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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
五章
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手紙

 演習前日。


 前日、無事アルカナに移動を終えた俺たちは、演習前の最後の休養日だった。そんな事もあり、俺は目覚ましも掛けずに九時ごろ起き、リリアたちの邪魔も無いため、ゆっくり朝を満喫していた。


 “コンッコンッ!”


「はい」


 アルカナでの演習とあり、特に遊ぶものなど持ってきていなかった俺は、YouTubeを見ながら暇を潰していた。それこそこの後ラクリマにちょっかいを出しに行こうかと考えるくらい余裕があり、扉のノックにストレスを感じることは無かった。


「お手紙をお持ち致しました。こちらにサインを頂けますか?」

「え? 手紙?」

「はい」


 配達してくれたのはアルカナの従業員で、タキシードの姿に白い手袋で、白い封筒に入った普通の手紙を、まるで高級品のように丁寧に渡す。


「サインを頂けませんでしょうか?」

「あ、はい」


 誰からとも言わず渡そうとする姿に、おそらくここの決まりなのかと感じ、切手も無い事から三年一組の誰かからわざわざ頼まれたのだと思うと忍びなく、これ以上時間を取らせるわけにもいかずとにかくサインをして手紙を受け取った。


「ありがとうございます。では、失礼いたします」

「あ、はい。ありがとうございました」


 三年一組はLINEでグループを作り、そこに生徒全員が参加している。なのにわざわざ手紙を書いて寄こすとはかなり手が込んでおり、リリアのイタズラだと思った。だが裏を見ると英語の筆記体みたいな文字が書いてあり、それも達筆だったため直ぐに違うと分かった。


「ん?」

 

 リリアのイタズラではないと分かったが、読めん。しかし不思議なもので、読めないなら読めないでさっさと中を確認すれば良いのだが、どうしても差出人が知りたくて頑張る。すると最初のCが分かり、次にℓみたいなのが分かったので、クレアからなのだと思った。


 これにはちょっと期待が膨らんだ。というのも、ヒーがフウラと揉めて以降、なんかヒーが俺の事が好きだったんじゃないかみたいな勝手な勘違いが発生し、それが原因で焦ったキリアがヒーに告白してフラれて、これはブームが来たんじゃないかと勘違いしたウイラがフィリアに告白してフラれて、“おいマジか⁉”ってなったエリックも焦ってフィリアに告白してフラれて、マリアが流れに乗って俺に兄として好きだと告白して茶化して、そこからツクモがアドラって『カッコいいよね~』って言ったせいでマリアとフウラがエヴァとキリアもカッコいいとかなって、それで焦った俺が『パオラは俺が好きだよね?』って聞いたら『好きだよ~』って言ってくれて、ここ十日足らずの間になんかそんなラッシュというかパニックがあったからだ。だけど実際両思いは俺とパオラだけで、結局誰一人付き合った奴はいないという状況だった。


 そんなまだ春じゃないけどブームが起きていて、この手紙はもしやと思った。そこですぐさま封を切って手紙を読むことにした。


「…………」


 あの野郎!


 期待に胸膨らませて、いざ手紙を開くと、英語なんだかフランス語なんだか、訳の分からない文字が並び、全く読めなかった。


 上等だよ!


 これは完全にイラっと来た。クレアは漢字もカタカナも平仮名も書ける。そんな奴が、俺が日本語しか知らないのを知っているにも関わらず、わざわざ読めない文字で手紙を書くとは言語道断だった。


 そこで直ぐに着替えて部屋を飛び出し、このあざ笑うかのような手紙の真意を知るためクレアの部屋へ突撃しに行った――



「おはようございます。リーパー・アルバイン様」

「あ……おはようございます」


 流石一流貴族のクレア。奴の部屋の前には専属の執事というか護衛というかSPというか、そんな感じの屈強な人が二人も立っていて、部屋へ突撃するのは無理だった。


「何か御用ですか?」

「あ……クレアいますか?」

「畏まりました。少々お待ち下さい」


 流石一流貴族。まだ加護印すら発現させていないのに厳重で、用があると言うと、屈強な兵士はインカムか何かでごにょごにょ話し始めた。


「もうしばらくお待ちください。ただいま専属の者が参ります」

「あ……はい」


 超厳重。いつも普通に接していたから忘れていたけど、ここまでされて初めてクレアって次期英雄なんだと気付かされた。そんでも俺もそういえば次期英雄なんだと思い出すと、それでも大人しく待つしかなかった。


