっ、違うっ! これは私が考えた事じゃない!」

「どういうことだ! はっ! まさかお前……黒幕は誰だ!」


 全ての謎が解けた。クレアは、謎の紋章を持つ組織のメンバーだ!


「そ、それは言えん!」

「くっ!」


 俺たちはずっとキャメロットにスパイがいると考えていた。クレアたちがフランスで襲われた件。アドラたちがエジプトで襲われた件。そのどれもが極秘情報として扱われ、外部へは漏れる事が無い。しかし実際に襲撃は続いており、キャメロット内にスパイがいる事は明白だった。

 それがまさか俺たちのクラスの、それも学級委員長のクレアだったとは大きな衝撃を受け、それと同時に大きな悲しみに襲われた。


「なんでだ!」

「そ、それは……彼女の想いを裏切るわけには……はっ!」


 俺は、“何故裏切ったんだ”と聞いたつもりだった。だがクレアには“黒幕が誰か何故言えない”という風に聞こえたようで、思わぬ事を口にした。


 彼女……黒幕は女か!


 恐らくクレアは、三年一組にコロナウイルスをばら撒き、演習を中止させることが任務として与えられているのだろう。それこそ自分の身さえ危ない任務なのに、それでも黒幕の正体を隠そうとする姿に、余程の覚悟を持って臨んでいるのだと感じた。


「い、いや、ちち違うっ! そそそれは、なんだ……あれだ! とにかくこれは私が望んだことだ! だから責めるなら私を責めろ! 私が臆病だったことが原因だ!」


 くそっ! それでクレアを選んだのか!


 正体を明かしたクレアだが、吹っ切れて悪びれる様子もなく、いつもの頼りないままオドオドする。それがまた裏切り者だと分かっていてもクレアにしか見えず、なかなか戦おうとする意志を起こさせなかった。


「何故俺なんだ! エヴァやキリアがいただろ!」


 どうすれば良いか、まだ判断が出来ない俺は、苦し紛れにエヴァたちの名を出した。実際三年一組では、エヴァとキリアが最も聖刻に近いと考えており、咄嗟の名前だった。そしてファウナの名を出さなかったのは、クレアが彼女と言ったことから、関係があるのではないかという憶測があったためだ。


「そ、それは……気付いたらそうだったから……そうだとしか言えん……」


 この状況でも、クレアからは全く敵対心を感じなかった。それどころか益々ウィルスが進行しているのか、顔を真っ赤にして俯くように目を反らした。


 くそっ! このままじゃクレアもマズい! 


「それでも! もう私も覚悟は出来た! だからリーパー……いや、私は気持ちを伝えただけでも十分だ。リーパーの答えはいらない」


 答え⁉ まさかこいつ、俺を組織に引き入れようとしているのか⁉


 クレアが今この状態でも敵意を向けず、俺と二人きりを選んだという事実が、そう思わせた。


「断るに決まってんだろ! 誰がそんな……まさかお前!」


 当然答えはNOだった。しかし何故クレアはコロナウィルスをまき散らすだけなのに、わざわざ俺だけを手始めに標的にしたのかと気付くと直感が働いた。


「ファウナに何を言われた!」

「えっ!」


 クレアが俺を選んだ理由。それはおそらく、三年一組にコロナウィルスをばら撒けば、命だけは助けてもらえるという条件があり、本当は脅されているだけで、俺ならばそれに気付いてくれるのではないかと賭けたからではないのか。

 そう思うと、迷わず黒幕であるファウナの名を出した。


「いい、いや! ファファ、ファウナは関係ない! これは私が……」

「良いから言え! もう黒幕がファウナなのは分かってんだ!」


 ファウナが来てから、二人はそれこそ親子じゃないかと言うほど常に一緒にいた。それは同じ聖刻を目指す二人だから当然だと思っていたが、今思えば辻褄があった。


 その確信があった俺が、力強くはっきり言ったためか、クレアは観念する。


「……後悔は、後になって悔やむから後悔だと言われた。いなくなってからでは遅いと」


 何かのメッセージか? くそっ! 分からん!


 恐らく俺たちの会話はファウナに筒抜けだ。それを伝えながら何かを俺に教えようとしているのかもしれないが、全く理解できなかった。


「それにエヴァも言っていた。『手が届く直ぐそこに愛する人がいても、周りの目を気にして良い子ぶってやり過ごしていれば何も掴めない。自分の人生なのだから、チャンスだと思ったら迷わず行け』と」

 

 くそっ! 全然分からん! 


 完全に何かのメッセージだった。だけど全然分からなかった。

 そんな俺のせいでクレアの時間も無くなってしまったようで、遂に最終段階へ入る。


「済まないリーパー。リーパーの気持ちは分かった。だけど私もこれ以上後悔したくない。だから……せめて……最後に私を抱きしめてくれないか? お前が嫌ならそれでも構わない。だけど……せめてお願いだ……」


 なんという事だ。クレアは死ぬ気だ。そう取れるほど寂しそうな表情で言うクレアに、もう時間が無い事が分かった。そうなるとこっちも必死になるしかなく、クレアを死なせるわけにはいかず、とにかく部屋を飛び出し助けを求めに行くことを決意した。


「どこへ行くリーパー! 待て!」


 もうなりふり構っていられなかった。後ろからクレアに刺されようが、部屋を飛び出してファウナに殺されようが、とにかくこの事を誰かに伝えなければならないと必死だった。だがこれは予想されていたようで、扉には鍵が掛けられており、出る事は叶わなかった。それどころか慌てたクレアが部屋から出さんと後ろから抱き着いてきたため、もう俺もコロナに感染したような物だった。


「落ち着いてくれリーパー! 今部屋を出る事だけは許してくれ!」

「くそっ!」

「なっ! 何をするリーパー!」


 人生の敗北感というものを初めて感じた。しかし俺も腐っても加護者。もう自分は助からないと分かった途端、今度はせめてクレアだけでもこの部屋に閉じ込めて感染を防ごうと、クレアを振り回すようにしてベッドに押し倒した。