 そんな感じで、良く分からんターミーネーターと、トトロに出てくるパン屋のオヤジみたいなSPの人たちと待つと、ちょっとしてから扉が開き、中から良く見るクレアの執事の人が姿を見せた。


「お待たせいたしました、アルバイン様。お嬢様がお待ちです。こちらへどうぞ」

「はい……」


 お嬢様がお待ちです? いや、寧ろお前から来い! と思ったが、この人たちには何の罪もなく、愛想よくクレアの部屋に入った。


 部屋に入ると、そこまで頭はおかしくないのか、室内はほとんど最初にある備品ばかりで、意外とさっぱりしていた。しかしやっぱりちょっと頭はおかしいようで、クレアはなんかちょっと高級そうな白いドレスっぽい服を着ていた。そして何故かちょっと息を切らしていた。


「ど、どうしたリーパー。ま、まぁ、先ずは座れ」


 本当に意味が分からなかった。自分から手紙を書いておいて、なんか用か? 的な感じでソファーで寛ぐくせに、演技っぽい動揺を見せるクレアには、本当に意味が分からなかった。


「何をお持ちいたしますか?」

「え? ……あ、じゃあコーヒーで」

「畏まりました」


 なんなんコレ⁉ 訳分からん手紙書いておいて、何“ようこそいらっしゃいました。どうぞごゆっくり”みたいな感じ!


 完全に告白じゃないし、完全に用があるような感じにはとても見えなかった。それこそ“なんで来たの?”的な感じを出しながら、なんか“私は落ち着かないぞ”みたいな演技をするクレアは完全に舐め腐っていた。


「そ、それで、どうしたリーパー。わ、私に何かよよ用か?」

「…………」

「ど、どうした?」

「どうしたもこうしたもねぇよ。これなんだよ?」


 そう言い、手紙をテーブルに置いた。本当は投げ飛ばしてやりたかったが、上品な紅茶やらクッキーやらがあったため、これは本当に丁寧に置いた。


「何だこれは?」

「おめぇが書いた手紙だよ?」

「手紙?」


 この娘は本当に性根が腐っているのか、はたまた病気なのか、自分が書いた手紙を見せても、眉を顰めて知らん見たいな顔をする。


「ちょっと見てもいいか?」

「え? あぁ」

「⁉ 中を読んでも良いか⁉」

「あぁ」


 本当によう分からん奴だった。自分が出した手紙なのに、名前を見て驚いて、慌てて中を確認する。それは正に、返品を喰らい、すり替えられていないか念入りに確認するメルカリストのようだった。


「…………」


 そして自分が書いた手紙なのに、読み終わると歯ぎしりをするような表情を見せた。


「お前、俺が日本語しか読めねぇの知ってるよな? それに電話だってあんのに、なんでわざわざこんなことした?」

「い、いや! これは私で……私だけど私ではない!」

「はぁ?」


 演習前の折角の休日。今日は久しぶりに全く予定の無い休みで、リリアたちの邪魔も無い自由で、明日に向けて心身ともにしっかり休もうと思っていた。それなのに演習前にこんな嫌がらせのような悪戯を受けて、かなりイラっとしていた。それをクレアは感じ取ったのか、急に慌て始めた。


「こ、これは……いや、すまん。じ、実は、リーパーに話があって……ここではアレだから、場所を変えよう……」

「場所?」

「あ、あぁそうだ。じじ実は、た、たた大切な話がある。だ、だから、きちんとした場所を用意してある!」


 マジで回りくどい! それなら最初からそこへ来るよう指示をすれや!


 気分を悪くされ、さらに貴重な時間を奪おうとするクレアには、心底頭にきた。しかしクレアが何をしようとしているのかまでは付き合ってやろうと思い、かなりイライラしたが場所を移ることにした。

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