 するとクレアも完全に諦めたようで、大人しくなると両手で顔を隠した。


「悪いクレア。もうお前はこの部屋から出さねぇ」


 クレアの感染状況から、先に死ぬのはクレアの方だと分かっていた。だからこのまま押さえつけてクレアが死ぬのを待つつもりだった。

 そんな悲しい状況でクレアも死を覚悟したのか、とても悲しい事を言う。


「せ、せめて……キ、キキ、キスからにしてくれ」


 何と悲しい言葉だろう。俺たちは死ぬ。だからせめて最後の別れにキスをしてくれと言う。いつも気丈なクレアがしおらしく言う姿に、胸の中は哀しみで溢れた。


「その後なら……好きにしてくれ。だ、だが! ここ、これは使ってくれ」


 最後の最後になって、クレアはまだ何かを隠し持っていたようで、小さな袋のような物を見せた。


「何だこれ?」

「コッ、コンドームだ……」

「ん?」


 何を言っているのか分からなかった。そこでクレアが持つ袋を奪い確認した。


 ……コンドームだ。


 何故クレアがこれを持っていたのか、何故今これを見せたのか謎だった。


「ファ、ファウナが用意していた……あっちに行けば、もっと沢山道具がある……」


 何を言っているのかは分からないが、何か光明のような物を感じ、即座に洗面所へと駆け込んだ。すると……


 ローション。○○、××、△△……ナースや女子高生の制服やら、大人が使うおもちゃやら、鞭とかロウソクとか縄とか木のお馬さんとか、夢の世界が広がっていた。


「なっ、なんだこれ⁉」

「ファ、ファウナが私たちのために……用意してくれた……」


 ベッドの上で顔を隠し、震えた声でクレアは言う。


「用意してくれたって、こんなの何に使うんだよ⁉」

「何て……日本語ではナニって言うんだろ……」

「どういう意味だよ! はっきり言え!」

「○○するための……物……」


 ○○⁉ 何故今そのワードが⁉


 突然出て来た、破滅とは全く逆の作る方の卑猥な言葉。何故それが今出て来たのか全く分からず、クレアを問いただした。


「どういう事だよクレア! お前はコロナウィルスをばら撒いて演習を中止にさせるのが目的じゃないのか⁉」

「はぁ?」


 顔を隠し、声を震わせていたクレアだが、俺の言葉を聞くと、突然真顔でこっちを見た。


「何を言っているリーパー?」

「何って、お前謎の紋章持つ組織のメンバーじゃないのか⁉」

「はぁ? 何を言っているリーパー?」

「ファウナが黒幕なんだろ⁉」

「い、いや……たしかに黒幕はファウナだが、私がそんなはずないだろう?」

「じゃあこれは何なんだよ!」

「そ、それは……わ、私とリーパーが、〇、○○するために、使う物……」


 クレアはそこまで言うと、また顔を真っ赤にして、今度は顔を枕に埋めた。


「ちげぇよ! 誰もこんなAVグッズの話してねぇよ! 俺はなんでここに俺を呼んだのか聞いてんだよ!」

「そ、それは……私とリーパーが……○○する……ため……」


 落ち着けクレアー! こいつ遂に脳まで感染して○○しか分かってない!


 おそらくコロナは、感染すると子孫を残そうとする本能が爆発するらしい。


 もはやクレアはエロゾンビの一歩手前で、一刻を争う状況に、急いでクレアをひっくり返し、顔を押さえてしっかりするように声を掛けた。


「落ち着けクレア。俺はお前とは○○しない」

「何故だ⁉」


 何故って? 当たり前だろ! こいつもう本当にヤバイぞ!


「それより直ぐにここを出るぞ。そんで直ぐにワクチンを打ってもらう。そうすればお前は助かる! だから扉を壊すのを手伝え!」


 クレアが後どれくらい持つのか分からず、命がけで声を掛けた。すると急にクレアは真顔になり、キョトンとしたような感じになった。


「さっきから何を言っている、リーパー? 私はコロナなどに罹ってなどいないぞ?」

「え? だってさっきファウナとか言ってただろ?」

「それは、私がリーパーに告白するように仕向けたのが、ファウナだと言っただけだ?」

「え?」


 どういう事?


「どういう事だよ? 詳しく教えろよ?」

「何回も言ってるだろ? 私はお前の事が好きだと」

「は? 何言ってんだお前? お前組織の奴らにコロナばら撒けって言われたんじゃないのか?」

「何を言っているリーパー!」


 そう言うとクレアは俺をひっくり返し、覆いかぶさり顔を極端に近づけた。


「もう一度言う。私はお前が好きだ。私と付き合ってくれ」

「え?」


 この状況になって、初めて何となく勘違いに気付いた。だがこの状況は非常にギリギリのタイミングで、クレアがさらに顔を近づけキスをしようとしているくらいギリギリで、超危なかった。


「ちょちょっ! 何する気だよお前!」

「何って……ナニだろ? ここまでしたのはリーパー、お前だ! もう遅いぞ!」

「おおおっ⁉」


 勘違いは理解した。そしてクレアが何を求めているのかも理解した。だけどクレアが突然襲い掛かって来たのは理解できず、この後、俺は必要以上にクレアのキス攻撃に合い、ベタベタ襲われた。


 それは正に、幼い頃にリリアのおばさんにキスされまくったせいで封印されていた記憶が蘇るほど悍ましい物で、女性の匂いは良い香りだという妄想すらも破壊するほど恐ろしく、死闘が繰り広げられた。


 結局その後、俺たちは互いの勘違いに気付き誤解は解けた。しかし○○は無かったもののプロレスはあって、守れたけど守れなかった事も多々あり、結局付き合う事は無かった。

 ちなみに、ほぼベロベロ舐められるような状態にはなったが、唇は奪われることも無く、寧ろ俺はクレアの事が前以上に嫌いになった。


 リーパーはパオラの事が好きです。そして最近ではツクモの事も良いなと思い始めていて、クレアに対してはこのせいで嫌いの方になりました。クレアはリーパーが好きで、これを切っ掛けにリーパーに夢中になりました。多分この二人は一生付き合いません。それとストックは終わりです。また溜まり次第投稿します。


 チャンネル登録と高評価、お待ちしてます。

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